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Grothendieck宇宙のーと

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<随時更新中>コメントにて誤植の指摘,内容の希望などを募集しています.

「Grothendieck宇宙のーと」自体に関する説明

本稿ではZFCを前提にし,Grothendieck宇宙に関する幾つかの諸性質を纏めていく.目次に書いてある事柄のうち,集合論的な準備にあたる部分は全て書きかけです.よって本稿は現時点では自己完結的ではありません.これは最終的に何とかしたいと考えていますが,十分に読める「のーと」として体裁を整えると次のような形に落ち着くと思われます.こうして列挙するだけでちゃんと書くとまあまあ大部になることが目に見えているので現時点で完成の目途は全く立っていません.また分かっている人向けに書くと,単にZFCと書くときは基礎の公理を仮定するものと約束する.

  • Grothendieck宇宙の導入の意義:圏のサイズの問題
  • Grothendieck宇宙の定義と基本性質
  • ( 編集中 )集合論的な準備:基本概念 -- 推移的集合
  • ( 編集中 )集合論的な準備:推移閉包
  • ( 編集中 )集合論的な準備:順序数,基数(1) -- 基本
  • ( 編集中 )集合論的な準備:累積階層
  • Hilbertの逆理
  • Grothendieck宇宙の自明性
  • ( 構想中 )集合論的な準備:順序数,基数(2) -- 正則性,特異性
  • ( 構想中 )集合論的な準備:順序数,基数(3) -- 到達不能性,強到達不能性
  • ( 構想中 )非自明なGrothendieck宇宙の存在と強到達不能基数の存在
  • ( 構想中 )集合論的な準備:相対化とモデル
  • ( 構想中 )集合論的な準備:Goedelの第二不完全性定理(あらすじ)
  • ( 構想中 )強到達不能基数の存在が証明できないことについて(あらすじ)
  • ( 構想中 )弱到達不能基数の存在が証明できないことについて(あらすじ)

Grothendieck宇宙の導入の意義:圏のサイズの問題

現代数学の基礎概念の一つに圏がある.この圏は次のように定義することができる.

六つ組Ob(C),Mor(C),dom(C),cod(C),mC,idCが圏であるとは,次を満たすことである.

  • (箙であること)dom(C)およびcod(C)Mor(C)からOb(C)への写像である.

  • (合成構造の型)mCは集合Mor(C)×cod(C),dom(C)Mor(C)からMor(C)への写像である.

  • (箙との整合性)次の図式が可換である:Mor(C)cod(C)Mor(C)×dom(C),cod(C)Mor(C)mCpr1pr2Mor(C)dom(C)Ob(C)Mor(C)cod(C)dom(C)Ob(C)

  • (合成構造の結合性)次の図式が可換である:Mor(C)×dom(C),cod(C)Mor(C)×dom(C),cod(C)Mor(C)mC×idMor(C)idMor(C)×mCMor(C)×dom(C),cod(C)Mor(C)mCMor(C)×dom(C),cod(C)Mor(C)mCMor(C)

  • (恒等射構造の型)idCOb(C)からMor(C)への写像である.

  • (箙との整合性)次の図式が可換である:Ob(C)idOb(C)idCidOb(C)Ob(C)Ob(C)Mor(C)cod(C)dom(C)

  • (恒等射構造の中立性))次の図式が可換である:Mor(C)idCcod(C)×idMor(C)idMor(C)idMor(C)×idCdom(C)Mor(C)×dom(C),cod(C)Mor(C)mCMor(C)×dom(C),cod(C)Mor(C)mCMor(C)

斯かる方法で圏を定義することは有意義である.実際,次のような見方を可能にする.

  1. 圏を「集合の圏Set」における圏対象として定式化できるようになり,曵引対象を持つ一般の圏Cに対してその中での圏対象を考えられるようになる.これが内部圏論の基本的な発想であり,例えば代数的拓朴論に於いて基本的な位相亜群は位相空間の為す圏Topに於ける亜群対象(これは圏対象の中で更に特殊なものとして定式化される)として定義できる.
  2. 内部圏論の発想を推し進めることにより,曵引対象を持つという「性質」を曵引構造を備えるという「構造」と見做し,更に曵引構造を余テンソル積まで一般化することでモノイド圏に対する内部圏論へと導かれる.
  3. 圏を「箙に構造を乗せたもの」として明示的に捉えることで圏の為す圏Catから箙の為す圏Quivへの忘却函手が自然に考えられ,この忘却函手の左随伴として「箙から自由に生成される圏」の概念が極めて自然に定式化できる.これは局所化の形式的な一般論を展開する上で基本的である.

