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大学数学基礎解説
文献あり

重解のない固有方程式を持つ数列の行列表現とその成分

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はじめに

 この記事では重解を持たない固有方程式f(x)=0を持つ数列anの行列による表現をその各成分まで具体的に求めます。

定義と主張

 まず色々と言葉と記号を定めておきます。

数列の固有方程式

 定数係数の線形漸化式
an+k=ck1an+k1+ck2an+k2++c0an
を満たす数列anに対し固有多項式f(x)
f(x)=xkck1xk1ck2xk2c0
と定め、固有多項式f(x)についての方程式f(x)=0anの固有方程式と言う。

 上のような数列anに対しk次正方行列M
MT=(010000100001c0c1c2ck1)
(ATは行列の転置)と定めるとMの固有多項式det(xIM)anの固有多項式f(x)に等しく、また
an=(anan+1an+k1)T
とおくとanの漸化式はan+1=MTanと表現できる。

 いま
an=MTan1=(MT)na0
よりana0Mnの値によって定まるので、以下Mnの計算に焦点を当てていきます。
 ここで{an}の固有方程式が重解を持たない、つまりその解x=α1,α2,,αkがそれぞれ異なるものとすると以下が成り立ちます。

P=(1α1α1k11α2α2k11αkαkk1),D=(α1α2αk)
とおくと
P1=(l=0i1clαjlif(αj))1i,jk,Mn=P1DnP
が成り立つ。

 そしてP1DnPを実際に計算することで以下の公式が得られます。

An=m=1kαmnf(αm)
とおくと
(Mn)i,j=l=0i1ci1lAn+jl2
が成り立つ。

 この系として apu_yokai 氏が こちらの記事 で提起していた予想が解決されます。

 g(x)を多項式とし
An=m=1kαmnf(αm)g(αm)
とおくと
(g(M))i,j=l=0i1ci1lAjl2
が成り立つ。
 特にc0=c1==ck1=1において
(Mn)i,j=l=0i1Fn+jl2[k],(f(M))i,j=l=0i1Ljl2[k]
が成り立つ。

 g(x)=xnとおくとAjl2=An+jl2なので定理3はこの系に埋め込まれることになります。
 またan=((Mn)Ta0)1=i=1k(Mn)i,1ai1および
(Mn)i,1=l=0i1ci1lAnl1=An+kil=0ki1ci+lAn+l
から以下のように{an}の一般項が求まります。

an=l=0k1(i=lk1cilai)Anl1=l=0k1(ak1li=l+1k1ciail1)An+l
が成り立つ。

 ちなみに定理3をn=0において適応し(k,j)成分を比較すると漸化式から
(M0)k,j=(I)k,j=l=0k1clAj1k+l=Aj1
となるのでAnの一般項を漸化式で表すと以下のようになります。

 {An}は漸化式
{An=0(0nk2)An=1(n=k1)An+k=j=0k1cjAn+j(n0)
によって定まる。

 Anは定理3で示した定義では扱いづらいですがこうやって漸化式で表すと色々と便利です。特にcjの取り方によらず初項が同じというのは扱いやすい事実ですね。

定理2の証明

 MTの固有値α=α1,α2,,αkに対する固有ベクトルを考える。
αIMT=(α100α0c0c1αck1)
の第k行に第1行のc0α倍を足し、また第2行のc1α+c0α2倍を足し、第3行のc2α2+c1α+c0α3倍を足し、...と掃き出していくことで最終的に(k,k)成分は
αck1αk1+ck2αk2++c0αk1=ααkαk1=0
となる。そしてその状態からさらに掃き出していくことでαIMTの簡約化
(1001αk10101αk20011α0000)
を得る。すなわちαに対する固有ベクトルは
(1ααk2αk1)T
と取れるので
P=(1α1α1k11α2α2k11αkαkk1),D=(α1α2αk)
とおくと対角化の理論から
(PT)1(MT)nPT=Dn
ひいては
PMnP1=Dn
が成り立つことになる(ちなみに{an}の固有方程式が重解を持つときはPが正則にならないので広義固有空間Ker(αIM)mの基底を考える必要が出てくる)。
 そしてPα1,α2,,αkについてのヴァンデルモンド行列なので この記事 で解説したようにその逆行列は
P1=(l=0i1clαjlif(αj))1i,jk
と求まることがわかる。

定理3の証明

 いま
DnP=(αin+j1)1i,jk
に注意すると
(Mn)i,j=m=1k(P1)i,m(DnP)m,j=m=1kl=0i1clαmlif(αm)αmn+j1=l=0i1clAn+li+j1=l=0i1ci1lAn+jl2
と計算できる。

定理3系の証明

 いまg(x)=t=0dCtxtとおくと
(g(M))i,j=t=0dCt(Mt)i,j=t=0dCtm=1kl=0i1clαmlif(αm)αmt+j1=l=0i1clm=1kαmj+li1f(αm)t=0dCtαmt=l=0i1ci1lm=1kαmjl2f(αm)g(αm)=l=0i1ci1lAjl2
と計算できる。

参考文献

投稿日:2021131
更新日:2024513
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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