10

複素座標入門5/5 その他いろいろ

460
0
$$$$

どうも,natuです.ついに最終回ですね.この回では実際に問題を解くうえでの実践的な話や,使えるかも?な小技の話をつれづれなるままに話していこうと思います.それではラストスパート,張り切っていきましょう!

実践的なあれこれ

絶対に複素で解く?

今まで複素のあれこれを説明してきましたが,すべての問題が複素で解けるのでしょうか,答えはNOだと思います.もちろん原理的にはどんな図形も立式できるはずなのですが,それがコンテストなど人の手で制限時間内にとくとなると限界がありますね.なので,これだけ式が複雑になったら複素は諦めようという線引きをする必要があるのです.これには正直その人の感覚やら経験が要ります.もちろんnatuは問題によっては時間が許す限り複素で解こうとしますよ.

初(等幾何の)心忘れるべからず

これを言ってはおしまいなのですが,競技数学で出題される幾何問題はほぼすべてが初等での解法を想定解としていて,複素で解くのは別解扱いとなります.だからこそ複素での解きがいがあるというものなのですが,複素ですべて解くというのはあまりにも苦しい場合があります.そのようなときは問題を小分けにして,この部分は初等でアプローチ,残った部分は複素で計算などとしてみましょう.何もすべて複素で解けと言われているわけではないのです.

座標設定

複素で解くことを決意した後まずすることは座標設定です.最も大事なのは計算量を減らすことです.そのためには問題文の図形を実際に紙に作図してみましょう.そうすると$B,C$は対称性があるなあだとかこの直線はめんどいなあだとかがわかってきます.次の3つは主な座標設定の例です.natuは個人的に(3)が好きです.

(1)$A(a),B(b),C(c) |a|,|b|,|c|=1$の場合

これが最も基本的な座標設定です.3点$A,B,C$に対称性があったり,三角形$ABC$の外心や垂心が登場するときは外接円を$|z|=1$とおいて進めましょう.ただし,この座標設定は頂角の二等分線に弱いです.

(2)$A(a^2),B(b^2),C(c^2) |a|,|b|,|c|=1$の場合

この座標設定だと内心や傍心も$a,b,c$の対称式で表すことができます.ただ,1つの点を表す座標が2次式となるのである程度の計算は覚悟しましょう.

内心が出たからと言ってむやみに$A(a^2),B(b^2),C(c^2)$とおくのはやめよう!

内心の座標は$-bc-ca-ab$と表されてうれしいですが,例えば内接円と$BC$の交点の座標は$\displaystyle\frac{1}{2}(b^2+c^2-ab-ac+\frac{b^2c}{a}+\frac{bc^2}{a})$と,とても複雑になります.この座標設定を使うのは内心が登場し,かつ外心または垂心が登場するときくらいにとどめておきましょう.

内心が登場し,内接円と各辺の接点も登場するときは次の座標設定を使いましょう.

(3)$D(a),E(b),F(c) |a|,|b|,|c|=1$の場合

ただし内接円と辺$BC,CA,AB$の接点をそれぞれ$D,E,F$とおきました.
こうすると内心が原点と一致してくれる上に直線$BC,CA,AB$の式がそれぞれ1つの文字で表せます.しかし,三角形$ABC$の外心の座標は$\displaystyle\frac{2abc(a+b+c)}{(a+b)(b+c)(c+a)}$,垂心の座標は$\displaystyle\frac{2(a^2b^2+b^2c^2+c^2a^2+a^2bc+ab^2c+abc^2)}{(a+b)(b+c)(c+a)}$となります.結構面倒ですね.
ちなみに三角形$ABC$の外接円の弧$AB,BC,CA$に中点も割ときれいに表すことができます.

その他

もちろん上記の座標設定で必ず解ききれるとは限らないので問題によって臨機応変に対応しましょう.以下はその例として(1)の派生を2つ紹介します.

$A(1),B(b),C(c) |b|,|c|=1$としてみる

この座標設定は点$B,C$が対称で,点$A$がらみの図形が多いときに使います.先ほどまでの座標設定と異なり,座標や方程式が斉次式にならないことに注意しましょう.

$A(a),B(b),C(c) |a|,|b|,|c|=1 Re(b)=Re(c)$としてみる

1つ目の座標設定で$b,c$の対称式がたくさん出てきそうなときは$Re(b)=Re(c)$という条件を加えてみましょう.そうすると$bc=1$が成り立つ上に$b+c$は実数なのでこれを$k$とでもおけば$b,c$の対称式はすべて$k$で表せます!

