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大学数学基礎解説
文献あり

群構造と両立する全順序の存在条件

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はじめに

はじめまして. 棗(なつめ)といいます.

いきなりですが, 群の代数的な性質が空間へのよい作用の有無によって特徴付けられることがあります.
本記事では初等的な議論で証明できる例として, 群がその構造と両立する全順序を許容するかという性質を数直線Rへのよい作用の有無によって特徴付けます.

定義

群の演算と群の上の全順序が両立していることの定義にはいくつか可能性がありますが, ここでは次を採用します.

群の左順序

G上の全順序<左順序であるとは, 任意のg1,g2,hGに対し, (g1<g2hg1<hg2)が成立することをいう.
また, 群G左順序付け可能であるとは, 群G上に左順序が存在することをいう.

いくつか簡単な考察をしておきましょう.

  • G上の全順序が左順序であることと, 任意のhGについて左からhを掛ける写像lh:GG,ghgが順序を保つことは同値である.
  • 左順序付け可能な群の部分群は左順序付け可能である.
  • Z,Q,Rの自然な全順序は左順序である.
  • G1,G2にそれぞれ左順序が与えられているとき, 直積群G1×G2の辞書式順序も左順序である.
  • Gが捩れ元をもつとき左順序を持ちえない. 特に自明群以外の有限群は左順序付け可能ではない.
    証明はこちら

    Gが左順序をもつと仮定する. eGの単位元とし, 単位元ではない任意の元gG{e}に対し, gが捩れ元ではないことを示す. e<gまたはg<eが成り立つ. e<gであったとする. 任意の正の整数kに対し, gke<gに左から掛けgk<gk+1となる. 順序の推移律から帰納的に, 任意の正の整数nについてe<gnがわかる. 特に任意の正の整数nについてgneであるからgは捩れ元ではない. g<eの場合も同様である.

重要な例

ここでHomeo+(R)Rの自然な順序を保つ同相写像のなす群としましょう. この群は左順序付け可能な群の重要な例になっています.

Homeo+(R)は左順序付け可能である.

QN={0,1,2,}の間の全単射を任意に固定し, iNに対応するQの元をqiとする. 写像Homeo+(R)RNf(if(qi))によって定める. QRにおけるの稠密性からこの写像は単射である. この写像によってRNの辞書式順序から誘導されるHomeo+(R)の全順序は左順序である.
任意のf1,f2,gHomeo+(R)に対し, (f1<f2gf1<gf2)を確認しよう. f1<f2ならば, あるiNが存在し, f1(qi)<f2(qi)および任意のi>jNに対しf1(qj)=f2(qj)が成立する. gHomeo+(R)Rの順序を保つので, g(f1(qi))<g(f2(qi))および任意のi>jNに対しg(f1(qj))=g(f2(qj))が成り立つ. これはgf1<gf2を意味する.

主定理

Gを可算群とする. このとき, Gが左順序付け可能であることと, GからHomeo+(R)への単射準同型が存在することは同値である.
即ち, Gが左順序付け可能であることと, GRに自然な順序を保つ忠実な連続作用をもつことが同値である.

定理の証明に入る前にいくつか準備をしておきます.

全順序集合T自己稠密であるとは, 任意のs<tなるs,tTに対し, s<u<tなるuTが存在することをいう.

Qは自己稠密な可算全順序集合ですが, 逆に自己稠密な可算全順序集合が最大元も最小元ももたなければQに順序集合として同型になります.

可算全順序集合Tが自己稠密かつ最大元も最小元ももたないとき, 順序を保つ全単射ϕ:TQが存在する.

証明はこちら

TN={0,1,2,}の間の全単射を任意に固定し, iNに対応するTの元をtiとする. また, Qと間のNの全単射も任意に固定し, iNに対応するQの元をqiとする. 次のアルゴリズムによって, 各nNに対し, T(n+1)元部分集合TnQ(n+1)元部分集合Qnおよび, 順序を保つ全単射ϕn:TnQnを構成する.

