今回はMathlogのエディタをベースに記事を書いてみようと思います。またブログということで、句読点を使うことにします。自分で使ってて若干違和感がなくもないですが、まあPDFのテイストとは差別化ということで。
テーマは指数関数です。最近触れる機会が多かったので改めて指数との出会いから振り返ることにします。
一応知識としては数学科学部1年生くらいは仮定しておきます。微積の初歩レベルの知識ですね。
以下$\mathbb{N},\ \mathbb{Z},\ \mathbb{Q},\ \mathbb{R},\ \mathbb{C}$はいつも通り自然数全体、整数全体、有理数全体、実数全体、 複素数全体を集めた集合とします。
指数関数を語る前に, そもそも指数の元々の定義とはなんだったのかというところについては触れるべきでしょう。
$a\neq 0$とし
$$a^1=a,\ a\times a=a^2, \ldots a^n=a\times a^{n-1}$$
と$n\in\mathbb{N}$について帰納的に定義する. このとき, $a^n$の$n$, すなわち$a$をかけた個数を指数(exponent)という. また$a^n$を$a$の$n$乗という.
やや大げさな気もしますが, 自然数で定義する以上帰納的に定義するのが一番妥当でしょう。まあ簡単に言ってしまえば$a$という数を何回かけたの?ってのを表すのが指数だったわけですね。この指数については指数法則と呼ばれるものが成り立ちました。覚えていますでしょうか?
整数$n, m$について以下が成り立つ:
$a^n\times a^m=a^{n+m},\ (a^n)^m=a^{nm}$
僕自身この指数法則には中学生のときには気にも留めていませんでしたし, 高校生で再会した時も「なんでこんな当たり前のことをわざわざまとめているんだろう?」という感じでした。 みなさんはどうでしょうか?
高校生になると指数ともう一度向き合う機会があります。おそらく高2だったと記憶していますが、皆さんは覚えていますでしょうか?
$a\neq 0, n, m\in\mathbb{n}$に対して
$$a^0=1,\ a^{-n}=(a^{-1})^n$$
で定義する。
このように$a$の逆元である$a^{-1}$の自然数上を考えることで整数に拡張するわけですね。こうしておくと整数乗にも指数法則が成り立つことがわかります。
整数$n, m$について以下が成り立つ:
$a^n\times a^m=a^{n+m},\ (a^n)^m=a^{nm}$
ここで重要なことは指数の本来の意味である$a$をかけた回数という意味が失われており、指数法則という性質だけが抜き出されたということになります(数学では結構こういうことも良くするので本来の意味にとらわれ過ぎるのも危険だったりします)。逆に言えば指数計算には指数法則のみが重要であり、本来の意味合いである回数というのは必要がなかったということでもあります。つまり、今後は指数法則をどこまで拡張していけるのかが主題になるわけです。
拡張といえどただ適当に拡張しているわけではありません。自然数のときはもともとの値と一致していることも重要です。今回の場合$a^n$の$n$が$0$と負の値の場合の意味を追加することで拡張しているので自然数上の値もきちんと含んでいるわけですね。
では順にきて有理数はどうでしょうか?仮に有理数乗が指数法則が成り立つように拡張できるなら、例えば
$$(a^{\frac{1}{n}})^n=a$$
となるような数が存在せねばなりません。実は$\mathbb{R}$については存在することがわかっています。
自然数$n$と$a>0$となる実数$a$に対して$x^n=a$となる$x>0$がただ一つ存在する。この$x$を$x=\sqrt[n]{a}$で表す。
上では$a>0$としましたが$n$が奇数のときは$a<0$を考えることはできます. ここではやや記述が面倒になるので$a>0$としました。また, $n$が偶数の場合には$-\sqrt[n]{a}$も解となりますがここでは一応$\sqrt[n]{a}>0$としています。
これは次の事実から示すことができます。
$f$を有界閉区間$I=[a, b]$上連続とし$f(a)<0, f(b)>0$が成り立つとする。このとき$c\in I$かつ$f(c)=0$となる$c$が存在する。
実際、この定理が成立すると$f(x)=x^n-a$と定義することによって$x^n=a$となる$x$の存在がわかります。中間値の定理は良く知られた事実なので証明は良いでしょう。
さて実はこの$\sqrt[n]{a}$が存在すれば有理数乗を定義することができます。
$a\neq 0$と$n, m\in\mathbb{Z}$について
$$a^{\frac{m}{n}}=(\sqrt[n]{a})^m$$
と定義する。
つまり$\sqrt[n]{a}$という数を整数乗することで有理数上を定義しているというわけですね。このあたりは自然数か整数に持っていった時と同じような流れです。
上では単に$a\neq 0$と書いていますが、もちろん$a$のべき乗が考えられる範囲でという意味です。つまり$(-2)^{\frac{1}{2}}$とか実数上存在しないものは予め除いて考えてねという暗黙の了解が含まれています。
もちろん$n=1$とすれば整数乗も表せます。またこれについても指数法則が成り立ちます。
$a\in\mathbb{R},\ q,r\in\mathbb{Q}$に対して
$$a^q\times a^r=a^{q+r},\ (a^q)^r=a^{qr}$$
とこのように有理数乗までは比較的容易に拡張することができました。
ここまでは直感的にもわかりやすかったのではないでしょうか?
