はじめに
この記事では一般ディリクレ級数と呼ばれる級数の収束軸の公式の証明とその公式のうれしさを紹介していきます。
一般ディリクレ級数
複素数列と非有界狭義単調増加列(つまり)と複素数に対して
と表される級数を一般ディリクレ級数と言う。
例えば通常のディリクレ級数
はこのの場合であり、冪級数
はこのの場合となっています。
そして一般ディリクレ級数の収束性は以下の公式によって記述することができます。
収束軸の公式
とおくと、一般ディリクレ級数はにおいて収束し、において発散する。
ただしにおける収束性は一般ディリクレ級数の取り方との値によって収束したりしなかったりするため一般には議論できません。
またより一般ディリクレ級数の絶対収束性との収束性が一致することに注意すると以下のことが言えます。
絶対収束軸の公式
とおくと、一般ディリクレ級数はにおいて絶対収束し、において絶対収束しない。
さらに収束軸と絶対収束軸の間には以下のような関係が成り立ちます。
補題
以下簡単のため
とおく。
収束軸の存在性
まずある軸を境に収束・発散が分かれることを示す。それには以下の主張を示せば十分である。
一般ディリクレ級数がで収束するとき、においても収束する。
を改めてとおくことでで収束するものとしてよい。このときは有界となるので、その上界をとおく。
いまとおくと
と評価できるのでにおいて
とコーシー性がわかるので主張を得る。
証明
一般ディリクレ級数の収束軸
一般ディリクレ級数の収束軸をとおいたとき
が成り立つ。
が発散するとき
とおくととなることをとの二つの主張に分けて示す。
において発散することからに注意する。
いま任意にを取るとの取り方からは収束する、つまりは有界なのでその上界をとおくと
つまり
となりこの極限を取ることでを得、は任意であったので結局を得る。
任意にを取ると、の取り方から十分大きい任意のに対して
つまりと評価でき、またについて
に注意するとにおいて
とコーシー性がわかりを得、は任意であったので結局を得る。
が収束するとき
とおいて、あとはほぼ上と同様にを示すので細かい説明は省略する。
(のときはの定義からがわかるのでとする。)
任意のに対し
とおくと
よりひいてはを得る。
(のときはにおける収束性からがわかるのでとする。)
任意のに対しとおくと
よりひいてはを得る。
の評価
一般ディリクレ級数の収束軸、絶対収束軸をそれぞれとおくと
が成り立つ。
適当なに対しを改めてと置くことでであるものとしてよい。
このとき任意のにあるが存在して、任意のに対し
つまりが成り立つので
と評価できる。
またに対しを十分大きく取って
とすると、
と評価できるので
がわかり、は任意であったので明らかにであることと合わせて
を得る。
応用例
ディリクレの収束判定法
に収束する単調減少列とが有界なる複素数列について、
は収束する。
仮定よりは単調増加列となるのでディリクレ級数
を考えることができ、これがにおいて収束する、特にであることを示せばよい。
そのことはが収束するときは自明にであって、発散するときはの上界をとおくと
であることからわかる。
冪級数の収束
冪級数
の収束円内における収束性と絶対収束性は一致する。(ただし収束円周上ではその限りではない。)
冪級数は一般ディリクレ級数においてとしたものであったので
つまりなので収束性と絶対収束性が一致することになる。
ちなみに冪級数の収束半径は
より、つまり
または
と表せますが、これはコーシーの冪根判定法
よりも弱いので実用性はありません。