$\displaystyle\frac{1}{(1-x^4)^{\frac{1}{4}}}$の不定積分を求めてください。
超幾何関数を使うと$\displaystyle\int\frac{1}{(1-x^4)^{\frac{1}{4}}}dx=x\ {}_{2}F_{1}\Big(\frac{1}{4},\frac{1}{4};\frac{5}{4};x^4\Big)+C\quad(C:積分定数)$となりますが、初等関数だけで表していきたいと思います。とはいえ、何をすればいいんだと呆然としてしまう人もいるでしょう。
これを解く前に、もうちょっと簡単な問題を見てみましょう。
$\displaystyle\frac{1}{(1-x^2)^{\frac{1}{2}}}$の不定積分を求めてください。
$\arcsin(x)+C\quad(C:積分定数)$が答えなのですが、ちょっと迂回してみます。
分母の$(1-x^2)^{\frac{1}{2}}$を見ると、円$x^2+y^2=1$を想像したくなるものです。
取り敢えず、$x>0,y>0$の部分だけ考えると、(他の場合もほぼ同様なので省略)
\begin{align}
\int\frac{1}{(1-x^2)^{\frac{1}{2}}}dx & = \int\frac{1}{y}dx
\end{align}
と簡単に表せます。
次に、直線$y=tx$と円$x^2+y^2=1$の交点の$x$座標を求めます。代入して式変形すると
\begin{align}
x^2+(tx)^2 & = 1\\
x^2(1+t^2) & = 1\ \cdots(1)\\
x & = \frac{1}{(1+t^2)^{\frac{1}{2}}}
\end{align}
となりますが、この$\displaystyle x=\frac{1}{(1+t^2)^{\frac{1}{2}}}$で置換すると実はうまくいきます。
$dx$と$dt$の関係式は$(1)$を$t$で微分して求めましょう。
\begin{align} x^2(1+t^2) & = 1\ \cdots(1) \\ 2x(1+t^2)\frac{dx}{dt}+2tx^2 & = 0\ (\leftarrow tで微分)\\ (1+t^2)\frac{dx}{dt}+tx & = 0\ (\leftarrow 両辺を2xで割る)\\ \frac{1}{tx}dx & = -\frac{1}{1+t^2}dt\ (\leftarrow 変形)\\ \frac{1}{y}dx & = -\frac{1}{1+t^2}dt\ \cdots(2)\qquad(\leftarrow y=tx) \end{align}
さて、$(2)$の左辺$\displaystyle\frac{1}{y}dx$は見たことがありますね。求めたい積分の形になっています。
\begin{align} \int\frac{1}{y}dx & = -\int\frac{1}{1+t^2}dt & (\leftarrow 有理関数の積分)\\ & = -\arctan(t)+C & \\ & = -\arctan\Big(\frac{(1-x^2)^{\frac{1}{2}}}{x}\Big)+C & (C:積分定数) \end{align}
というわけで$\displaystyle\int\frac{1}{(1-x^2)^{\frac{1}{2}}}dx$を求めることができました。$\arcsin$とは随分見た目が違いますが、実際に$-\arctan\Big(\frac{(1-x^2)^{\frac{1}{2}}}{x}\Big)$を微分すると、ちゃんと$(1-x^2)^{-\frac{1}{2}}$になっています。
キーポイントは、直線$y=tx$との交点に着目したことで$x^2(1+t^2)=1$に辿り着き、そして見事に有理関数の積分に帰着できたことです。
まず、$\displaystyle\frac{1}{(1-x^4)^{\frac{1}{4}}}$の分母$(1-x^4)^{\frac{1}{4}}$に注目です。
問題2では$2$乗だったので、円$x^2+y^2=1$を考えました。今度は$4$乗なので、曲線$x^4+y^4=1$とします。
\begin{align}
\int\frac{1}{(1-x^4)^{\frac{1}{4}}}dx & = \int\frac{1}{y}dx
\end{align}
次に、直線$y=tx$と$x^4+y^4=1$の交点に着目することで、
$x^4(1+t^4)=1\quad\cdots(3)$
となります。
$(3)$の両辺を$t$で微分して、
\begin{align}
4x^3(1+t^4)\frac{dx}{dt}+4t^3x^4 & = 0\\
(1+t^4)\frac{dx}{dt}+t^3x^3 & = 0\\
\frac{1}{tx}dx & = \frac{-t^2}{1+t^4}dt\\
\frac{1}{y}dx & = \frac{-t^2}{1+t^4}dt
\end{align}
となるので、求める積分は$\displaystyle t=\frac{(1-x^4)^{\frac{1}{4}}}{x}$の置換により、
\begin{align}
\int\frac{1}{(1-x^4)^{\frac{1}{4}}}dx & = \int\frac{-t^2}{1+t^4}dt
\end{align}