さてここまでやると高校生はいよいよ指数関数に出会います。
$y=a^x$という形で良く書かれておりグラフも連続であるように書かれています。しかし、ここで一つ疑問が生じます。
例えば$a^{\sqrt{2}}$という数は本当に存在しているのでしょうか?つまり指数関数のグラフはあたかも連続のようになっているが、本当にすべての点で値が存在しているのか?というのが気になるところです。
実数の実数乗はどう定義すべきなのでしょうか?
さて、これまでの拡張の流れを考えると、実数乗も有理数乗から考えることができるだろうというのが自然な発想になると思います。
実際その考えであっているのですが、まずは有理数と実数のギャップを埋める必要があります。
任意の$x\in(0, 1)$かつ$x\in\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}$なる$x$に対して$\{a_n\}_{n=1}^{\infty}\subset \{0,1,2,3,4,5,6,7,8,9\}$かつ$\displaystyle x=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{a_n}{10^n}$
となる$\{a_n\}_{n=1}^{\infty}$が存在する。
これはいわゆる10進少数展開と呼ばれるもので、これを用いれば任意の$x\neq 0$に対して$x$の整数部分を$a_0$とおけば
$$x=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{a_n}{10^n}$$
と表すことができるわけです。ここで重要なことは和の各項は有理数であるということです。これを用いれば次のように定義できるのではないでしょうか?
$a>0, x\in\mathbb{R}$に対して$\displaystyle x=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{a_n}{10^n}$とするとき、
$$a^x=\lim_{n\to\infty}a^{x_n}$$
で定義する。ただし、$\displaystyle x_n=\sum_{k=0}^{n}\frac{a_k}{10^k}$である。
$a<0$がしれっと抜かれていますが、これは有理数乗の段階で$a^q$が実数としては存在しないことがあるため排除しています。このような値が存在するには複素数の登場を待たならず、また複素数までいったとしても一般的には一意に値は定まりません。ここまでくると話があまりにも脱線しかねないので、高校数学に倣い$a>0$としておきます。
ただこれには一つ問題があります。そもそもとして上の極限が存在しなければなりません。これを示すには次の事実を用いる必要があります。
上に有界で単調増加な数列は収束する。また、下に有界で単調減少な数列も収束する。
これによって、極限が存在することが次のようにしてわかります。
$a$と$x_n$を上の予想と同様とします。$a^{x_n}$が単調かつ有界であることを示しましょう。$x\in\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}$について示せば十分です。また、$x-a_0\in (0, 1)$なので$x\in (0, 1)$としてよく、$a$も逆数を考えればいいので$a>1$だけ示せばよいです。さて、このとき,
$$x_n=\sum_{k=1}^{n}\frac{a_k}{10^n}$$
より$\{x_n\}_{n=1}^{\infty}$は単調増加です。これより、$a>0$ならば
$\{a^{x_n}\}_{n=1}^{\infty}$は単調増加ということになります。また、$x_n<1$なので$a^{x_n}< a$となり上に有界であることがわかります。これより$a^x$の存在がいえました(証明終了)
$a>1, x>0$ならば定義より$a^x>1$となります。実際$a^{x_n}>1$より$a^x\geq 1$です。もし$a^x=1$となる$x>0$があるとすると$1=a^x< a^{x_n}$となり$a^x$が$\{a^{x_n}\}_{n=1}^{\infty}$の上界であることに矛盾するからです。
実数の場合は指数法則もそれほど自明ではありません。まずは次を示しましょう。
