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大学数学基礎解説
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一般ディリクレ級数の収束軸と応用例

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はじめに

 この記事では一般ディリクレ級数と呼ばれる級数の収束軸の公式の証明とその公式のうれしさを紹介していきます。

一般ディリクレ級数

 複素数列{an}n=1と非有界狭義単調増加列{λn}n=1(つまりlimnλn=)と複素数sに対して
n=1aneλns
と表される級数を一般ディリクレ級数と言う。

 例えば通常のディリクレ級数
n=1anns
はこのλn=lognの場合であり、冪級数
n=0anxn
はこのλn=n,s=logxの場合となっています。
 そして一般ディリクレ級数の収束性は以下の公式によって記述することができます。

収束軸の公式

σc=lim supnlog|k=1nak|λn(n=1an が発散するとき)σc=lim supnlog|k=nak|λn(n=1an が収束するとき)
とおくと、一般ディリクレ級数はRe(s)>σcにおいて収束し、Re(s)<σcにおいて発散する。

 ただしRe(s)=σcにおける収束性は一般ディリクレ級数の取り方とIm(s)の値によって収束したりしなかったりするため一般には議論できません。
 また|anesλn|=|an|eRe(s)λnより一般ディリクレ級数の絶対収束性とn=1|an|eRe(s)λnの収束性が一致することに注意すると以下のことが言えます。

絶対収束軸の公式

σa=lim supnlogk=1n|ak|λn(n=1|an| が発散するとき)σa=lim supnlogk=n|ak|λn(n=1|an| が収束するとき)
とおくと、一般ディリクレ級数はRe(s)>σaにおいて絶対収束し、Re(s)<σaにおいて絶対収束しない。

 さらに収束軸σcと絶対収束軸σaの間には以下のような関係が成り立ちます。

0σaσclim supnlognλn

補題

部分和分

 列{bn},{cn}に対し
Bn=k=1nbk,Bn=k=nbk
とおくと
k=1nbkck=Bncn+k=1n1Bk(ckck+1)=Bn+1cn+1+B1c1k=2n+1Bk(ck1ck)
が成り立つ。

 bk=BkBk1=BkBk+1に注意すると
k=1nbkck=k=2n(BkBk1)ck=k=1nBkckk=1n1Bkck+1=k=1n(BkBk+1)ck=k=1nBkckk=2n+1Bkck1
と変形できることからわかる。

 以下簡単のため
sn=k=1nak,rn=k=nak
とおく。

収束軸の存在性

 まずある軸Re(s)=σcを境に収束・発散が分かれることを示す。それには以下の主張を示せば十分である。

 一般ディリクレ級数がs=s0で収束するとき、Re(s)>Re(s0)においても収束する。

 aneλns0を改めてanとおくことでs=0で収束するものとしてよい。このとき|sn|=|k=1nak|は有界となるので、その上界をSとおく。
 いまs=σ+itとおくと
|eλnseλn+1s|=|sλnλn+1exsdx||s|λnλn+1exσdx
と評価できるのでσ>0において
|n=M+1Naneλns|=|sNeλnssMeλMs+n=MN1sn(eλnseλn+1s)|=S(eλnσ+eλMσ+|s|λMλnexσdx)0(asN,M)
とコーシー性がわかるので主張を得る。

証明

一般ディリクレ級数の収束軸

 一般ディリクレ級数の収束軸をσcとおいたとき
σc=lim supnlog|k=1nak|λn(n=1an が発散するとき)σc=lim supnlog|k=nak|λn(n=1an が収束するとき)
が成り立つ。

n=1anが発散するとき

σ0=lim supnlog|sn|λn
とおくとσ0=σcとなることをσ0σcσ0σcの二つの主張に分けて示す。

(σ0σc)

 s=0において発散することからσc0に注意する。
 いま任意にσ>σc0を取るとσcの取り方からn=1aneλnσは収束する、つまり|tn|=|k=1nakeλkσ|は有界なのでその上界をTとおくと
|sn|=|k=1nakeλkσeλkσ|=|tneλnσk=1n1tk(eλkσeλk+1σ)|T(eλnσ+k=1n1(eλk+1σeλkσ))=T(2eλnσeλ1σ)
つまり
log|sn|λnσ+log2Sλn
となりこのn極限を取ることでσ0σを得、σ>σcは任意であったので結局σ0σcを得る。