一方で,斯かる定式化を行なうと対象全体や射全体は集合でなければならない.よって素朴に定義される集合の為す圏SETは厳密な意味で圏を為さないことになってしまう.この例を紹介するに先立ち,Cantorの逆理を思い出そう.

Cantorの定理

Xが集合ならば,XからP(X)への全射は存在しない.

XからP(X)への写像f:XP(X)を任意に取る.このときXの部分集合Xf
Xf:={xXxf(x)}
と定義する.このときXfは写像fの値域に属さない.実際,もしfの値域に属すると仮定するとXf=f(x)なる集合Xの元xが存在するが,このxを用いると
xf(x)xXfxf(x)
が従い矛盾する.よって示された.

Cantorの逆理

集合全体の為すクラスV:={xx=x}は真クラスである.

背理法で示す.即ちVが集合であると仮定すると,冪集合公理よりP(V)も集合である.ここでP(V)の元も集合であることに注意するとP(V)V()が成立し,VよりP(V)よりP(V)は空でないことに留意すれば写像f:VP(V)を次の規則により定めることができる;
xP(V)ならばf(x)=xとし,そうでないならばf(x)=とする
このとき条件()よりfは全射であり,Cantorの定理に矛盾する.よって示された.

圏でない例:集合の為す圏SET

集合全体の為す真クラスをOb(SET):=Vと書き,始域および終域を構造として備えた写像全体の為すクラスをMor(SET)と書く.明示的に書けば次の通り;
Ob(SET):=V:={xx=x}

Mor(SET):={X,f,YfXからYへの写像である}
このときMor(SET)からOb(SET)へのクラス函数として,Mor(SET)の元の第一成分を返すクラス函数dom(SET)と第三成分を返すクラス函数cod(SET)とが定義でき,これにより四つ組(厳密には4つの論理式をメタで同時に考えることで)メタ箙Ob(SET),Mor(SET),dom(SET),cod(SET)が定義できる.このメタ箙には通常の写像の合成と恒等写像とを構造として備えさせることで,メタ圏Setが定義できる.しかしOb(SET)はCantorの逆理より集合ではなく,よって圏ではない(更にどの成分も集合ではないことも分かる).

素朴な意味での集合の圏SETが圏でなくなってしまったが,例えば圏論に於ける外延性公理とも呼ばれる米田の補題を用いることができなくなるため,これは不便である.この解決策としては「(1)箙による定義を放棄する」という道もあるが,できれば先に挙げた長所は活かしたい.そこで公理追加によって「一つの集合の中で現代数学の少なくない部分が展開できるほどに大きな集合」の存在を仮定し,その中で圏論を行なうという方法が考えられる.これがGrothendieck宇宙の基本的な考え方である.他のアプローチの方法については本稿末尾に書くかもしれないし,書かないかもしれない.

Grothendieck宇宙の定義と基本性質

前節で述べた通り本稿で考察する対象であるGrothendieck宇宙は,圏論を含む現代数学の多くを展開するにたる大きさを持つ集合である.集合であるためその冪集合を取る操作や部分集合を取る操作を自由に行なうことができ,「クラスの大きさに関する問題」を回避するためにしばしば用いられる.このように導入するとGrothendieck宇宙は「クラスの大きさに関する問題」に対する対処療法的な処方箋のように感じられるが,実際はGrothendieck宇宙の本質は集合であることにその一端があると考えている.しかしそのことを充分に理解するためにはある程度の集合論的な前提知識が必要であるし,ユーザーとしての立場に徹する限りはこの意味での本質を理解する必要は全くなく,寧ろGrothendieck宇宙の存在を仮定することにより如何なる集合論的な操作が正当化できるのかを正確に把握し,これを適切に使うことこそが肝要であると考える.よって本節では特別な集合論的な知識を仮定せずにGrothendieck宇宙の基本性質を述べ,それらに証明を付けていくことにする.

Grothendieck宇宙

集合UがGrothendieck宇宙であるとは,次の四条件

  1. 任意の集合yについて,Uの元xであってyxを満たすものが存在するならばyUの元である.
  2. 任意の集合xおよびyについて,xyUの元ならば対集合{x,y}Uの元である.
  3. 任意の集合xについて,xUの元ならばxの冪集合P(x)Uの元である.
  4. 任意の写像x:ΛXについて,定義域Λおよび各値x(λ)(ただしλΛ)がUの元ならば合併λΛx(λ)Uの元である.

