この記事は指数関数に関する記事の第2弾です。よろしければ第一弾をお読みください。
さて、これを読んでいる読者のみなさんは
が成り立つはご存じのことでしょう(もしごぞんじでないのであればおまけの1.5もご覧ください)。また、
では逆に上の式を満たすような
(1)
(2)
(3)
(1)から順に示します.
となります. したがって微分して
が得られます. ゆえに(1)が成り立つことがわかります.
次に(2)を示します. 仮に
が得られます. したがって,
より
最後に(3)の
したがって、上の微分方程式の解が存在すれば一意であることがわかります. そこで,
と定義して
となって
証明は淡々としていましたが、ここで重要なことは(★)の性質からこれまでの指数関数の性質が成り立ってしまうということです。しかも、(2)よりこの方程式を満たす関数は
さて、本題に入る前に微分をもう少し振り返ってみましょう。
でしたが、これはつまり
が成り立つということになります。ここで出てくる
の右辺における
ここで気付いてほしいことは
では一般的により高次の多項式で近似できるのか?というのは気になるところです。そこででてくるのがテイラーの定理になります。
が成り立つ. ただし
である。
ということでテイラーの定理です。これに関してはもはや説明不要の超有名定理ですが、とくに剰余項
となる正定数
が成り立つ。ここで
さて、(★)を満たす
という等式が得られます(おまけまで読んだ方はまたお前かとなるかと思います)。これを原点周りのテイラー展開もしくはマクローリン展開といいます。というわけで、そういうことなら
で定義しちゃえばいいじゃん。というのが今回の発想になります。この定義は現代の解析のテキストなんかでは割とよく用いられる定義です。
実際右辺が(★)を満たすのかというと
となるので(★)を満たします。はい、ここで和と微分の交換をしれっとしていますがこれはべき級数の一般論として次が成り立つことから保証されます。
が成り立つ。
はい、というわけで微分可能性についても問題がないことになります。もし証明が知りたい方がいたら、杉浦光夫先生の解析入門Iを参照されるとよいでしょう。
さてこのように定義してしまえば、定理の1から指数法則は成り立つことがわかっているので、
ということは任意の
と定義してしまえばよいことがわかります。つまりはじめからべき級数で定義してしまえばその1でやったような地道な拡張も必要なく、指数法則も定理1のようにあっさり示せるわけですね。
さらにもっといえば、べき級数の形であれば別に実数でなくても収束の意味合いだけしっかりと定義すれば指数関数は定義できます。
実際、複素数の指数関数を次のように定義できます。
と定義し、指数関数という。
さて、ここで先ほど言った収束の意味合いさえ定義できればという言葉を思い出すと、別に数にこだわる必要もないはずです。そこで最後に次章では数でないものについて指数関数を定義してみましょう。
みなさんは行列をご存じでしょうか?教育課程によってはやってない方もいるかと思います。筆者はぎりぎり行列をやる高校3年生でした。
簡単に言えば行列とは
のように数を縦と横に並べたようなものを指します。この記事では簡単のため
の形しか扱いませんが、より一般的に扱える事実もあることは予め断っておきます。
さて、収束の意味合いを定めるとは結局ノルムを決めることが大切になってきます。そこで、行列
と定義する。ただし、
であり、
である。
作用素ノルムというからにはノルムになります。
よりわかります。
というわけで、このように行列にノルムを定義しました。これについて次が成り立ちます。
が成り立つ。
となるので成り立つことがわかります。(証明終了)
これより特に
と定義すると作用素ノルムに関して収束する。
より収束することがわかります。(証明終了)
ということで指数関数は行列についても定義できることがわかりました。しかも行列の微分を定めることで次が成り立つこともわかります。
と定義する。このとき、
(1)
(2)
が成り立つ。またこのような
(3)
一般に行列の掛け算は
とするとき
$$AB=\left(
\begin{array}{ccc}
a_{11}b_{11}+a_{12}b_{21} & a_{11}b_{12}+a_{12}b_{22}\
a_{21}b_{11}+a_{22}b_{21} & a_{21}b_{12}+a_{22}b_{22}
\end{array}
\right)
$$
と定義されます。この積は一般には非可換です。
証明は定理1と同様にできます。このように指数関数は行列に拡張することができました。ただし、指数関数は可換なときに限られます。我々は前回指数法則を手掛かりに指数関数を拡張してきましたが、今度は(★)を手掛かりに拡張していった結果指数関数はある程度切り離さざるを終えないということです。このあたりは何をもって指数関数を特徴づけるかというところによります。まぁ、この辺りがちょっと難しいところですね。
というわけで、今回は微分されたときの性質に注目することで指数関数をさらに拡張することを考えました。
次回は指数関数がどんなところに現れるのか、というところに注目して話を進めてみることとしましょう。
ではまたいつか。