2
高校数学解説
文献あり

一般化Lucasの定理と東大数学2021

883
0

はじめに

 この記事では今年の東大入試問題を起点に二項係数nCmにまつわる法peの合同関係を紹介していきます。
 さて今年の東大入試では第4問に次のような問題が出たとのことでした。

 以下の問いに答えよ。
(1) 正の奇数K,Lと正の整数A,BKA=LBを満たしているとする。K4で割った余りがL4で割った余りと等しいならば、A4で割った余りはB4で割った余りと等しいことを示せ。
(2) 正の整数a,ba>bを満たしているとする。このとき、A=4a+1C4b+1,B=aCbに対してKA=LBとなるような正の奇数K,Lが存在することを示せ。
(3) a,bは(2)の通りとし、さらにab2で割り切れるとする。4a+1C4b+14で割った余りはaCb4で割った余りと等しいことを示せ。
(4) 2021C374で割った余りを求めよ。

 (1)はKL(Z/4Z)×より
AK1KA=K1LBL1LBB(mod4)
という話で、(4)は(3)から
2021C37505C9126C2=631253(mod4)
という単純な話ですが気になるのは(2)と(3)です。(2)はひとまず置いておくとして(3)を見て私はまずLucasの定理が頭に浮かびました。

Lucasの定理

 素数pと非負整数n,mに対してn,mp進数表示を
n=ndnd1n1n0(p)(=ndpd+nd1pd1++n1p+n0)m=mdmd1m1m0(p)(=mdpd+md1pd1++n1p+m0)
とおくと
nCmndCmdnd1Cmd1n1Cm1n0Cm0(modp)
が成り立つ。ただしn<mに対してはnCm=0と定める。

 しかしLucasの定理からわかるのは
4a+1C4b+1aCb0C01C1=aCb(mod2)
であって法4における合同関係まではわかりません。となるとLucasの定理の素数冪版を考えてみたくなります。自力では思いつかなかったので Lucas's theorem - Wikipedia を覗いてみると

Andrew Granville has given a generalization of Lucas's theorem to the case of p being a power of prime.
(Andrew GranvilleはLucasの定理の素数冪を法とした場合への一般化を与えました。)

とあったので早速そのリンク先を見てみることにしました。

Kummerの定理と一般化Lucasの定理

 証明は後にするとしてまずはAndrew Granvilleの得た結果と先の問題への応用を見てみましょう。
 以下n,mを非負整数とし、n,mおよびl=nmp進数表示を
n=ndnd1n1n0(p)m=mdmd1m1m0(p)l=ldld1l1l0(p)
とおき、εip進数における足し算m+lの各桁についてmi+li+εi1が繰り上がるとき(つまりmi+li+εi1pのとき)εi=1、繰り上がらないとき(mi+li+εi1<pのとき)εi=0と定める。

Kummerの定理

 nCmの素因数分解における素因数pの指数vp(nCm)p進数での足し算m+l(=n)における繰り上がりの回数i=0d1εiに等しい。

 例えば2021C37の素因数分解における素因数5の指数を考えてみよう。
 202137=1984=30414(5)37=122(5)の足し算を考えると
1130414(5)+122(5)31041(5)
2回繰り上がっているのでv5(2021C37)=2がわかる。

 これは最初に挙げた問題の(2)に有効です。具体的にはa,b2進数表示を
a=adad1a1a0(2)b=bdbd1b1b0(2)
とおくと4a+1,4b+12進数表示はそれぞれ
4a+1=100a+1(2)=adad1a1a001(2)4b+1=100b+1(2)=bdbd1b1b001(2)
となるので2進数での足し算(ab)+b4(ab)+(4b+1)における繰り上がりの回数は等しく、Kummerの定理からv2(4a+1C4b+1)=v2(aCb)=kが言え、
K=aCb2k,L=4a+1C4b+12k
についてK4a+1C4b+1=LaCbが成り立つ。といった具合に示せます。
 次に一般化Lucasの定理を紹介しますが、その前に特殊な階乗を定義しておきます。

 素数pと非負整数nに対しn!p
n!p=k=1pknk
と定める(ただし0!p=1とする)。このとき
n!p=k=1nkp|kk=n!j=1n/ppj=n!pn/p(n/p)!
とも表せることに注意する。

一般化Lucasの定理

 Ninp進数表示における(下から)i+1からi+e桁目まで抜き出したもの、つまり
Ni=ni+e1ni+1ni(p)
とおく。m,lについても同様にMi,Liを定める。またkj,δpe
kj=i=jd1εi,δpe={1ifpe=2e231otherwise
と定める。このとき
nCmpk0δpeke1((Nd)!p(Md)!p(Ld)!p)((N1)!p(M1)!p(L1)!p)((N0)!p(M0)!p(L0)!p)(modpe)
が成り立つ。

