はじめに
こんにちは、MakkyoExistsです。本日も表現論の定理を紹介したいと思います。
指標論では次数がで割れない指標が大切な役割を果たすことがあります。それとシロー群の間には何か深い関係があるのではないかと日夜研究されているわけですが、今回はそれを研究するときに役に立つ(であろう基本的な)補題を示します。
細かな記号の定義は各章でまとめますが、主張は以下の通りです。
を有限群、を任意の素数とし、をシロー-部分群とする。またをの正規部分群とし、を次数がで割れないの既約指標とする。このときをに制限したの指標は-不変なの既約指標をconstituentとして持ち、またそれが2つ以上あればそれらはどの2つもで共役となる。
いつも僕が書く記事を見て頂ければお分かりいただけるかと思いますが、今回の定理はいつもよりやや重めです…笑 なのでいつもより誤植の可能性高めです。読んでみて分かりづらかったところや誤字脱字などありましたらコメントでお知らせください。(先に謝るスタイル…笑)
あ、そうだ内容に入る前にひとつ。今回紹介するこの定理はGabriel Navarro著『Character Theory and the McKay Conjecture』という本のLemma9.3に載っています。もし詳しく知りたい方いらっしゃいましたらこちらも参照してみてください(というか、ここに載っている証明よりは丁寧に書くつもりではありますが…笑)
では、見て行きましょう。
基本事項の確認
を有限群の(上の)既約指標全体とします。既約指標全体は類関数(共役類上で同じ値を取る関数)全体の基底になっています。基底の元同士には内積を定義することが出来ます。
基底の内積
, をの既約指標とする。このとき
とする。これをとの内積(inner product)という。
内積は内積で大事な性質がたくさんありますが、ここでは一旦スルーします。とりあえずなにか複素数が対応するということだけです。
次に指標の共役についてです。これは有限群とその正規部分群をとって、の指標に定義される概念です。
を有限群、をの正規部分群とし、, とする。このとき、
と置く。をの共役(conjugate)という。はの指標になっている。
与えられた有限群の既約指標の定義域を正規部分群に制限して考えることはよくあることです。制限したところで既約になるとは限らないのですが、そういった状況を考察する上で以下の定義を導入します。
constituent, 指標の制限
を有限群、をの正規部分群とする。をとり、この定義域をに制限したものをと書く(つまり)。
一般にが「の」既約指標になるとは限らない。しかし上の表現(また指標)は完全可約なのではの既約指標の線形和で書き表される。そのとき出てくるの既約指標をの(既約な)constituent(irreducible constituent)という。
constituentは日本語でなんと言われるんでしょうね?笑 いつもconstituentと言っているのでここだけ英語のままにしてみました(分かったら訂正しますたぶん笑)
次の定理はCliffordの定理と呼ばれていて、の既約指標を正規部分群に制限したときの情報として基本的な(かつ強力な)ことを主張しています。
Cliffordの定理
を有限群、をの正規部分群とする。またとしをの既約指標でのconstituentであるものとする。そしてのの共役全体を{, , , }としたとき、
となる。
つまり正規部分群に既約指標を制限すると、共役なものしか出てこないということですね。表現論の初歩ではありますがなかなか強い定理ですね。笑
本題
ではいよいよ冒頭で紹介した定理
を有限群、を任意の素数とし、をシロー-部分群とする。またをの正規部分群とし、を次数がで割れないの既約指標とする。このときをに制限したの指標は-不変なの既約指標をconstituentとして持ち、またそれが2つ以上あればそれらはどの2つもで共役となる。
を示したいと思います。
を次数がで割れないものとしてとり、をに制限したときにconstituentとして出てくる既約指標のひとつをとする。このときCliffordの定理よりはの共役な指標の線形和で書けることが分かる。
つまり、のの共役全体を{, , , }とすると、
と書ける。またから{, , , }への共役作用を考えて、その軌道全体を{, , , }とし、さらにを軌道に属する指標の和とすると、
と書き直すことが出来る。
また、の代表元をとしておくと、内に属する指標の次数は全てなので、となる。したがって、
となる。少し分かりやすく書き直してみると、
という状況である。
今、左辺のは最初のの取り方からで割れない自然数であり、一方の右辺の各項にあるはの作用による軌道なのでのべきになっている。もしすべてのについてがではないならば、右辺がで割れることになってしまい矛盾、よってとなる添え字がとれる。繰り返すがはの作用による軌道であった。その大きさがということは、この軌道に属するの既約指標は-不変であるということである。以上よりは-不変なの既約指標をconstituentとして持つことがわかり、命題の前半が示せたことになる。
次に、その-不変なのconstituentが2つあったとし、それらを, とする。ここでまたCliffordの定理を使うととは共役である、つまりとなるが取れる。をの固定部分群、つまり
とする。今は-不変であるとしているのでである。このことからもわかる。元々はのシロー群としてとっていたのでとはのシロー群でもある。シローの定理からとは「で」共役になるので
となるを拾うことができる。つまりである。したがって
となりとはで共役であることが分かった。
今回も長かったですね笑 お疲れさまでした。。
おわりに
いかがでしたでしょうか? はじめにでも触れた通り今回はだいぶマニアックな補題を選んでみました。ちなみに次数がで割れない既約指標はdefectがと言われています。defectについても正式な定義があるのですが今回は割愛しました。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。冒頭でも言った通り誤字脱字誤り箇所など見つけて下さった方はコメントにてお知らせして頂けると助かります。また読んでみた感想や良いねなどもよろしく尾根がいします!!
では、また!