直線の方程式

2点$A,B$を通る直線の方程式は$(\overline{a}-\overline{b})z-(a-b)\overline{z}=\overline{a}b-a\overline{b}$ですね.
この式は$A,B$の座標によっては計算が面倒になることがあります.そんな時は
$a-b$を求める→その共役複素数$\overline{a}-\overline{b}$を求める→後者で前者を割ったもの$\displaystyle\frac{a-b}{\overline{a}-\overline{b}}$を求める
→直線の式の左辺は$\displaystyle z-\frac{a-b}{\overline{a}-\overline{b}}\overline{z}$と置ける→$a,b$の好きな方を代入して右辺を求める
この手順で計算を進めると気持ちばかりですが楽です.

直線と直線の交点

当たり前ですが2直線の交点はその直線を表す方程式を連立して$z$について解くことで得られます.どのようにして解きましょうか.

$z$の係数が$1$

実は問題を解くときに立式される直線の方程式は$z$の係数が$1$であることが多いです.
そのような直線の方程式が2つ,$z+p\overline{z}=q,z+r\overline{z}=s$と与えられたとき,その交点を求めるために$\overline{z}$を消去してもいいのですが,$\overline{z}$の係数を$pr$に揃えないといけないので面倒です.そのようなときは逆に$z$を消去して$\overline{z}$を求めましょう.係数がすでに$1$でそろってますからね.そしてその共役複素数を取れば$z$が無事に求まります.

クラメルの公式

$z$の係数が$1$でないときはどうすればよいでしょうか.残念ながら普通に解きましょう.
ただ,普通に解くといってもクラメルの公式を使うと計算ミスが減り,便利です.すなわち,$pz+q\overline{z}=r,sz+t\overline{z}=u$の交点は$\displaystyle z=\frac{\begin{vmatrix}r & q \\u & t\end{vmatrix}}{\begin{vmatrix}p & q \\s & t\end{vmatrix}} $で得られます.行列式が使える人はぜひ試してみてください.

直線で対称移動

問題設定としてある点をある直線で対称移動することがよくあります.移動後の点を求める計算をミスなくできるようにしておきましょう.以下は点$P(p)$を直線$l:az+b\overline{z}=c$で対称移動した点を$Q(q)$として$q$を求める過程です.

$P$を通り$l$に垂直な直線の方程式は$az-b\overline{z}=ap-b\overline{p}$ これと$l$の交点を$M(m)$とする.
2式を足し合わせて$m$を代入すると$\displaystyle 2m=p+\frac{-b\overline{p}+c}{a}$・・・※を得る.
一方で$M$は線分$PQ$の中点だから$2m=p+q$これと※を比較して$\displaystyle q=\frac{-b\overline{p}+c}{a}$である.

思ったよりもきれいな結果になりました.

束の原理

次に事実を使うと求めたい図形をピンポイントで求めることができることがあります.

束の原理

図形$X,Y$を表す方程式をそれぞれ$f(z)=0,g(z)=0$とするとき,任意の複素数$a$に対して方程式$f(z)+ag(z)=0$が表す図形は$X,Y$の交点を通る.

証明は簡単なので割愛します.この原理は次のような使い方ができます.

問題:円$|z-a|=m$,円$|z-b|=n$が2点で交わるときその2点を通る直線の方程式を求めよ.
$|z-a|=m\Longleftrightarrow|z|^2-(\overline{a}z+a\overline{z})+|a|^2-m^2=0$
$|z-b|=n\Longleftrightarrow|z|^2-(\overline{b}z+b\overline{z})+|b|^2-n^2=0$ だから2式の左辺の差$=0$という式は
$(\overline{a}-\overline{b})z+(a-b)\overline{z}=|a|^2-|b|^2-m^2+n^2$となりこれがもとめる方程式である.

2円の交点をわざわざ求めずに直接直線の方程式が求まります.スマートですね!

直線が円と接する条件

"三角形なんちゃらの外接円が直線なんちゃらに接することを示せ."
このような問題はよく見られます.接点がわかっていれば接弦定理を使えばいいのですが,わかっていないときはどうしましょう…これはぜひ皆さんの頭で考えてみてください.キーワードは「$\overline{z}$を消去,解の個数」です.

円が$\omega$と接する条件

"三角形なんちゃらの外接円が三角形$ABC$の外接円に接することを示せ."
このような問題も難問によくありますね.これも複素で太刀打ちできる場合があります.ぜひ考えてみてください.

