10

複素座標入門5/5 その他いろいろ

675
0

どうも,natuです.ついに最終回ですね.この回では実際に問題を解くうえでの実践的な話や,使えるかも?な小技の話をつれづれなるままに話していこうと思います.それではラストスパート,張り切っていきましょう!

実践的なあれこれ

絶対に複素で解く?

今まで複素のあれこれを説明してきましたが,すべての問題が複素で解けるのでしょうか,答えはNOだと思います.もちろん原理的にはどんな図形も立式できるはずなのですが,それがコンテストなど人の手で制限時間内にとくとなると限界がありますね.なので,これだけ式が複雑になったら複素は諦めようという線引きをする必要があるのです.これには正直その人の感覚やら経験が要ります.もちろんnatuは問題によっては時間が許す限り複素で解こうとしますよ.

初(等幾何の)心忘れるべからず

これを言ってはおしまいなのですが,競技数学で出題される幾何問題はほぼすべてが初等での解法を想定解としていて,複素で解くのは別解扱いとなります.だからこそ複素での解きがいがあるというものなのですが,複素ですべて解くというのはあまりにも苦しい場合があります.そのようなときは問題を小分けにして,この部分は初等でアプローチ,残った部分は複素で計算などとしてみましょう.何もすべて複素で解けと言われているわけではないのです.

座標設定

複素で解くことを決意した後まずすることは座標設定です.最も大事なのは計算量を減らすことです.そのためには問題文の図形を実際に紙に作図してみましょう.そうするとB,Cは対称性があるなあだとかこの直線はめんどいなあだとかがわかってきます.次の3つは主な座標設定の例です.natuは個人的に(3)が好きです.

(1)A(a),B(b),C(c) |a|,|b|,|c|=1の場合

これが最も基本的な座標設定です.3点A,B,Cに対称性があったり,三角形ABCの外心や垂心が登場するときは外接円を|z|=1とおいて進めましょう.ただし,この座標設定は頂角の二等分線に弱いです.

(2)A(a2),B(b2),C(c2) |a|,|b|,|c|=1の場合

この座標設定だと内心や傍心もa,b,cの対称式で表すことができます.ただ,1つの点を表す座標が2次式となるのである程度の計算は覚悟しましょう.

内心が出たからと言ってむやみにA(a2),B(b2),C(c2)とおくのはやめよう!

内心の座標はbccaabと表されてうれしいですが,例えば内接円とBCの交点の座標は12(b2+c2abac+b2ca+bc2a)と,とても複雑になります.この座標設定を使うのは内心が登場し,かつ外心または垂心が登場するときくらいにとどめておきましょう.

内心が登場し,内接円と各辺の接点も登場するときは次の座標設定を使いましょう.

(3)D(a),E(b),F(c) |a|,|b|,|c|=1の場合

ただし内接円と辺BC,CA,ABの接点をそれぞれD,E,Fとおきました.
こうすると内心が原点と一致してくれる上に直線BC,CA,ABの式がそれぞれ1つの文字で表せます.しかし,三角形ABCの外心の座標は2abc(a+b+c)(a+b)(b+c)(c+a),垂心の座標は2(a2b2+b2c2+c2a2+a2bc+ab2c+abc2)(a+b)(b+c)(c+a)となります.結構面倒ですね.
ちなみに三角形ABCの外接円の弧AB,BC,CAに中点も割ときれいに表すことができます.

その他

もちろん上記の座標設定で必ず解ききれるとは限らないので問題によって臨機応変に対応しましょう.以下はその例として(1)の派生を2つ紹介します.

A(1),B(b),C(c) |b|,|c|=1としてみる

この座標設定は点B,Cが対称で,点Aがらみの図形が多いときに使います.先ほどまでの座標設定と異なり,座標や方程式が斉次式にならないことに注意しましょう.

A(a),B(b),C(c) |a|,|b|,|c|=1 Re(b)=Re(c)としてみる

1つ目の座標設定でb,cの対称式がたくさん出てきそうなときはRe(b)=Re(c)という条件を加えてみましょう.そうするとbc=1が成り立つ上にb+cは実数なのでこれをkとでもおけばb,cの対称式はすべてkで表せます!

直線の方程式

2点A,Bを通る直線の方程式は(ab)z(ab)z=ababですね.
この式はA,Bの座標によっては計算が面倒になることがあります.そんな時は
abを求める→その共役複素数abを求める→後者で前者を割ったものababを求める
→直線の式の左辺はzababzと置ける→a,bの好きな方を代入して右辺を求める
この手順で計算を進めると気持ちばかりですが楽です.

直線と直線の交点

当たり前ですが2直線の交点はその直線を表す方程式を連立してzについて解くことで得られます.どのようにして解きましょうか.

zの係数が1

実は問題を解くときに立式される直線の方程式はzの係数が1であることが多いです.
そのような直線の方程式が2つ,z+pz=q,z+rz=sと与えられたとき,その交点を求めるためにzを消去してもいいのですが,zの係数をprに揃えないといけないので面倒です.そのようなときは逆にzを消去してzを求めましょう.係数がすでに1でそろってますからね.そしてその共役複素数を取ればzが無事に求まります.

