$M_3(\mathbb{R})$を$3$次実正方行列全体のなす実ベクトル空間とし,
\begin{align*}
A := \left(
\begin{array}{ccc}
1 & 3 & 3 \\
-3 & -5 & -3 \\
3 & 3 & 1
\end{array}
\right)
\end{align*}とする. $3$次実正方行列$A$に対して, $M_3(\mathbb{R})$の部分空間$W$を
\begin{align*}
W := \{X \in M_3(\mathbb{R})|AX = XA\}
\end{align*}で定める. このとき, $W$の次元を求めよ.
素朴に考えると, $AX=XA$の成分計算により, $X$の具体的な形がわかり, 次元が求められます. しかし, $AX=XA$の成分計算には$9$個の変数がでてきて複雑かつ面倒でとてもできません.
では, どうしましょうか?
ポイントは次の定理です.
$V, W$を有限次元$K$線形空間とする. このとき, 次の条件は同値である.
(1) $V \simeq W$.
(2) $\rm{dim}V = \rm{dim}W$.
この定理をどのように道具として頭の引き出しにいれとくかというと, 「ある空間の次元を調べたいとき, それと同型で簡単な空間を見つけて, その空間の次元を調べる」と解釈します.
では, $W$と同型で簡単な空間を見つけましょう. まず思い浮かぶのが, 線形代数の文脈で簡単にする典型的な操作は対角化ですね. $A$は対角化可能で, $^\exists P \in \textrm{GL}_n(\mathbb{R})$ $\textrm{s.t.}$
\begin{align*}
P^{-1}AP = \left(
\begin{array}{ccc}
1 & 0 & 0 \\
0 & -2 & 0 \\
0 & 0 & -2
\end{array}
\right) =: J
\end{align*}となります (典型問題(初級)なので省略).
$V := \{X \in M_3(\mathbb{R})|JX = XJ\}$とおくと,
\begin{align*}
AX=XA &\Leftrightarrow P^{-1}APP^{-1}XP=P^{-1}XPP^{-1}AP \\
&\Leftrightarrow JP^{-1}XP= P^{-1}XPJ
\end{align*}より, 線形同型写像$F:W \rightarrow V$が,
\begin{align*}
F(X)=P^{-1}XP
\end{align*}により定まります($F$の線形性と全単射性は典型問題(初級)なので省略).
$JX=XJ$の簡単な成分計算より,
\begin{align*}
X=\mathbb{R}E_{11}+\mathbb{R}E_{22}+\mathbb{R}E_{23}+\mathbb{R}E_{32}+\mathbb{R}E_{33}
\end{align*}となります. ただし, $E_{ij}$は$(i,j)$成分が$1$, それ以外の成分が$0$の$3$次正方行列.
したがって, $\rm{dim}W = \rm{dim}V = 5$となります.
$AX=XA \Leftrightarrow AX-XA=0$と変形します.
線形代数の文脈で$0$と言えば, カーネルですね.
線形写像$f:M_3(\mathbb{R}) \rightarrow M_3(\mathbb{R})$を$f(X) = AX-XA$で定めると, $W = \textrm{ker}f$となります.
よって, 問題は線形写像の核の次元を求めるという典型問題(中級)に帰着されました. 基底$E_{11}, \dots, E_{33}$に関する$f$の表現行列は面倒だが簡単な計算により,
\begin{align*}
A := \left(
\begin{array}{ccc}
0 & 3 & -3 & 3 & 0 & 0 & 3 & 0 & 0\\
-3 & 6 & -3 & 0 & 3 & 0 & 0 & 3 & 0 \\
-3 & 3 & 0 & 0 & 0 & 3 & 0 & 0 & 3\\
-3 & 0 & 0 & -6 & 3 & -3 & -3 & 0 & 0\\
0 & -3 & 0 & -3 & 0 & -3 & 0 & -3 &0\\
0&0&-3&-3&3&-6&0&0&-3\\
3&0&0&3&0&0&0&3&-3\\
0&3&0&0&3&0&-3&6&-3&\\
0&0&3&0&0&3&-3&3&0 \\
\end{array}
\right)
\end{align*}となります. $A$の行基本変形より, $\textrm{rank}A = 4$(面倒なので計算ソフトを使った).
したがって, $\textrm{dim}W = \textrm{dim}\textrm{ker}f = \textrm{dimker}A = \textrm{dim}\mathbb{R}^9 - \textrm{rank}A = 5$
さて, 今回の問題はいかがでしたか?
実はこのパターンの問題は様々な大学院の院試に出題されています.
平成30年度東大数理科学院試基礎大問5
平成29年度東北大学大学院理学研究科数学専攻共通問題大問1
平成27年度東北大学大学院理学研究科数学専攻共通問題大問1
平成23年度大阪大学大学院理学研究科数学専攻数学問題A大問1
平成29年度東京工業大学大学院理学院数学系午前大問1
この機会に確実に得点源にしましょう.
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