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k-ナッチ数とペル方程式

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はじめに

 この記事ではk-ナッチ数の性質についてペル方程式の視点から私なりに考察した結果を紹介します。
 ペル方程式とはx2Ny2=±1という形の不定方程式のことを言うのでした。
 そしてフィボナッチ数Fnとリュカ数Lnはペル方程式
(Ln2)25(Fn2)2=(1)n
を満たします。このような関係はk-ナッチ数についても言えるのでしょうか。

フィボナッチ数とペル方程式

 まずフィボナッチ数とペル方程式の関係についてのカラクリを紐解いていきましょう。
 フィボナッチ数とリュカ数は方程式x2x1=0の解x=φ,φ(φは黄金比)によって
Fn=φnφn5,Ln=φn+φn
と書けるのでした。逆にこれをφn,φnについて解くと
φn=Ln+5Fn2,φn=Ln5Fn2
と表せます。そして解と係数の関係からφφ=1であるので
(1)n=φnφn=Ln+5Fn2Ln5Fn2=Ln25Fn24
という関係が得られます。
 ここで重要なのはφφ=1という事実です。これはφZ[φ]の単数であることを意味しています。そしてペル方程式
±1=x2Ny2=(x+Ny)(xNy)
を解くことはZ[N]の単数を求めることに他なりません。
 上ではZ[5]におけるペル方程式の形になっていますがこれをZ[φ]における形
±1=(x+φy)(x+φy)=x2xyy2
に直してみましょう。まず簡単な議論によってφnはフィボナッチ数Fn,Fn+1によって
φn=(φ1)Fn+Fn+1
と表せることがわかります。つまり(φ1)Fn+Fn+1Z[φ]の単数となるわけです。これをペル方程式の形に直すと
(1)n=φnφn=((φ1)Fn+Fn+1)((φ1)Fn+Fn+1)=Fn2FnFn+1+Fn+12
となります。これが本質的にフィボナッチ数が満たすペル方程式と言えるでしょう。
 ちなみに最初の式は二次形式の標準化によって
Fn2FnFn+1+Fn+12=(2Fn+1Fn2)25(Fn2)2
と変形したものもしくは
2((φ1)Fn+Fn+1)=(2φ1)Fn+(2Fn+1Fn)
と変形したものになります(Ln=2Fn+1Fnに注意する)。

一般化

 さて先の節ではペル方程式x2Ny2=±1とはZ[N]の単数を求める問題に等しいという話をした。ペル方程式の一般化にはZ[Nk]の単数を求める方程式、例えばk=3のときは
(x+N3y+N23z)(x+N3ζ3y+N23ζ32z)(x+N3ζ32y+N23ζ3z)=x3+Ny3+N2z33Nxyz=±1
といったものも考えられているが、ここでは代数的整数αに対してZ[α]の単数を求める方程式のことをペル方程式と呼ぶことにしよう。
 なぜZ[Nk]のペル方程式ではダメなのかと言うとk=3のときx3x2x1=0の解の一つα
α=1+193333+19+33333
であるように全く冪根の形をしていないためである。
 ではk-ナッチ数はどのようなペル方程式を満たすのか考えてみよう。
 いま方程式
xkj=0k1xj=0
の解α=α1,α2,,αkに対しαnk-ナッチ数Fn[k]を用いて
αn=l=0k1(αk1li=0k2lαi)Fn+l[k]
と表せる( この記事 の定理3参照)。そして解と係数の関係からj=1kαj=(1)k1が成り立つので
j=1kαjn=(1)(k1)n=j=1k(l=0k1(αjk1li=0k2lαji)Fn+l[k])
という関係式が得られる。
 これがk-ナッチ数の満たすペル方程式と言えるだろう(どう整数係数の形に表せるかはまだ考察していない)。

トリボナッチ数とペル方程式

 ひとまず一般のkについての話はおいといて、以下ではk=3のときを考えていこう。
 このときトリボナッチ数Tnの満たすペル方程式は以下のようになる。
j=13((αj2αj1)Tn+(αj1)Tn+1+Tn+2)=1
これを頑張って展開すると
Tn3+2Tn+13+Tn+23+2Tn2Tn+1+Tn2Tn+2+2TnTn+12TnTn+222Tn+1Tn+222TnTn+1Tn+2=1
となる。
 ところで私がk-ナッチ数の満たすペル方程式を考え始めたのは「フィボナッチ数にはリュカ数という伴侶がいる」という言葉を耳にして「ならばk-ナッチ数にはk-リュカ数以外にもk2人の伴侶がいるはずだ」と思い立ってのことでした。そこでk個の未知数からなるペル方程式に目を付けたわけです。
 そんなわけでまずトリボナッチ数の満たすペル方程式がトリボナッチ数と3-リュカ数ともう一人の伴侶(?)によってどう表現できるのか考えてみました。
 まずフィボナッチ数で
2((φ1)Fn+Fn+1)=(2φ1)Fn+(2Fn+1Fn)=(2φ1)Fn+Ln
と変形したようにトリボナッチ数でも同じことを考えてみましたが
3((α2α1)Tn+(α1)Tn+1+Tn+2)=(3α22α1)Tn(α+1)Tn+(3α1)Tn+1+(3Tn+22Tn+1Fn)=(3α22α1)Tn+Ln[3](α+1)Tn+(3α1)Tn+1
とまとまらない項(α+1)Tn+(3α1)Tn+1が出てきてうまくいかなさそうでした。
 もしくはFnの係数を3α22α1にこだわらなければ
3((α2α1)Tn+(α1)Tn+1+Tn+2)=3(α21)Tn+(3α1)(Tn+1Tn)+(3Tn+22Tn+1Tn)
と変形できるのでTn=Tn+1Tnとおくと
j=13(3(αj21)Tn+(3αj1)Tn+Ln[3])=108Tn3+38(Tn)3+(Ln[3])3+144Tn2Tn36Tn2Ln[3]+108(Tn)2Tn12(Tn)2Ln[3]54TnTnLn[3]=27
となった。
 一応(Ln[3])2Tn,(Ln[3])2Tnの項が消えているという点ではまとまっているとは言えなくもないですが、まだごちゃごちゃしている気がします。
 ついでに((x3x2x1)=2(3x1)に起因されて)Tn=3Tn+1Tnとしたらうまくいかないか考えてみると
32((α2α1)Tn+(α1)Tn+1+Tn+2)=(9α26α7)Tn+(3α1)(3Tn+1Tn)+3(3Tn+22Tn+1Tn)
と変形できるので
j=13((9αj26αj7)Tn+(3αj1)Tn+3Ln[3])=1316Tn3+38(Tn)3+27(Ln[3])3+456Tn2Tn144Tn2Ln[3]+96(Tn)2Tn36(Tn)2Ln[3]342TnTnLn[3]=36
となる。
 こうなると(Ln[3])2Tn,(Ln[3])2Tnの項が消えているという共通点こそあれど係数が大きくなっていよいよ何が何だかという感じですね。

まとめ

 上で考えてきたようにトリボナッチ数のもう一人の伴侶はTn=Tn+1TnなのかTn=3Tn+1Tnなのかはたまた全く違う数列なのか、そしてk-ナッチ数の伴侶たちはどう一般化されるのか(そもそもk-リュカ数はk-ナッチ数の伴侶なのか?!)、といった問題はまだまだ謎のままですが私の考察は以上になります。
 なにか面白いアイデアが浮かんだ人はぜひコメントなり記事なりに残していってください。

投稿日:2021211
更新日:2024514
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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