クラメルの公式

zの係数が1でないときはどうすればよいでしょうか.残念ながら普通に解きましょう.
ただ,普通に解くといってもクラメルの公式を使うと計算ミスが減り,便利です.すなわち,pz+qz=r,sz+tz=uの交点はz=|rqut||pqst|で得られます.行列式が使える人はぜひ試してみてください.

直線で対称移動

問題設定としてある点をある直線で対称移動することがよくあります.移動後の点を求める計算をミスなくできるようにしておきましょう.以下は点P(p)を直線l:az+bz=cで対称移動した点をQ(q)としてqを求める過程です.

Pを通りlに垂直な直線の方程式はazbz=apbp これとlの交点をM(m)とする.
2式を足し合わせてmを代入すると2m=p+bp+ca・・・※を得る.
一方でMは線分PQの中点だから2m=p+qこれと※を比較してq=bp+caである.

思ったよりもきれいな結果になりました.

束の原理

次に事実を使うと求めたい図形をピンポイントで求めることができることがあります.

束の原理

図形X,Yを表す方程式をそれぞれf(z)=0,g(z)=0とするとき,任意の複素数aに対して方程式f(z)+ag(z)=0が表す図形はX,Yの交点を通る.

証明は簡単なので割愛します.この原理は次のような使い方ができます.

問題:円|za|=m,円|zb|=nが2点で交わるときその2点を通る直線の方程式を求めよ.
|za|=m|z|2(az+az)+|a|2m2=0
|zb|=n|z|2(bz+bz)+|b|2n2=0 だから2式の左辺の差=0という式は
(ab)z+(ab)z=|a|2|b|2m2+n2となりこれがもとめる方程式である.

2円の交点をわざわざ求めずに直接直線の方程式が求まります.スマートですね!

直線が円と接する条件

"三角形なんちゃらの外接円が直線なんちゃらに接することを示せ."
このような問題はよく見られます.接点がわかっていれば接弦定理を使えばいいのですが,わかっていないときはどうしましょう…これはぜひ皆さんの頭で考えてみてください.キーワードは「zを消去,解の個数」です.

円がωと接する条件

"三角形なんちゃらの外接円が三角形ABCの外接円に接することを示せ."
このような問題も難問によくありますね.これも複素で太刀打ちできる場合があります.ぜひ考えてみてください.

ミスなく展開

複素座標で解答の終盤に差し掛かるとかなり面倒な展開作業を強いられることがあります.そのようなときに焦らず落ち着いて展開するためにはある文字についての多項式と見てその文字の次数ごとに計算するとミスが減ります.例として(a2+b2+c2abbcca)(a3+b3+c3+a2b+a2c+b2c+b2a+c2a+c2b)を展開しましょう.

(a2+b2+c2abbcca)(a3+b3+c3+a2b+a2c+b2c+b2a+c2a+c2b)
={a2+(bc)a+(b2+c2bc)}{a3+(b+c)a2+(b2+c2)a+(b3+c3+b2c+bc2)}
=a5+(b2+c23bc)a3+(b3+c3)a2+(3b3c3bc3)a+(b5+c5+b3c2+b2c3)
=a5+b5+c5+a3b2+a3c2+b3c2+b3a2+c3a2+c3b23a3bc3ab3c3abc3

そもそもこの式はa,b,cについての対称式なので次のように対称性を利用したほうが楽です.

(a2+b2+c2abbcca)(a3+b3+c3+a2b+a2c+b2c+b2a+c2a+c2b)
これの展開式において文字の対称性よりa5,a4b,a3b2,a3bc,a2b2cの係数にだけ注目すればよい.
a5の係数は1,a4bの係数は0,a3b2の係数は1,a3bcの係数は3,a2b2cの係数は0である.
よって文字の対称性より展開式はa5+b5+c5+a3b2+a3c2+b3c2+b3a2+c3a2+c3b23a3bc3ab3c3abc3

最後にa=b=c=1などを代入して左辺と右辺の値が一致することを確認するくらいはしましょう.

使えるかも?

natuが思いついたが頻繁には使わない小技のようなものを集めました.あまりあてにしないでくださいね…

解と係数の関係

例えば直線と円の交点を調べるために方程式を連立してz2+pz+q=0という方程式を得たとき,2つの交点の座標をx1,x2としたとき,解と係数の関係からx1,x2を直接求めずとも
x1+x2=p,x1x2=q
は楽に求められます.だから何だ,って話ですね.

原点と直線の距離

第1回の練習問題で示したように直線az+bz=cと原点0の距離はc2aとなり,これはbによらないので計算が楽になるかも.それがどうした,って話ですね.

反転

単位円ω:|z|=1による反転によって原点でない点X(x)は点X(1x)に移ります.

相似

三角形ABC,PQRが相似であることはabac=pqprであることと同値です.

