どうも,natuです.ついに最終回ですね.この回では実際に問題を解くうえでの実践的な話や,使えるかも?な小技の話をつれづれなるままに話していこうと思います.それではラストスパート,張り切っていきましょう!
実践的なあれこれ
絶対に複素で解く?
今まで複素のあれこれを説明してきましたが,すべての問題が複素で解けるのでしょうか,答えはNOだと思います.もちろん原理的にはどんな図形も立式できるはずなのですが,それがコンテストなど人の手で制限時間内にとくとなると限界がありますね.なので,これだけ式が複雑になったら複素は諦めようという線引きをする必要があるのです.これには正直その人の感覚やら経験が要ります.もちろんnatuは問題によっては時間が許す限り複素で解こうとしますよ.
初(等幾何の)心忘れるべからず
これを言ってはおしまいなのですが,競技数学で出題される幾何問題はほぼすべてが初等での解法を想定解としていて,複素で解くのは別解扱いとなります.だからこそ複素での解きがいがあるというものなのですが,複素ですべて解くというのはあまりにも苦しい場合があります.そのようなときは問題を小分けにして,この部分は初等でアプローチ,残った部分は複素で計算などとしてみましょう.何もすべて複素で解けと言われているわけではないのです.
座標設定
複素で解くことを決意した後まずすることは座標設定です.最も大事なのは計算量を減らすことです.そのためには問題文の図形を実際に紙に作図してみましょう.そうするとは対称性があるなあだとかこの直線はめんどいなあだとかがわかってきます.次の3つは主な座標設定の例です.natuは個人的に(3)が好きです.
(1)の場合
これが最も基本的な座標設定です.3点に対称性があったり,三角形の外心や垂心が登場するときは外接円をとおいて進めましょう.ただし,この座標設定は頂角の二等分線に弱いです.
(2)の場合
この座標設定だと内心や傍心もの対称式で表すことができます.ただ,1つの点を表す座標が2次式となるのである程度の計算は覚悟しましょう.
内心が出たからと言ってむやみにとおくのはやめよう!
内心の座標はと表されてうれしいですが,例えば内接円との交点の座標はと,とても複雑になります.この座標設定を使うのは内心が登場し,かつ外心または垂心が登場するときくらいにとどめておきましょう.
内心が登場し,内接円と各辺の接点も登場するときは次の座標設定を使いましょう.
(3)の場合
ただし内接円と辺の接点をそれぞれとおきました.
こうすると内心が原点と一致してくれる上に直線の式がそれぞれ1つの文字で表せます.しかし,三角形の外心の座標は,垂心の座標はとなります.結構面倒ですね.
ちなみに三角形の外接円の弧に中点も割ときれいに表すことができます.
その他
もちろん上記の座標設定で必ず解ききれるとは限らないので問題によって臨機応変に対応しましょう.以下はその例として(1)の派生を2つ紹介します.
としてみる
この座標設定は点が対称で,点がらみの図形が多いときに使います.先ほどまでの座標設定と異なり,座標や方程式が斉次式にならないことに注意しましょう.
としてみる
1つ目の座標設定での対称式がたくさん出てきそうなときはという条件を加えてみましょう.そうするとが成り立つ上には実数なのでこれをとでもおけばの対称式はすべてで表せます!
直線の方程式
2点を通る直線の方程式はですね.
この式はの座標によっては計算が面倒になることがあります.そんな時は
を求める→その共役複素数を求める→後者で前者を割ったものを求める
→直線の式の左辺はと置ける→の好きな方を代入して右辺を求める
この手順で計算を進めると気持ちばかりですが楽です.
直線と直線の交点
当たり前ですが2直線の交点はその直線を表す方程式を連立してについて解くことで得られます.どのようにして解きましょうか.
の係数が
実は問題を解くときに立式される直線の方程式はの係数がであることが多いです.
そのような直線の方程式が2つ,と与えられたとき,その交点を求めるためにを消去してもいいのですが,の係数をに揃えないといけないので面倒です.そのようなときは逆にを消去してを求めましょう.係数がすでにでそろってますからね.そしてその共役複素数を取ればが無事に求まります.
クラメルの公式
の係数がでないときはどうすればよいでしょうか.残念ながら普通に解きましょう.
ただ,普通に解くといってもクラメルの公式を使うと計算ミスが減り,便利です.すなわち,の交点はで得られます.行列式が使える人はぜひ試してみてください.
直線で対称移動
問題設定としてある点をある直線で対称移動することがよくあります.移動後の点を求める計算をミスなくできるようにしておきましょう.以下は点を直線で対称移動した点をとしてを求める過程です.
を通りに垂直な直線の方程式は これとの交点をとする.
2式を足し合わせてを代入すると・・・※を得る.
一方では線分の中点だからこれと※を比較してである.
思ったよりもきれいな結果になりました.
束の原理
次に事実を使うと求めたい図形をピンポイントで求めることができることがあります.
束の原理
図形を表す方程式をそれぞれとするとき,任意の複素数に対して方程式が表す図形はの交点を通る.
証明は簡単なので割愛します.この原理は次のような使い方ができます.
問題:円,円が2点で交わるときその2点を通る直線の方程式を求めよ.
