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二進対数の近似 ~55^90 vs 99!~

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ますらば公式(@mathlava)のツイートに、こんな問題がありました。

55⁹⁰と99!どちらが大きい?
元ツイート

この記事では、この問題を底を$2$とする対数(二進対数)によって解くことにします。

観察

テーブルの上に糸をぴんと張ってみてください。長さは、糸を指ではじいたときにドの音が鳴るようにしてください。指が痛くなるようだったらギターのピックで代用してもらって構いません。

次に、糸の端から全体の長さの$ \frac{8}{9} $のところを押さえてもう一度音を鳴らしてみてください。レの音が聞こえるはずです。

同じように、$ \frac{8}{8}, \frac{8}{9}, \frac{8}{10}, \frac{8}{11}, \cdots, \frac{8}{16} $の長さで鳴らすと、

ド レ ミ ファキ ソ ラd シdb シ ド

という音階が聞こえるはずです。「キ」は半音までじゃないけど少し高い、「d」は半音までじゃないけど少し低い音を表します。

長音階や短音階より音が1つ多いのが気持ち悪いかもしれませんが、ラとシの間にもう1音入っているのだと思ってください。

数値計算

Wolfram|Alpha先生によると、 $ {55}^{90} $の方が$ 2 $オクターブほど大きいようです

解法

$ 3, 5, 7, 11 $の二進対数を近似し、それでもって大小を比較します。二進対数は、分母を$12$、分子を小数以下$2$桁の小数にして比較します。本当は分母は53がよかったけど計算がめんどくさい

$2$冪に関する基本性質

$0< x<\frac{1}{4}$のとき、$2^0=1, \sqrt{\sqrt{2}}<1+\frac{0.8}{4}=1.2$$y=2^x$が下に凸であることから、$2^x<1+0.8x$が従います。また、

\begin{align*} 1.25 \cdot 1.25 \cdot 2 &= 3.125 \\ 1.25 \cdot 1.25 \cdot 2 &> e \\ 2^{\frac{1}{3}} \cdot 2^{\frac{1}{3}} \cdot 2^1 &> e \\ 2^{\frac{5}{3}} &> e \\ e^{\frac{3}{5}} &< 2 \\ \ln{2} &< 0.6 \end{align*}

であるから、

$$ 0< x<1 のとき 1+0.6x<2^x<1+0.8x $$
が言えます。同様に、
$$ -1< x<0 のとき 1+0.8x<2^x<1+0.6x $$
が言えます。

近似

$\log_2{3}$

$$ 2^{19} = 524288 < 3^{12} = 531441 < 2^{19}(1+0.02) < 2^{19+0.034} < 2^{19+0.04} $$
なので
$$ \frac{19}{12} < \log_2{3} < \frac{19.04}{12} $$
です。

$\log_2{5}$

$$ 2^{14}(1-0.05) = 16384 - 819.2 = 15564.8 < 15625 $$
$$ 2^{14}(1-0.045) = 15564.8 + 81.92 > 15625 $$
であるから
$$2^{14}(1-0.05) < 5^{6} = 15625 < 2^{14}(1-0.045) $$
$$2^{28-0.17} < 2^{28}(1-0.1) < 2^{28}(1-0.05)^2 < 5^{12} < 2^{28}(1-0.045)^2 = 2^{28}(1-0.088) < 2^{28-0.0704}$$
なので
$$ \frac{27.83}{12} < \log_2{5} < \frac{27.93}{12} $$
です。

$\log_2{7}$

$$ 2^{14} = 16384 < 7^5 = 16807 < 2^{14}(1+0.03) $$
なので
$$ \frac{14}{5} = \frac{33.6}{12} < \log_2{7} < \frac{14.05}{5} = \frac{33.72}{12}$$
です。

$\log_2{11}$

$$ 120 = 2^3 \cdot 3 \cdot 5 $$
であるから
$$ \frac{82.83}{12} < \log_2{120} < \frac{82.97}{12} $$
です。したがって、
$$ 2^{\frac{82.83}{12}+0.01} < 120(1+0.008) < 121 < 120(1+0.009) < 2^{\frac{82.97}{12}+0.015}$$
なので
\begin{align*} &\frac{82.95}{12} &<& \log_2{121} &<& \frac{83.15}{12} \\ & \frac{41.48}{12} &<& \log_2{11} &<& \frac{41.58}{12}\end{align*}
です。

比較

$55^{90}$

$55^{90}$の方は容易です。

$ 55 = 5 \cdot 11 $なので、
$$ \frac{69.31}{12} < \log_2{55} < \frac{69.52}{12} $$
です。

したがって、両辺を$90$倍して、
$$ \frac{6237.90}{12} < \log_2{\left(55^{90}\right)} < \frac{6256.80}{12} $$
です。

$99!$

まず$1$から$99$まで数を並べました(なぜか$\TeX$の表がこのサイトで出力されないので画像で代用しました):

数を並べる 数を並べる

これを上から抑えるために、各数を「その数以上で、$2,3,5,7,11$のみを素因数に持つ数」で置き換えました。変化した数を赤で示しました:

