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大学数学基礎解説
文献あり

受入保留アルゴリズムのグループ耐戦略性

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はじめに

本記事では,受入保留アルゴリズム(deferred acceptance algorithm;DAアルゴリズム)のグループ耐戦略性を証明します.

(必要に応じて導入部分を追記します.)

参考

本記事の証明は以下の教科書を参考にしています.

  1. サブ: 安定マッチングの数理とアルゴリズム トラブルのない配属を求めて
  2. メイン: メカニズムデザイン―資源配分制度の設計とインセンティブ

前提知識

本記事では,以下を前提知識とします.

  • マッチングの定義
  • 選好の定義
  • 安定マッチングの定義
  • DAアルゴリズム

記号

  • 男性の集合M={m,...}
  • 女性の集合W={w,...}
  • |M|=|W|=n
  • マッチングx={(m,w),...}
  • 男性mの選好m(女性集合の全順序)
  • 女性wの選好w(男性集合の全順序)
  • 全員の選好の集合≿=(m,...,w,...)

定理

グループ耐戦略性

任意の真の選好を,任意の男性グループをM,男性グループの選好を任意に変更した選好をとする.また,選好でのDAマッチングをx,選好でのDAマッチングをxとする.マッチングアルゴリズムがグループ耐戦略性を持つとき,男性mMがマッチングxよりもマッチングxで良い女性とペアになるような男性グループMは存在しない.

DAアルゴリズムのグループ耐戦略性

DAアルゴリズムはグループ耐戦略性を満たす.

定理1を証明する上でカギになるのが以下の補題2です.

任意の選好を,任意のマッチングをxとする.また,選好のDAマッチングをxx(m)mx(m)である男性mの集合をM~とする.男性集合M~が非空のとき,以下を満たすペア(m,w)が存在する.

  • mM~
  • x(w)M~
  • マッチングxと選好において不安定

DAマッチングの最適性より,DAマッチングよりも良い女性とペアになる男性がいるマッチングは不安定になることが分かりますが,補題2では,不安定なペアを具体的に特徴付けしています.耐戦略性の証明に使えるだけではなく,補題自体の内容がとても重要だと思います.

証明

補題2

補題の条件を満たすペアを具体的に構成することで証明する.

以下の記号を使う.

  • 男性mM~
  • 男性mのマッチングxでの相手の女性w=x(m)m=x(w)
  • 女性wのマッチングxでの相手の男性m=x(w)w=x(m)

選好を整理する.mM~より,男性mの好みはwmx(m)である.また,ペア(m,w)はマッチングxと選好において安定であるため,女性wの好みはmwm...(1)である.

男性mが男性集合M~に含まれるかどうかで場合分けする.

  1. mM~となる男性mがいる場合

概要を図1に示す.

図1 図1

ペア(m,w)が補題の条件を満たすことを示す.

仮定より,mM~,x(w)M~である.

マッチングxと選好において,ペア(m,w)が不安定であることを示す.mM~より,男性mの好みはwmx(m)...(2)である.ここで,wx(m)なのは,w=x(m)x(m)だからである.式(1)(2)より,マッチングxと選好において,ペア(m,w)は不安定である.

  1. 任意の男性mmM~の場合

概要を図2に示す.

図2 図2

選好のDAアルゴリズムで男性集合M~の中で最後に告白する男性がmとなるように,男性mを選択する.男性mは最後の告白で最終的な相手である女性wに告白する.このとき,女性wに振られる男性をmとする.

ペア(m,w)が補題の条件を満たすペアであることを示す.

男性mが女性wに告白する時点で,女性wに仮の相手の男性mが存在することを示す.式(1)より,男性mは女性x(m)よりも先に女性wに告白する.また,男性グループM~の中で最後に告白するのが男性mであることから,男性mは男性mよりも先に女性wに告白する.したがって,男性mが女性wに告白する時点で,女性wに仮の相手の男性mが存在する.ただし,男性mが男性mであるとは限らないことに注意する.

選好を整理する.mM~より,男性mの好みはx(m)mwである.また,男性mは女性x(m)とペアになる前に女性wに振られることと,mM~より,男性mの好みはwmx(m)mx(m)...(3)である.さらに,男性mの前に男性m,mが女性wに告白することと,男性mが女性wに告白する時点で女性wの仮のペアの男性がmであることから,男性wの好みはmwmwm...(4)である.

式(3)(4)より,マッチングxと選好においてペア(m,w)は不安定である.

男性mが男性集合M~に含まれないことを示す.男性mが男性集合M~に含まれると仮定する.式(4)より,男性mが女性wに告白したとき,男性mは女性wから振られる.そのため,男性mは次のステップ以降にも告白する.これは,男性mが男性集合M~の中で最後に告白することに矛盾する.したがって,男性mは男性集合M~に含まれない.

前述の説明よりmM~,仮定よりx(w)M~である.□

定理1

定理の反例となる男性グループMと選好があると仮定する.男性グループM以外の選好は変更していないことに注意する.また,マッチングxは選好において安定であることを確認しておく.

選好とマッチングxに補題2を適用する.このとき,男性集合M~MM~である.また,mM~であり,マッチングxと選好において不安定なペア(m,w)が存在する.mM~より,男性mの選好はm=mであるから,マッチングxと選好においてもペア(m,w)は不安定である.これは,マッチングxが選好において安定であることに矛盾する.□

おわりに

本記事では,DAアルゴリズムのグループ耐戦略性を証明しました.グループ耐戦略性は個人耐戦略性を拡張した性質です.個人耐戦略性については こちら で扱いました.ただ,式で証明(参考1)は追えても,深く理解できた気がしていませんでした.そこで,別証明も見てみようと思い,参考2の証明を読み,補題2を通した証明に出会いました.補題2は,背理法を用いない構成的な方法で証明しているため理解しやすく,さらに,その内容自体も重要であるため,とても感銘を受けました.今後も耐戦略性に関する理解を深めていきたいです.

参考文献

[1]
宮崎修一, 安定マッチングの数理とアルゴリズム ~トラブルのない配属を求めて~
[2]
坂井豊貴,藤中裕二,若山琢磨, メカニズムデザイン―資源配分制度の設計とインセンティブ
投稿日:202114
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seytwo
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