まず,複素変数$z=x+iy$に対する指数関数$e^z$を定義しよう.
今回は実変数の$e^x$,$\sin{x}$,$\cos{x}$を用いて定義する.
複素変数$z=x+iy$に対する指数関数を
$$e^z=e^x(\cos{y}+i\sin{y})$$
と定める.
一般の$z,w\in \mathbb{C}$に対して$e^{z+w}=e^ze^w$が成り立つ.
また,複素変数の指数関数は,$(e^z)'=e^z$,$e^0=1$など,実変数の指数関数と類似した性質を持つ.
しかし,複素変数の指数関数は虚軸方向に周期的であるという点で実変数の指数関数とは大きく異なる.
($\because$ $e^{z+2n\pi i}=e^ze^{2n\pi i}=e^z(\cos{2n\pi}+i\sin{2n\pi})=e^z$より,$e^z$は周期$2\pi i$をもつ)
複素変数の双曲線関数は実変数の場合と同様に,指数関数を用いて定義する.
複素変数$z$に対する双曲線関数を
$$\cosh{z}=\frac{e^z+e^{-z}}{2},
\sinh{z}=\frac{e^z-e^{-z}}{2i},
\tanh{z}=\frac{\sinh{z}}{\cosh{z}}$$
と定める.
これらの関数も虚軸方向に周期的である.
また,複素変数の双曲線関数においても加法定理が成立する.
複素変数$z,w$に対して,
$$\cosh{(z+w)}=\cosh{z}\cosh{w}+\sinh{z}\sinh{w}$$
$$\sinh{(z+w)}=\cosh{z}\sinh{w}+\sinh{z}\cosh{w}$$
$$\tanh{(z+w)}=\frac{\tanh{z}+\tanh{w}}{1+\tanh{z}\tanh{w}}$$
が成り立つ.
今回は$\cosh$についてのみ示す.
$(左辺)=\cosh{(z+w)}=\frac{e^{z+w}+e^{-z-w}}{2}=\frac{e^ze^w+e^{-z}e^{-w}}{2}$
$(右辺)=\cosh{z}\cosh{w}+\sinh{z}\sinh{w} =\frac{(e^z+e^{-z})(e^w+e^{-w})+(e^z-e^{-z})(e^w-e^{-w})}{4} =\frac{e^ze^w+e^{-z}e^{-w}}{2}$
$\therefore \cosh{(z+w)}=\cosh{z}\cosh{w}+\sinh{z}\sinh{w}$
$\sinh$も$\cosh$と同様に示せる.また$\tanh$についても定義通りに展開していけば示せる.
複素変数の三角関数を指数関数を用いて定義する.
複素変数$z$に対する三角関数を
$$\cos{z}=\frac{e^{iz}+e^{-iz}}{2},\sin{z}=\frac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i},\tan{z}=\frac{\sin{z}}{\cos{z}}$$
と定める
この定義はオイラーの公式から覚えても良い.
また,定義から三角関数と双曲線関数には,
$$\cos{z}=\cosh{(iz)} $$
$$\sin{z}=\sinh{(iz)} $$
の関係があることがわかる.
よって,複素変数の三角関数は実軸方向に周期的であるとわかる.
複素変数の三角関数においても加法定理が成り立つ.
複素変数$z,w$に対して,
$$\cos{(z+w)}=\cos{z}\cos{w}-\sin{z}\sin{w}$$
$$\sin{(z+w)}=\cos{z}\sin{w}+\sin{z}\cos{w}$$
$$\tan{(z+w)}=\frac{\tan{z}+\tan{w}}{1-\tan{z}\tan{w}}$$
が成り立つ.
証明については双曲線関数の時と同様に定義と指数法則を用いて示すことができる.