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指数関数についてとりとめもなく その1「指数から遡る」

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はじめに

今回はMathlogのエディタをベースに記事を書いてみようと思います。またブログということで、句読点を使うことにします。自分で使ってて若干違和感がなくもないですが、まあPDFのテイストとは差別化ということで。

テーマは指数関数です。最近触れる機会が多かったので改めて指数との出会いから振り返ることにします。

一応知識としては数学科学部1年生くらいは仮定しておきます。微積の初歩レベルの知識ですね。

指数って何だっけ?

以下N, Z, Q, R, Cはいつも通り自然数全体、整数全体、有理数全体、実数全体、 複素数全体を集めた集合とします。

指数関数を語る前に, そもそも指数の元々の定義とはなんだったのかというところについては触れるべきでしょう。

a0とし
a1=a, a×a=a2,an=a×an1
nNについて帰納的に定義する. このとき, ann, すなわちaをかけた個数を指数(exponent)という. またananという.

やや大げさな気もしますが, 自然数で定義する以上帰納的に定義するのが一番妥当でしょう。まあ簡単に言ってしまえばaという数を何回かけたの?ってのを表すのが指数だったわけですね。この指数については指数法則と呼ばれるものが成り立ちました。覚えていますでしょうか?

指数法則

整数n,mについて以下が成り立つ:
an×am=an+m, (an)m=anm

僕自身この指数法則には中学生のときには気にも留めていませんでしたし, 高校生で再会した時も「なんでこんな当たり前のことをわざわざまとめているんだろう?」という感じでした。 みなさんはどうでしょうか?

高校数学を振り返って

高校生になると指数ともう一度向き合う機会があります。おそらく高2だったと記憶していますが、皆さんは覚えていますでしょうか?

a0,n,mnに対して
a0=1, an=(a1)n
で定義する。

このようにaの逆元であるa1の自然数上を考えることで整数に拡張するわけですね。こうしておくと整数乗にも指数法則が成り立つことがわかります。

指数法則の整数ver

整数n,mについて以下が成り立つ:
an×am=an+m, (an)m=anm

ここで重要なことは指数の本来の意味であるaをかけた回数という意味が失われており、指数法則という性質だけが抜き出されたということになります(数学では結構こういうことも良くするので本来の意味にとらわれ過ぎるのも危険だったりします)。逆に言えば指数計算には指数法則のみが重要であり、本来の意味合いである回数というのは必要がなかったということでもあります。つまり、今後は指数法則をどこまで拡張していけるのかが主題になるわけです。

拡張といえどただ適当に拡張しているわけではありません。自然数のときはもともとの値と一致していることも重要です。今回の場合ann0と負の値の場合の意味を追加することで拡張しているので自然数上の値もきちんと含んでいるわけですね。

では順にきて有理数はどうでしょうか?仮に有理数乗が指数法則が成り立つように拡張できるなら、例えば

(a1n)n=a

となるような数が存在せねばなりません。実はRについては存在することがわかっています。

自然数na>0となる実数aに対してxn=aとなるx>0がただ一つ存在する。このxx=anで表す。

上ではa>0としましたがnが奇数のときはa<0を考えることはできます. ここではやや記述が面倒になるのでa>0としました。また, nが偶数の場合にはanも解となりますがここでは一応an>0としています。

これは次の事実から示すことができます。

中間値の定理

fを有界閉区間I=[a,b]上連続としf(a)<0,f(b)>0が成り立つとする。このときcIかつf(c)=0となるcが存在する。

実際、この定理が成立するとf(x)=xnaと定義することによってxn=aとなるxの存在がわかります。中間値の定理は良く知られた事実なので証明は良いでしょう。

さて実はこのanが存在すれば有理数乗を定義することができます。

有理数乗

a0n,mZについて
amn=(an)m
と定義する。

つまりanという数を整数乗することで有理数上を定義しているというわけですね。このあたりは自然数か整数に持っていった時と同じような流れです。

上では単にa0と書いていますが、もちろんaのべき乗が考えられる範囲でという意味です。つまり(2)12とか実数上存在しないものは予め除いて考えてねという暗黙の了解が含まれています。

もちろんn=1とすれば整数乗も表せます。またこれについても指数法則が成り立ちます。

指数法則有理数ver

aR, q,rQに対して
aq×ar=aq+r, (aq)r=aqr

とこのように有理数乗までは比較的容易に拡張することができました。
ここまでは直感的にもわかりやすかったのではないでしょうか?

さてここまでやると高校生はいよいよ指数関数に出会います。

y=axという形で良く書かれておりグラフも連続であるように書かれています。しかし、ここで一つ疑問が生じます。

例えばa2という数は本当に存在しているのでしょうか?つまり指数関数のグラフはあたかも連続のようになっているが、本当にすべての点で値が存在しているのか?というのが気になるところです。

実数の実数乗はどう定義すべきなのでしょうか?

