・二重複体の練習問題を見かけて定義に従って図式追跡するパズルを楽しんだ。
https://twitter.com/yamyam_topo/status/1339584151691829248
(これは自分がパズルを楽しんだ解答的な形跡で、解説は意図されていない。しかし定義に従って示すなら、おそらく同じ工程をたどることになると思うので、自分で考えて分からなかった時には参考にできると思う。)
・二重複体とは次のような図式である:
(ここでは最初から第一象限的なものだけを扱う。)
\begin{CD}
0 @>>> 0 @>>> 0 @>>> 0 @>>> \\
@VVV @VV{d_V}V @VV{d_V}V @VV{d_V}V \\
0 @>{d_H}>> A_{00} @>{d_H}>> A_{01} @>{d_H}>> A_{02} @>{d_H}>> \\
@VVV @VV{d_V}V @VV{d_V}V @VV{d_V}V \\
0 @>{d_H}>> A_{10} @>{d_H}>> A_{11} @>{d_H}>> A_{12} @>{d_H}>> \\
@VVV @VV{d_V}V @VV{d_V}V @VV{d_V}V \\
0 @>{d_H}>> A_{20} @>{d_H}>> A_{21} @>{d_H}>> A_{22} @>{d_H}>> \\
@VVV @VV{d_V}V @VV{d_V}V @VV{d_V}V \\
\end{CD}
ここで縦横はそれぞれ複体、すなわち$d_V\circ d_V=d_H\circ d_H=0$である。(本来は$d$に添え字をつけるのが正確だが作用対象から特定できるので省略した。)
二重複体には可換流派と反可換流派がある。(例えばhttps://ncatlab.org/nlab/show/double+complexで解説されている。)ここでは反可換流派を採用することにする。この場合$d_V\circ d_H = -d_H\circ d_V$が要求される。
・全複体$A^{tot}_\bullet$は、対象$A^{tot}_0=A_{00}$, $A^{tot}_1=A_{10}\oplus A_{01}$, $A^{tot}_2=A_{20}\oplus A_{11}\oplus A_{02}$と、射$d=d_V+d_H$による複体である。この射は例えば$(a_{10},a_{01})\in A^{tot}_1$ を $(d_V(a_{10}),d_H(a_{10})+d_V(a_{01}),d_H(a_{01})) \in A^{tot}_2$ に送る。
・縦コホモロジーは、縦コサイクルを縦コバウンダリで割った$H_V^{ij}(A) = ker(d_V)/im(d_V)$で定義され、全コホモロジーは全コサイクルを全コバウンダリで割った$H^{i}(A^{tot}) = ker(d)/im(d)$で定義される。
・複体の射:別の複体$B$があって、$A$から$B$への複体の射$f$を考える。これは$A_{ij}$から$B_{ij}$への射がすべて定まっていて図式と整合する($f\circ d_H=e_H\circ f,f\circ d_V=e_V\circ f$)ことを意味する。ここで複体$B$の射を呼ぶのに$d$の代わりに$e$で区別した。
従って$H_V^{ij}(B) = ker(e_V)/im(e_V)$,$H^{i}(B^{tot}) = ker(e)/im(e)$ということになる。
・今回の問題:
$f$は、$H_V^{ij}(A) \to H_V^{ij}(B)$, $H^{i}(A^{tot}) \to H^{i}(B^{tot})$ を誘導する。前者がすべて同型ならば後者もすべて同型であることを示す課題である。
以下$i=3$の同型を記述する。こうやって具体的な値を決めておくのは好みが分かれるかもしれないが、私はこのほうが分かりやすかった。繰り返し工程は規則的で、一般化は容易であると思う。
$b_3=(b_{30},b_{21},b_{12},b_{03}) \in B^{tot}_3$ で代表される $H^3(B^{tot})$の元に移る$H^3(A^{tot})$の元があることを示す。