 一般化Lucasの定理をe=1のときに適応すると
nCmpk0(1)k0i=1d(ni)!(mi)!(li)!(modp)
となり、特に全てのiに対しnimiならばk0=0でありli=nimiなので
nCmi=1dniCmi(modp)
とLucasの定理を得る。

 例えば2021C375252で割った余りを考えてみよう。このとき
n=2021=31041(5),m=37=122(5),l=202137=30414(5)
およびδ52=1, k21=1なので(都合、進数表記(n)は等号の右下に記す)
2021C3752(5)(1)1((03)!5(00)!5(03)!5)((31)!5(00)!5(30)!5)((10)!5(01)!5(04)!5)((04)!5(12)!5(41)!5)((41)!5(22)!5(14)!5)=(5)11311(04)!5(12)!5(22)!5(14)!5=(10)164!5(510)57!12!9!(mod25)(10)94!1(4!)3(67)(67891112)(6789)(10)142(844899)(487)(10)1(8)(1621)(27)=(10)21097491411(mod25)
(途中4!=241(mod25)であることや210=10241(mod25)であることを用いた。)
のように2021C375252で割った余りは11であることがわかる。

 これは(3)に有効です。具体的にはv2(4a+1C4b+1)=v2(aCb)=k0および
c=ab=cdcd1c1c0Ai=ai+1ai(2),Bi=bi+1bi(2),Ci=ci+1ci(2)
とおくと一般化Lucasの定理より
4a+1C4b+12k0(1)k0(i=0d(Ai)!2(Bi)!2(Ci)!2)(a00)!2(b00)!2(c00)!2(01)!2(01)!2(00)!2(1)k0k1aCb2k011(mod22)={aCb2k0ifa0b0aCb2k0ifa0<b0
が成り立ち、ab0(mod2)のときa0=b0であるので
4a+1C4b+12k0aCb2k0(mod4)
ひいては
4a+1C4b+1aCb(mod4)
を得る。といった具合に示せます。

証明

Kummerの定理

Legendreの公式

vp(n!)=ni=1dnip1が成り立つ。

n=i=1dnipi
より
npj=i=jdnipij
が成り立つので通常のLegendreの公式から
vp(n!)=j=1dnpj=i=1dnij=1ipij=i=1dni(pi1)p1=ni=1dnip1
を得る。

Kummerの定理の証明

 いまn=m+lおよびεiの取り方から
n0=m0+l0pε0,ni=mi+li+εi1pεi(i1)
が成り立つので(nd+1=εd=0に注意すると)
vp(nCm)=vp(n!m!l!)=vp(n!)vp(m!)vp(l!)=i=0d(ni+mi+li)p1=pε0+i=1d(pεiεi1)p1=(p1)i=0d1εip1=i=0d1εi
を得る。

一般化Lucasの定理

npjmpjlpj=εj1が成り立つ。

npjmpjlpj=i=jd(nimili)pij=i=jd(εi1pεi)pij=εj1+i=j+1dεi1piji=jd1εipij+1=εj1
と主張を得る。

一般化Wilsonの定理

(pe)!pδpe(modpe)が成り立つ。

(pe)!px(Z/peZ)×x(modpe)
の各因子xについてxx1(modpe)すなわちx21(modpe)であればxに対応する因子x1と打ち消し合って1になるので
x(Z/peZ)×xx21x(modpe)
であって、 この記事 でも紹介したように合同方程式x21(modpe)の解は
x{11ifpe=2±1,2e1±1ifpe=2e23±1otherwise(modpe)
で尽くされるので
x21x{(2e11)(2e1+1)1ifpe=2e231otherwise}=δpe(modpe)
を得る。

n!p=δpenpe(N0)!p(modpe)が成り立つ。

n!p=k=1pknk=(i=0npe1j=1pjpe(ipe+j))j=1pjN0(npepe+j)((pe)!p)npe(N0)!pδpenpe(N0)!p(modpe)
と主張を得る。

一般化Lucasの定理の証明

n!p=n!(np)!pnp
および通常のLegendreの公式より
n!pvp(n!)=(np0)!pj=0dnpj(npd+1)!=j=0d(npj)!pnpj(npj+1)!=j=0d(npj)!p
と変形できるので補題7より
n!pvp(n!)=j=0d(npj)!pj=0dδpenpe+j(Nj)!p(modpe)
であり補題5より
nCmpk0=n!pvp(n!)pvp(m!)m!pvp(l!)l!j=0d(δpenpe+jmpe+jlpe+j)j=0d(Nj)!p(Mj)!p(Lj)!p(modpe)=δpej=0dεj+e1j=0d(Nj)!p(Mj)!p(Lj)!p=δpeke1j=0d(Nj)!p(Mj)!p(Lj)!p
を得る。

参考文献

投稿日:202131
更新日:2024125
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

子葉
子葉
1068
261413
主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. Kummerの定理と一般化Lucasの定理
  3. 証明
  4. Kummerの定理
  5. 一般化Lucasの定理
  6. 参考文献