となり、有理関数の積分になります。
$2$乗のときとは違い、ここから先の計算も大変です。
$\displaystyle\frac{-t^2}{1+t^4}$を部分分数分解しましょう。
分母の$t^4+1$は
\begin{align}
t^4+1 & = t^4+2t^2+1-2t^2\\
& = (t^2+1)^2-2t^2\\
& = (t^2-\sqrt{2}t+1)(t^2+\sqrt{2}t+1)
\end{align}
と因数分解でき、係数比較すれば、
\begin{align}
\frac{-t^2}{1+t^4} & = \frac{-t^2}{(t^2-\sqrt{2}t+1)(t^2+\sqrt{2}t+1)}\\
& = \frac{\sqrt{2}}{4}\Big(\frac{t}{t^2+\sqrt{2}t+1}-\frac{t}{t^2-\sqrt{2}t+1}\Big)
\end{align}
がわかります。求める積分は$\displaystyle\int\frac{\sqrt{2}}{4}\Big(\frac{t}{t^2+\sqrt{2}t+1}-\frac{t}{t^2-\sqrt{2}t+1}\Big)dt$となります。
$2$つの分数はどちらも$\frac{(1次式)}{(2次式)}$の形をしているので、分母の$2$次式を$f(x)$として、$\frac{f'(x)}{f(x)}+\frac{(定数)}{f(x)}$の$2$つの分数にそれぞれ分けて、合計$4$つの分数の積分をすることになります。
$\frac{f'(x)}{f(x)}$の積分は$\log$、$\frac{(定数)}{f(x)}$の積分は$\arctan$を使った式になります。
\begin{align} &\int\frac{\sqrt{2}}{4}\Big(\frac{t}{t^2+\sqrt{2}t+1}-\frac{t}{t^2-\sqrt{2}t+1}\Big)dt \\ =&\int\frac{\sqrt{2}}{8}\Big(\frac{2t+\sqrt{2}}{t^2+\sqrt{2}t+1}-\frac{\sqrt{2}}{t^2+\sqrt{2}t+1}-\frac{2t-\sqrt{2}}{t^2-\sqrt{2}t+1}-\frac{\sqrt{2}}{t^2-\sqrt{2}t+1}\Big)dt\ (\leftarrow \frac{f'(x)}{f(x)}+\frac{(定数)}{f(x)}の形に分解)\\ =&\frac{\sqrt{2}}{8}\Big(\int\frac{2t+\sqrt{2}}{t^2+\sqrt{2}t+1}dt-\int\frac{\sqrt{2}}{t^2+\sqrt{2}t+1}dt-\int\frac{2t-\sqrt{2}}{t^2-\sqrt{2}t+1}dt-\int\frac{\sqrt{2}}{t^2-\sqrt{2}t+1}dt\Big) \\ =&\frac{\sqrt{2}}{8}\Big(\int\frac{(t^2+\sqrt{2}t+1)'}{t^2+\sqrt{2}t+1}dt-\int\frac{2\sqrt{2}}{(\sqrt{2}t+1)^2+1}dt-\int\frac{(t^2-\sqrt{2}t+1)'}{t^2-\sqrt{2}t+1}dt-\int\frac{2\sqrt{2}}{(\sqrt{2}t-1)^2+1}dt\Big) \\ =&\frac{\sqrt{2}}{8}\Big(\log(t^2+\sqrt{2}t+1)-2\arctan(\sqrt{2}t+1)-\log(t^2-\sqrt{2}t+1)-2\arctan(\sqrt{2}t-1)\Big)+C\ (\leftarrow \logの中身は常に正なので絶対値にしなくていい)\\ =&\frac{\sqrt{2}}{8}\Bigg(\log\Big(\frac{t^2+\sqrt{2}t+1}{t^2-\sqrt{2}t+1}\Big)+2\arctan\Big(\frac{\sqrt{2}t}{t^2-1}\Big)\Bigg)+C\ \cdots(4)\\ =&\frac{\sqrt{2}}{8}\Bigg(\log\Big(\frac{\sqrt{1-x^4}+\sqrt{2}x\sqrt[4]{1-x^4}+x^2}{\sqrt{1-x^4}-\sqrt{2}x\sqrt[4]{1-x^4}+x^2}\Big)+2\arctan\Big(\frac{\sqrt{2}x\sqrt[4]{1-x^4}}{\sqrt{1-x^4}-x^2}\Big)\Bigg)+C\ (\leftarrow xの式に戻してさらに式を纏めた)\\ =&\frac{\sqrt{2}}{4}\Bigg(\log\Big(\sqrt{1-x^4}+\sqrt{2}x\sqrt[4]{1-x^4}+x^2\Big)+\arctan\Big(\frac{\sqrt{2}x\sqrt[4]{1-x^4}}{\sqrt{1-x^4}-x^2}\Big)\Bigg)+C\ (\leftarrow \logの方の分母の有理化をするとちょっとすっきりした) \end{align}
式が横に長いので、$\log$と$\arctan$を纏めています。
$\log(t^2+\sqrt{2}t+1)-\log(t^2-\sqrt{2}t+1)=\log\Big(\frac{t^2+\sqrt{2}t+1}{t^2-\sqrt{2}t+1}\Big)$は高校で習う対数の計算です。
