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大学数学基礎議論
文献あり

ZFCの公理一覧と誤解しやすいポイント

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はじめに

比較的軽度の誤解をしてる人向けです。

この記事ではZFCの公理一覧と誤解しやすいポイントについてまとめています。

ZFCの公理一覧

まず、論理式の略記と自由変数についてです。

$P$を論理式とする.

  • $P(x)$は「$P$の中に現れる変数$x$に注目する」の意味で, $P$$P(x)$は同じ文字列.

  • $\forall x\in a\ P(x)$$\forall x(x\in a\Rightarrow P(x))$の略記.

  • $\exists x\in a\ P(x)$$\exists x(x\in a\wedge P(x))$の略記.

  • $\exists! x\ P(x)$$\exists x(P(x)\wedge\forall y(P(y)\Rightarrow x = y))$の略記.

  • $\exists! x\in a\ P(x)$$\exists! x(x\in a\wedge P(x))$の略記.

  • $x\not\in y$$\neg x\in y$の略記

  • $\Rightarrow,\ \vee,\ \wedge,\ \Leftrightarrow,\ \neg,\ \forall,\ \exists,\ =,\ \in$と変数記号だけで書かれた論理式を集合論の論理式とよぶ.
    (読みやすさのための括弧$(\ )$やカンマ,も含む)

  • (ざっくり) $\forall, \exists$の直後にない変数を自由変数とよぶ.

今回は$\emptyset$$\subseteq$などを一切定義せずにZFCを書きます。

ZFC
  • 外延性公理
    $\forall x\forall y((\forall z(z\in x \Leftrightarrow z\in y)) \Rightarrow x = y)$

  • 分出公理図式
    $P$を集合論の論理式, $P$$x,\ z$以外の自由変数は$w_0,\ \ldots,\ w_{i−1}$で, $y$$P$の自由変数でないとする.
    $\forall w_0\ldots\forall w_{i-1}\forall x\exists y \forall z(z\in y \Leftrightarrow (z\in x \wedge P(z)))$

  • 対公理
    $\forall x\forall y\exists p(x\in p \wedge y\in p)$

  • 和集合公理
    $\forall x\exists u\forall y\in x\ \forall z\in y\ z\in u$

  • 冪集合公理
    $\forall x \exists p \forall z((\forall y\in z\ y\in x) \Rightarrow z\in p)$

  • 無限公理
    $\exists N((\exists e\in N\ \forall z\ ~ z\not\in e) \wedge \forall x\in N\ \exists s\in N\ \forall z(z\in s \Leftrightarrow (z\in x \vee z = x)))$

  • 置換公理図式
    $P$を集合論の論理式, $P$$a,\ x,\ y$以外の自由変数は$w_0,\ \ldots,\ w_{i−1}$で, $b$$P$の自由変数でないとする.
    $\forall w_0\ldots\forall w_{i-1}\forall a((\forall x\in a\ \exists! y\ P(x,y)) \Rightarrow \exists b\forall x\in a\ \exists y\in b\ P(x,y))$

  • 基礎の公理
    $\forall x\forall w\in x\ \exists y\in x\ \forall z\in x\ z\not\in y. $

  • 選択公理
    $\forall a((\forall x\in a\ \exists w\ w\in x) \Rightarrow$
     $((\forall x,\ y\in a\ \forall z\in x\ (z\in y \Rightarrow x = y)) \Rightarrow \exists c\forall x\in a\ \exists! y\in c\ y\in x))$

公理図式

ZFCの公理の数は無限個

分出公理図式と置換公理図式は条件を満たす論理式$P$ごとに一つの公理があって、それを全部集めたものです。

なのでZFCの公理の数は無限個になります。

自由変数

分出公理図式と置換公理図式に「自由変数でない」という条件がついています。

読み飛ばしやすい条件かもしれませんが、これがないと矛盾します。

まずは分出公理図式です。

やらかした分出公理図式

$P$を集合論の論理式, $P$$x,\ z,$$y$以外の自由変数は$w_0,\ \ldots,\ w_{i−1}$とする.
$\forall w_0\ldots\forall w_{i-1}\forall x\exists y \forall z(z\in y \Leftrightarrow (z\in x \wedge P(z)))$

やらかした分出公理図式を仮定すると$\forall x\forall z\ z\not\in x$.

$z\in x$とする.

やらかした分出公理図式の$P$$z\not \in y$を代入すると

$\exists y \forall z(z\in y \Leftrightarrow (z\in x \wedge z\not \in y))$.

$z\in y$とすると$z\not \in y$となり矛盾.

よって$z\not\in y$.

$z\in x$$z\not\in y$より$z\in y$となり矛盾. $\square$

よって、すべての集合が空集合なので対公理などと矛盾します。

次に置換公理図式です。

やらかした置換公理図式

$P$を集合論の論理式, $P$$a,\ x,\ y,$$b$以外の自由変数は$w_0,\ \ldots,\ w_{i−1}$とする.
$\forall w_0\ldots\forall w_{i-1}\forall b\forall a((\forall x\in a\ \exists! y\ P(x,y)) \Rightarrow \exists b\forall x\in a\ \exists y\in b\ P(x,y))$

やらかした置換公理図式を仮定すると$\forall a\forall b((\forall x\in a\ x\not\in b) \Rightarrow \forall x\ x\not\in a)$.

$\forall x\in a\ x\not\in b$とする.

$\forall x\in a\ \exists! y\ (x = y \wedge y\not\in b)$は明らか.

やらかした置換公理図式の$P$$x = y \wedge y\not\in b$を代入すると

$\exists b\forall x\in a\ \exists y\in b\ (x = y \wedge y\not\in b)$.

$b$$b'$に書き直して

$\exists b'\forall x\in a\ \exists y\in b'\ (x = y \wedge y\not\in b')$.

$x\in a$とすると

$\exists y\in b'\ (x = y \wedge y\not\in b')$

より$y\in b'$かつ$y\not\in b'$となり矛盾. $\square$

よって、すべての互いに素な集合は空集合なので、空集合の存在や対公理などと矛盾します。

おわりに

ちゃんと条件を読んでください。

参考文献

[1]
K. Kunen (藤田博司 訳), キューネン数学基礎論講義, 日本評論社, 2016
投稿日:20201219
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