を満たすことである.更に自然数全体の集合ωを含むとき,Grothendieck宇宙は非自明であるという(ここで本来は自然数全体の集合をωと書く時はvon Neumannによる構成を固定して考えているものとするが,この時点で詳細に踏み込む必要が無いので素朴に自然数と思って構わない.念のため略式の定義を書いておくと,0:=n+1:=n{n}={0,1,2,,n}と定義するとき,ωω={0,1,2,,n,}と外延的に記述される集合である.詳細は[]を参照されたい).

Grothendieck宇宙に対して非自明性を定義したのは,非自明ではない(謂わば自明な)Grothendieck宇宙が存在するからである.併しこの自明なGrothendieck宇宙を決定するためにはある程度の集合論的な準備が必要であるため,本節では扱わない.詳しくは[Grothendieck宇宙の自明性]を参照されたい.

また自明なGrothendieckが決定された後に気になることとしては,「非自明なGrothendieck宇宙にはどのようなものがあるか」ということであろう.実は非自明なGrothendieck宇宙の存在はZFCでは証明できないことが(Goedelの第二不完全性定理より)分かる.この正確な証明を行なうためにはGrothendieck宇宙がZFCの集合モデルになっていることを示す必要があり,集合論的な準備が必要である.更に非自明なGrothendieck宇宙が存在すると仮定する場合,Grothendieck宇宙の姿は強到達不能基数κを用いてVκと書かれるものに限ることが分かる.この言明を理解すること自体に矢張り集合論的な準備が必要である.よってこれらの事実については一旦保留し,本節では扱わないこととする.

<ここにGrothendieck宇宙の基本性質を書く>

さて,ここまででGrothendieck宇宙の基本的な性質を見てきたが,次のような自然な疑問に一切触れずに来た:Grothendieck宇宙の条件(4)をより単純にし,「Uの部分集合XについてXUの元である」としてはならないのだろうか.これを避けてきたのは例に漏れず集合論的な準備を省略するためであり,以下では先ずこれに答えるに足るだけの準備を行い,Hilbertの逆理という古典的な逆理とそれに関するいくつかの話題を紹介する.

集合論的な準備:基本的な概念 -- 推移的集合

本節では推移的集合を扱う.推移的集合は具体例として順序数や累積階層を含む他,一般の集合Xに対してそれを含む最小の推移的集合として推移閉包trcl(X)を構成することができる.本稿に於いて推移的集合を扱うのは,順序数の基本的な性質や累積階層の基本的な性質を示す上で推移的集合に関する議論を補題としてまとめておくことで見通しがよくなるからである.本節では具体例は自明なもののみ紹介し,それ以外の例は次節以降で扱う中で見ていくこととする.

推移的クラス

Xをクラスとする.Xが推移的であるとは,次が成り立つことである.
任意の集合xyについてxyXであるならばxXが成立する.
Xが推移的クラスであり,更に集合でもあるときXは推移的集合という.

Xが推移的クラスであることは,「任意の集合xについて,xXであるならばxXが成立する」と書かれることも多いく,「XXが成り立つ」と書いても同値である.最小の推移的クラスはであり,最大の推移的クラスは集合全体の為す真クラスVである.

推移的クラスの基本性質

XYをクラスとするとき,次が成立する.

  1. Xが推移的集合であるとき,X{X}は推移的集合である.
  2. Xの任意の元が推移的集合であるとき,XXは推移的クラスである.
  3. XYが推移的であるとき,XY{X,Y}は推移的である.
  4. Xが推移的であるとき,Xは推移的である.
  5. Xが推移的であるとき,Xは推移的であることとX=,{}とは同値である(ただし,基礎の公理を仮定する).
  6. Xが推移的であるならば,P(X)は推移的である.

一つ目を示す.xyX{X}なる集合xyが取れないときは特に示すべきことはない.これが取れる場合について,yXの元であるか{X}の元である.前者の場合はxyXが成立するので,仮定よりXの推移性が分かることに留意するとxXX{X}が得られる.後者の場合はy=Xであり,よってxXX{X}が得られる.以上よりいずれの場合についてもx∈⊂X{X}が成立することが示された.

二つ目は一つ目と同様に示され,三つ目は二つ目の系である.実際,仮定より{X,Y}の任意の元は推移的であるから二つ目を適用することができ,{X,Y}{X,Y}={X,Y}XYは推移的である.また,一つ目は二つ目の系として見られること注意しておく.