  1. T0={t0}, Q0={q0}と定め, ϕ0(t0)=q0とする.
  2. ϕ2k:T2kQ2kまで定まっているとき.
    iNtiT2kなる最小のiとして, T2k+1=T2k{ti}とする. Qの自己稠密性もしくはQが最大元・最小元をもたないことから写像T2k+1Qであって単射かつ順序を保ち, T2kϕ2kに一致するものが存在する. これを任意に選び, この写像の像をQ2k+1とし, 像への全単射をϕ2k+1と定める.
  3. ϕ2k+1:T2k+1Q2k+1まで定まっているとき.
    iNqiQ2k+1なる最小のiとして, Q2k+2=Q2k+1{qi}とする. Tの自己稠密性もしくはTが最大元・最小元をもたないことから写像Q2k+2Tであって単射かつ順序を保ち, Q2k+1(ϕ2k+1)1に一致するものが存在する. これを任意に固定しこの写像の像をT2k+2とし, この像への全単射の逆写像をϕ2k+2と定める.

上記の2.と3.を繰り返し任意のnNに対し, 順序を保つ全単射ϕn:TnQnが得られるが, 任意のn<mNに対し, TnTm, QnQmであり, ϕmϕnの拡張になっている. そのため, 順序を保つ全単射ϕ:nTnnQnが定まる. ここで, 2.より, nTn=Tであり, 3.よりnQn=Qであるから, このϕが補題の主張を与える.

任意の順序を保つ全単射f:QQは順序を保つ同相写像f~:RRに一意的に拡張される.

証明はこちら

QRにおいて稠密なので, 拡張するならばその方法は一意である.
fは順序を保つので任意のrRに対し, sup{f(q)qQ,qr}inf{f(q)qQ,rq}である. この両辺が異なるとすると2つの値の間に有理数が存在しfの全射性に反する. よって, sup{f(q)qQ,qr}=inf{f(q)qQ,rq}であるからこの値をf~(r)と定めれば, 順序を保つ写像f~:RRが定まる. これはfの拡張になっており, 単射であり, 全射であることもf~(sup{f1(q)qQ,qr})=sup{qqQ,qr}=rからわかる.
すなわち, f~は順序集合としての同型を与えるが, Rの標準的な位相は順序位相に一致するので同相写像である.

では, 主定理の証明を与えましょう.

定理 2 の証明

単射準同型GHomeo+(R)が存在したとすると, 命題 1 で構成されたHomeo+(R)の左順序をGに引き戻せばGの左順序が得られる.

可算群Gが左順序をもったとする. まず, この順序が自己稠密であると仮定して示す.

Gの左順序が自己稠密である場合)
自明群以外の左順序は最大元も最小元ももたないので, 補題 3 より順序を保つ全単射ϕ:GQをとれる.
任意のgGに対し, fg=ϕlgϕ1:QGGQは順序を保つ全単射である. 補題 4 よりfgは順序を保つ同相写像f~g:RRに拡張する.
任意のg,hGに対し, fgfh=ϕlglhϕ1=ϕlghϕ1=fghおよび拡張の一意性からf~gf~h=f~ghである.
また, 構成からGの単位元eに対するf~eRの恒等写像であり, gGが単位元でないときはf~gは恒等写像にはならない.
即ち, gGに対しf~gHomeo+(R)を対応させる写像は単射な準同型写像である.

Gの左順序が自己稠密とは限らない場合)
可算群G×Qの辞書式順序は自己稠密な左順序になる.
よって, 直前の議論より単射準同型G×QHomeo+(R)が存在する.
これにGG×Qの部分群G×{0}を同一視して包含写像を合成すれば, 単射準同型GHomeo+(R)が得られる.

おわりに

今回は可算群のみを扱いました. より濃度の高い群に対しては, 主定理は必ずしも成り立ちません. 例えば簡単な反例として, Homeo+(R)よりも濃度が大きい左順序付け可能な群がZXの形で存在します.

ただし, 一般の群の左順序付け可能性はその有限生成部分群のみによって決まることが知られています.

Gが左順序付け可能であることと, Gの任意の有限生成部分群が左順序付け可能であることは同値である.

今回はこちらの主張は紹介のみに留めますが, 証明は{0,1}Gのコンパクト性に帰着されます.

今回紹介した証明は参考文献[1]に書かれているものです. 参考文献[1]は arXiv にも上がっているので, 興味を持たれた方はそちらもご覧になってください. この記事では扱わなかった非自明な例や発展的な話題についても書かれています.

参考文献

[1]
Adam Clay, Dale Rolfsen, Ordered Groups and Topology
投稿日:2021218
OptHub AI Competition

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  1. はじめに
  2. 定義
  3. 重要な例
  4. 主定理
  5. おわりに
  6. 参考文献