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円順列における「固定」と完全代表系

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はじめに

  • この記事で伝えたい事:円順列の問題を解く時よくある「1人を固定する」というのは要するに「完全代表系を張っている」
  • 想定読者:大学数学から高校数学を眺めてみたい人
  • この記事を読む為にあった方がいい予備知識:群作用の基本、軌道空間
     
  • 記号の約束1:集合{1,2,,n}[n]と書く。
  • 記号の約束2:集合{f | f:[n][m] , f}F[n]inj[m]と書き、これを 順列全体 という。(injはinjective:単射の頭文字より)
  • 記号の約束3:は包含写像
  • 記号の約束4:は集合Xから商集合X/への標準射影
円順列

n人の円順列とは順列全体F[n]inj[n]に巡回群Cnを右から群作用させた時の軌道空間F[n]inj[n]/Cnである。

完全代表系と円順列における「固定」

任意にk,l[n]を取ってくる。(つまり番号kl番目に配置する。)
 この時、F[n]inj[n]の部分集合{fF[n]inj[n] | f(k)=l} は軌道空間F[n]inj[n]/Cnの完全代表系である。

R:={fF[n]inj[n] | f(k)=l}として、包含写像と標準射影の合成π:RF[n]inj[n]F[n]inj[n]/Cnが全単射である事を示す。この命題を示す為に以下の補題を用意する。

任意のk,l[n]を取ってくる。この時、F[n]inj[n]の部分集合R:={fF[n]inj[n] | f(k)=l}のどの元に対しても、単位元以外のCnの元を右から作用させると、この集合から飛び出す。

補題2

単位元以外の元σCnを取ってくる。この時、σCnの元だから、σ(k)k。よってfRに対して、fは定義より単射だから  fσ(k)f(k)=l。よってRの定義より、fσR

命題1 π:RF[n]inj[n]F[n]inj[n]/Cnが単射

f,gRに対して、π(f)=π(g)とする。この時、fgより、cCn,fc=g補題2よりこれを満たすのはcが単位元の時に限る。よってf=g

命題1 π:RF[n]inj[n]F[n]inj[n]/Cnが全射

「軌道空間の任意の元に対して、あるRの元が取って来れてπで対応させる事が出来る」事を示せばよい。言い換えると、軌道空間の任意の元に対して、どういう風に代表元fを取ってきても、fと同じ軌道にあるRの元gが存在する事を示せばよい。

任意のfF[n]inj[n]/Cnに対して、fF[n]inj[n]より、f(a)=lなるa[n]が存在する。σCnσ(k)=aとなるように取ってきて、g=fσとすると、gfであってかつ、g(k)=fσ(k)=f(a)=lよりgR  よってπ(g)=f

具体例(n=3)

F[3]inj[3]は以下の6つ元からなる集合である。

  • f1(1)=1,f1(2)=2,f1(3)=3(123)
  • f2(1)=1,f2(2)=3,f2(3)=2(132)
  • f3(1)=2,f3(2)=1,f3(3)=3(213)
  • f4(1)=2,f4(2)=3,f4(3)=1(231)
  • f5(1)=3,f5(2)=1,f5(3)=2(312)
  • f6(1)=3,f6(2)=2,f6(3)=1(321)

軌道空間:F[3]inj[3]/C3={f1,f2}
 分割:f1={f1,f4,f5},f2={f2,f3,f6}

次に適当にk,lを選ぶ。k=2[3],l=3[3]とおくと、{fF[3]inj[3] | f(2)=3}={f2,f4}
f2f2,f4f1であるので、確かに軌道空間F[3]inj[3]/C3の完全代表系を張っている。

具体例(n=4)

F[4]inj[4]は以下の24の元からなる集合である。

  • f1(1)=1,f1(2)=2,f1(3)=3,f1(4)=4(1234)
  • f2(1)=1,f2(2)=2,f2(3)=4,f2(4)=3(1243)
  • f3(1)=1,f3(2)=3,f3(3)=2,f3(4)=4(1324)
  • f4(1)=1,f4(2)=3,f4(3)=4,f4(4)=2(1342)
  • f5(1)=1,f5(2)=4,f5(3)=2,f5(4)=3(1423)
  • f6(1)=1,f6(2)=4,f6(3)=3,f6(4)=2(1432)
  • f7(1)=2,f7(2)=1,f7(3)=3,f7(4)=4(2134)
  • f8(1)=2,f8(2)=1,f8(3)=4,f8(4)=3(2143)
  • f9(1)=2,f9(2)=3,f9(3)=1,f9(4)=4(2314)
  • f10(1)=2,f10(2)=3,f10(3)=4,f10(4)=1(2341)
  • f11(1)=2,f11(2)=4,f11(3)=1,f11(4)=3(2413)
  • f12(1)=2,f12(2)=4,f12(3)=3,f12(4)=1(2431)
  • f13(1)=3,f13(2)=1,f13(3)=2,f13(4)=4(3124)
  • f14(1)=3,f14(2)=1,f14(3)=4,f14(4)=2(3142)
  • f15(1)=3,f15(2)=2,f15(3)=1,f15(4)=4(3214)
  • f16(1)=3,f16(2)=2,f16(3)=4,f16(4)=1(3241)
  • f17(1)=3,f17(2)=4,f17(3)=1,f17(4)=2(3412)
  • f18(1)=3,f18(2)=4,f18(3)=2,f18(4)=1(3421)
  • f19(1)=4,f19(2)=1,f19(3)=2,f19(4)=3(4123)
  • f20(1)=4,f20(2)=1,f20(3)=3,f20(4)=2(4132)
  • f21(1)=4,f21(2)=2,f21(3)=1,f21(4)=3(4213)
  • f22(1)=4,f22(2)=2,f22(3)=3,f22(4)=1(4231)
  • f23(1)=4,f23(2)=3,f23(3)=1,f23(4)=2(4312)
  • f24(1)=4,f24(2)=3,f24(3)=2,f24(4)=1(4321)

軌道空間:F[4]inj[4]/C4={f1,f2,f3,f4,f5,f6}
 分割:f1={f1,f10,f17,f19},
             f2={f2,f12,f13,f23},
             f3={f3,f11,f16,f20},
             f4={f4,f7,f18,f21},
             f5={f5,f9,f14,f22},
             f6={f6,f8,f15,f24}
次に適当にk,lを選ぶ。k=4[4],l=2[4]とおくと、
R:={fF[4]inj[4] | f(4)=2}={f4,f6,f14,f17,f20,f23}
f4f4 , f6f6 ,f14f5 ,f17f1 ,f20f3 ,f23f2
であるので、確かに軌道空間F[4]inj[4]/C4の完全代表系を張っている。

投稿日:2021111
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仕事は高校数学を教える事とプログラミングです。物理も少々。

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