前回の記事 で,行列の固有値と固有ベクトルについて書きましたが,そのときにタイトルのことを思い出したので,それについてもまとめてみることにしました.なお,この記事では基本的に$2\times2$行列について考えることにします(高校数学でよくでてくるので).
$2$つのベクトル$\vec{a}=(a,c),\ \vec{b} = (b,d)$によって作られる平行四辺形の(符号付)面積は$ad-bc$で与えられる.
vec1
この$ad-bc$が行列$ A = \left( \begin{array}{cc} a & b \\ c & d \\ \end{array} \right)$の行列式であり,$\det A$などともかく.これは,次の(これまたよく知られた事実)と一致している.
$2$つのベクトル$\vec{a}=(a,c),\ \vec{b} = (b,d)$によって作られる三角形の面積は$\dfrac{1}{2}|ad-bc|$である.
こちらの方が高校生にはなじみがあると思われる(おそらく教科書にも問題として掲載があることが多い).この証明は三角形の面積を愚直に計算すればよい.
まず,行列と固有値について次が成り立っている(一般に$n$次でも成り立つ)ことを認めよう.
$2$次正方行列$A$の固有値を$\lambda_1$,$\lambda_2$とすると$\det A= \lambda_1 \lambda_2 $
また,行列$A$の固有ベクトル$\vec{p}$とその固有値$\lambda$においては$A\vec{p} = \lambda \vec{p}$が成り立っていた.これは行列$A$を掛けるという線形変換においては固有ベクトルは回転されず,定数倍の伸び縮みしかしないということである.ここで$A$の$2$つの固有ベクトルを$\vec{p_1}$,$\vec{p_2}$と,その固有値$\lambda_1$,$\lambda_2$とすると,$\vec{p_1}$,$\vec{p_2}$で作られる四角形(平行四辺形)の面積は行列$A$による変換を考えると,次のようになっているということである.
線形変換
つまり,行列$A$による線形変換では$2$つの固有ベクトルが作る平行四辺形の面積は$2$つの固有値の積$\lambda_1\lambda_2$倍変化するということである.ここで,先に紹介した事実を用いれば$\lambda_1\lambda_2=\det{A}$であるから結局,面積は$\det A$倍される.
固有ベクトルではない$\vec{q_1}$,$\vec{q_2}$が作る平行四辺形の面積についても,$\vec{q_1}$,$\vec{q_2}$を$\vec{p_1}$,$\vec{p_2}$の線形結合で書き直すことができるので$\vec{q_1}$,$\vec{q_2}$から作られる平行四辺形の面積はやはり$\det A$倍される.
つまり,$\vec{a}=(a,c),\ \vec{b} = (b,d)$によって作られる平行四辺形の面積は,$2$次元ベクトル空間の正規直交基底$e_1=\left( \begin{array}{c} 1 \\ 0\\ \end{array} \right) $,$e_1=\left( \begin{array}{c} 0 \\ 1\\ \end{array} \right) $により作られる平行四辺形の面積が$1$であり,$\vec{e_1}$,$\vec{e_2}$をいつでも$^1$行列$A$の固有ベクトルを用いて書き直すことができるので,その面積は固有値の積だけ拡大される.つまり$\det A$倍され,元の面積は$1$であったから結局,面積は$\det A = ad-bc$となる.
$^1$固有ベクトルが$2$つとれる場合はその$2$つの固有ベクトルは$1$次独立になる.