この記事は$y$を$x$の関数とした時, 微分方程式$y'=ky$を解くことを目的とする. ここで$x$は実数の変数であり, $k$は実数の定数である.
まずは問題を正確に書き直す.
$k$をある実数の定数とする. 実数$x$を変数とする微分可能な関数$y$が常に$y'=ky$を満たしているとき, $y$を$x$を用いて表せ.
変数を明記する記法を取れば任意の実数$x$について$y'(x)=ky(x)$を満たしているということである. 最初に一般に広く知られている解法があるのでそれを書くことにする.
$C_1,C_2$を積分定数とする. 即ちこれらは実数の定数である.
\begin{eqnarray*}
y'&=&ky\tag1\\
\frac{y'}y&=&k\tag2\\
\frac1y\frac{dy}{dx}&=&k\\
\int\frac1y\frac{dy}{dx}\,\mathrm dx&=&\int k\,\mathrm dx\tag3\\
\int\frac{\mathrm dy}y&=&k\int\mathrm dx\tag4\\
\log|y|+C_1&=&kx+C_2\\
\log|y|&=&kx+C\qquad(C=C_2-C_1)\\
y&=&\pm e^{kx+C}=\pm e^Ce^{kx}\\
y&=&Ae^{kx}\qquad(A=\pm e^C)
\end{eqnarray*}
$(3)$から$(4)$への変形は置換積分法による. さて, $C_1,C_2$は積分定数であったので任意の実数値を取りうる. 従って$C$も任意の実数値を取りうる. この時$A=\pm e^C\neq0$であるが$A=0$とした$y=0$も元の方程式の解である. 従って$A$は任意の実数値と取りうる定数として解は$y=Ae^{kx}$と書ける.
とりあえず解くことはできるしこれでもいいと思うかもしれない。しかし大きな問題が一つある. $(1)$から$(2)$への変形で両辺を$y$で割ったがこれが$0$に等しかったならば問題である. 例えば, 次のようなことが起こりうる.
\begin{eqnarray}
x^2+3x+2&=&(x+1)(x+2)\tag5\\
\frac{x^2+3x+2}{x+1}&=&x+2\tag6
\end{eqnarray}
$(5)$の式は$x$は任意の実数について成り立つ. ところが$(6)$の式は$x=-1$において成り立たない.
ところが実際, これは問題にならない. 実は「ある一点で」$y=0$となる時「至る所で」$y=0$となることが示せるからである. この事実の対偶を取ることで, 常に$y=0$でない限り$y$は$0$にならないということが分かる.
まず示すべきことを明記しよう. $k$などはすでに述べたとおりである.
$a$をある実数の定数とする. $y'=ky$かつ$y(a)=0$であるとき常に$y=0$である.
これを示すために次のテイラーの定理を用いる.
nを自然数とする. $n$回微分可能な関数$f$について, 任意の定数$a,b\,(a\neq b)$に対してある$c$が$a$と$b$の間に存在して
$$f(b)=\sum_{i=0}^{n-1}\frac{f^{(i)}(a)}{i!}(b-a)^i+\frac{f^{(n)}(c)}{n!}(b-a)^n$$
が成り立つ. ただし$f^{(i)}$は$f$の$i$階導関数を表す.
この定理の証明は略す. では目的の定理を示そう.
$n$を任意の自然数とする. このとき$y'=ky$より数学的帰納法を用いて$y''=k^2y,y'''=k^3y,\cdots,y^{(n)}=k^ny$が分かる. 即ち, $i=1,2,3,\cdots,n-1$に対して$y^{(i)}(a)=0$が成り立つ. これとテイラーの定理から$x\neq a$の時ある$c$が$x$と$a$の間に存在して
$$y(x)=y(a)+\sum_{i=1}^{n-1}\frac{y^{(i)}(a)}{i!}(x-a)^i+\frac{y^{(n)}(c)}{n!}(x-a)^n=\frac{k^ny(c)}{n!}(x-a)^n$$
と表せる. そして$y$が微分可能であることから連続であり, $x$と$a$の間で有界であることが分かる. 即ちある正の実数$M$が存在して$|y(c)|\leq M$が成り立つ. 従って
$$\begin{eqnarray*}|y(x)|&=&\left|\frac{k^ny(c)}{n!}(x-a)^n\right|\\&\leq&M\frac{|k(x-a)|^n}{n!}\end{eqnarray*}$$
が任意の自然数$n$に対して成り立つので$n\to\infty$として挟み撃ちの定理から$|y(x)|=0$. これは$y(x)=0$に他ならない.
そして, $y(a)=0$であったので常に$y=0$である. $\Box$
この結果から我々は安心して両辺を$y$で割ることができる. それは常に$y=0$といういわば, つまらない解を除いてしまえば他のすべては一度も$0$になりえないということによるものである.
$0$になりえないことの部分の証明は参考とする文献を見たことがないのでもしかしたらもっと容易で簡潔なものがあるかもしれない. また, この記事を書こうと思った目的は書きたかったからというのもあるが, この部分の証明が書かれているものを見たことがないので書いたというのもある.