!FORMULA[44][-864634175][0]のみを素因数に持つ数で置き換える $2,3,5,7,11$のみを素因数に持つ数で置き換える

各数を素因数分解すると、次のようになります:

素因数分解 素因数分解

この素因数の指数をそれぞれ全部足すと、こうなります:

$$ 2^{173} \cdot 3^{81} \cdot 5^{38} \cdot 7^{28} \cdot {11}^{15} $$

これを近似の節で求めた不等式で上から抑えると

$$ 2^{173} \cdot 3^{81} \cdot 5^{38} \cdot 7^{28} \cdot {11}^{15} < 2^{173 + 81 \cdot \frac{19.04}{12} + 38 \cdot \frac{27.93}{12} + 28 \cdot \frac{33.72}{12} + 15 \cdot \frac{41.58}{12}} = 2^{\frac{6247.44}{12}}$$

素因数を$12$セントの誤差で抑えたのにまだ足りないんですか!?

さらなる近似

指数がもう1つ小さくなってくれればいいので、赤い文字を黒に戻していきましょう。$\frac{赤い数字}{本来の数字}$を下から抑えて、その指数を$2^{\frac{6247.44}{12}}$から引いていきます。分子が$6237.90$よりも小さくなったら成功です。

14

$$ \frac{14}{13}=1+\frac{1}{13}>2^{\frac{1}{13\cdot0.8}}>2^{\frac{1.1}{12}} $$

残り$6246.34$

18

$$ \frac{18}{17}=1+\frac{1}{17}>2^{\frac{1}{17\cdot0.8}}>2^{\frac{0.8}{12}} $$

残り$6245.54$

20

$$ \frac{20}{19}=1+\frac{1}{19}>2^{\frac{1}{19\cdot0.8}}>2^{\frac{0.7}{12}} $$

残り$6244.84$

24

$$ \frac{24}{23}=1+\frac{1}{23}>2^{\frac{1}{23\cdot0.8}}>2^{\frac{0.6}{12}} $$

残り$6244.24$

27,30

$ a \leq 30$とすると、$(a-1) \cdot 0.8 < 24 = \frac{12}{0.5}$が成り立ちます。
$$ \frac{a}{a-1}=1+\frac{1}{a-1}>2^{\frac{1}{(a-1)\cdot0.8}}>2^{\frac{0.5}{12}} $$

残り$6243.24$

32,35

$ a \leq 38$とすると、$(a-1) \cdot 0.8 < 30 = \frac{12}{0.5}$が成り立ちます。
$$ \frac{a}{a-1}=1+\frac{1}{a-1}>2^{\frac{1}{(a-1)\cdot0.8}}>2^{\frac{0.4}{12}} $$

残り$6242.44$

40

$40$$3$個あるので、まとめて下から抑えます。
\begin{align*} & \frac{40}{37} \cdot \frac{40}{38} \cdot \frac{40}{39} \\ =& \left(1 + \frac{3}{37}\right)\left(1 + \frac{2}{38}\right)\left(1 + \frac{1}{39}\right) \\ >& \left(1 + \frac{3}{39}\right)\left(1 + \frac{2}{39}\right)\left(1 + \frac{1}{39}\right) \\ >& 1 + \frac{6}{39} \\ =& 1 + \frac{1}{6.5} \\ >& 2^{\frac{1}{6.5 \cdot 0.8}} \\ >& 2^{\frac{2.3}{12}} \end{align*}

残り$6240.14$

42,44

$ a \leq 50$とすると、$(a-1) \cdot 0.8 < 40 = \frac{12}{0.3}$が成り立ちます。
$$ \frac{a}{a-1}=1+\frac{1}{a-1}>2^{\frac{1}{(a-1)\cdot0.8}}>2^{\frac{0.3}{12}} $$

残り$6239.54$

48

$48$$2$個あるので、まとめて下から抑えます。
\begin{align*} & \frac{48}{46} \cdot \frac{48}{47} \\ =& \left(1 + \frac{2}{46}\right)\left(1 + \frac{1}{47}\right) \\ >& \left(1 + \frac{2}{47}\right)\left(1 + \frac{1}{47}\right) \\ >& 1 + \frac{3}{47} \\ >& 1 + \frac{1}{16} \\ >& 2^{\frac{1}{16 \cdot 0.8}} \\ >& 2^{\frac{1.1}{12}} \end{align*}

残り$6238.44$

54

$54$$3$個あるので、まとめて下から抑えます。
\begin{align*} & \frac{54}{51} \cdot \frac{54}{52} \cdot \frac{54}{53} \\ =& \left(1 + \frac{3}{51}\right)\left(1 + \frac{2}{52}\right)\left(1 + \frac{1}{53}\right) \\ >& \left(1 + \frac{3}{53}\right)\left(1 + \frac{2}{53}\right)\left(1 + \frac{1}{53}\right) \\ >& 1 + \frac{6}{53} \\ >& 1 + \frac{1}{9} \\ >& 2^{\frac{1}{9 \cdot 0.8}} \\ >& 2^{\frac{1.6}{12}} \end{align*}

残り$6236.84$

これで$6237.90$を下回ったので、

$$ 55^{90} > 99! $$

が示されました。

投稿日:2021228

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nayuta_ito
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