四つ目を示す.xyXなる集合xyを任意に取ると,yzXなる集合zが存在する.Xは推移的クラスであるからyXが従い,よってxyXが成立している.これより合併の定義よりxXが得られた.

五つ目を示す.X=が成立する場合は,既に指摘した通りが最小の推移的クラスであるのでよい.X={}が成立する場合は,一つ目の事実とが推移的集合であることとよりよい.最後にX,{}の場合について考える.この場合はxyXなる集合xyが存在し,yXよりyzXなる集合zが取れる.このときXの推移性よりxXが従う.ここでもしXが推移的クラスであるならばxXが成立するが,特にxXが成立していることに注意するとxxが従う.これは基礎の公理に矛盾する.

六つ目を示す.xyP(X)なる集合xyが取れないときは特に示すべきことはない.これが取れる場合について,冪集合の定義よりyXが成立する.よってxXが成立する.ここでXが推移的であることよりxXが従い,再び冪集合の定義よりxP(X)が得られる.

集合論的な準備:順序数,基数(1) -- 基本

本節では最も基本的な推移的クラスの例として順序数を導入する.紹介する性質は最も基本的なものに限っているため,たとえば順序数の算術やCantorの標準形などには触れていない.順序数の更なる一般的な性質は[順序数のーと]あたりにまとめると思うが,このノートの完成した後になるためいつになるかわからない.きっとMathpediaを見ると書いてあると思う.

推移的クラスに於ける関係について

Xを推移的クラスとするとき,基礎の公理の下で次の二条件は同値である.

  1. Xに関して整列順序集合を為す.
  2. Xに関して全順序集合を為す.

(1)ならば(2)は明白であるため,(2)ならば(1)を考える.Xの部分集合Sを任意にとるとき,基礎の公理より
α[αS¬β[βαβS]]
が成立する.この条件を満たすαを取ると,α¬β[βαβS]を満たしている.これはSの元であってかつαの元でもあるものの非存在性を主張しているため,Xに関して全順序集合を為すことに注意するとαSに関する最小元であることが分かる.Sの取り方は任意であったから,Xが整列順序集合であることが示された.

順序数

Xをクラスとするとき,Xが順序数であるとは

  1. Xは集合である.
  2. Xは推移的クラスである.
  3. Xに関して整列順序集合を為す.

を満たすことである.順序数αβに対して,αβが成立するときこれをα<βと書き,αβまたはα=βが成立するときこれをαβと書く.更に順序数全体をON:={ααは順序数である}と書く.

本稿では基礎の公理を仮定しているので,先の命題に注意するとに関して全順序を為す推移的集合は順序数である.

順序数の基本性質

αを順序数とするとき,次が成立する.

  1. xαならばxは順序数である.特にα={xαxは順序数である}が成立する.
  2. α{α}は順序数である.この順序数をα+1と書く.
  3. Aαなる部分集合について,Aが始切片であるならばA=αまたはAαが成立する.

一つ目を示す.αの元xを任意にとるとき,これが順序数であることを示そう.先ずxは集合であるので,推移性から示す.zyxなるyおよびzを任意にとる.このときyxαが成立していることとαが推移的であることとからyαが従う.同様にzyαが成立していることとαが推移的であることとからzαが従う.よってxyzαの元であり,αに関して全順序集合を為していることと取り方よりzyxが成立していることとからzxが得られる.よってxは推移的である.次にに関して全順序集合を為すことを示す.xの元yzを任意にとるとき,先ほどと同様の議論によりyαおよびzαの成立が分かる.αに関して全順序集合を為すので,zyまたはyzまたはy=zが従う.yzの取り方が任意だったのでxに関して全順序集合を為すことが得られた.

順序数の基本性質(2)

αβを順序数とするとき,次が成立する.
2. αβが成り立つならば,α=βまたはαβが成立する.
3. αβまたはβαが成り立つ.
4. αβは順序数である.

順序数全体ONの基本性質

次が成立する.

  1. 順序数全体ONは推移的クラスである.
  2. 順序数全体ONに関して整列順序集合を為す.
  3. 順序数全体ONは真クラスである.
  4. 順序数全体ONは整礎的クラスである.即ちONの部分集合は-最小限を持つ.
  5. ONの部分集合Xについて,Xは順序数である.
後続順序数,極限順序数

αを順序数とするとき次のように定義する.

  • αが後続順序数であるとは,順序数βであってα=β+1を満たすものが存在することである.
  • αが極限順序数であるとは,如何なる順序数βを用いてもα=β+1と書かれないことである.
    後続順序数全体をScuと書き,極限順序数全体をLimと書く.明らかにON=ScuLimが成立する.

