可換環の準同型によって,定義域と値域のイデアルの間に対応関係が与えられます.
$f \colon A \to B$ を可換環の準同型とする.
(1) $B$ のイデアル $J$ に対し,逆像 $f^{-1}(J)$ を $J$ の($f$ による)縮小という.
(2) $A$ のイデアル $I$ に対し,像 $f(I)$ が生成する $B$ のイデアルを $I$ の($f$ による)拡大という.
イデアルの準同型による逆像は常にイデアルになりますが,像は一般にイデアルにはなりません.この差のゆえに,縮小は単に逆像で定義されるのに対し,拡大は生成するイデアルとしてしか定義できません.
準同型によるイデアルの像がイデアルとなる場合として,$f$ が全写像のときが挙げられます.環準同型 $f \colon A \to B$ が全写像ならば,任意の $A$ のイデアル $I$ の像 $f(I)$ は $B$ のイデアルになります.
2つの互いに対応する操作が与えられたとき,それらの合成との関係を調べたいものです.つまり,$A$ のイデアル $I$ を拡大して縮小したら,また $B$ のイデアル $J$ を縮小して拡大したらどうなるか見てみましょう.
$f \colon A \to B$ を環準同型とする.
(1) $A$ のイデアル $I$ に対し $IB \cap A \supset I$.
(2) $B$ のイデアル $J$ に対し $(J \cap A)B \subset J$.
これらの公式は,写像による逆像と像の関係 $f^{-1}(f(I)) \supset I$,$f(f^{-1}(J)) \subset J$ からほぼ直ちに導かれます.このような関係が容易に導かれたとき,逆の包含関係が気になるものです.
多項式環 $B = \C[T]$ の部分環 $A = \C[T^2, T^5]$ を考え,$f \colon A \to B$ を包含写像とする.このとき,以下が成り立つ:
(1) $A$ のイデアル $I = (T^2)$ に対し,$T^5 \in IB \cap A$ かつ $T^5 \not\in I$.
(2) $B$ のイデアル $J = (T)$ に対し,$T \not\in (J \cap A)B$ かつ $T \in J$.