群論において共役作用は基本的ながら重要な役割を果たします.例えば $n$ 次正則行列 $P$ によって $n$ 次正方行列 $A$ を $PAP^{-1}$ に変換する操作などですね.行列を線型写像の表現だと考えると,共役作用は基底の取り替えに対応しています.一般に群をある対象 $X$ の変換の集まりと見做すとき,共役作用は $X$ の視点の転換に対応すると言えましょう.
$G$ を群とする.次で定義される $G$ の $X := G$(作用する群と被作用集合とを区別する)への作用を共役作用という:
$g \in G$, $x \in X$ に対し,$g \cdot x := gxg^{-1}$.
今回紹介するのは,置換群における共役作用の計算公式です.
$G := \mathfrak{S}_n$ を $n$ 次対称群とする.$G$ の $X := G$ への共役作用は次のように計算される.$\sigma$ および $\tau := \begin{pmatrix} 1 & 2 & \ldots & n \\ a_1 & a_2 & \ldots & a_n \end{pmatrix} \in X$ に対して
$$ \sigma \tau \sigma^{-1} = \begin{pmatrix} \sigma(1) & \sigma(2) & \ldots & \sigma(n) \\ \sigma(a_1) & \sigma(a_2) & \ldots & \sigma (a_n) \end{pmatrix}.$$
各 $1 \le t \le n$ に対し
$$ \sigma(t) \overset{\sigma^{-1}}{\longrightarrow} t \overset{\tau}{\longrightarrow} a_t \overset{\sigma}{\longrightarrow} \sigma(a_t) $$
が成り立つ.これを整理して求める等式を得る.
証明のポイントは,上の対応において2番目のところに視点を固定する点です.置換 $\tau$ を $\sigma$ による共役作用で写すとどうなるかを調べたいのですから,$\tau$ の定義域を基準とするわけです.
さて,この公式自体はさほど難しいものではありませんが(とはいえ,この公式を自分で発見したときはずいぶん感激したのを覚えています),ここから次の事実が導かれます.
置換 $\sigma \in \mathfrak{S}_n$ に対し,$\sigma$ を互いに共通成分のない巡回置換の積に表すとき,その巡回置換の長さを並べた(広義単調減少)数列を $\sigma$ の型という.
例えば,$\sigma = (1,2,3,4)(5,6)(7,8)(9)(10)$($9$, $10$ は固定点)のとき,$\sigma$ の型は $(4,2,2,1,1)$ です.型は $n$ の分割をなし,Young図形とも対応して表現論の視点からも重要な意味を持っていますが,それは別の機会に回しましょう.
置換群 $G \subset \mathfrak{S}_n$ の2要素 $\sigma$ および $\tau$ が互いに共役ならば,2つの置換の型は等しい.さらに,対称群 $\mathfrak{S}_n$ においては,等しい型を持つ2要素は互いに共役であり,共役類は $n$ の分割と1対1に対応する.
この定理に沿って $\mathfrak{S}_5$ を共役類に分割してみましょう.$5$ の分割は
$$ (5),~~(4,1),~~(3,2),~~(3,1,1),$$
$$ (2,2,1),~~(2,1,1,1),~~(1,1,1,1,1)$$
の7つで,その共役類は
に区別されます.