&&&def 整列順序集合の順序型
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超限帰納法

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集合論的な準備:累積階層

ここでは累積階層を定義する.累積階層は集合全体を「下から」作っていく方法の一つであり,(整礎的)集合全体の為す真クラスVに対する最も基本的な直観を与える道具の一つである.

累積階層

超限再帰によりONを定義域に持つクラス函数Vを次で定める:
α=0のときVα=とする.
αが後続順序数のときVα=P(Vα1)とする.
αが極限順序数のときVα={Vββ<α}とする.
各順序数αに対して定まる集合Vαα-階の累積階層という.

累積階層の基本性質

αβを順序数とするとき次の三つが成立する.

  1. Vαは推移的集合である.
  2. β<αならばVβVαが成立する.
  3. βαならばVβVαが成立する.

一つ目を示す.Vαが推移的であることを超限帰納法で示す.即ちVαが推移的でないような順序数αの存在を仮定し,斯かる順序数の中で最小なものをαと置く.即ち明示的に書けば

α:=min{βONVβは推移的集合ではない}
と定義する.先ずα=0である場合はV0=は推移的集合であることに矛盾する.αが後続順序数である場合は,αの最小性よりVα1は推移的集合であり,推移的集合の冪集合は推移的であることに注意するとVα=P(Vα1)の推移性が従い矛盾する.αが極限順序数の場合は,xyVαなる集合xyを任意にとるときVα={Vββ<α}よりyVβなるα未満の順序数βが存在し,αの最小性よりVβは推移的である.よってxyVβよりxVβが従い,再びVαの定義よりxVαが得られる.よってこの場合も矛盾し,仮定が誤っていることが示された.

二つ目をαに関する超限帰納法で示す.即ち条件()「VβVβが成立しないようなβ<αが存在する」を満たす順序数αの存在を仮定し,斯かる順序数の中で最小のものをαと置く.先ずβ<αより0<αが成立することに注意する.αが後続順序数のときについては,β=α1ならばVα=P(Vα1)よりVβ=Vα1P(Vα1)=Vαが成立する.β<α1ならば,αが条件()を満たす順序数の中で最小であることよりVβVα1が成立する.よってVβVα1P(Vα1)=Vαが従い,Vαの推移性を用いればVβVαが得られる.

三つ目を示す.

累積階層の基本性質(2)

V={xαON[x=Vα]}が成立する.

集合論的な準備:推移閉包

Hilbertの逆理

本節では次の二つの条件について考察する.

  1. (P1)Xは冪集合について閉じている.即ちxXならばP(x)Xが成立する.
  2. (P2)Xは合併について閉じている.即ちYXならばYXが成立する.

まずこれらの性質それぞれを満たす集合は存在することに注意しよう:

  • 条件(1)については極限順序数γに対して定まるγ-階の累積階層Vγはこの条件を満たす.ここで累積階層は0-階を空集合としていたが,より一般に0-階は如何なる集合を用いても同様の性質を満たすことが示される.
  • 条件(2)については集合Xに対して定まる冪集合P(X)がこの条件を満たす.

一方でこれら両方を満たす集合は存在しない.これがHilbertの逆理である.以下では斯かる二条件を満たすクラスをHilbertクラスと呼ぶことにする(ここだけの用語である).

Hilbertの逆理

集合であるようなHilbertクラスは存在しない.

背理法で示す.即ち二条件を満たす集合Xが存在すると仮定する.仮定より斯かる集合Xを取ると,XXの部分集合であるから条件(P2)よりXXが成立する.よって条件(P1)よりP(X)Xが成立する.ここでxP(X)なるxを任意にとると,xXXなるXが存在し,よってxXが成立する.xの取り方より
P(X)X
が得られる().ここでP(X)は空でないのでその元aを一つ選んでおき,
f:XP(X)
xP(X)ならばf(x)=xとし,xP(X)ならばf(x)=aとおく.
既に示している()に留意するとfは全射であると分かり,これはCantorの定理に矛盾している.以上より示された.

Hilbertの逆理に関する注意
  • Hilbertの逆理が最初に明示的に指摘されたのはHilbertによる1905年の講義らしい.詳細については, このあたりのpdf を参照されたい.

Hilbertの逆理はHilbertクラスは真クラスであることを述べているので,「どのような真クラスがHilbertクラスであるか??」と問うことは自然である.この問について考えると,次に観察する通り一意には定まらないことが分かる.