ミスなく展開

複素座標で解答の終盤に差し掛かるとかなり面倒な展開作業を強いられることがあります.そのようなときに焦らず落ち着いて展開するためにはある文字についての多項式と見てその文字の次数ごとに計算するとミスが減ります.例として$(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca)(a^3+b^3+c^3+a^2b+a^2c+b^2c+b^2a+c^2a+c^2b)$を展開しましょう.

$(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca)(a^3+b^3+c^3+a^2b+a^2c+b^2c+b^2a+c^2a+c^2b)$
$=\lbrace a^2+(-b-c)a+(b^2+c^2-bc) \rbrace \lbrace a^3+(b+c)a^2+(b^2+c^2)a+(b^3+c^3+b^2c+bc^2) \rbrace$
$=a^5+(b^2+c^2-3bc)a^3+(b^3+c^3)a^2+(-3b^3c-3bc^3)a+(b^5+c^5+b^3c^2+b^2c^3)$
$=a^5+b^5+c^5+a^3b^2+a^3c^2+b^3c^2+b^3a^2+c^3a^2+c^3b^2-3a^3bc-3ab^3c-3abc^3$

そもそもこの式は$a,b,c$についての対称式なので次のように対称性を利用したほうが楽です.

$(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca)(a^3+b^3+c^3+a^2b+a^2c+b^2c+b^2a+c^2a+c^2b)$
これの展開式において文字の対称性より$a^5,a^4b,a^3b^2,a^3bc,a^2b^2c$の係数にだけ注目すればよい.
$a^5$の係数は$1$,$a^4b$の係数は$0$,$a^3b^2$の係数は$1$,$a^3bc$の係数は$-3$,$a^2b^2c$の係数は$0$である.
よって文字の対称性より展開式は$a^5+b^5+c^5+a^3b^2+a^3c^2+b^3c^2+b^3a^2+c^3a^2+c^3b^2-3a^3bc-3ab^3c-3abc^3$

最後に$a=b=c=1$などを代入して左辺と右辺の値が一致することを確認するくらいはしましょう.

使えるかも?

natuが思いついたが頻繁には使わない小技のようなものを集めました.あまりあてにしないでくださいね…

解と係数の関係

例えば直線と円の交点を調べるために方程式を連立して$z^2+pz+q=0$という方程式を得たとき,2つの交点の座標を$x_1,x_2$としたとき,解と係数の関係から$x_1,x_2$を直接求めずとも
$x_1+x_2=-p,x_1x_2=q$
は楽に求められます.だから何だ,って話ですね.

原点と直線の距離

第1回の練習問題で示したように直線$az+b\overline{z}=c$と原点$0$の距離は$\displaystyle\frac{c}{2a}$となり,これは$b$によらないので計算が楽になるかも.それがどうした,って話ですね.

反転

単位円$\omega:|z|=1$による反転によって原点でない点$X(x)$は点$X^{\prime}(\displaystyle\frac{1}{\overline{x}})$に移ります.

相似

三角形$ABC,PQR$が相似であることは$\displaystyle\frac{a-b}{a-c}=\frac{p-q}{p-r}$であることと同値です.

練習問題

さあ,最終回の練習問題,張り切っていきましょう.今までの問題よりかなり難しいと思います.

level1

1@@@@

三角形$ABC$について,内接円と辺$BC.CA,AB$の接点をそれぞれ$D,E,F$とする.$D$から直線$EF$に下ろした垂線の足を$H$とし,直線$AB$$CH$の交点を$K$,直線$AC$$BH$の交点を$L$とする.このとき,$B,C,K,L$は同一直線上にあることを示せ.$(peppers 4/13)$

2@@@@@

三角形$ABC$の内部に点$T$を取り,辺$BC,CA,AB$に関して$T$を対称移動したものをそれぞれ$A_1,B_1,C_1$とする.また,三角形$A_1B_1C_1$の外接円を$\Omega$とする.直線$A_1T,B_1T,C_1T$$\Omega$と再び交わる点をそれぞれ$A_2,B_2,C_2$とする.直線$AA_2,BB_2,CC_2$$\Omega$上の一点で交わることを示せ.$(shortlist2018 G4)$

3@@@@

鋭角三角形$ABC$の垂心を$H$とし,線分$BC$の中点を$M$とする.$H$を通り直線$AM$に垂直な直線と直線$AM$との交点を$P$とするとき,$AM\cdot PM=BM^2$が成り立つことを示せ.$(JMO2011 1)$

level2

1@@@@@@

鋭角三角形$ABC$の外心を$O$とする.辺$AB,AC$上(端点を含まない)に点$D,E$をそれぞれ直線$BC$$DE$が平行とならないようにとり,直線$BC$$DE$の交点を$F$とおく.$BD$の垂直二等分線と$CE$の垂直二等分線の交点を$K$とおき,直線$KO$$BC$の交点を$L$とおく.直線$AO$$DE$の交点を$M$とするとき,4点$F,M,L,O$が同一円周上にあることを示せ.$($春合宿$2019 8)$

