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大学数学基礎解説
文献あり

おぼえがき「確率測度の弱収束の一意性について」

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注意

この記事は筆者のおぼえがきです。

確率測度の弱収束

以下特に断らない限りE=(E,d)は距離空間で、B(E)EのBorel集合族、OEEの開集合族、CEEの閉集合族とします。(なお、ここでの開集合とは距離dにより定まる近傍によって決まるふっつうの開集合です。深読みはしないでください。)

弱収束

Borel確率測度の列{μn}がBorel確率測度μに弱収束するとは、任意のE上で有界連続な関数fに対して
limnEf(x) dμn(x)=Ef(x) dμ(x)
が成り立つことをいう。

はい、というわけで定義はこれです。で、これは極限なのでもちろん極限値にあたるμは一意であってほしいですね。つまりもしもう一つνなんて確率測度があったとしたら

Ef(x) dμ(x)=Ef(x) dν(x)

となるわけですが、そのとき本当にμ=νになるのか?というのがお恥ずかしながら、考えてもわからなかったので学びなおして今に至ります。

今回のテーマはこれです。というわけでこれを示します。これには以下の定理を用います。

μE上のBorel確率測度とするとき、
μ(B)=inf{μ(G)GOE, BG}=sup{μ(F)FCE, FB}
が成り立つ。

証明はBorel測度の最小性を使う測度論ではなじみの深い論法です。
さて、いきなりですがB
B={BB(E)ε>0, GOE,FCE; FBG, μ(GF)<ε}
とおきます。いわゆる正則性というやつですね。(これは確かめてないのであまり深く考えないのでほしいのですが、たぶん確率測度でなくてもEσ-有限とかなら成り立ちそうだなとぱっと見思いました。)

まあそれはさておき、B=B(E)を示すにはBOEBを満たすσ-加法族であることを示します。これを示すとB=B(E)が示せます。

まず、σ-加法族であることを示しましょう。,EBとなることは, Eが閉かつ開であることから明らかです。
またBBならば 任意のε>0に対してFBG, μ(GF)<εとなるF,Gが存在します。このときGcBcFcであって
μ(FcGc)=μ(GFc)<ε
なのでBcBとなります。

最後に完全加法性ですが、{Bn}n=1Bに対して
FnBnGn, μ(GnFn)<ε/2nとなるFn, Gnが存在します。そこで
F=n=1Fn, G=n=1Gn
とおけばB=n=1Bnに対して
FBG, μ(GF)<ε
が成り立ちます。よってBBとなりσ-加法族であることがわかりました。

次にOEBを示します。OOEとします。このとき、nNに対し
Cn={xE|d(x,Oc)1n}, d(x,Oc)=inf{d(x,y)yOc}
と定めると、d(x,Oc)の連続性よりCnは閉集合となります。

また、明らかに{Fn}n=1は単調増加で
O=n=1Cn
となるので、測度の連続性より
limnμ(Fn)=μ(O)
が得られます。これより特にCnOOかつμ(OCn)<εとなるCnが存在するのでOBとなります。ゆえにB=B(E)がわかります。

さて、これがわかれば結論は簡単で、AGならばμ(B)μ(G)となるためμ(B)は真ん中の式以下です。他方、正則性から
AGかつμ(GA)<εとなるので、μが確率測度、つまり有限測度であることに注意すると
μ(G)μ(A)+ε
となり最初の等式が示せます。3つも同様なのでこれで証明はおわります。
(証明終了)

これによって今回の話が示せます。

μ,νをBorel確率測度とするとき、E上有界連続な任意のfに対して

Ef(x) dμ(x)=Ef(x) dν(x)
ならばμ=νである。

結論から言うと、μ(F)=ν(F), FCEを示せば十分です。 なぜなら、定理1の閉集合の表現を使えば一般の場合は成り立つからです。

というわけでFCEについて示すこととします。さて、問題は与えられている仮定をどう使うかにあります。積分の定義よりχAを集合Aの定義関数とするとき

μ(F)=FχF(x) dμ(x)
でした。なので気持ち的にはこいつをもってきたいところです。しかし、定義関数は有界ではあるものの、一般に連続とは限りません。そこで連続関数のうまい近似を取る必要があるわけですね。

さて、ここで登場するのがまたもや点と集合の距離です。こいつがまたいい仕事をします。さて、nN

Fn={xE|d(x,F)1n}
とします。そしてこのとき、

fn(x)=d(x,Fn)d(x,F)+d(x,Fn)
と定義すると0f(x)1であって、xFのときf(x)=1であり、xFnのときf(x)=0となります。いい感じに分離してますね。さて、d(x,F),d(x,Fn)はともに連続なのでfnも連続であり、xFcならばある自然数nが存在してxFnとなるので

limnfn(x)=χF(x)
であることがわかります。したがって、Lebesgueの優収束定理より
μ(F)=limnEfn(x) dμ(x)=limnfn(x) dν(x)=ν(F)
となるので、証明が終わります。
(証明終了)

とまあこんな感じで言われてみれば大したこともないですが、案外ぱっとは分からなくてちょっと悔しかったです。

測度論を手足のように使えるになりたいですね。

ではおわります。またいつか。

参考文献

[1]
志賀徳造, ルベーグ積分から確率論, 共立出版
[2]
測度から確率論へ, 佐藤 坦, 共立出版
投稿日:2021226
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CSG
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