これが全コホモロジーを代表する元(全コサイクル)だから$e=e_V+e_H$で0に移る、具体的に、$e_V(b_{30})=0$, $e_H(b_{30})+e_V(b_{21})=0$, $e_H(b_{21})+e_V(b_{12})=0$,$e_H(b_{12})+e_V(b_{03})=0$,$e_H(b_{03})=0$ が成り立つ仮定がある・・①
[1-1] 縦コホモロジーの全射性により、$b_{30}$で代表される$H_V^{30}(B)$の元に移る$H_V^{30}(A)$の元がある、すなわち縦コサイクル$a_{30} \in A_{30}$があって、$f(a_{30})$と$b_{30}$の差が$e_V$による像に居る。すなわち$y_{20}\in B_{20}$があって、$f(a_{30})+e_V(y_{20}) = b_{30}$が成り立つ。
[1-2] 上式に$e_H$を作用させて図式の反可換性、仮定①、$f$の整合性を使うと、$f(d_H(a_{30}))-e_V(e_H(y_{20})) = -e_V(b_{21}) $ を得る。
[1-3] すると、$f(d_H(a_{30}))$は$e_V$の像に居るからそれが代表する$H_V^{31}(B)$の元は0(縦コバウンダリ)である。縦コホモロジーの単射性により、$d_H(a_{30})$が代表する$H_V^{31}(A)$の元も0である。すなわち、$d_V$による像に居る。$x_{21}$の$d_V$による像とおく:$d_V(x_{21})=d_H(a_{30})$
[2-1] そこで、$e_V(f(x_{21})-e_H(y_{20})+b_{21})$を考えると0になる。縦コホモロジーの全射性により、縦コサイクル$a_{21}\in A_{21}$と$y_{11}\in B_{11}$があって$f(a_{21})+e_V(y_{11})=f(x_{21})-e_H(y_{20})+b_{21}$が成り立つ。
[2-2] $e_H$を作用させて図式の反可換性や仮定①、$f$の整合性、$e_H\circ e_H=0$を使うと、$f(d_H(a_{21}-x_{21}))-e_V(e_H(y_{11}))=-e_V(b_{12})$を得る。
[2-3] すると、$f(d_H(a_{21}-x_{21}))$は縦コバウンダリなので、縦コホモロジーの単射性により$d_H(a_{21}-x_{21})$も縦コバウンダリで、$d_V(x_{12})=d_H(a_{21}-x_{21})$となる$x_{12}\in A_{12}$が存在する。
[3-1] そうすると、$e_V(f(x_{12})-e_H(y_{11})+b_{12})=0$となので、$a_{12}$と$y_{02}$があって、$f(a_{12})+e_V(y_{02})=f(x_{12})-e_H(y_{11})+b_{12}$が成り立つ。
[3-2] $e_H$を作用させて$f(d_H(a_{12}-x_{12}))-e_V(e_H(y_{02}))=-e_V(b_{03})$を得る。
[3-3] $d_V(x_{03})=d_H(a_{12}-x_{12})$となる$x_{03}\in A_{03}$が存在する。
[4-1] $a_{03}$があって、$f(a_{03})=f(x_{03})-e_H(y_{02})+b_{03}$が成り立つ。
[4-2] $e_H$を作用させて$f(d_H(a_{03}-x_{03}))=0$を得る。
[4-3] $d_H(a_{03}-x_{03}) = 0$ を得る。
以上得たものを使うと、$f(a_{30},a_{21}-x_{21},a_{12}-x_{12},a_{03}-x_{03}) + e(y_{20},y_{11},y_{02}) = (b_{30},b_{21},b_{12},b_{03})$ が成り立つ。これが示したい存在であった。
$a_3=(a_{30},a_{21},a_{12},a_{03})\in A^{tot}_3$で代表される$H_{tot}^{3}(A)$の元を考える。$b_3=(b_{30},b_{21},b_{12},b_{03})$を$f$による像とする。$b_3$が全コバウンダリならば、$a_3$も全コバウンダリであることを示したい。これらはコホモロジー類を代表する元として、全射性の議論の①と同様の仮定を満たす。
