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k-ナッチ数とペル方程式

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{g}[0]{\varphi} \newcommand{gg}[0]{\overline{\varphi}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{z}[0]{\zeta_3} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

はじめに

この記事では$k$-ナッチ数の性質についてペル方程式の視点から私なりに考察した結果を紹介します。

ペル方程式とは$x^2-Ny^2=\pm1$という形の不定方程式のことを言うのでした。
そしてフィボナッチ数$F_n$とリュカ数$L_n$はペル方程式
$\dis\l(\farc{L_n}{2}\r)^2-5\l(\frac{F_n}{2}\r)^2=(-1)^n$
を満たします。このような関係は$k$-ナッチ数についても言えるのでしょうか。

フィボナッチ数とペル方程式

まずフィボナッチ数とペル方程式の関係についてのカラクリを紐解いていきましょう。
フィボナッチ数とリュカ数は方程式$x^2-x-1=0$の解$x=\g,\gg$($\g$は黄金比)によって
$\dis F_n=\frac{\g^n-\gg^n}{\sqrt{5}},\quad L_n=\g^n+\gg^n$
と書けるのでした。逆にこれを$\g^n,\gg^n$について解くと
$\dis\g^n=\frac{L_n+\sqrt{5}F_n}{2},\quad\gg^n=\frac{L_n-\sqrt{5}F_n}{2}$
と表せれます。そして解と係数の関係から$\g\gg=-1$であるので
$\dis\g^n\gg^n=(-1)^n=(\frac{L_n+\sqrt{5}F_n}{2})(\frac{L_n-\sqrt{5}F_n}{2})=\farc{L_n^2-5F_n^2}{4}$
という関係が得られます。

ここで重要なのは$\g\gg=-1$という事実です。これは$\g$$\Z[\g]$の単数であることを意味しています。
そしてペル方程式$x^2-Ny^2=(x+\sqrt{N}y)(x-\sqrt{N}y)=\pm1$を解くことは$\Z[\sqrt{N}]$の単数を求めることに他なりません。

上では$\Z[\g]$ではなく$\Z[\sqrt{5}]$におけるペル方程式の形になっていますがこれを$\Z[\g]$における形に直してみましょう。
まず簡単な議論によって$\g^n$はフィボナッチ数$F_n,F_{n+1}$によって
$\g^n=(\g-1)F_n+F_{n+1}$
と表せれることがわかります。つまり$(\g-1)F_n+F_{n+1}$$\Z[\g]$の単数となるわけです。これをペル方程式の形に直すと
$\g^n\gg^n=(-1)^n=((\g-1)F_n+F_{n+1})((\gg-1)F_n+F_{n+1})=-F_n^2-F_nF_{n+1}+F_{n+1}^2$
となります。これが本質的にフィボナッチ数が満たすペル方程式と言えるでしょう。

ちなみに最初の式は二次形式の標準化によって
$\dis-F_n^2-F_nF_{n+1}+F_{n+1}^2=\l(\frac{2F_{n+1}-F_n}{2}\r)^2-5\l(\frac{F_n}{2}\r)^2$
と変形したものもしくは
$2((\g-1)F_n+F_{n+1})=(2\g-1)F_n+(2F_{n+1}-F_n)$
と変形したものになります。($L_n=2F_{n+1}-F_n$に注意する。)

一般化

さて先の節ではペル方程式$x^2-Ny^2=\pm1$とは$\Z[\sqrt{N}]$の単数を求める問題に等しいという話をした。ペル方程式の一般化には$\Z[\sqrt[k]{N}]$の単数を求める方程式、例えば$k=3$のときは
$(x+\sqrt[3]{N}y+\sqrt[3]{N^2}z)(x+\sqrt[3]{N}\z y+\sqrt[3]{N^2}\z^2z)(x+\sqrt[3]{N}\z^2y+\sqrt[3]{N^2}\z z) \\=x^3+Ny^3+N^2z^3-3Nxyz=\pm1$
といったものも考えられているが、ここでは代数的整数$\a$に対して$\Z[\a]$の単数を求める方程式のことをペル方程式と呼ぶことにしよう。

なぜ$\Z[\sqrt[k]{N}]$のペル方程式ではダメなのかと言うと$k=3$のとき$x^3-x^2-x-1=0$の解の一つ$\a$
$\dis\a=\farc{1+\sqrt[3]{19-3\sqrt{33}}+\sqrt[3]{19+3\sqrt{33}}}{3}$
であるように全く冪根の形をしていないためである。

では$k$-ナッチ数はどのようなペル方程式を満たすのか考えてみよう。
方程式$x^k-\sum^{k-1}_{j=0}x^j=0$の解$x=\a_1,\a_2,\ldots,\a_k$を任意に一つ選び$\a$とおく。
このとき この記事 の定理3として紹介したように$\a^n$$k$-ナッチ数$F_n^{[k]}$を用いて
$\dis\a^n=\sum^{k-1}_{l=0}(\a^{k-1-l}-\sum^{k-2-l}_{i=0}\a^i)F_{n+l}^{[k]}$
と表せれる。そして解と係数の関係から$\prod^k_{j=1}\a_j=(-1)^{k-1}$が成り立つので
$\dis\prod^k_{j=1}\a_j^n=(-1)^{(k-1)n}=\prod^k_{j=1}\l(\sum^{k-1}_{l=0}(\a^{k-1-l}_j-\sum^{k-2-l}_{i=0}\a_j^i)F_{n+l}^{[k]}\r)$
という関係式が得られる。これが$k$-ナッチ数の満たす($\Z[\a]$の)ペル方程式と言えるだろう。
(どう整数係数の形に表せれるかはまだ考察していない。)