$a>0,\ x,y\in\mathbb{R}$に対して
$a^x\times a^y=a^{x+y}$が成り立つ。
要するに指数法則の最初の式ですね。これはささっと示せます。
$$a^x\times a^y=a^{x+y}$$
については$x_n, y_n$をそれぞれの無限小数展開の部分和とするとき、指数法則有理数verより
\begin{eqnarray*}
a^{x+y}=\lim_{n\to\infty}a^{x_n+y_n}=\lim_{n\to\infty}(a^{x_n}\times a^{y_n})=(\lim_{n\to\infty}a^{x_n})\times (\lim_{n\to\infty}a^{y_n})=a^x\times a^y
\end{eqnarray*}
より示せました。(証明おわり)
この式から
指数関数は単調な関数である。
$x< y$とすると$a^y-a^x=a^x(a^{y-x}-1)$なので$a>1$ならば$a^{y-x}>1$より単調増加、$0< a<1$ならば$a^{y-x}<1$より単調減少である。(証明おわり)
2番目の式は指数関数の連続性を用いた方が楽に示せます。まずは連続性を示してみましょう。
$a>0$に対して$f(x)=a^x$とするとき, $f$は$\mathbb{R}$で連続である。
発想としては連続の定義である
$$\lim_{x\to y}f(x)=f(y)$$
を示します。これも逆数を考えれば$0< a<1$のときは良いので$a>1$のときを示せば十分です。いま、上の命題から
$$a^x-a^y=a^y(a^{x-y}-1)$$
が成り立つので,
$$\lim_{x\to 0}a^x=1$$
が示せればよいことがわかります。原点での連続性は右連続と左連続の両方を示せば良いでしょう。ほぼ同様なので右連続であることを示します。$0< x<1$するとき(正確には$\delta$を十分小にとって$0< x<\delta<1$のときを考えています)、
$$\frac{1}{n+1}< x\leq \frac{1}{n}$$
となる$n\in\mathbb{N}$が存在します。これより
$$a^{\frac{1}{n+1}}< a^x< a^{\frac{1}{n}}$$
が成り立ちます。こうしておくと$x\to+0$のとき$n\to\infty$となることがわかります。
したがってこの定理の証明は次が成り立てば十分です。
$a>1$とするとき
$$\lim_{n\to\infty}a^{\frac{1}{n}}=1$$
が成り立つ。
$\{a^{\frac{1}{n}}\}_{n=1}^{\infty}$は$a>1$より単調減少であり, $a^{\frac{1}{n}}>a^0=1$より下に有界です。これより
$$\lim_{n\to\infty}a^{\frac{1}{n}}=\alpha\geq 1$$
が存在します。このとき、$\alpha=1$であることを背理法により示しましょう。$\alpha>1$とすると$\alpha=1+h$という形で表せるので、二項定理より
$$\alpha^n=(1+h)^n>1+nh$$
と評価できます。一方で$a=(\sqrt[n]{a})^n\geq \alpha^n$なので
$$a>\alpha^n>1+nh$$
なので$\displaystyle\lim_{n\to\infty}(1+nh)=\infty$より矛盾します。(証明終了)
これより次が成り立ちます。
$a>0,\ x, y\in\mathbb{R}$に対して
$$a^x\times a^y=a^{x+y}, (a^x)^y=a^{xy}$$
が成り立つ。
$\displaystyle\lim_{n\to\infty}x_ny_n=xy$より連続性から
$$(a^x)^y=\lim_{n\to\infty}(a^{x_n})^{y_n}=\lim_{n\to\infty}a^{x_ny_n}=a^{xy}$$
となって成り立つことがわかりました。(証明終了)
とこんな感じで実数まで指数関数の話をしてみました。今回は自然数のかけた回数という素朴なところからスタートとして順々に拡張を考えてきました。
次回は現代的な視点にたって指数関数を再考してみることとします。今回はここまでです。それではまた近いうちに。