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正13角形が折り紙で作図できる理由(補足)

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正13角形が折り紙で作図できる理由の補足

本記事は、この動画の補足的な内容です。

折り紙で正十三角形が作図できて正十一角形が作図できない理由

この動画の後半に出てきた6次式を謎の手段で因数分解しているところを詳しく解説します。

動画内容のおさらい

折り紙による作図では3次方程式を解くことができます。別の言い方をすると、折り紙では平方根・立方根・四則演算の組み合わせで表せるものを作図することができます。
正13角形を作図するためには $\cos\frac{2\pi}{13}$ が作図できる(平方根・立方根・四則演算の組み合わせで表せる)必要があります。ここで任意の正奇数角形について成り立つ性質によって $$ \frac{1}{2} + \cos\frac{2\pi}{13} + \cos\frac{4\pi}{13} + \cos\frac{6\pi}{13} + \cos\frac{8\pi}{13} + \cos\frac{10\pi}{13} + \cos\frac{12\pi}{13} = 0 $$ が成り立つので、これを倍角の公式などを駆使して変形することで、上記6つのコサイン値の2倍($2\cos\frac{2\pi}{13}$など)を解に持つ6次方程式
$$ x^6 + x^5 - 5x^4 -4x^3 + 6x^2 + 3x - 1 = 0 $$ が立てられます。この6次方程式が2次方程式と3次方程式の組み合わせで解けるため、正13角形は折り紙で作図可能なのです。

折り紙の性質

折り紙による作図では3次方程式を解くことができる。

正奇数角形の性質

$1$以上の整数$n$について、正$(2n + 1)$角形の外角の大きさを$\theta = \frac{2\pi}{2n + 1}$ とすると、次が成り立つ。$$ \frac{1}{2} + \sum_{k=1}^n \cos k\theta = 0 $$

突如現れる2次方程式

$$ x^6 + x^5 - 5x^4 -4x^3 + 6x^2 + 3x - 1 = 0 $$ というわけで上の6次方程式を解けば$2\cos\frac{2\pi}{13}$が求められるわけですが、動画ではここで突如として謎の2次方程式が現れます。 $$ y^2 + y - 3 = 0 $$ この解を$\alpha, \beta$とすると、元の6次式が因数分解できてしまうのです。 $$ (x^3 - \alpha x^2 - x + \alpha - 1)(x^3 - \beta x^2 - x + \beta - 1) = 0 $$ 展開してみると元の6次方程式になることが確認できます。ではこの謎の2次方程式が何なのか、紐解いていきましょう。

謎の2次方程式の正体

まずは最初の式を思い出します。 $$ \frac{1}{2} + \cos\frac{2\pi}{13} + \cos\frac{4\pi}{13} + \cos\frac{6\pi}{13} + \cos\frac{8\pi}{13} + \cos\frac{10\pi}{13} + \cos\frac{12\pi}{13} = 0 $$ 少しゴチャゴチャしていて見にくいので、$\theta = \frac{2\pi}{13}$と置いて、ついでに全体を2倍します。 $$ 1 + 2\cos\theta + 2\cos 2\theta + 2\cos 3\theta + 2\cos 4\theta + 2\cos 5\theta + 2\cos 6\theta = 0 $$ 見やすくなりました。
次に、6つのコサイン値を3つずつに分けます$$ \begin{array}{l} \alpha = 2\cos\theta + 2\cos 3\theta + 2\cos 4\theta \\ \beta = 2\cos 2\theta + 2\cos 6\theta + 2\cos 5\theta \end{array} $$ 元の式より$\alpha + \beta = -1$ですが、コサインの和積の公式を使うことで$\alpha × \beta$も求めることができます。

和積の公式

$2\cos\theta\cos\varphi = \cos(\theta + \varphi) + \cos(\theta - \varphi)$

たとえば$\alpha$$\beta$の最初の項同士を掛けてみると、$$2\cos 2\theta × 2\cos\theta = 2(\cos(2\theta + \theta) + \cos(2\theta - \theta)) = 2\cos 3\theta + 2\cos \theta$$ となります。これを何度も繰り返していくと、 $$ \begin{eqnarray} \alpha\beta &=& (2\cos\theta + 2\cos 3\theta + 2\cos 4\theta)(2\cos 2\theta + 2\cos 6\theta + 2\cos 5\theta) \\ &=& 6(\cos\theta + \cos 2\theta + \cos 3\theta + \cos 4\theta + \cos 5\theta + \cos 6\theta) \\ &=& 3(\alpha + \beta) \\ &=& -3 \end{eqnarray} $$ となって$\alpha\beta$ の値が分かりました。

