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大学数学基礎解説
文献あり

Minkowskiの定理を使った四平方和定理の証明

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数の幾何学において最も基本的な定理として、Minkowskiの定理がある。

Minkowskiの定理

LRn 上の格子とし、 detLL に対応する行列の行列式とする。Rn 内の、原点に関して対称で体積が 2ndetL より大きい凸集合は、その内部に原点とは異なる L 上の点を有する。

証明は Wikipediaの該当記事 あるいは Cassels (1997), Chapter III.2.2, pp. 71--72, Nathanson (1996), Chapter 6.2, pp. 174--176 などを参照されたい。また、Wikipediaの該当記事にはこの定理を用いたFermatの二平方和定理(4m+1 の形の素数は2つの平方数の和であらわされる)の証明も掲載されているので、そちらも参照されたい。

さて、Wikipediaの該当記事にあるように、Minkowskiの定理を使ってLagrangeの四平方和定理、つまりすべての自然数は4個の平方数の和であらわされることを示すこともできる。本記事ではその証明を行う。証明は Cassels (1997), Chapter III.7.3, pp. 99--102 を参考とした。Nathanson (1996), Chapter 6.3, pp. 177--179 にはやや筋道の異なる証明(先に a2+b2+10(modn) を一般の n について示す)がある。

まず、半径 R の4次元球体の体積を求める。これは
x2+y2+z2+w2R2dxdydzdw=RR(x2+y2+z2R2w2dxdydz)dw=RR4π3(R2w2)3/2dw=4π3R411(12t2)3/2dt
となる。最後の積分は
11(12t2)3/2dt=π/2π/2cos4θdθ
と変形できるが、よく知られているように k=1,2, に対して
π/2π/2cos2kθdθ=(2k1)π/2π/2sin2θcos2(k1)θdθ=(2k1)(π/2π/2cos2(k1)θdθπ/2π/2cos2kθdθ)
となることを用いて
11(12t2)3/2dt=π/2π/2cos4θdθ=34π/2π/2cos2θdθ=38π
がわかるので、半径 R の4次元球体の体積は
4π3R4×3π8=π2R42   (1)
である。

次にp>0 が素数ならば a2+b2+10(modp) となる整数 a,b がとれることを示す。

p=2 のときは (a,b)=(1,0) ととれるので、p が奇素数の場合を考える。
0u<v(p1)/2,uv のとき 0<vu,v+u<p だから v2u2(modp) である。
よって Aa2(a=0,1,,(p1)/2)p で割った余り全体の集合、
B(b2+1)(b=0,1,,(p1)/2)p で割った余り全体の集合とすると
#A=#B=(p+1)/2
が成り立つ。 A,B はいずれも {0,1,,p1} の部分集合だから
#(AB)=#A+#B#(AB)p+1p=1
より AB である。したがって a2(b2+1)(modp) つまり
a2+b2+10(modp)
となる a,b がとれる。

m=p1p2pk を相異なる素数の積とすると、先に述べたことから各 pi に対して ai2+bi2+10(modp) となる整数 ai,bi がとれる。中国式剰余定理より
aai(modpi),bbi(modpi)    (2)
がすべての i=1,2,,k に対して同時に成り立つ a,b がとれる。
(m,0,0,0),(0,m,0,0),(a,b,1,0),(b,a,0,1)
で生成される格子を L とおくと (u1,u2,u3,u4)L のとき
u1au3+bu4,u2bu3au4(modm)    (3)
2021/8/4訂正 : u1,u2u3,u4 の役割を取り違えていたのを訂正)
が成り立つ。さらに
detL=det(m0ab0mba00100001)=m2
となる。

すると原点を中心とする、半径 2m の4次元球体を B とすると B の体積は (1) より 2π2m2>16m2=24det(L) となるからMinkowskiの定理より、 B の内部には原点とは異なる L の点が含まれる。つまり 0<u12+u22+u32+u42<2m かつ (3) が成り立つ整数 u1,u2,u3,u4 がとれる。
u12+u22(au3+bu4)2+(bu3au4)2(a2+b2)(u32+u42)(modm)
なので
u12+u22+u32+u42(a2+b2+1)(u32+u42)(modm)
となる(2021/8/4訂正 : u1,u2u3,u4 の役割を取り違えていたのを訂正)。(2) と ai,bi のとり方から各 i に対して
a2+b2+10(modpi)
つまり各 pia2+b2+1 を割り切るから m=p1p2pka2+b2+1 を割り切るので
u12+u22+u32+u42(a2+b2+1)(u32+u42)0(modm)
である。しかし 先に述べたように 0<u12+u22+u32+u42<2m であるから
u12+u22+u32+u42=m    (4)
である。つまり m4つの平方数の和であらわされる。

最後に n を一般の正の整数とすると、n=md2 となる整数 d と、相異なる素数の積からなる数 m がとれる(mn をちょうど奇数回割り切る素数すべての積となる)。
(4) をつかって
n=d2(u12+u22+u32+u42)=(du1)2+(du2)2+(du3)2+(du4)2
とあらわされる。

もちろん002+02+02+02 とあらわされるから、任意の自然数は4つの平方数の和であらわされることが示された。

参考文献

J. W. S. Cassels, An Introduction to the Geometry of Numbers, Springer-Verlag, 1959, pbk of 2nd ed., 2013, doi: 10.1007/978-3-642-62035-5

Melvyn B. Nathanson, Additive Number Theory: Inverse Problems and the Geometry of Sumsets (Graduate Texts in Math. 165), Springer-Verlag, 1996.

参考文献

[1]
J. W. S. Cassels, An Introduction to the Geometry of Numbers, Classics in Mathematics, Springer-Verlag, 2013, pp. 71-72, pp. 99-102
[2]
Melvyn B. Nathanson, Additive Number Theory: Inverse Problems and the Geometry of Sumsets , Undergraduate Texts of Mathematics, Springer-Verlag, 1996, pp. 174-179
投稿日:202119
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tyamada
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