この記事では超越数論におけるリンデマン・ワイエルシュトラスの定理について解説していきます。
互いに異なる代数的数$\a_1,\a_2,\ldots,\a_n$に対し$e^{\a_1},e^{\a_2},\ldots,e^{\a_n}$は$\ol\Q$上線形独立となる。
この定理において選ぶ代数的数のひとつを$\a_0=0$とすると$0$でない任意の代数的数$c_0,c_1,c_2,\ldots,c_n$に対して
$$c_1e^{\a_1}+c_2e^{\a_2}+\cdots+c_ne^{\a_n}\neq c_0e^0=c_0$$
つまり
$$c_1e^{\a_1}+c_2e^{\a_2}+\cdots+c_ne^{\a_n}\not\in\ol\Q$$
が言えるのでこの定理から無数に超越数を得ることができます。
ちなみにリンデマン・ワイエルシュトラスの定理は言わば指数関数に対する超越性についての定理となりますが、その対数関数版としてベイカーの定理というものがあります(証明はせきゅーんさんの記事などを参照されたい)。
$0$でない代数的数$\a_1,\a_2,\ldots,\a_n$に対し$\log\a_1,\log\a_2,\ldots,\log\a_n$が$\Q$上線形独立であれば$1,\log\a_1,\log\a_2,\ldots,\log\a_n$は$\ol\Q$上線形独立である。
リンデマン・ワイエルシュトラスの定理では
$$c_1e^{\a_1}+c_2e^{\a_2}+\cdots+c_ne^{\a_n}$$
という形の超越数が作れるのに対し、ベイカーの定理では
$$\a_1^{c_1}\a_2^{c_2}\cdots\a_n^{c_n}$$
という形の超越数が作れるので個人的に前者は和についての、後者は積についての定理というイメージが強いです。
まず初めに所望の性質より弱い以下の主張を示す。
それぞれ異なる最小多項式を持つ代数的数$\g_k\;(k=1,2,\ldots,r)$について、それぞれの共役元全体を$\g_{k,j}\;(1\leq k\leq r,\;1\leq j\leq m_k)$とおくと
$$\sum^{m_k}_{j=1}e^{\g_{k,j}}\quad(k=1,2,\ldots,r)$$
は$\Q$上線形独立となる。
ある$0$でない整数$c_k\;(k=1,2,\ldots,r)$に対し$$\sum^r_{k=1}c_k\sum^{m_k}_{j=1}e^{\g_{k,j}}=0$$
が成り立つと仮定して矛盾を導く。
以下簡単のため$\g_{k,j}$にそれぞれ番号を付け$\a_i\;(i=1,2,\ldots,n,\;n=\sum^r_{k=1}m_k)$とし、対応する$c_k$を$\b_i$とおく。このとき仮定は
$$\sum^n_{k=1}\b_ke^{\a_k}=0$$
と表せる。
また$l$を$l\a_k\;(k=1,2,\ldots,r)$が全て代数的整数となるような正整数、$p$を任意の素数とし
\begin{align}
f_i(x)&=\frac{l^{np-1}}{(p-1)!(x-\a_i)}\l(\prod^n_{k=1}(x-\a_k)\r)^p\\
I_i(s)&=\int^s_0e^{s-x}f_i(x)dx\\
J_i&=\sum^n_{k=1}\b_kI_i(\a_k)\\
J&=\prod^n_{i=1}J_i
\end{align}
とおく。
$J$は整数となる。
$f_i$の次数は$np-1$、つまり$f^{(np)}_i(x)=0$が成り立つことに注意すると
$$I_i(s)=\l[-e^{s-x}\sum^{np-1}_{j=0}f^{(j)}_i(x)\r]^s_0
=-\sum^{np-1}_{j=0}f^{(j)}_i(s)+e^s\sum^{np-1}_{j=0}f^{(j)}_i(0)$$
と求まるので仮定より
\begin{align}
J_i
&=-\sum^n_{k=1}\sum^{np-1}_{j=0}\b_kf^{(j)}_i(\a_k)
+\l(\sum^n_{k=1}\b_ke^{\a_k}\r)\l(\sum^{np-1}_{j=0}f^{(j)}_i(0)\r)\\
&=-\sum^n_{k=1}\sum^{np-1}_{j=0}\b_kf^{(j)}_i(\a_k)
\end{align}
となる。ここで
$$f_i(x)=\frac{1}{(p-1)!(lx-l\a_i)}\l(\prod^n_{k=1}(lx-l\a_k)\r)^p$$
および$j< p$において
$$f_i^{(j)}(\a_k)=
\l\{\begin{array}{ll}
\l(\prod_{m\neq i}(l\a_i-l\a_m)\r)^p&j=p-1\;\mathrm{and}\;i=k\\
0&\mathrm{otherwise.}
\end{array}\r.$$
であることに注意すると$J$は代数的整数$l\a_k\;(k=1,2,\ldots,n)$についての整数係数の対称式となることがわかるので$\a_k$の取り方から$J$は整数となる。
十分大きい任意の$p$に対して$J\neq0$が成り立つ。
$j\geq p$において$f^{(j)}_i(\a_k)\in p\ol\Z$となることおよび
$$J_i=-f^{(p-1)}_i(\a_i)-\sum^n_{k=1}\sum^{np-1}_{j=p}\b_kf^{(j)}_i(\a_k)$$
に注意して
$$G=(-1)^n\prod^n_{i=1}f^{(p-1)}_i(\a_i)$$
とおくと$J=G+pH$なる代数的整数$H$が存在することがわかる。
また対称性より$G$は整数なので$H$も有理数、特に整数となる。ここで$p$を十分大きくとって