さて、$\alpha + \beta$$\alpha\beta$が分かったわけですが、これと同じ形をした値が出てくる定理がありましたね。
2次方程式の解と係数の関係です。

2次方程式の解と係数の関係

2次方程式$ax^2 + bx + c = 0$の2つの解を$\alpha, \beta$とすると、$$\begin{eqnarray} \alpha + \beta &=& -\frac{b}{a} \\ \alpha\beta &=& \frac{c}{a} \end{eqnarray}$$ が成り立つ。

$\alpha + \beta = -1$$\alpha\beta = -3$ が分かっているわけですから、あとは適当に$a = 1$とでもすれば、$\alpha, \beta$は次の2次方程式の解であることが分かります。 $$ y^2 + y - 3 = 0 $$ !!!!!!!!!
そうです!これこそが最初に出てきた謎の2次方程式です!!
つまり、謎の2次方程式は$(2\cos\theta + 2\cos 3\theta + 2\cos 4\theta)$$(2\cos 2\theta + 2\cos 6\theta + 2\cos 5\theta)$ を求めるために解いていたわけですね!!!
ちなみにコサインの大小関係を考えると$\alpha > \beta$であることが分かるので、$\alpha, \beta$は2次方程式を解いて次の値になります。$$ \alpha = \frac{-1 + \sqrt{13}}{2},\ \beta = \frac{-1 - \sqrt{13}}{2} $$

あれ?じゃぁなんで因数分解できるの?

……実を言うと、元の6次式を因数分解したわけではなく、同じ根を持つ2つの3次式が立てられたのでした(結果的には同じことですが)。
$\alpha = 2\cos\theta + 2\cos 3\theta + 2\cos 4\theta$$\beta = 2\cos 2\theta + 2\cos 6\theta + 2\cos 5\theta$ の値が分かると、3次方程式の解と係数の関係を使うことでそれぞれ$2\cos\theta, 2\cos 3\theta, 2\cos 4\theta$ を解とする3次方程式と $2\cos 2\theta, 2\cos 6\theta, 2\cos 5\theta$ を解とする3次方程式が立てられるようになるのです。

3次方程式の解と係数の関係

3次方程式$ax^3 + bx^2 + cx + d = 0$の3つの解を$\alpha, \beta, \gamma$とすると、$$\begin{eqnarray} \alpha + \beta + \gamma &=& -\frac{b}{a} \\ \alpha\beta + \beta\gamma + \gamma\alpha &=& \frac{c}{a} \\ \alpha\beta\gamma &=& -\frac{d}{a} \end{eqnarray}$$ が成り立つ。

$\alpha + \beta + \gamma$ に相当する値は分かっているので、あとは2次方程式の時と同じようにコサインの和積の公式を使って地道に計算していくことで、

  • $2\cos\theta, 2\cos 3\theta, 2\cos 4\theta$$x^3 - \alpha x^2 - x + \alpha - 1 = 0$の解である
  • $2\cos 2\theta, 2\cos 6\theta, 2\cos 5\theta$$x^3 - \beta x^2 - x + \beta - 1 = 0$の解である

ということが分かります。これを掛け合わせると冒頭の「因数分解された姿」になりますね。
ここまでで解く必要があったのは2次方程式と3次方程式だけですから、これらの値は折り紙で作図可能であることが分かります。

補足の補足

今回やった計算は、コサインの値をどのように分けても成り立つわけではありません。このような「都合のいい」コサイン値の分け方は$n$倍角ループになっています。正13角形の場合は$n=3$です。コサインの対称性や周期性に注意して考えると、$$ \begin{array}{l} \cos(3×3)\theta = \cos 9\theta = \cos(13 - 9)\theta = \cos 4\theta \\ \cos(4×3)\theta = \cos 12\theta = \cos(13 - 12)\theta = \cos \theta \end{array} $$ なので、$\cos\theta$ -3倍角→ $\cos 3\theta$ -3倍角→ $\cos 4\theta$ -3倍角→ $\cos\theta$ … でループになっているわけですね。

まとめ

めっちゃ大変ですね!!さすがに既に15分近くまで伸びた動画にこの内容まで組み込む勇気はありませんでした!
これと同じ方法で他の作図可能な正多角形のコサイン値を求めることができます。例えば正19角形は3つの7倍角ループに分けて3次方程式を解き、更に3つの3次方程式を立てて解くことができます。
そして、この方法でかの有名な正17角形が定規とコンパスで作図できることも証明できますので、興味がある方はぜひ挑戦してみてください!
(というか、正17角形の証明を参考にしてこの記事を書いたんですけどね)

投稿日:2020117

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投稿者

折り紙の数学って知ってる?

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