(σ0σc)

 任意にσ>σ0, 0<ε<σσ0を取ると、σ0の取り方から十分大きい任意のnに対してlog|sn|λn<σε
つまり|sn|<eλn(σε)と評価でき、またλn<x<λn+1について
λn(σε)xσ=(λnx)(σε)εx<εx
に注意するとs=σ+itにおいて
|n=M+1Naneλns|=|sNeλnssMeλMsn=MN1sn(eλnseλn+1s)|<eλn(σε)eλnσ+eλM(σε)eλMσ+|s|n=MN1eλn(σε)λnλn+1exσdx<eλnε+eλMε+|s|λMλneεxdx0(asN,M)
とコーシー性がわかりσ>σcを得、σ>σ0は任意であったので結局σ0σcを得る。

n=1anが収束するとき

σ0=lim supnlog|rn|λn
とおいて、あとはほぼ上と同様にσ0=σcを示すので細かい説明は省略する。

(σ0σc)

 (σc=0のときはσ0の定義からσ00=σcがわかるのでσc<0とする。)
 任意のσc<σ<0に対し
tn=k=nakeλkσ
とおくと
|rn|=|tneλnσ+k=n+1tk(eλk1σeλkσ)|2Teλnσ
よりσ0σひいてはσ0σcを得る。

(σ0σc)

 (σ0=0のときはs=0における収束性からσc0=σ0がわかるのでσ0<0とする。)
 任意のσ0<σ<0, 0<ε<σσ0に対しs=σ+itとおくと
|n=MN1aneλns|=|rNeλnsrMeλMs+n=M+1Nrn(eλn1seλns)|<eλNε+eλMε+|s|λMλNeεxdx0(asN,M)
よりσ>σcひいてはσ0σcを得る。

σaσcの評価

 一般ディリクレ級数の収束軸、絶対収束軸をそれぞれσc,σaとおくと
0σaσclim supnlognλn
が成り立つ。

 適当なσ<σcに対しaneλnσを改めてanと置くことで0<σcであるものとしてよい。
 このとき任意のε>0にあるNが存在して、任意のnNに対し
log|sn|λnσc+ε
つまり|sn|eλn(σc+ε)が成り立つので
|an|=|snsn1||sn|+|sn1|2eλn(σc+ε)
と評価できる。 
 またNに対しnを十分大きく取って
k=1N|ak|2Neλn(σc+ε)
とすると、
k=1n|ak|=k=1N|ak|+k=N+1n|ak|2Neλn(σc+ε)+(nN)2eλn(σc+ε)=2neλn(σc+ε)
と評価できるので
σa=lim supnlogk=1n|ak|λnlim supn(log2λn+lognλn+σc+ε)=lim supnlognλn+σc+ε
がわかり、ε>0は任意であったので明らかにσcσaであることと合わせて
0σaσclim supnlognλn
を得る。

応用例

ディリクレの収束判定法

 0に収束する単調減少列{an}{k=1nbk}が有界なる複素数列{bn}について、
n=1anbn
は収束する。

 仮定よりλn=loganは単調増加列となるのでディリクレ級数
n=1(an)sbn=n=1bneλns
を考えることができ、これがs=1において収束する、特にσc<1であることを示せばよい。
 そのことはk=1bkが収束するときは自明にσc0であって、発散するときは|k=1nbk|の上界をKとおくと
σc=lim supnlog|k=1nbk|λnlimnlogKλn=0
であることからわかる。

冪級数の収束

 冪級数
n=0anzn
の収束円内における収束性と絶対収束性は一致する。(ただし収束円周上ではその限りではない。)

 冪級数は一般ディリクレ級数においてλn=n,s=logzとしたものであったので
0σaσclim supnlognn=0
つまりσc=σaなので収束性と絶対収束性が一致することになる。

 ちなみに冪級数の収束半径R
Re(s)=log|z|>σc|z|<eσc
よりR=eσc=eσa、つまり
R1=lim supnk=0n|ak|n
または
R1=lim supnk=n|ak|n
と表せますが、これはコーシーの冪根判定法
R1=lim supn|an|n
よりも弱いので実用性はありません。

参考文献

投稿日:202116
更新日:20231229
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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