有界な単調列は収束列であることを既知として,空でない上に有界な実数の部分集合は上限を持つことを示せ。
2 分探索法により上限の位置を特定するという方針で証明する。その際,区間縮小法を援用する。
空でない実数の部分集合 $A$ は上に有界であると仮定する。
$A$ の上界の集合は空でないから,その中から一つ要素 $b$ を選んで $b_1:=b$ とおく。また,$A$ の任意の要素 $a$ を一つ選び,それを $a_1:=a$ とおく。
ここで,もし幸運にして $b-a=0$ ならば,$a=\max A=\sup A=b$ ということだから,$A$ が上限を持つことが確定する。
不運にして $b-a>0$ だった場合については証明に続きがある。
いま,ある自然数 $n$ に対し,実数 $a_1,\cdots,a_n$;$b_1,\cdots,b_n$ が次の 4 つの条件をすべて満たすように定められていたと仮定する。
さて,$m:=\frac{a_n+b_n}{2}$ とおくと,この $m$ の値について次のいずれかが成り立つ。
Case 1: $m=\sup A$ である。
このときは不幸中の幸いで,上限を探す旅は終焉である。
Case 2: $m$ は $A$ の上界であるが,上限ではない。
このときは $a_{n+1}:=a_n$,$b_{n+1}:=m$ と定める。
Case 3: $m$ は $A$ の上界ではない。
このときは $a_{n+1}:=m$,$b_{n+1}:=b_n$ と定める。
Case 2 と Case 3 のいずれであっても,次の 4 つの性質がすべて満たされる。
・$a_1,\cdots,a_{n+1}$ はいずれも $A$ の上界でない。
・$b_1,\cdots,b_{n+1}$ はすべて $A$ の上界である。
・$a_1\le \cdots \le a_{n+1}$ かつ $b_1\ge \cdots\ge b_{n+1}$ である。
・各自然数 $k=1,\cdots,n+1$ について,$0< b_k-a_k\le\frac{b-a}{2^{k-1}}$ が成り立つ。
こうして,各自然数 $n$ に対して,不幸にしてことごとく Case 2 または Case 3 の場合しか起きなかったとしても,区間縮小法により,$(a_n)$ と $(b_n)$ は同一の極限値 $s$ に収束する。そして実は $s=\sup A$ であることを最後に示そう。
まず,任意の $a\in A$ および任意の自然数 $n$ に対して $a\le b_n$ が成り立つから,$(b_n)$ の極限値である $s$ についても $a\le s$ が成り立つ。
したがって $s$ は $A$ の上界である。
他方,$(a_n)$ も $s$ に収束するから,任意の正の実数 $\varepsilon$ に対して $a_N>s-\varepsilon$ を満たす自然数 $N$ が存在する。ところが $a_N$ は $A$ の上界ではないから,$a_N< a$ となる $a\in A$ が存在する。ゆえに,この $a$ について $a>s-\varepsilon$ が成り立つこととなり,$s=\sup A$ であることが確定する。$\blacksquare$
とどのつまり,実数の部分集合 $A$ の上界の集合を $\mathcal{U}(A)$ と記すことにすると,$A$ が空でなく上に有界ならば,ある実数 $s$ を用いて $\mathcal{U}(A)=[s,\infty)$ と表せるわけである。数直線上でこのような「区切り」を見出そうというのが解答で示した証明の基本方針であるが,$\mathcal{U}(A)$ とその補集合との境目に相当する「区切り」を「点」で探すだけでは,単調な数列を見出すことはできそうにない。そこで,数直線上で右にスライドしていく点 $a_n$ と,左にスライドしていく点 $b_n$ という 2 つの数列を用意し,両者の間隔を詰めていくことによって,両者は究極的に上限 $s$ という 1 点で邂逅するように仕向けるのである。このように左の壁と右の壁を別々に用意するという発想になかなかたどり着けなかったため,参考書を頼らずに自力でこの証明を思いつくには結構な時間がかかってしまった(なかなかうまくいかなくて数年間はほったらかしていた気がする)。
このように強力な「囲い込み」の論法である区間縮小法を思いついた先達は実に偉大であると感服する次第である。ただ,学部 1 年生の時に微分積分学の授業で初めてこの論法(有界な数列は収束する部分列を持つことの証明)を教わったときは,数列の構成法を述べるという証明のスタイルに馴染みがなかったせいか,あまり好きになれなかった記憶があるが,今ではすっかり手のひらを返して「区間縮小法」様様といったところで,大ファンである。