2@@@@@

$\omega$を内接円に持つ三角形$ABC$がある.$A,B,C$から$BC,CA,AB$へおろした垂線と$\omega$の交点をそれぞれ$P_1$$P_2$,$P_3$$P_4$,$P_5$$P_6$とする.$i=1,2,3$に対して,$P_{2i-1},P_{2i}$での$\omega$の接線の交点を$Q_i$とする.$Q_1,Q_2,Q_3$は同一直線上にあることを示せ.$(peppers 6/2)$

3@@@@@@

どの辺の長さも相異なる鋭角三角形$ABC$がある.三角形$ABC$の重心$G$と外心$O$を辺$BC,CA,AB$に関して対称移動させた点をそれぞれ$G_1,G_2,G_3,O_1,O_2,O_3$とする.このとき,三角形$G_1G_2C,G_1G_3B,G_2G_3A,O_1O_2C,O_1O_3B,O_2O_3A,ABC$それぞれの外接円は共通の点を通ることを示せ.$(EGMO2017 6)$

level3

1@@@@@@@

三角形$ABC$の内心を$I$,内接円を$\omega$とする.また,辺$BC$の頂点を$M$とする.点$A$を通り直線$BC$に垂直な直線と,点$M$を通り直線$AI$に垂直な直線の交点を$K$とするとき,線分$AK$を直径とする円は$\omega$に接することを示せ.$(JMO2019 4)$

2@@@@@@@

三角形$ABC (AB\neq AC)$の内心を$I$とし,三角形$ABC$の内接円$\omega$は辺$BC,CA,AB$とそれぞれ点$D,E,F$で接する.点$D$を通り$EF$に垂直な直線は$\omega$と点$R(\neq D)$で交わる.また,直線$AR$$\omega$と点$P(\neq R)$で交わり,三角形$PCE,PBF$の外接円は点$Q(\neq P)$で交わる.
直線$DI,PQ$は点$A$を通り$AI$に垂直な直線上で交わることを示せ.$(shortlist2019 G7 (IMO2019 6))$

3@@@@@@@

三角形$ABC$の内心を$I$,外心を$O$とし,内接円と辺$BC,CA,AB$の接点をそれぞれ$D,E,F$とする.$O$から直線$DI,EI,FI$に下ろした垂線の足をそれぞれ$P,Q,R$とし,点$P,Q,R$に関して点$A,B,C$と対称な点をそれぞれ$A^{\prime},B^{\prime},C^{\prime}$とする.このとき,三角形$A^{\prime}B^{\prime}C^{\prime}$の外接円は三角形$ABC$の外接円と接することを示せ.$(PPAP1 4)$

4@@@@@@@

不等辺三角形$ABC$の外接円を$\Omega$,内心を$I$とする.直線$AI$は辺$BC$$D$で交わり,$\Omega$$M$で再び交わる.線分$DM$を直径とする円は$\Omega$$K$で再び交わり,直線$MK,BC$$S$で交わる.また,線分$IS$の中点を$N$とし,三角形$KID$の外接円と三角形$MAN$の外接円は2点$L_1,L_2$で交わっているとする.$\Omega$は線分$IL_1,IL_2$の中点のどちらかを通ることを示せ.$(USAMO2017 3)$

5@@@@@@@

$AB< AC$なる三角形$ABC$において辺$BC$の中点を$M$,三角形$ABC$の外接円の点$A$を含む方の弧の中点を$D$,含む方の弧の中点を$E$とする.三角形$ABC$の内接円と辺$AB$の接点を$F$とし,$AE,BC$の交点を$G$とする.$B$を通り$AB$に垂直な直線と線分$EF$の交点を$N$とする.$BN=EM$のとき,$DF$$FG$に垂直であることを示せ.$(China Second Round 2018 2)$

あとがき

これにて複素座標入門全5回終了です!!natuのつたない文章,説明に付き合っていただきありがとうございます.本当にお疲れさまでした.このシリーズを通して皆さんの武器として複素という選択肢が加わることを願っています.複素で解ける問題は実にたくさんあります(特に難問).ぜひご活用ください.さて,第0回の表題,解けますか…?

投稿日:20201230

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

natu
natu
126
8679
複素座標入門を終わらせたら何するか悩んでます

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中