この記事ではこんな等式たちで遊んでみます。
$$\style{font-family:inherit}{\text{(⭐)}}\left\{
\begin{alignat}{9}
1&&=&1\\
1+2&&=&1+2\\
1+2+3+4+5&&=&1+2+2^2+2^3\\
1+2+\cdots+89+90&&=&1+2+2^2+\cdots+2^{10}+2^{11}
\end{alignat}\right.
$$
$1$から$N$までの自然数の和が,初項$1$公比$r$(上の例は$r=2$)項数$M$の等比数列の和に等しい等式を作って遊ぼう!という脳死記事です。つまり,次の等式を満たすような正の整数の組$(r,\;N,\;M)$を考えます。$$
\style{font-family:inherit}{\text{(🍀)}\quad }1+2+\cdots+N=1+r+r^2+\cdots+r^{M-1}
$$
まずは具体例として,$r=2$のときを考えます。すなわち,次の等式を満たす正の整数$N,\;M$を求めればよいです。$$
\bunsuu12N(N+1)=2^M-1
$$
これを少し変形しますと,
\begin{align}
\bunsuu12N(N+1)&=2^M-1\\
4N^2+4N&=2^{M+3}-8\\
(2N+1)^2&=2^{M+3}-7
\end{align}
となりますので,$2^{M+3}-7$が平方数となるような$M$を決定することが必要です。
この問題の結果には名前が付いています。
方程式$2^n-7=x^2$を満たす正の整数の組$(n,\;x)$は,以下の$5$組のみ存在する。$$ (n,\;x)=(3,\;1),\;(4,\;3),\;(5,\;5),\;(7,\;11),\;(15,\;181) $$
この定理 1 を認めれば,$(N,\;M)$の組としては$$
(N,\;M)=(1,1),(2,2),(5,4),(90,12)
$$のみとなります。故に$r=2$のときに🍀を満たすものは⭐で提示したものしか存在しないことが分かりました。
なお$\text{Nagell}$による証明(英語版)は,参考文献[1]を参照ください。その論文でやってることをざっくり説明すると,整数環$\mathcal O_{\mathbb Q(\sqrt{-7})}$が類数$1$であることを用いて,$\bunsuu{1+\sqrt7}{2}$の$n$乗における考察に帰着して問題を解いています。
$r=3$のときは,次の等式を満たす$(N,\;M)$を求めればよいです。$$ \bunsuu12N(N+1)=\bunsuu{3^M-1}{2} $$
$N(N+1)=3^M-1$を満たす正の整数の組$(N,\;M)$は,$(N,\;M)=(1,\;1)$に限る。
の証明は長くありませんのでここに記述します。
$M=1$のときは$N=1$のみ。
$M\geq2$とすると,$9$を法とした合同を考えることで,$$
N(N+1)\equiv 8 \pmod 9
$$
でなければならない。しかし,$N(N+1)$を$9$で割った余りは$0,2,3,6$のいずれかであることが計算によって分かる。故に$M\geq2$の時に$N(N+1)=3^M-1$を満たす$N$は存在しない。
よって$r=3$のときの🍀は自明なものしか存在しないことが分かりました。
次に$r=9$のときの例を考えてみましょう。例えば次のような例が見つかります。
$$\style{font-family:inherit}{\text{(🌠)}}\left\{
\begin{alignat}{9}
1&&=&1\\
1+2+3+4&&=&1+9\\
1+2+\cdots+13+14&&=&1+9+9^2\\
1+2+\cdots+39+40&&=&1+9+9^2+9^3\\
1+2+\cdots+120+121&&=&1+9+9^2+9^3+9^4
\end{alignat}\right.
$$
🌠の例から,こんな結果が得られます。
$$
1+2+\cdots+N=1+9+9^2+\cdots+9^{M-1}
$$
を満たす組$(N,\;M)$は無数にあり,特に$M$は任意の自然数で,それに対応して$N=\bunsuu{3^M-1}{2}$が定まる。
の証明も長くありません。
次の方程式を解けばよい。$$
\bunsuu12N(N+1)=\bunsuu{9^M-1}{8}
$$
これを$8$倍して$+1$をすれば,$$
4N^2+4N+1=9^M
$$
となり,$(2N+1)^2=\left(3^M\right)^2$なので,$N=\bunsuu{3^M-1}2$と求められる。任意の自然数$M$に対して$\bunsuu{3^M-1}{2}$は自然数であるから,命題 3 の主張は正しい。
$r=9$のときの🍀は無数に存在することが分かりました。
今回は$r=2,3,9$のときの🍀について考察をしていきました。それぞれ,「非自明な解はあったが有限個しか存在しなかったもの」「非自明な解が存在しないもの」「無限にあるもの」といった場合でした。以下の進展が考えられます。
$\phantom a$
① $r=9$のときのように,任意の自然数$M$に対して$N$を定めることが出来るような$r$は他にあるか?他にあるならそれは無数か?
$\phantom a$
② $r=3$のときのように,$(N,M)$の組が$(1,1)$しか存在しない$r$は他にあるか?他にあるならそれは無数か?
$\phantom a$
③ $r=2$のときのように,非自明な$(N,M)$が有限個存在するような$r$は他にあるか?他にあるならそれは無数か?
例えば,$2\leq r\leq 50$,$M<20$としたときに,$(N,M)=(1,1)$以外の解としては以下を発見することが出来ました。(もちろん計算機に任せています。)
\begin{align}
(r,N,M)&=(2,1,1),(2,2,2),(2,5,4),(2,90,8),\\
&=(4,6,3),\\
&=(5,3,2),\\
&=(9,\bunsuu{3^M-1}{2},M),\\
&=(14,5,2),\\
&=(20,6,2),\\
&=(23,159,4),\\
&=(26,37,3),\\
&=(27,7,2),\\
&=(44,9,2),
\end{align}
やはり$M\geq3$のときは非自明な雰囲気を感じますね。$$
1+2+\cdots+158+159=1+23+23^2+23^3
$$や,$$
1+2+\cdots+36+37=1+26+26^2
$$
なんかは面白い形をしています。
個人的には,こんな予想が成り立つんじゃないかと思っています。
🍀を満たす正の整数解$(N,M)$は,⑴$r=2$のときは$4$組,⑵$r=9$のときは無数,⑶$r\neq2,9$のときは高々$2$組しか存在しない。
これを証明できるのだろうか,考えるのは面白そうです。
ここまでお読みいただきありがとうございました!