自明なHilbertクラス:V

集合全体の為すクラスV:={xx=x}はHilbertクラスである.実際,Vの元xは定義より集合であり,冪集合公理よりP(x)が集合であることが分かり,合併公理よりxが集合であることが分かる.よってP(x)VかつxVである.

非自明なHilbertクラス:累積階層の為すクラス

累積階層の為すクラスHmin:={xα[x=Vα]}はHilbertクラスである.これを示す上で,先ず次の事実に注意する:xHminを任意にとるとき順序数αであってx=Vαを満たすものが一意に存在する.Hminの元xに対して定まる斯かる順序数をαxと書くと約束する.では(P1)を示そう.Hminの元xを任意にとると
P(x)=P(Vαx)=Vαx+1
が成立する.よってP(x)Hminが得られる.次にHminの部分集合Xを任意にとると,累積階層の基本性質「α<βVαVβ」に留意すれば
X=Vsup{αxxX}
が得られる.ここでXは集合より{αxxX}も集合であり,順序数の為す集合の上限は順序数であるからXHminの元である.

非自明なHilbertクラス:推移閉包を用いて定義されるクラス

累積階層の為すクラスH:={xy[ytrcl(x)card(y)card(x)]}はHilbertクラスである.推移閉包に関する事実を認めれば証明は容易であるが,推移閉包を知っている者に対しては説明するほどの事実ではない.一方で推移閉包に関する事実を示すのは面倒である.よってここでは一旦省略する(ごめんなさい).

ここまででHilbertクラスは真クラスであることが分かり,非自明な例が存在することが分かった.Hilbertクラスは真クラスであるから「Hilbertクラス全体」を考えることはできないが,「Hilbertクラス全体」の中で普遍的なもの,すなわち最大であるものと最小であるものについては考えることはできる.そして実際にそのようなHilbertクラスが存在することが分かる.

Hminの最小性,Vの最大性

XがHilbertクラスであるならば,HminXVが成立する.

VαXを超限帰納法で示す.即ちVαXが成り立たない順序数αの存在を仮定し,斯かる順序数の中で最小のものをαと置く.α=0の場合についてはXXより条件(P2)を適用すれば=Xが成立するので矛盾する.αが後続順序数の場合については,αの最小性よりVα1Xであり,これに条件(P1)を適用すればVα=P(Vα1)Xが得られるので矛盾する.αが極限順序数の場合については,αの最小性より{Vββ<α}Xの部分集合であり,条件(P1)を適用すればVα=β<αVβ={Vββ<α}Xが得られるので矛盾する.以上より如何なる場合についても矛盾が導出されたので仮定は誤りであり,証明できた.

ここでHminの最小性を用いれば,Hilbertクラスが最大になる条件を次のように書ける.

XをHilbertクラスとするとき,次は同値である.

  1. Xは自明である.即ちX=Vが成立する.
  2. X-推移的クラスである.即ちxXXならばxXが成立する.

(1)ならば(2)は明白であるので逆を示す.先ずXはHilbertクラスより
HminX
が成立する.よって順序数αを任意にとるときVαXが成立し,ここで(2)を仮定していることに留意するとVαXが従う.よってαの任意性よりVXが得られる.逆の包含は明白であるから証明できた.

Grothendieck宇宙の自明性

前節まででGrothendieck宇宙の定義がある程度妥当であることを見た(但し,前節では条件(4)にのみ注目していたことに留意する.他の条件の妥当性も含めてGrothendieck宇宙の定義を納得する為には非自明なGrothendieck宇宙がZFCの集合モデルになっていることを示す必要があり,これは矢張り一旦保留にする).ここまでである程度集合論的な準備も整ったので,Grothendieck宇宙の自明性を調べておこう.

自明なGrothendieck宇宙

自明なGrothendieck宇宙は次の二つであり,これに限る:Vω

先ずがGrothendieck宇宙であることは「空ゆえに真(vacuously true)」であるから明白である(ABという形式の命題は,Aが偽ならば真である.よってAが特にxならば推論全体は真になる).またこれが自明であることも明らかである.