だから2式の左辺の差という式は
となりこれがもとめる方程式である.
2円の交点をわざわざ求めずに直接直線の方程式が求まります.スマートですね!
直線が円と接する条件
"三角形なんちゃらの外接円が直線なんちゃらに接することを示せ."
このような問題はよく見られます.接点がわかっていれば接弦定理を使えばいいのですが,わかっていないときはどうしましょう…これはぜひ皆さんの頭で考えてみてください.キーワードは「を消去,解の個数」です.
円がと接する条件
"三角形なんちゃらの外接円が三角形の外接円に接することを示せ."
このような問題も難問によくありますね.これも複素で太刀打ちできる場合があります.ぜひ考えてみてください.
ミスなく展開
複素座標で解答の終盤に差し掛かるとかなり面倒な展開作業を強いられることがあります.そのようなときに焦らず落ち着いて展開するためにはある文字についての多項式と見てその文字の次数ごとに計算するとミスが減ります.例としてを展開しましょう.
そもそもこの式はについての対称式なので次のように対称性を利用したほうが楽です.
これの展開式において文字の対称性よりの係数にだけ注目すればよい.
の係数は,の係数は,の係数は,の係数は,の係数はである.
よって文字の対称性より展開式は
最後になどを代入して左辺と右辺の値が一致することを確認するくらいはしましょう.
使えるかも?
natuが思いついたが頻繁には使わない小技のようなものを集めました.あまりあてにしないでくださいね…
解と係数の関係
例えば直線と円の交点を調べるために方程式を連立してという方程式を得たとき,2つの交点の座標をとしたとき,解と係数の関係からを直接求めずとも
は楽に求められます.だから何だ,って話ですね.
原点と直線の距離
第1回の練習問題で示したように直線と原点の距離はとなり,これはによらないので計算が楽になるかも.それがどうした,って話ですね.
反転
単位円による反転によって原点でない点は点に移ります.
相似
三角形が相似であることはであることと同値です.
練習問題
さあ,最終回の練習問題,張り切っていきましょう.今までの問題よりかなり難しいと思います.
level1
1@@@@
三角形について,内接円と辺の接点をそれぞれとする.から直線に下ろした垂線の足をとし,直線との交点を,直線との交点をとする.このとき,は同一直線上にあることを示せ.
2@@@@@
三角形の内部に点を取り,辺に関してを対称移動したものをそれぞれとする.また,三角形の外接円をとする.直線がと再び交わる点をそれぞれとする.直線は上の一点で交わることを示せ.
3@@@@
鋭角三角形の垂心をとし,線分の中点をとする.を通り直線に垂直な直線と直線との交点をとするとき,が成り立つことを示せ.
level2
1@@@@@@
鋭角三角形の外心をとする.辺上(端点を含まない)に点をそれぞれ直線とが平行とならないようにとり,直線との交点をとおく.の垂直二等分線との垂直二等分線の交点をとおき,直線との交点をとおく.直線との交点をとするとき,4点が同一円周上にあることを示せ.春合宿
2@@@@@
を内接円に持つ三角形がある.からへおろした垂線との交点をそれぞれと,と,ととする.に対して,でのの接線の交点をとする.は同一直線上にあることを示せ.
3@@@@@@
どの辺の長さも相異なる鋭角三角形がある.三角形の重心と外心を辺に関して対称移動させた点をそれぞれとする.このとき,三角形それぞれの外接円は共通の点を通ることを示せ.
level3
1@@@@@@@
三角形の内心を,内接円をとする.また,辺の頂点をとする.点を通り直線に垂直な直線と,点を通り直線に垂直な直線の交点をとするとき,線分を直径とする円はに接することを示せ.
2@@@@@@@
三角形の内心をとし,三角形の内接円は辺とそれぞれ点で接する.点を通りに垂直な直線はと点で交わる.また,直線はと点で交わり,三角形の外接円は点で交わる.
直線は点を通りに垂直な直線上で交わることを示せ.
3@@@@@@@
三角形の内心を,外心をとし,内接円と辺の接点をそれぞれとする.から直線に下ろした垂線の足をそれぞれとし,点に関して点と対称な点をそれぞれとする.このとき,三角形の外接円は三角形の外接円と接することを示せ.
4@@@@@@@
不等辺三角形の外接円を,内心をとする.直線は辺とで交わり,とで再び交わる.線分を直径とする円はとで再び交わり,直線はで交わる.また,線分の中点をとし,三角形の外接円と三角形の外接円は2点で交わっているとする.は線分の中点のどちらかを通ることを示せ.
5@@@@@@@
なる三角形において辺の中点を,三角形の外接円の点を含む方の弧の中点を,含む方の弧の中点をとする.三角形の内接円と辺の接点をとし,の交点をとする.を通りに垂直な直線と線分の交点をとする.のとき,はに垂直であることを示せ.
あとがき
これにて複素座標入門全5回終了です!!natuのつたない文章,説明に付き合っていただきありがとうございます.本当にお疲れさまでした.このシリーズを通して皆さんの武器として複素という選択肢が加わることを願っています.複素で解ける問題は実にたくさんあります(特に難問).ぜひご活用ください.さて,第0回の表題,解けますか…?