2
大学数学基礎解説
文献あり

行列式と面積

6848
0

はじめに

前回の記事 で,行列の固有値と固有ベクトルについて書きましたが,そのときにタイトルのことを思い出したので,それについてもまとめてみることにしました.なお,この記事では基本的に2×2行列について考えることにします(高校数学でよくでてくるので).

よく知られた事実

2つのベクトルa=(a,c), b=(b,d)によって作られる平行四辺形の(符号付)面積はadbcで与えられる.

vec1 vec1

このadbcが行列A=(abcd)の行列式であり,detAなどともかく.これは,次の(これまたよく知られた事実)と一致している.

2つのベクトルa=(a,c), b=(b,d)によって作られる三角形の面積は12|adbc|である.

こちらの方が高校生にはなじみがあると思われる(おそらく教科書にも問題として掲載があることが多い).この証明は三角形の面積を愚直に計算すればよい.

理由を考える

まず,行列と固有値について次が成り立っている(一般にn次でも成り立つ)ことを認めよう.

2次正方行列Aの固有値をλ1λ2とするとdetA=λ1λ2

また,行列Aの固有ベクトルpとその固有値λにおいてはAp=λpが成り立っていた.これは行列Aを掛けるという線形変換においては固有ベクトルは回転されず,定数倍の伸び縮みしかしないということである.ここでA2つの固有ベクトルをp1p2と,その固有値λ1λ2とすると,p1p2で作られる四角形(平行四辺形)の面積は行列Aによる変換を考えると,次のようになっているということである.
線形変換 線形変換
つまり,行列Aによる線形変換では2つの固有ベクトルが作る平行四辺形の面積は2つの固有値の積λ1λ2倍変化するということである.ここで,先に紹介した事実を用いればλ1λ2=detAであるから結局,面積はdetA倍される.
固有ベクトルではないq1q2が作る平行四辺形の面積についても,q1q2p1p2の線形結合で書き直すことができるのでq1q2から作られる平行四辺形の面積はやはりdetA倍される.

まとめ

つまり,a=(a,c), b=(b,d)によって作られる平行四辺形の面積は,2次元ベクトル空間の正規直交基底e1=(10)e1=(01)により作られる平行四辺形の面積が1であり,e1e2をいつでも1行列Aの固有ベクトルを用いて書き直すことができるので,その面積は固有値の積だけ拡大される.つまりdetA倍され,元の面積は1であったから結局,面積はdetA=adbcとなる.

1固有ベクトルが2つとれる場合はその2つの固有ベクトルは1次独立になる.

参考文献

[1]
硲野 敏博, 加藤 芳文, 理工系の基礎線形代数学, 学術図書出版社, 1994
投稿日:202112
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

とも
とも
17
13284
広島県の高校で数学の教員をやっていたはずなのに,気づけば違う仕事をしております。高校数学と大学で学ぶ数学の橋渡しのようなことができればいいなと思っています。記事に誤り等あれば教えてください。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. よく知られた事実
  3. 理由を考える
  4. まとめ
  5. 参考文献