次に非空で自明なGrothendieck宇宙の存在を示す.これはVωが斯かる例になっていることを具体的に確かめればよい.条件の一つ目については,xVωを任意に取るとxは遺伝的有限であるからxの元yもまた遺伝的有限であり,yVωが成り立つ.条件の二つ目については,x,yVωを任意に取るとxVnおよびyVmなる有限順序数nmが取れ,小さくない方をNと書くとxおよびyVNの元である.よって{x,y}VN+1=P(VN)の元であることが分かり,特にVωの元である.条件の三つ目については,Vωの元xを任意に取るとxVnなる有限順序数nが存在する.よってP(x)P(Vn)が成立し,Vωの元である.条件の四つ目についてはVωの元を定義域に持つ写像の合併は有限合併であるから,二つの集合の合併を取る操作で閉じることを示せば十分である.Vωの元xおよびyを任意にとる.x=y=のときは明白であるからそうでないと仮定してよく,このとき条件の二つ目の証明とVNxyとを同様に両方を含むような0でない有限順序数Nが取れる.VN=P(Vn1)と定義されているので,zxまたはyの元であるならばVn1の元でもある.よってxyVn1の部分集合であり,VN=P(Vn1)の元であることが示された.

最後に非空で自明なGrothendieck宇宙がVωで尽きていることを確かめよう.斯かる条件を満たすGrothendieck宇宙Uを任意にとる.非空であることからUの元xが取れ,ZFCに於いては基礎の公理WFより-無限降下列が存在しないのでxという有限列が存在し,Grothendieck宇宙が満たしている条件の一つ目よりU-関係について閉じているので(厳密には数学的帰納法により)V0=Uであることが従う.
次にGrothendieck宇宙が満たしている条件の三つ目よりUは冪集合を取る操作について閉じているので,V1=P()Uであることが従う.これを繰り返すことで(厳密には数学的帰納法により)任意の有限順序数nωに対してVn+1=P(Vn)Uが成立する.よってVω=nωVnの任意の元がUの元であることが分かり,VωUが得られた.
両者が一致することを背理法で示す.即ちVωUより真に大きいと仮定しよう.このとき背理法の仮定よりaUVωなる集合aが取れる.Vωが遺伝的有限集合全体であったことに注意すると,aの推移閉包tr(a)は非有限集合を元に持つ.よって特にtr(a)の元であるような非有限集合bを一つとり,推移閉包の定義に留意してbaなる有限列を取ると,再びGrothendieck宇宙が満たしている条件の一つ目よりU-関係について閉じているので(厳密には数学的帰納法により)bUが得られる.bは非有限集合であるが,いまZFCで考えているからこれは無限集合であり,特にωへの全射fが存在する.よって全射写像f:bωを一つ取りこれについて考えると,定義域bUの元であってかつfの任意の値はnVnUよりUの元であるから,Grothendieck宇宙が満たしている条件の四つ目よりω=nωn=xbf(x)Uが得られ,UのGrothendieck宇宙としての自明性に矛盾する.以上より非空で自明なGrothendieck宇宙が存在するならば,Vωでなければならないことが分かった.

以上で自明なGrothendieck宇宙の正体が明らかになったので,次は非自明なGrothendieck宇宙が気になるところである.これについて考える上で,次の事実を再度指摘せねばならない:現代でしばしば用いたれる集合論の公理系であるZFCに於いては,非自明なGrothendieck宇宙の存在を証明することはできない(これは非存在を意味するものではない(!)実際,非存在を証明できないことも既に明らかになっているが,この証明には強制法という公理的集合論の基本的な技術を用いるため本稿で詳細に立ち入ることは難しい).

よって以下では非自明なGrothendieck宇宙が存在すると仮定し,その姿を記述することにする(ここで厳密には非自明なGrothendieck宇宙存在を仮定する必要はないことを注意しておく.これは「集合Uが非自明なGrothendieck宇宙ならば,斯々然々」といった主張自体はZFCの定理と理解できるからである.一方で,非自明なGrothendieck宇宙が存在しない場合,上述の含意は前提が偽になり,含意自体が真であることが自明になってしまうことも確かであり,数学的内容がある主張として理解するためには非自明なGrothendieck宇宙の存在を仮定する必要がある.このような理由で以下では非自明なGrothendieck宇宙の存在を仮定することとする).

集合論的な準備:順序数,基数(2) -- 正則性,特異性

基数

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基数の基本性質

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アレフ数

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後続型基数,極限基数

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共終数

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共終数の基本性質

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正則基数,特異基数

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この定義からは正則基数と特異基数との関係は非自明であるが,無限基数についてはこの二つで尽きていることが分かる.

無限基数に於ける正則性と特異性

無限基数κについて次は同値である.

  1. κκ未満個のκの元の合併で書かれない.
  2. κ=\cfκが成立する.
    特に正則であることと特異でないこととが同値である.

集合論的な準備:順序数,基数(3) -- 弱到達不能性,強到達不能性

ここまでで基数に関する四つの概念を導入し,無限基数に対してはそのうち二つずつが対となっていた.よって可能性としては次の四つのパタンが考えられるようになったわけである.

