以前の記事「不等式 x^y+y^x>1 の秀逸な証明」では, そのタイトルにある不等式をベルヌーイの不等式を使うことでうまく証明できることを書いた. このような指数型不等式では, ベルヌーイの不等式の他にも "ある不等式" がとてもよいはたらきをすることがある.
この不等式は見た目以上に役に立つ. この不等式が証明のカギになる2つの例を紹介しよう. (不等式(1)の証明は難しくないので省略)
$e^\pi>\pi^e.$
これは誘導付きで大学入試でも出題されるような問題だ. 実際, 今年の芝浦工大でも出題されている.
以下の関数の極値を求め, それを利用して命題1の不等式を証明するというのが一般的な方法だろう.
$\displaystyle f(x)=x^\frac{1}{x} or f(x)=\frac{\log x}{x}.$
実は, 上記の関数を使わないエレガントな証明が知られているのでそれを紹介する.
(1)に$x=\frac{\pi}{e}-1$を代入すると $\displaystyle e^{\frac{\pi}{e}-1}>\frac{\pi}{e}$ となり, したがって $e^\pi>\pi^e. \blacksquare $
もちろん, 一般的には次の様になることはすぐにわかる.
$e^x \geq x^e$ (等号成立は$x=e$のとき).
$x_{i}>0\ (i=1,2,\cdots,n)$とするとき,
$\displaystyle \frac{x_{1}+x_{2}+\cdots+x_{n}}{n} \geq \left(x_{1}x_{2}\cdots x_{n} \right)^{\frac{1}{n}}.$
(等号成立は $x_{1}=x_{2}=\cdots=x_{n}$ のとき)
この不等式の証明は数多く知られているが, 私はPólyaによる証明が気に入っている. この証明もまた不等式(1)がカギになっている.
$S_{n}=x_{1}+x_{2}+\cdots+x_{n}$とし, 相加平均を$\displaystyle A_{n}=\frac{S_{n}}{n}$, 相乗平均を$\displaystyle G_{n}=\left(x_{1}x_{2}\cdots x_{n} \right)^{\frac{1}{n}}$とする.
$\displaystyle \sum_{i=1}^{n}\left(\frac{nx_{i}}{S_{n}}-1\right)=\frac{nS_{n}}{S_{n}}-n=0$に注意して,
$\displaystyle 1=e^{0}=\prod_{i=1}^{n}e^{\frac{nx_{i}}{S_{n}}-1} \geq \prod_{i=1}^{n}\frac{nx_{i}}{S_{n}}\ (by\ (1))=\left( \frac{nG_{n}}{S_{n}}\right)^n=\left(\frac{G_{n}}{A_{n}}\right)^n.$ ゆえに, $A_{n} \geq G_{n}.\ \ \ \blacksquare$