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Ringlebの定理

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双複素解析入門 第10回

今回は,Ringlebの定理を紹介します.ついに来ましたこの定理を紹介するときが.この定理を紹介するためだけに以前までの内容を書いていたといっても過言ではありません.

以前,双複素関数は2つの複素関数を用いて書けるということを紹介しましたが,双複素正則関数であれば,その2つの関数は複素正則関数になります.つまり,双複素正則関数を1つ扱うことは,2つの独立な複素正則関数を扱うことと同値になります.

Ringleb

任意の$F \in \mathcal{O}_{\mathbb{BC}}(\Omega)$に対して,2つの複素正則関数$F_{e}: \Phi _{e}(\Omega) \rightarrow \mathbb{C},F_{e^{\dagger}}:\Phi _{e^{\dagger}}(\Omega)\rightarrow \mathbb{C}$が存在して,
$$F(Z)=F_{e}(Z_{e})e+F_{e^{\dagger}}(Z_{e^{\dagger}})e^{\dagger}$$
が成り立つ.

$F \in \mathcal{O}_{\mathbb{BC}}(\Omega)$をとる.このとき,$Z=z_{1}+jz_{2},F(Z)=u(z_{1},z_{2})+jv(z_{1},z_{2})$と表す.この$F$をべき等元分解する.
$$\Phi_{e}(F(Z))=u(z_{1},z_{2})-iv(z_{1},z_{2}),$$
$$\Phi _{e^{\dagger}}(F(Z))=u(z_{1},z_{2})+iv(z_{1},z_{2})$$
となり,$Z_{e}=z_{1}-iz_{2},Z_{e^{\dagger}}=z_{1}+iz_{2}$より,
$$z_{1}=\dfrac{1}{2}(Z_{e}+Z_{e^{\dagger}}),z_{2}=-\dfrac{1}{2i}(Z_{e}-Z_{e^{\dagger}})$$
となるから,
$$\Phi _{e}(F(Z))=F_{e}(Z_{e},Z_{e^{\dagger}})(=u(z_{1},z_{2})-iv(z_{1},z_{2})),$$
$$\Phi_{e^{\dagger}}(F(Z))=F_{e^{\dagger}}(Z_{e},Z_{e^{\dagger}})(=u(z_{1},z_{2})+iv(z_{1},z_{2}))$$
とおくことができる.つまり,べき等元分解したあとの$e,e^{\dagger}$の係数は$Z_{e},Z_{e^{\dagger}}$の2変数関数になっているということである.ここで,$F_{e}$$Z_{e^{\dagger}}$で偏微分する.連鎖率と前回のCauchy-Riemann方程式の類似の方程式を用いると,
\begin{align*} \dfrac{\partial F_{e}}{\partial Z_{e^{\dagger}}}&=\left(\dfrac{\partial u}{\partial z_{1}}\cdot \dfrac{\partial z_{1}}{\partial Z_{e^{\dagger}}}+\dfrac{\partial u}{\partial z_{2}}\cdot \dfrac{\partial z_{2}}{\partial Z_{e^{\dagger}}}\right)-i\left(\dfrac{\partial v}{\partial z_{1}}\cdot \dfrac{\partial z_{1}}{\partial Z_{e^{\dagger}}}+\dfrac{\partial v}{\partial z_{2}}\cdot \dfrac{\partial z_{2}}{\partial Z_{e^{\dagger}}}\right)\\ &=\left(\dfrac{1}{2}\cdot \dfrac{\partial u}{\partial z_{1}}+\dfrac{1}{2i}\cdot \dfrac{\partial u}{\partial z_{2}}\right)-i\left(\dfrac{1}{2}\cdot \dfrac{\partial v}{\partial z_{1}}+\dfrac{1}{2i}\cdot \dfrac{\partial v}{\partial z_{2}}\right)\\ &=\dfrac{1}{2}\left(\dfrac{\partial u}{\partial z_{1}}-\dfrac{\partial v}{\partial z_{2}}\right)+\dfrac{1}{2i}\left(\dfrac{\partial u}{\partial z_{2}}+\dfrac{\partial v}{\partial z_{1}}\right)\\ &=\dfrac{1}{2}\cdot 0+\dfrac{1}{2i}\cdot 0\\ &=0 \end{align*}
が成り立つ.よって,$F_{e}$$Z_{e}$のみに依存する関数となる.$F_{e^{\dagger}}$も同様に$Z_{e^{\dagger}}$のみに依存する関数であることが示される.つまり,$F_{e},F_{e^{\dagger}}$は正則な複素正則関数となる.

Ringlebの定理により,複素正則関数の性質はそのまま双複素正則関数へと自明に拡張されることになります.べき級数展開可能性,一致の定理,解析接続の原理などはすべて双複素正則関数でも成り立ちます.これは逆に,双複素解析を面白くなくしてるともいえますが….また,この定理より次が成り立ちます.

任意の$F \in \mathcal{O}_{\mathbb{BC}}(\Omega)$$\Phi_{e}(\Omega) \times \Phi_{e^{\dagger}}(\Omega)\simeq \{Z =Z_{e}e+Z_{e^{\dagger}}e^{\dagger}\in \mathbb{BC}\ |Z_{e} \in \Phi_{e}(\Omega),Z_{e^{\dagger}} \in \Phi_{e^{\dagger}}(\Omega)\}$
上の正則関数に拡張できる.

拡張原理

任意の$F \in \mathcal{O}_{\mathbb{BC}}(\Omega)$に対して,$\Phi_{e}(\Omega) \times \Phi_{e^{\dagger}}(\Omega)$上の関数$G$
$$G(Z)=F_{e}(Z_{e})e+F_{e^{\dagger}}(Z_{e^{\dagger}})e^{\dagger}$$とおけば,$\Omega$上で$F \equiv G$となる.一致の定理より主張が成り立つ.

これをざっくりと幾何的に説明すると,領域$\Omega$をぴったり覆うような長方形領域$\Phi_{e}(\Omega) \times \Phi_{e^{\dagger}}(\Omega)$にまで関数$F$の定義域を自明に拡張できることを主張しています.なんだか多変数複素関数でも同じように自明に拡張されるような領域がありましたね….

今日はここまでにします.ありがとうございました.

投稿日:20201220

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まい.
まい.
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大学院修士課程まで主に解析数論(素数定理周り)の研究をしていました。今はデータサイエンス関連の仕事をしています。Xでは大学数学入門資料を投稿してます。

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