練習問題

さあ,最終回の練習問題,張り切っていきましょう.今までの問題よりかなり難しいと思います.

level1

1@@@@

三角形ABCについて,内接円と辺BC.CA,ABの接点をそれぞれD,E,Fとする.Dから直線EFに下ろした垂線の足をHとし,直線ABCHの交点をK,直線ACBHの交点をLとする.このとき,B,C,K,Lは同一直線上にあることを示せ.(peppers 4/13)

2@@@@@

三角形ABCの内部に点Tを取り,辺BC,CA,ABに関してTを対称移動したものをそれぞれA1,B1,C1とする.また,三角形A1B1C1の外接円をΩとする.直線A1T,B1T,C1TΩと再び交わる点をそれぞれA2,B2,C2とする.直線AA2,BB2,CC2Ω上の一点で交わることを示せ.(shortlist2018 G4)

3@@@@

鋭角三角形ABCの垂心をHとし,線分BCの中点をMとする.Hを通り直線AMに垂直な直線と直線AMとの交点をPとするとき,AMPM=BM2が成り立つことを示せ.(JMO2011 1)

level2

1@@@@@@

鋭角三角形ABCの外心をOとする.辺AB,AC上(端点を含まない)に点D,Eをそれぞれ直線BCDEが平行とならないようにとり,直線BCDEの交点をFとおく.BDの垂直二等分線とCEの垂直二等分線の交点をKとおき,直線KOBCの交点をLとおく.直線AODEの交点をMとするとき,4点F,M,L,Oが同一円周上にあることを示せ.(春合宿2019 8)

2@@@@@

ωを内接円に持つ三角形ABCがある.A,B,CからBC,CA,ABへおろした垂線とωの交点をそれぞれP1P2,P3P4,P5P6とする.i=1,2,3に対して,P2i1,P2iでのωの接線の交点をQiとする.Q1,Q2,Q3は同一直線上にあることを示せ.(peppers 6/2)

3@@@@@@

どの辺の長さも相異なる鋭角三角形ABCがある.三角形ABCの重心Gと外心Oを辺BC,CA,ABに関して対称移動させた点をそれぞれG1,G2,G3,O1,O2,O3とする.このとき,三角形G1G2C,G1G3B,G2G3A,O1O2C,O1O3B,O2O3A,ABCそれぞれの外接円は共通の点を通ることを示せ.(EGMO2017 6)

level3

1@@@@@@@

三角形ABCの内心をI,内接円をωとする.また,辺BCの頂点をMとする.点Aを通り直線BCに垂直な直線と,点Mを通り直線AIに垂直な直線の交点をKとするとき,線分AKを直径とする円はωに接することを示せ.(JMO2019 4)

2@@@@@@@

三角形ABC (ABAC)の内心をIとし,三角形ABCの内接円ωは辺BC,CA,ABとそれぞれ点D,E,Fで接する.点Dを通りEFに垂直な直線はωと点R(D)で交わる.また,直線ARωと点P(R)で交わり,三角形PCE,PBFの外接円は点Q(P)で交わる.
直線DI,PQは点Aを通りAIに垂直な直線上で交わることを示せ.(shortlist2019 G7(IMO2019 6))

3@@@@@@@

三角形ABCの内心をI,外心をOとし,内接円と辺BC,CA,ABの接点をそれぞれD,E,Fとする.Oから直線DI,EI,FIに下ろした垂線の足をそれぞれP,Q,Rとし,点P,Q,Rに関して点A,B,Cと対称な点をそれぞれA,B,Cとする.このとき,三角形ABCの外接円は三角形ABCの外接円と接することを示せ.(PPAP1 4)

4@@@@@@@

不等辺三角形ABCの外接円をΩ,内心をIとする.直線AIは辺BCDで交わり,ΩMで再び交わる.線分DMを直径とする円はΩKで再び交わり,直線MK,BCSで交わる.また,線分ISの中点をNとし,三角形KIDの外接円と三角形MANの外接円は2点L1,L2で交わっているとする.Ωは線分IL1,IL2の中点のどちらかを通ることを示せ.(USAMO2017 3)

5@@@@@@@

AB<ACなる三角形ABCにおいて辺BCの中点をM,三角形ABCの外接円の点Aを含む方の弧の中点をD,含む方の弧の中点をEとする.三角形ABCの内接円と辺ABの接点をFとし,AE,BCの交点をGとする.Bを通りABに垂直な直線と線分EFの交点をNとする.BN=EMのとき,DFFGに垂直であることを示せ.(ChinaSecondRound2018 2)

あとがき

これにて複素座標入門全5回終了です!!natuのつたない文章,説明に付き合っていただきありがとうございます.本当にお疲れさまでした.このシリーズを通して皆さんの武器として複素という選択肢が加わることを願っています.複素で解ける問題は実にたくさんあります(特に難問).ぜひご活用ください.さて,第0回の表題,解けますか…?

投稿日:20201230
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

Hayashi Yoshiaki
Metachick_XOR
匿(Tock)
う…り…
今年度の最終奥義
Inside-wh
pepper_aobuta
Iso

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

natu
natu
135
12099
複素座標入門を終わらせたら何するか悩んでます

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. 実践的なあれこれ
  2. 使えるかも?
  3. 練習問題
  4. あとがき