今回は、コルンブルムによる合同ゼータ関数の一つ
$$
\zeta_{\mathbb{F}_p[T]}(s)=\prod_{h\in \mathbb{F}_p[T];prime}(1-N(h)^{-s})^{-1}
$$
を紹介します。$p$は素数、$h$は素多項式で、$N(h)=p^{\deg (h)}$です。
私自身、ゼータ関数のことは超初歩的なことしか知らない初心者ですが、たまたまこれを知って、代数のよい復習にもなる面白い話題だと思ったので、記事にすることにしました。そのため、私の代数の復習の目的が大きいので、ゼータ関数と直接は関係ない代数の説明が少々長くなりますが、ご了承ください。
くどいようですが、$\mathbb{F}_p[T]$が一意分解環であることから簡単に説明します。多項式環$(\mathbb{F}_p[T],\deg)$は、通常の多項式の割り算により、ユークリッド環になります。ユークリッド環は単項イデアル整域、単項イデアル整域は一意分解環であるので、$\mathbb{F}_p[T]$は一意分解環です。したがって、リーマンゼータ関数のオイラー積と同様の計算が成り立ちます。
$$
\zeta_{\mathbb{F}_p[T]}(s)\\
=\prod_{h\in \mathbb{F}_p[T];prime}(1-N(h)^{-s})^{-1}\\
=\prod_{h\in \mathbb{F}_p[T];prime}\sum_{n=0}^{\infty}N(h)^{-sn}\\
=\sum_{f\in \mathbb{F}_p[T];monic}N(f)^{-s}
$$
モニックな$\mathbb{F}_p$上$n$次多項式は、係数の取り方に注目して$p^n$個あるので、$\mathfrak{R}(s)>1$で
$$
\zeta_{\mathbb{F}_p[T]}(s)
=\sum_{n=0}^{\infty}p^n\cdot p^{-sn}=\frac{1}{1-p^{1-s}}
$$
と計算されます。
次に、別の方法で$\zeta_{\mathbb{F}_p[T]}(s)$を求めてみたいと思います。素多項式に関する積を、次数ごとに行う方法です。
$$
\zeta_{\mathbb{F}_p[T]}(s)
=\prod_{n=1}^{\infty}\left(
\prod_{h\in \mathbb{F}_p;prime\\ \deg(h)=n}(1-N(h)^{-s})^{-1}
\right)
$$
すると、
$$
\kappa (n)=|\{h\in \mathbb{F}_p|prime,\deg(h)=n\}|
$$
とおけば、
$$
\zeta_{\mathbb{F}_p[T]}(s)=\prod_{n=1}^{\infty}(1-p^{-ns})^{-\kappa (n)}
$$
となります。以下、$\kappa (n)$を求めます。
そのために、まず$f(T)=T^{p^m}-T\in \mathbb{F}_p[T]$を$\mathbb{F}_p[T]$で因数分解(素式分解)することを考えます。因数分解は、根を考えることが重要です。$\mathbb{F}_p$上最小分解体を$L$とし、$L$における根の集合を$K$としましょう。すると明らかに、
$$
f(T)=\prod_{\alpha \in K}(T-\alpha)
$$
となります。$f(T)$は重根を持ちません。なぜなら、$f'(T)=p^mT^{p^m-1}-1=-1$となり、$\alpha$が重根なら$f'(\alpha)=0$に矛盾するからです。ということは、$K$の元の$\mathbb{F}_p$上最小多項式全体の集合を$H$とすれば、$H$の元すべての積が、$f(T)$の素式分解を与えることになります。
そこで、$H$を決定する前に、その準備として、$L=K$であることを示しておきます。$K$が体であることを示せば、$L$は$f(T)$の根をすべて含む最小の体ですから、$K$に一致することになります。$\alpha ,\beta \in K$を取ると、$k=1,\cdots ,p^m-1$で$p|\binom{p^m}{k}$であることに注意して、
$$
(\alpha +\beta)^{p^m}=\alpha^{p^m}+\beta^{p^m}+\sum_{k=1}^{p^m-1}\binom{p^m}{k}\alpha^{k}\beta^{p^m-k}=\alpha^{p^m}+\beta^{p^m}=\alpha+\beta\\
(\alpha\beta)^{p^m}=\alpha^{p^m}\beta^{p^m}=\alpha\beta
$$