$$\l|\prod^n_{i=1}\prod_{m\neq i}(l\a_i-l\a_m)\r|< p$$
とすると$\prod^n_{i=1}\prod_{m\neq i}(l\a_i-l\a_m)$も整数であることから
$$G=(-1)^n\l(\prod^n_{i=1}\prod_{m\neq i}(l\a_i-l\a_m)\r)^p\not\equiv0\pmod{p}$$
つまり$J\equiv G\not\equiv0\pmod{p}$特に$J\neq0$を得る。
いま$\dis A=\max_k|\a_k|,B=\max_k|\b_k|$とおくと
\begin{align}
|I_i(\a_k)|
&=\l|\int^{\a_k}_0e^{\a_k-x}f_i(x)dx\r|\\
&\leq|\a_k|e^{|\a_k|}\frac{l^{np-1}}{(p-1)!(|\a_k|+|\a_i|)}\l(\prod^n_{j=1}(|\a_k|+|\a_j|)\r)^p\\
&\leq\frac{Ae^A(2Al)^{np-1}}{(p-1)!}
\end{align}
と評価できるので
$$|J|=\l|\prod^n_{i=1}\sum^n_{k=1}\b_kI_i(\a_k)\r|\leq\l(\frac{nABe^A(2Al)^{np-1}}{(p-1)!}\r)^n$$
となる。この右辺は$p\to\infty$において$0$に収束するので$p$を十分大きくとると$|J|<1$とできる。しかし補題4,5により$|J|$は$0$より大きい自然数、特に$1$以上であることに矛盾。よって主張を得る。
次に命題3を用いてより強い以下の主張を示す。
互いに異なる代数的数$\a_1,\a_2,\ldots,\a_n$に対し$e^{\a_1},e^{\a_2},\ldots,e^{\a_n}$は$\Q$上線形独立となる。
今回もある$0$でない整数$c_1,c_2,\ldots,c_n$に対し
$$\sum^n_{k=1}c_ke^{\a_k}=0$$
が成り立つと仮定して矛盾を導く。
まず$\a_k$の共役元全体を$\a_{k,j}\;(j=1,2,\ldots,m_k)$とおき、それらに番号を付けることで改めて$\a_k\;(k=1,2,\ldots,N,\;N=\sum^n_{k=1}m_k)$とする。このとき仮定から
$$\prod_{\s}\l(\sum^n_{k=1}c_ke^{\a_{\s(k)}}\r)=0$$
が成り立つ。ただし$\s$は$\{1,2,\ldots,N\}$上の置換全体を渡る。
いま仮定の左辺
$$\prod_{\s}\l(\sum^n_{k=1}c_ke^{\a_{\s(k)}}\r)$$
を展開したときの$e^{\sum^N_{k=1}h_k\a_k}\;$($h_k$は非負整数)の係数と任意の置換$\s$に対する$e^{\sum^N_{k=1}h_{\s(k)}\a_k}$の係数は等しく、また
$$f(x)=\prod_{\s}\l(x-\sum^N_{k=1}h_{\s(k)}\a_k\r)$$
とおくと対称性より$f(x)$は有理数係数となるので$\sum^N_{k=1}h_k\a_k$の共役元は$\sum^N_{k=1}h_{\s(k)}\a_k$の形で尽くされることになり、係数が等しい項をまとめることで
$$\prod_{\s}\l(\sum^n_{k=1}c_ke^{\a_{\s(k)}}\r)=\sum^r_{k=1}C_k\sum^{m'_k}_{j=1}e^{\g_{k,j}}$$
とおくと仮定よりこれは$0$に等しいので命題3から$C_1=C_2=\cdots=C_r=0$でなければならない。
しかし各$\s$に対して$\a_{\s(k)}\;(k=1,2,\ldots,n)$のうち実部が最大のものの中で虚部が最大のものを$\a_{k_\s}$とおくと$e^{\sum_\s\a_{k_\s}}$の係数は
$$\prod_\s c_{k_\s}\neq0$$
であるので矛盾。よって主張を得る。
最後に命題6を用いてリンデマン・ワイエルシュトラスの定理を得る。
互いに異なる代数的数$\a_1,\a_2,\ldots,\a_n$に対し$e^{\a_1},e^{\a_2},\ldots,e^{\a_n}$は$\ol\Q$上線形独立となる。
今回もまたある$0$でない代数的数$c_1,c_2,\ldots,c_n$に対し
$$\sum^n_{k=1}c_ke^{\a_k}=0$$
が成り立つと仮定して矛盾を導く。
例のごとく$c_k$の共役元全体を$c_{k,j}\;(j=1,2,\ldots,m_k)$とおく。
自然数$k\;(1\leq k\leq n)$に対して$\{1,2,\ldots,m_k\}$の元を写す写像全体を$S$とし、
$$P(x_1,x_2,\ldots,x_n)=\prod_{\s\in S}\l(\sum^n_{k=1}c_{k,\s(k)}x_k\r)$$
とおくと、対称性より$P$は有理数係数多項式となる。すなわち同じ指数の項をまとめて
$$P(e^{\a_1},e^{\a_2},\ldots,e^{\a_n})=\sum^N_{k=1}C_ke^{\g_k}$$
とおくと$C_k$は有理数となり、仮定より上式は$0$に等しいので命題6から$C_1=C_2=\cdots=C_N=0$でなければならない($\g_k$が代数的数であることは明らか)。
しかし$\a_k\;(k=1,2,\ldots,n)$のうち実部が最大のものの中で虚部が最大のものを$\a_K$とおくと$e^{|S|\a_K}$の係数は
$$\l(\prod^{m_K}_{k=1}c_{K,k}\r)^{|S|/m_K}\neq0$$
であるので矛盾。よって主張を得る。