1

次数がpで割れない既約指標とシロー群

174
0

はじめに

こんにちは、MakkyoExistsです。本日も表現論の定理を紹介したいと思います。

指標論では次数がpで割れない指標が大切な役割を果たすことがあります。それとシロー群の間には何か深い関係があるのではないかと日夜研究されているわけですが、今回はそれを研究するときに役に立つ(であろう基本的な)補題を示します。

細かな記号の定義は各章でまとめますが、主張は以下の通りです。

Gを有限群、pを任意の素数とし、PGシローp-部分群とする。またLGの正規部分群とし、χを次数がpで割れないGの既約指標とする。このときχLに制限したLの指標χLP-不変なLの既約指標をconstituentとして持ち、またそれが2つ以上あればそれらはどの2つもNG(P)で共役となる。

いつも僕が書く記事を見て頂ければお分かりいただけるかと思いますが、今回の定理はいつもよりやや重めです…笑 なのでいつもより誤植の可能性高めです。読んでみて分かりづらかったところや誤字脱字などありましたらコメントでお知らせください。(先に謝るスタイル…笑)

あ、そうだ内容に入る前にひとつ。今回紹介するこの定理はGabriel Navarro著『Character Theory and the McKay Conjecture』という本のLemma9.3に載っています。もし詳しく知りたい方いらっしゃいましたらこちらも参照してみてください(というか、ここに載っている証明よりは丁寧に書くつもりではありますが…笑)

では、見て行きましょう。

基本事項の確認

Irr(G)を有限群Gの(C上の)既約指標全体とします。既約指標全体は類関数(共役類上で同じ値を取る関数)全体の基底になっています。基底の元同士には内積を定義することが出来ます。

基底の内積

χ1, χ2Gの既約指標とする。このとき
(χ1,χ2)G:=1|G|gGχ1(g)χ2(g1)
とする。これをχ1χ2内積(inner product)という。

内積は内積で大事な性質がたくさんありますが、ここでは一旦スルーします。とりあえずなにか複素数が対応するということだけです。

次に指標の共役についてです。これは有限群Gとその正規部分群Lをとって、Lの指標に定義される概念です。

Gを有限群、LGの正規部分群とし、θIrr(L), gGとする。このとき、
θg(x):=θ(xg):=θ(g1xg)
と置く。θgθ共役(conjugate)という。θgLの指標になっている。

与えられた有限群の既約指標の定義域を正規部分群に制限して考えることはよくあることです。制限したところで既約になるとは限らないのですが、そういった状況を考察する上で以下の定義を導入します。

constituent, 指標の制限

Gを有限群、LGの正規部分群とする。χIrr(G)をとり、この定義域をLに制限したものをχLと書く(つまりχL:=χ|L)。

一般にχLが「Lの」既約指標になるとは限らない。しかしC上の表現(また指標)は完全可約なのでχLLの既約指標の線形和で書き表される。そのとき出てくるLの既約指標をχL(既約な)constituent(irreducible constituent)という。

constituentは日本語でなんと言われるんでしょうね?笑 いつもconstituentと言っているのでここだけ英語のままにしてみました(分かったら訂正しますたぶん笑)

次の定理はCliffordの定理と呼ばれていて、Gの既約指標を正規部分群Lに制限したときの情報として基本的な(かつ強力な)ことを主張しています。

Cliffordの定理

Gを有限群、LGの正規部分群とする。またχIrr(G)としθLの既約指標でχLのconstituentであるものとする。そしてθGの共役全体を{θ1, θ2, , θt}としたとき、
χL=(χL,θ)Li=1tθi
となる。

つまり正規部分群に既約指標を制限すると、共役なものしか出てこないということですね。表現論の初歩ではありますがなかなか強い定理ですね。笑

本題

ではいよいよ冒頭で紹介した定理

Gを有限群、pを任意の素数とし、PGシローp-部分群とする。またLGの正規部分群とし、χを次数がpで割れないGの既約指標とする。このときχLに制限したLの指標χLP-不変なLの既約指標をconstituentとして持ち、またそれが2つ以上あればそれらはどの2つもNG(P)で共役となる。

を示したいと思います。

χIrr(G)を次数がpで割れないものとしてとり、χLに制限したときにconstituentとして出てくる既約指標のひとつをθIrr(L)とする。このときCliffordの定理よりχLθの共役な指標の線形和で書けることが分かる。
つまり、θGの共役全体を{θ1, θ2, , θt }とすると、
χL=(χL,θ)Li=1tθi
と書ける。またPから{θ1, θ2, , θt }への共役作用を考えて、その軌道全体を{O1, O2, , Ok }とし、さらにΔiを軌道Oiに属する指標の和とすると、
χL=(χL,θ)Li=1tθi=(χL,θ)Li=1kΔi
と書き直すことが出来る。

また、Oiの代表元をηiIrr(L)としておくと、Δi内に属する指標の次数は全てηi(1)なので、Δi(1)=|Oi|ηi(1)となる。したがって、

χL(1)=(χL,θ)Li=1kΔi(1)=(χL,θ)Li=1k|Oi|ηi(1)
となる。少し分かりやすく書き直してみると、
χL(1)=(χL,θ)L(|O1|η1(1)+|O2|η2(1)++|Ok|ηk(1))
という状況である。

今、左辺のχ(1)は最初のχの取り方からpで割れない自然数であり、一方の右辺の各項にある|Oi|Pの作用による軌道なのでpのべきになっている。もしすべてのiについて|Oi|1ではないならば、右辺がpで割れることになってしまい矛盾、よって|Oj|=1となる添え字jがとれる。繰り返すが|Oj|Pの作用による軌道であった。その大きさが1ということは、この軌道に属するLの既約指標はP-不変であるということである。以上よりχLP-不変なLの既約指標をconstituentとして持つことがわかり、命題の前半が示せたことになる。

次に、そのP-不変なχLのconstituentが2つあったとし、それらをθ, ηとする。ここでまたCliffordの定理を使うとθηは共役である、つまりθg=ηとなるgGが取れる。Gηηの固定部分群、つまり
Gη={xG|ηx=η}
とする。今ηP-不変であるとしているのでPGηである。このことからPg(:=g1Pg)Gηもわかる。元々PGのシロー群としてとっていたのでPPgGηのシロー群でもある。シローの定理からPPgは「Gηで」共役になるので
(Pg)a=P
となるaGηを拾うことができる。つまりgaNG(P)である。したがって
θga=(θg)a=ηa=η
となりθηNG(P)で共役であることが分かった。

今回も長かったですね笑 お疲れさまでした。。

おわりに

いかがでしたでしょうか? はじめにでも触れた通り今回はだいぶマニアックな補題を選んでみました。ちなみに次数がpで割れない既約指標はdefectが0と言われています。defectについても正式な定義があるのですが今回は割愛しました。

最後まで読んで頂いてありがとうございました。冒頭でも言った通り誤字脱字誤り箇所など見つけて下さった方はコメントにてお知らせして頂けると助かります。また読んでみた感想や良いねなどもよろしく尾根がいします!!

では、また!

投稿日:20201218
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

音楽してます。数学科です。エースバーンが好きです。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. 基本事項の確認
  3. 本題
  4. おわりに