初めに,これから扱う対象を明確にします.この記事で扱う対象は「信号」と「システム」,特に,関数
例として,マイクで声を録音することを考えましょう.マイクにより,音は電圧の時間変化に変換されます.これは時間的に連続な信号ですが,計算機で扱うために一定周期で値を記録(標本化)することで,離散時間の信号が得られます.
録音を始めてから,最初に得られたサンプルを
ここで,ボイスチェンジャーなどの音声を加工する機器について考えます.ボイスチェンジャーは,信号
この例では
初めに,いくつかの用語を定義しておきます.
次の式で定義される関数
任意の信号
遅延作用素の逆は時間を
また,信号
です.2つを組み合わせて,
まとめると,
システムというとあまりに広いので,普通はシステムの中でも比較的扱いやすいものについて考察します.この記事では特に,次で定義される線形時不変システムについて考察します.
システム
線形時不変システムは,現実のシステムを近似するのによく用いられます.その理由の1つは,次に述べる定理により性質を解析しやすいためです.
まず,信号を遅延作用素と離散デルタ関数を使った形に書き換えておく.任意の信号
が成り立つので,信号
また,
と計算できる.明らかに,右辺は
ここで,証明の最後に出てきた
という式について少し考察しましょう.時刻
この右辺を
信号
これにより先述の定理を言い換えると,
が成り立ちます.
前節によれば,線形時不変システムは畳み込みによって表現できるのでした.ここでは,システムを畳み込みによる表記よりも解析しやすい形で書くために,z変換という操作を導入します.
信号
z変換が持つ重要な性質として,畳み込みを積に変換するというものがあります.
任意の信号
である.ここで(厳密には,交換可能であることは自明ではないが)和の順序を交換して
を計算すると
であり,
この定理により,
が成り立ちます.よって,
という関係が成り立ちます.左辺を
という関係を満たす関数です.この関数
線形時不変システム
で定義される関数
この証明について少し補足します.まず
であることを確認します.時不変性の式
について,入力を
さらに,両辺に
が得られます.2つの式
を繰り返し用いれば,すべての整数
であることが確認できます.
和の交換は本来自明ではないので,この証明はあくまでもイメージと言うべきでしょう.厳密に示したい場合,
一見仮定が人工的にも見えますが,伝達関数について考える場合,この仮定はシステムに因果性(後述)を課すということです.そんなに無茶な仮定でもありません.実際,正冪の項が無いz変換(片側z変換)でz変換を定義することもあります.