$x$,$y$ を任意の 2 つの実数とする。
与えられた任意の正の実数 $\varepsilon$ に対し,自然数 $n$ を
\begin{align}
0&<\frac{1}{n}<\frac{1}{2(1+|p|+|q|)}\cdot\varepsilon
\end{align}
を満たすように取る。
有理数の集合は実数の集合において稠密であるから,$|x-p|<\frac{1}{n}$ かつ $|y-q|<\frac{1}{n}$ をみたす有理数 $p$,$q$ が存在する。
このとき,
\begin{align*}
|xy-yx|&=|(xy-pq)+(pq-yx)|\\
&\le |xy-pq|+|qp-yx|
\end{align*}
であるが,
\begin{align}
|xy-pq|&\le |(x-p)(y-q)+(x-p)q+p(y-q)|\\
&\le |x-p||y-q|+|x-p||q|+|p||y-q|\\
&<\frac{1}{n}\left(\frac{1}{n}+|q|+|p|\right)\\
&\le\frac{1+|p|+|q|}{n}
\end{align}
が成り立つ。
同様にして,
\begin{align}
|qp-yx|&\le |(q-y)(p-x)-(q-y)p-q(p-x)|\\
&\le |q-y||p-x|+|q-y||p|+|q||p-x|\\
&<\frac{1}{n}\left(\frac{1}{n}+|p|+|q|\right)\\
&\le\frac{1+|p|+|q|}{n}
\end{align}
を得る。
以上により,
\begin{align}
|xy-yx|&<2(1+|p|+|q|)\cdot\frac{1}{n}<2(1+|p|+|q|)\cdot\frac{1}{2(1+|p|+|q|)}\varepsilon=\varepsilon
\end{align}
となる。
すなわち,任意の正の実数 $\varepsilon$ に対して $|xy-yx|<\varepsilon$ が成り立つから,$xy=yx$ であることが示された。$\blacksquare$
まず,任意の実数 $x$ と任意の有理数 $p$ とが積に関して可換であることを示すことから始める方が取り組みやすいかもしれない。その際,$f(x):=px$,$g(x):=xp$ と定めると,$f$,$g$ は実数全体で連続であり,したがってそれらの差 $h(x):=f(x)-g(x)$ も連続で,しかも有理数の集合 $\mathbb{Q}$ 上で常に $0$ であるから,実数全体でも $h(x)\equiv 0$ となる,といった筋書きで証明できそうである。
いずれにせよ,実数の積の可換性を未知とする設定のため,絶対値に関する三角不等式などの不等式や,四則演算に関する他の法則,さらには数列や関数の極限の基本的な性質に関する,実数の積の可換性を一切用いない証明をあらかじめこしらえておかないと,どこかで論点先取の誤りを犯してしまいそうなため,この問のようにこの証明だけを切り出して証明問題として掲げるのは適切な演習問題とは言えないかもしれない。
ともかく,このような基本的な事柄を「証明」するのでさえ,細心の注意が要求される。なかなかに緊張感があるのみならず,極限に関する議論において,いかに多くの実数の性質を使用しているか,改めて認識することができるという点においては,むしろ良い演習問題と言うべきかもしれない。