トリボナッチ数とペル方程式

ひとまず一般の$k$についての話はおいといて、以下では$k=3$のときを考えていこう。
このときトリボナッチ数$T_n$の満たすペル方程式は以下のようになる。
$\dis\prod^3_{j=1}((\a_j^2-\a_j-1)T_n+(\a_j-1)T_{n+1}+T_{n+2})=1$
これを頑張って展開すると
$T_n^3+2T_{n+1}^3+T_{n+2}^3+2T_n^2T_{n+1}+T_n^2T_{n+2}+2T_nT_{n+1}^2-T_nT_{n+2}^2-2T_{n+1}T_{n+2}^2-2T_nT_{n+1}T_{n+2}=1$
となる。(実際にpythonで計算させてみたところ確かに成り立っていることは確認できた。)

ところで私が$k$-ナッチ数の満たすペル方程式を考え始めたのは「フィボナッチ数にはリュカ数という伴侶がいる」という言葉を耳にして「ならば$k$-ナッチ数には$k$-リュカ数以外にも$k-2$人の伴侶がいるはずだ」と思い立ってのことでした。そこで$k$個の未知数からなるペル方程式に目を付けたわけです。
 そんなわけでまずトリボナッチ数の満たすペル方程式がトリボナッチ数と3-リュカ数ともう一人の伴侶(?)によってどう表現できるのか考えてみました。
まずフィボナッチ数で
$2((\g-1)F_n+F_{n+1})=(2\g-1)F_n+(2F_{n+1}-F_n)=(2\g-1)F_n+L_n$
と変形したようにトリボナッチ数でも同じことを考えてみましたが
$3((\a^2-\a-1)T_n+(\a-1)T_{n+1}+T_{n+2}) \\=(3\a^2-2\a-1)T_n-(\a+1)T_n+(3\a-1)T_{n+1}+(3T_{n+2}-2T_{n+1}-F_n) \\=(3\a^2-2\a-1)T_n+L_n^{[3]}-(\a+1)T_n+(3\a-1)T_{n+1}$
とまとまらない項$-(\a+1)T_n+(3\a-1)T_{n+1}$が出てきてうまくいかなさそうでした。

もしくは$F_n$の係数を$3\a^2-2\a-1$にこだわらなければ
$3((\a^2-\a-1)T_n+(\a-1)T_{n+1}+T_{n+2}) \\=3(\a^2-1)T_n+(3\a-1)(T_{n+1}-T_n)+(3T_{n+2}-2T_{n+1}-T_n)$
と変形できるので$T'_n=T_{n+1}-T_n$とおくと
$\dis\prod^3_{j=1}(3(\a_j^2-1)T_n+(3\a_j-1)T'_n+L_n^{[3]}) \\=108T_n^3+38(T'_n)^3+(L_n^{[3]})^3 +144T_n^2T'_n-36T_n^2L_n^{[3]} +108(T'_n)^2T_n-12(T'_n)^2L_n^{[3]} -54T_nT'_nL_n^{[3]}=27$
となった。(これも検算済み)
一応$(L_n^{[3]})^2T_n,(L_n^{[3]})^2T'_n$の項が消えているという点ではまとまっているとは言えなくもないがまだごちゃごちゃしている気がします。

ついでに($(x^3-x^2-x-1)''=2(3x-1)$に起因されて)$T'_n=3T_{n+1}-T_n$としたらうまくいかないか考えてみると
$3^2((\a^2-\a-1)T_n+(\a-1)T_{n+1}+T_{n+2}) \\=(9\a^2-6\a-7)T_n+(3\a-1)(3T_{n+1}-T_n)+3(3T_{n+2}-2T_{n+1}-T_n)$
と変形できるので
$\dis\prod^3_{j=1}((9\a_j^2-6\a_j-7)T_n+(3\a_j-1)T'_n+3L_n^{[3]}) \\=1316T_n^3+38(T'_n)^3+27(L_n^{[3]})^3 +456T_n^2T_n'-144T_n^2L_n^{[3]} +96(T'_n)^2T_n-36(T'_n)^2L_n^{[3]} -342T_nT'_nL_n^{[3]}=3^6$
となる。(例によって検算済み)
こうなると$(L_n^{[3]})^2T_n,(L_n^{[3]})^2T'_n$の項が消えているという共通点こそあれど係数が大きくなっていよいよ何が何だかという感じですね。

まとめ

上で考えてきたようにトリボナッチ数のもう一人の伴侶は$T'_n=T_{n+1}-T_n$なのか$T'_n=3T_{n+1}-T_n$なのかはたまた全く違う数列なのか、そして$k$-ナッチ数の伴侶たちはどう一般化されるのか(そもそも$k$-リュカ数は$k$-ナッチ数の伴侶なのか?!)、といった問題はまだまだ謎のままですが私の考察は以上になります。
 なにか面白いアイデアが浮かんだ人はぜひコメントなり記事なりに残していってください。

投稿日:2021211

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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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