この記事では正二面体群$D_3, D_4$の共役類を計算します。
群$G$の要素$g\in G$に対し、$x\in G$による共役とは$xgx^{-1}\in G$のことをいう。
$g, h\in G$が共役であるとは、ある$x\in G$が存在して$h=xgx^{-1}$となることをいう。
$G$の$2$要素が共役であるという関係は同値関係を定める。したがって、この同値類により$G$を分割することができる。この同値類のことを共役類と呼ぶ。
群$G$の共役類を計算する上で便利な事実を確認しよう。
$x,y\in G$に対して$xy=yx$ならば$yxy^{-1}=x$である。
$x,y\in G$に対し$(xy)^{-1}=y^{-1}x^{-1}$なので、
$x,y,g\in G$に対し
$$\begin{eqnarray}
(xy)^{-1}g(xy)=y^{-1}(x^{-1}gx)y\end{eqnarray}$$となる。
つまり$g$の$xy$による共役は$g$の$x$による共役の$y$による共役に一致する。
正二面体群$D_3$は$e$を単位元として、生成元$a,b$と関係式$a^3=b^2=e, ab=ba^2$によって定まる群で
$$\begin{eqnarray}
D_3=\{e,a,a^2,b,ba,ba^2\}\end{eqnarray}$$と要素を表示できる。
この関係式から、 $$\begin{eqnarray} a^2b &=& a(ab)\\ &=& aba^2\\ &=& ba^2a^2\\ &=& ba\end{eqnarray}$$と計算できる。
まず$e$の共役類を計算する。$e$は任意の要素$g\in D_3$に対して$ge=g=eg$となるので、$e$と共役な要素は$e$自身のみで、
共役類は$\{e\}$である。
次に、$a$の共役類を計算する。$a^i$と$a$は$a^ia=a^{i+1}=aa^i$となり可換なので、$a^i$による共役は$a$自身である。$b$による共役を計算すると $$\begin{eqnarray} bab^{-1} &=& bab\\ &=& bba^2\\ &=& a^2\end{eqnarray}$$となる。$ba^i$による共役は$a$の$b$による共役$a^2$の$a^i$による共役で、$a^2a^i=a^{i+2}=a^ia^2$となるからこれは$a^2$である。共役は同値関係なので、
共役類は$\{a,a^2\}$である。
次に$b$の共役類を計算する。 $a$による共役は $$\begin{eqnarray}
aba^{-1}
&=&
aba^2\\
&=&
ba^2a^2\\
&=&
ba\end{eqnarray}$$となる。 $a^2$による共役は $$\begin{eqnarray}
a^2b(a^2)^{-1}
&=&
a^2ba\\
&=&
baa\\
&=&
ba^2\end{eqnarray}$$となる。ここまでのところで、共役が同値関係であることから$\{b,ba,ba^2\}$となることはわかるが、ついでに$ba^i$による共役を計算しておこう。これを$a^jb$の形に書き換えた上で、$b$の$b$による共役が$b$自身であることから
$$\begin{eqnarray}
(a^jb)b(a^jb)^{-1}
&=&
a^j(bbb^{-1})(a^j)^{-1}\\
&=&
a^jb(a^j)^{-1}\\\end{eqnarray}$$となる。これは上の計算で$ba, ba^2$のいずれかとなる。
共役類は$\{b,ba,ba^2\}$である。
次に$D_4$の共役類を計算する。
正二面体群$D_4$は$e$を単位元として、生成元$a,b$と関係式$a^4=b^2=e, ab=ba^3$によって定まる群で
$$\begin{eqnarray}
D_4=\{e,a,a^2,a^3,b,ba,ba^2,ba^3\}\end{eqnarray}$$と要素を表示できる。
この関係式から、 $$\begin{eqnarray} a^2b &=& a(ab)\\ &=& aba^3\\ &=& ba^3a^3\\ &=& ba^2\\ a^3b &=& a(a^2b)\\ &=& aba^2\\ &=& ba^3a^2\\ &=& ba\end{eqnarray}$$と計算できる。
まず$e$の共役類を計算する。$e$は任意の要素$g\in D_4$に対して$ge=g=eg$となるので、$e$と共役な要素は$e$自身のみで、
共役類は$\{e\}$である。
次に、$a$の共役類を計算する。$a^i$と$a$は$a^ia=a^{i+1}=aa^i$となり可換なので、$a^i$による共役は$a$自身である。$b$による共役を計算すると $$\begin{eqnarray} bab^{-1} &=& bab\\ &=& bba^3\\ &=& a^3\end{eqnarray}$$となる。$ba^i$による共役は$a$の$b$による共役$a^3$の$a^i$による共役で、$a^3a^i=a^{3+i}=a^ia^3$となるからこれは$a^3$である。共役は同値関係なので、
共役類は$\{a,a^3\}$である。
$a^2$の共役類を計算する。$a^i$と$a^2$は$a^ia^2=a^{i+2}=a^2a^i$となり可換なので、$a^i$による共役は$a^2$自身である。$b$による共役を計算すると $$\begin{eqnarray} ba^2b^{-1} &=& ba^2b\\ &=& bba^2\\ &=& a^2\end{eqnarray}$$となる。$ba^i$による共役は$a$の$b$による共役$a^2$の$a^i$による共役で、これは$a^2$である。よって、
共役類は$\{a^2\}$である。
次に$b$の共役類を計算する。 $a$による共役は $$\begin{eqnarray} aba^{-1} &=& aba^3\\ &=& ba^3a^3\\ &=& ba^2\end{eqnarray}$$となる。 $a^2$による共役は $$\begin{eqnarray} a^2b(a^2)^{-1} &=& a^2ba^2\\ &=& ba^2a^2\\ &=& b\end{eqnarray}$$となる。$a^3=aa^2$による共役は$a^2$による共役$b$の$a$による共役だから$ba^2$である。$b$による共役は$b$自身である。$ba^i$による共役は$b$による共役$b$の$a^i$による共役だから$b$または$ba^2$である。よって
共役類は$\{b,ba^2\}$である。
$ba$の共役類を計算する。 $a$による共役は $$\begin{eqnarray} abaa^{-1} &=& ab\\ &=& ba^3\end{eqnarray}$$となる。 $a^2$による共役は $$\begin{eqnarray} a^2ba(a^2)^{-1} &=& a^2baa^2\\ &=& ba^2a^3\\ &=& ba\end{eqnarray}$$となる。$a^3=aa^2$による共役は$a^2$による共役$ba$の$a$による共役だから$ba^3$である。$b$による共役は $$\begin{eqnarray} bbab^{-1} &=& ab\\ &=& ba^3\end{eqnarray}$$である。$ba^i$による共役は$b$による共役$ba^3$の$a^i$による共役だが、これは上で計算したことを利用しよう。$ba$の$a$による共役が$ba^3$であり、$ba$の$a^2$による共役が$ba$であった。したがって、$ba$の$a$による共役$ba^3$の$a$による共役が$ba$ということになる。つまり$ba^3$の$a$による共役が$ba$であるが、これを繰り返すことにより$a^i$による共役は$ba$または$ba^3$であることがわかる。よって
共役類は$\{ba,ba^3\}$である。
まとめると
$D_3$の共役類は $$\begin{eqnarray} \{e\}, \{a,a^2\}, \{b,ba,ba^2\}\end{eqnarray}$$の$3$つ
$D_4$の共役類は $$\begin{eqnarray} \{e\}, \{a,a^3\}, \{a^2\}, \{b,ba^2\}, \{ba,ba^3\}\end{eqnarray}$$の$5$つ
であることがわかった。