$b_3$が全コバウンダリということは、$e$によって$b_3$に移る$(y_{20},y_{11},y_{02})$がある、具体的に、$e_V(y_{20})=b_{30}, e_H(y_{20})+e_V(y_{11})=b_{21}$などが成り立つ・・②
[1-1] $e_V(y_{20})=b_{30}=f(a_{30})$なので、縦コホモロジーの単射性により$a_{30}$も縦コバウンダリで、$d_V(x_{20})=a_{30}$となる$x_{20}$が存在する。
[2-0] $f(x_{20})-y_{20}$は$e_V$によって0に移るので、縦コホモロジーの全射性により、$f(u_{20})+e_V(v_{10}) = f(x_{20})-y_{20}$ となる縦コサイクル$u_{20}\in A_{0} と v_{10}\in B_{10}$ がある。
すなわち $e_V(v_{10}) = f(x_{20}-u_{20})-y_{20}$
[2-1] $e_H$を作用させて
$e_H\circ e_V(v_{10}) = f(d_H(x_{20}-u_{20}))-e_H(y_{20}) = f(d_H(x_{20}-u_{20}))-b_{21}+e_V(y_{11})$
すなわち $f(a_{21}-d_H(x_{20}-u_{20}) ) = e_V(y_{11}-e_H(v_{10}))$
縦コホモロジーの単射性により$a_{21}-d_H(x_{20}-u_{20})$も縦コバウンダリで、$d_V(x_{11}) = a_{21}-d_H(x_{20}-u_{20})$ となる $x_{11}$ が存在する。
[3-0] [2-0]の式に$e_H$を作用させたものと[2-1]の式に$f$を作用させたものを合わせて、$e_V(f(x_{11})-y_{11}-e_H(v_{10})) = 0$ を得る。
縦コホモロジーの全射性により、$f(u_{11})+e_V(v_{01})=f(x_{11})-y_{11}-e_H(v_{10})$ となる縦コサイクル$u_{11}$と$v_{01}$が存在する。
[3-1] e_Hを作用させて、
$e_H\circ e_V(v_{01}) = f(d_H (x_{11}-u_{11}) - e_H(y_{11}) = f(d_H (x_{11}-u{11}) - b{12} + e_V(y_{02})$
すなわち $f(a_{12}-d_H (x_{11}-u_{11}) ) = e_V(y_{02}-e_H(v_{01}))$
縦コホモロジーの単射性により$a_{12}-d_H (x_{11}-u_{11})$も縦コバウンダリで、$d_V(x_{02}) = a_{12}-d_H (x_{11}-u{11})$ となる $x_{02}$ が存在する。
[4-0] [3-0]の式に$e_H$を作用させたものと[3-1]の式に$f$を作用させたものを合わせて、$e_V(f(x_{02})-y_{02}-e_H(v_{01})) = 0 $
縦コホモロジーの全射性により、$f(u_{02})=f(x_{02})-y_{02}-e_H(v_{01})$ となる縦コサイクル$u_{02}$が存在する。
([2-0]や[3-0]のこの式に相当する左辺の$v$はここでは「範囲外」で消える。)
[4-1] $e_H$を作用させて、
$0 = f(d_H (x_{02}-u{02}) - e_H(y_{02}) = f(d_H (x_{02}-u_{02}) - b_{03}$
すなわち $f(a_{03}-d_H (x_{02}-u_{02}) ) = 0$
縦コホモロジーの単射性により$a_{03}-d_H (x_{02}-u_{02})$も縦コバウンダリで、$a_{03}-d_H (x_{02}-u_{02})=0$
(一番先頭のコバウンダリは0を意味する)
以上得たものを使うと、$d(x_{20}-u_{20},x_{11}-u_{11},x_{02}-u_{02})=(a_{30},a_{21},a_{12},a_{03})$が成り立つ。これが示したい存在であった。