$\arctan(\sqrt{2}t+1)+\arctan(\sqrt{2}t-1)$が$-\arctan\Big(\frac{\sqrt{2}t}{t^2-1}\Big)$になっている部分は、タンジェントの加法定理$\tan(p+q)=\frac{\tan(p)+\tan(q)}{1-\tan(p)\tan(q)}$から導きます。
$p=\arctan(\sqrt{2}t+1),q=\arctan(\sqrt{2}t-1)$を代入すると、
$\tan(\arctan(\sqrt{2}t+1)+\arctan(\sqrt{2}t-1))=\frac{\tan(\arctan(\sqrt{2}t+1))+\tan(\arctan(\sqrt{2}t-1))}{1-\tan(\arctan(\sqrt{2}t+1))\tan(\arctan(\sqrt{2}t-1))}$
ここで、$\tan(\arctan(a))=a$なので、右辺は
$\frac{(\sqrt{2}t+1)+(\sqrt{2}t-1)}{1-(\sqrt{2}t+1)(\sqrt{2}t-1)}=\frac{2\sqrt{2}t}{2-2t^2}=-\frac{\sqrt{2}t}{t^2-1}$となります。
$\tan(\arctan(\sqrt{2}t+1)+\arctan(\sqrt{2}t-1))=-\frac{\sqrt{2}t}{t^2-1}$の両辺の$\arctan$をとると、
$\arctan(\tan(\arctan(\sqrt{2}t+1)+\arctan(\sqrt{2}t-1)))=-\arctan\Big(\frac{\sqrt{2}t}{t^2-1}\Big)$ですが、
左辺の$\arctan(\tan(a))$の形をしている部分に問題があって、これは$\tan(\arctan(a))$とは違い、$=a$になるとは限りません。
$-\frac{\pi}{2}< a<\frac{\pi}{2}$の範囲では$\arctan(\tan(a))=a$ですが、
$\frac{\pi}{2}< a<\frac{3\pi}{2}$のとき$\arctan(\tan(a))=a-\pi$、
$-\frac{3\pi}{2}< a<-\frac{\pi}{2}$のとき$\arctan(\tan(a))=a+\pi$と、区分的に定数の違いが出てしまいます。
この定数の違いは微分すると消えてしまうものなので、積分定数に取り込んで、計算結果には表していませんが、
計算結果の$\frac{\sqrt{2}}{4}\Big(\log(\sqrt{1-x^4}+\sqrt{2}x\sqrt[4]{1-x^4}+x^2)+\arctan\Big(\frac{\sqrt{2}x\sqrt[4]{1-x^4}}{\sqrt{1-x^4}-x^2}\Big)\Big)$は不連続になっているところがあるので、
この不定積分を使って定積分を$\int_{0}^{1}(1-x^4)^{-\frac{1}{4}}dx=[F(x)]_{0}^{1}$のように計算する場合に注意してください。
この定数の誤差が困るという場合は、纏めないで
$\frac{\sqrt{2}}{4}\Big(\log(\sqrt{1-x^4}+\sqrt{2}x\sqrt[4]{1-x^4}+x^2)-\arctan\Big(\frac{\sqrt{2}\sqrt[4]{1-x^4}}{x}+1\Big)-\arctan\Big(\frac{\sqrt{2}\sqrt[4]{1-x^4}}{x}-1\Big)\Big)$
としても構わないですが、それはそれで$x=0$のところで不連続ですね。
問題2の$\int(1-x^2)^{-\frac{1}{2}}dx=-\arctan\Big(\frac{(1-x^2)^{\frac{1}{2}}}{x}\Big)+C$も同様の注意が要ります。
積分定数の扱いにはご注意ください。
というわけで、なんとか初等関数で求めることができましたね。
$\displaystyle\int\frac{1}{(1-x^4)^{\frac{1}{4}}}dx=\frac{\sqrt{2}}{4}\Bigg(\log\Big(\sqrt{1-x^4}+\sqrt{2}x\sqrt[4]{1-x^4}+x^2\Big)+\arctan\Big(\frac{\sqrt{2}x\sqrt[4]{1-x^4}}{\sqrt{1-x^4}-x^2}\Big)\Bigg)+C\ (C:積分定数)$
が答えです。
もうこんな式、$\TeX$で書きたくない・・・。
直線$y=tx$との交点を考えるのは、曲線のパラメータ表示(の1つ)を求めたり、曲線の概形を描く足がかりにしたりできることは高校の教科書にも書いてあるのですが、このような積分の問題での置換のヒントにもなったりします。
(実はガウス積分も$y=tx$を使って求める方法があります。)
結構便利なテクニックですね。
同じように、正の整数$n$に対して、$\displaystyle\int\frac{1}{(1-x^n)^{\frac{1}{n}}}dx$を求められますが、$n=4$の時点で上記のように大変なので、それ以上となると相当気分の悪くなる計算を強いられることでしょう・・・。
($n=3$でも結構しんどさがあります。)
以上、読んでいただきありがとうございました。