  1. 正則かつ後続型基数である.
  2. 特異かつ後続型基数である.
  3. 正則かつ極限基数である.
  4. 特異かつ極限基数である.

これらの可能性のうち,次の命題より2.の場合はありえないことが分かる.即ち,後続型基数は正則である.また,特異かつ極限基数である例としては,ωなど極限順序数に対応するアレフ数の多くが考えられる.「ここで3.の場合はありうるだろうか??」と問うのは自然なことであるが,この存在はZFCの範疇では証明できないことが分かっている.直観的にいえば「十分小さい」極限基数を考える限り常に特異になってしまい,正則かつ特異な基数というのは「途方もなく大きい基数」であると考えられる.それゆえに弱到達不能基数という.一方で弱到達不能基数の存在を仮定した場合に矛盾が生じるか否かは現在判明しておらず,弱到達不能基数を含む「途方もなく大きな基数たち」の研究が盛んに行われ,巨大基数の集合論とよばれる一大分野を為している.

弱到達不能基数

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ここで弱到達不能基数というからには「強到達不能基数」も定義されてしかるべきである.実際,本稿の主題であるGrothendieck宇宙に関しては強到達不能基数が本質的に重要な役割を果たす.これを定義すうために,基数の算術を導入する.

基数の算術

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基数の算術の基本性質

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ここで本稿では扱っていないが,順序数の算術と基数の算術とは明確に区別されるべきものであることを指摘しておく.以上の準備の下で強到達不能基数の定義をしよう.

強到達不能基数

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自明な強到達不能基数

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強到達不能基数の基本性質
  • 非可算基数に対して,強到達不能ならば弱到達不能基数である.

非自明なGrothendieck宇宙の存在と強到達不能基数の存在

本節では前節までの準備を用いて次の主張を示す.

非自明なGrothendieck宇宙の構造定理

集合Uについて次は同値である.

  1. Uは非自明なGrothendieck宇宙である.
  2. 強到達不能基数κであってU=Vκを満たすものが存在する.

先ず(2)ならば(1)を示す.仮定(2)より強到達不能基数κであってU=Vκを満たすものを取る.このときGrothendieck宇宙の条件をそれぞれ示していく.条件の一つ目が集合の-推移性に他ならないことは既に指摘した通りであり,累積階層が-推移性を持つことも既に指摘している.よって一つ目はよい.条件の二つ目については,U=Vκの元xyを任意にとるときrank(x)<κおよびrank(y)<κが成立し,
rank({x,y})=max(rank(x)+rank(y)+1)<κ
が成立する.よってrank({x,y})Vκ=Uである.条件の三つ目についてはU=Vκの元xを任意にとるときxVαなる順序数α<κが存在する.このとき累積階層の-推移性よりxVαが従い,よってP(x)P(P(Vα))=Vα+2Vκが成立する.

条件の四つ目については,定義域および各値がUの元であるような写像x:ΛXを任意にとる.このとき
rank({x(λ)λΛ})=sup{rank(y)+1y{x(λ)λΛ}}
なる計算に留意するよい(途中).

次に(1)ならば(2)を示す.κの構成は,次のように行なう:

集合論的な準備:相対化とモデル

集合論的な準備:Goedelの第二不完全性定理(あらすじ)

強到達不能基数の存在が証明できないことについて(あらすじ)

集合論的な準備:ZZFZFCZFCUTG(おはなし)

本稿の最後に,折角なのでZZFZFCZFCUTGの関係を整理しておこう.

集合論的な準備:Goedelの\L(あらすじ)

弱到達不能基数の存在が証明できないことについて(あらすじ)

更新情報

  • (2020/11/07 14:04 追記):準猫氏よりGrothendieck宇宙の一つ目の条件について,yxとすべきところをxyと書いているという指摘を受け,之を訂正しました.ありがとうございます.
  • (2020/12/02 00:00 追記):アドベントカレンダー用にHilbertの逆理に関する記述を追加しました.また,基本性質を追加することに伴って,集合論的な知識を仮定する必要がある自明性に関する記述を後に回しました.
  • (2020/12/05 00:00 追記):Hilbertの逆理のーとの方の訂正をこちらにも反映させると同時に,推移的クラスに関する命題の証明を付けました.他の部分も若干更新していますが詳細は省略します.
投稿日:2020117
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サクラ
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関東で一般大学院生をしています.多元環の表現論が専門です. Mathtodon:https://mathtod.online/web/accounts/1573

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