となるので、$K$は和と積について閉じており、$L$の部分環になります。$\alpha\in K\backslash\{0\}$なら、
$$
\alpha\cdot \alpha^{p^m-2}=\alpha^{p^m-1}=1
$$
が成立するので、$K$が体であることが示されました。これは位数$p^m$の有限体ですから、$\mathbb{F}_{p^m}$と書くことにします。
$H$に戻ります。実は、$H$は、$m$の約数次の既約モニック多項式全体の集合に一致します。後者を$H'$とおいて$H=H'$を示しましょう。
$H\subset H'$について。$h\in H$を任意に取ると、$h$の$L$における根の一つ$\alpha$を$\mathbb{F}_p$に添加した体$\mathbb{F}_p[\alpha]$は、$L/\mathbb{F}_p$の中間体になります。すると、$[L:\mathbb{F}_p]=[L:\mathbb{F}_p[\alpha]][\mathbb{F}_p[\alpha]:\mathbb{F}_p]$より、拡大次数$[\mathbb{F}_p[\alpha]:\mathbb{F}_p]$は$[L:\mathbb{F}_p]$の約数になります。しかし今、$L=K=\mathbb{F}_{p^m}$ですから、$[L:\mathbb{F}_p]=m$です。よって$H\subset H'$が示されました。
$H'\subset H$について。$h\in H'$を任意に取ると、$m$の約数$n$を用いて、$\deg(h)=n$と書けます。$h$の根の一つ$\alpha$を$\mathbb{F}_p$に添加した体$\mathbb{F}_p[\alpha]$は$n$次拡大なので、位数$p^n$の有限体となります。よって、ラグランジュの定理から、$\alpha^{p^n}-\alpha$となり、$m=nl$とおくと、
$$
\frac{p^m-1}{p^n-1}=p^{n(l-1)}+\cdots +1\in \mathbb{Z}
$$
であるので、$\alpha^{p^m}-\alpha=0$です。したがって、$h$の根は$K$の元になり、$h$は最小多項式だから、$h\in H$となります。
以上により、$f(T)$の素式分解
$$
T^{p^m}-T=\prod_{h\in\mathbb{F}_p[T];prime\\ \deg(h)|m}h
$$
が得られました。両辺の次数を比較すれば、
$$
p^m=\sum_{n|m}n\kappa(n)
$$
となります。ゼータ関数の計算にはここまでで十分なのですが、これは$m$の乗法的関数ですので、一応、メビウスの反転公式を用いて、
$$
n\kappa(n)=\sum_{m|n}\mu\left(\frac{n}{m}\right)p^m\\
\therefore \kappa(n)=\frac{1}{n}\sum_{m|n}\mu\left(\frac{n}{m}\right)p^m
$$
とすることができます。
$$
\zeta_{\mathbb{F}_p[T]}(s)=\prod_{n=1}^{\infty}(1-p^{-ns})^{-\kappa (n)}
$$
を変形します。$u=p^{-s}$とおき、右辺の対数を取ると、
$$
\log
\left(
\prod_{n=1}^{\infty}(1-p^{-ns})^{-\kappa (n)}
\right)\\
=\sum_{n=1}^{\infty}\log
\left(
(1-u^n)^{-\kappa (n)}
\right)\\
=-\sum_{n=1}^{\infty}\kappa(n)\log
\left(
1-u^n
\right)\\
=\sum_{n=1}^{\infty}\kappa(n)\sum_{m=1}^{\infty}\frac{u^{nm}}{m}\\
=\sum_{m=1}^{\infty}\sum_{n=1}^{\infty}\frac{u^{nm}}{nm}n\kappa(n)\\
=\sum_{M=1}^{\infty}\frac{u^{M}}{M}\sum_{n|M}n\kappa(n)\\
=\sum_{M=1}^{\infty}\frac{u^{M}}{M}p^M\\
=-\log(1-pu)\\
=-\log(1-p^{1-s})
$$
以上より、
$$
\zeta_{\mathbb{F}_p[T]}(s)
=\frac{1}{1-p^{1-s}}
$$
と求まりました。
とても面白い計算だと思いました。ゼータ関数に魅せられる人が多いのもわかる気がします。
読んでいただきありがとうございました。