指数を実数まで拡張するには?

さて、これまでの拡張の流れを考えると、実数乗も有理数乗から考えることができるだろうというのが自然な発想になると思います。

実際その考えであっているのですが、まずは有理数と実数のギャップを埋める必要があります。

実数の無限小数展開

任意のx(0,1)かつxRQなるxに対して{an}n=1{0,1,2,3,4,5,6,7,8,9}かつx=n=1an10n
となる{an}n=1が存在する。

これはいわゆる10進少数展開と呼ばれるもので、これを用いれば任意のx0に対してxの整数部分をa0とおけば

x=n=0an10n
と表すことができるわけです。ここで重要なことは和の各項は有理数であるということです。これを用いれば次のように定義できるのではないでしょうか?

実数の実数乗

a>0,xRに対してx=n=0an10nとするとき、
ax=limnaxn
で定義する。ただし、xn=k=0nak10kである。

a<0がしれっと抜かれていますが、これは有理数乗の段階でaqが実数としては存在しないことがあるため排除しています。このような値が存在するには複素数の登場を待たならず、また複素数までいったとしても一般的には一意に値は定まりません。ここまでくると話があまりにも脱線しかねないので、高校数学に倣いa>0としておきます。

ただこれには一つ問題があります。そもそもとして上の極限が存在しなければなりません。これを示すには次の事実を用いる必要があります。

上に有界で単調増加な数列は収束する。また、下に有界で単調減少な数列も収束する。

これによって、極限が存在することが次のようにしてわかります。

axnを上の予想と同様とします。axnが単調かつ有界であることを示しましょう。xRQについて示せば十分です。また、xa0(0,1)なのでx(0,1)としてよく、aも逆数を考えればいいのでa>1だけ示せばよいです。さて、このとき,

xn=k=1nak10n

より{xn}n=1は単調増加です。これより、a>0ならば
{axn}n=1は単調増加ということになります。また、xn<1なのでaxn<aとなり上に有界であることがわかります。これよりaxの存在がいえました(証明終了)

a>1,x>0ならば定義よりax>1となります。実際axn>1よりax1です。もしax=1となるx>0があるとすると1=ax<axnとなりax{axn}n=1の上界であることに矛盾するからです。

実数の場合は指数法則もそれほど自明ではありません。まずは次を示しましょう。

a>0, x,yRに対して
ax×ay=ax+yが成り立つ。

要するに指数法則の最初の式ですね。これはささっと示せます。

ax×ay=ax+y
についてはxn,ynをそれぞれの無限小数展開の部分和とするとき、指数法則有理数verより
ax+y=limnaxn+yn=limn(axn×ayn)=(limnaxn)×(limnayn)=ax×ay
より示せました。(証明おわり)

この式から

指数関数の単調性

指数関数は単調な関数である。

x<yとするとayax=ax(ayx1)なのでa>1ならばayx>1より単調増加、0<a<1ならばayx<1より単調減少である。(証明おわり)

2番目の式は指数関数の連続性を用いた方が楽に示せます。まずは連続性を示してみましょう。

指数関数の連続性

a>0に対してf(x)=axとするとき, fRで連続である。

発想としては連続の定義である

limxyf(x)=f(y)
を示します。これも逆数を考えれば0<a<1のときは良いのでa>1のときを示せば十分です。いま、上の命題から
axay=ay(axy1)
が成り立つので,
limx0ax=1
が示せればよいことがわかります。原点での連続性は右連続と左連続の両方を示せば良いでしょう。ほぼ同様なので右連続であることを示します。0<x<1するとき(正確にはδを十分小にとって0<x<δ<1のときを考えています)、
1n+1<x1n
となるnNが存在します。これより
a1n+1<ax<a1n
が成り立ちます。こうしておくとx+0のときnとなることがわかります。

したがってこの定理の証明は次が成り立てば十分です。

a>1とするとき
limna1n=1
が成り立つ。

{a1n}n=1a>1より単調減少であり, a1n>a0=1より下に有界です。これより
limna1n=α1
が存在します。このとき、α=1であることを背理法により示しましょう。α>1とするとα=1+hという形で表せるので、二項定理より

αn=(1+h)n>1+nh
と評価できます。一方でa=(an)nαnなので
a>αn>1+nh
なのでlimn(1+nh)=より矛盾します。(証明終了)

これより次が成り立ちます。

指数法則実数ver

a>0, x,yRに対して
ax×ay=ax+y,(ax)y=axy
が成り立つ。

limnxnyn=xyより連続性から

(ax)y=limn(axn)yn=limnaxnyn=axy
となって成り立つことがわかりました。(証明終了)

とこんな感じで実数まで指数関数の話をしてみました。今回は自然数のかけた回数という素朴なところからスタートとして順々に拡張を考えてきました。

次回は現代的な視点にたって指数関数を再考してみることとします。今回はここまでです。それではまた近いうちに。

投稿日:2021111
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