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お茶をどこまで冷ませるか?

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この記事では、次の問題およびその一般化について考えてみたいと思います.

容積の等しいn+1個の容器があり、そのうち1個には温度K>0のお茶が、残りのn個には温度0の水が満杯に入っている.2つの容器を選んで触れ合わせる操作を繰り返すことで、お茶の温度はどこまで低くできるだろうか?

ただし以下のように仮定します.

  • 2つの容器を触れ合わせる操作とは、内容物の温度がa,ba<b)である2つの容器に対して実数t[0,ba2]を選び、各容器の温度をa+t,btに変化させる操作を指す.
  • 上記以外の要因で液体の温度が変化することはない(勝手に冷めたりしない).

問題1は下記の動画で紹介されていた物理チャレンジの問題から着想を得て考えたものです.もともとの問題も面白いのでぜひ見てみてください.

動画→ 熱力学のパズル問題に挑戦【物理チャレンジ】

問題の答えは明らかにKに比例するので、以下ではK=1とします.お茶の入った容器をAとし、水の入った容器をB1,,Bnとします.また容器Aの内容物の温度をxで表し、容器Biの内容物の温度をyiで表します.初期状態は
(x,y1,,yn)=(1,0,,0)
です.
AB1を触れ合わせて温度を等しくすると
(x,y1,,yn)=(12,12,0,0)
となります.次にAB2を触れ合わせて温度を等しくすると
(x,y1,,yn)=(14,12,14,0,0)
となります.これを繰り返すと
(x,y1,,yn)=(12n,12,14,,12n)
という状態が実現されます.よってお茶の温度は12nまで低くできることがわかりました.

解法

実は上の例で見た12nという値がお茶の温度として実現しうる最小値になります.このことを証明しましょう.
まず関数f(x,y1,,yn)
yi1yikxyik+1yinf(x,y1,,yn)=j=1kyij2j+x2k
で定めます.例えばn=3のとき
y2y3xy1f(x,y1,y2,y3)=y22+y34+x4
のようになります.x,y1,,ynの中に等しい値がある場合、一見するとf(x,y1,,yn)の定義が複数存在するように思えますが、どの定義を採用しても値が等しいことが容易に確かめられます.さらにfは次のような良い性質を持っています.

2つの容器を触れ合わせる操作によってfの値が減少することはない.

操作は温度の高低を逆転させないので、操作前後の温度はいずれも
yi1yikxyik+1yin
をみたすとしてよい.このとき操作前後のfの値はいずれも
f(x,y1,,yn)=j=1kyij2j+x2k
で与えられる.容器BijBijj<j)に操作をすると、yijyij+tに、yijyijtに変化するが、この操作でfの値が減少しないことは上の式から容易にわかる.容器ABijに操作をする場合も同様である.

操作によってx<12nという状態が実現できたと仮定して矛盾を導きましょう.必要ならば容器B1,,Bnを互いに触れ合わせることで、y1==ynと仮定することができます.

上の状況で任意のiに対してx<yiである.

(1+n)x<1+n2n1なので1x>nxである.x+y1++ynの値は常に1なのでyi=1xn>xとなる.

よって上の状況でfの値は
f(x,y1,,yn)=x
となります.一方、初期状態でのfの値は
f(1,0,,0)=12n
と計算できます.x<12nなので、これは命題1に反しています.以上で、実現しうるお茶の温度の最小値は12nであることが示されました.

一般化

問題1では全ての容器の容積が等しい場合を考えました.では容器の容積が異なる場合はどうでしょうか?

容積1の容器Aと容積Viの容器Bii=1,2,,n)があり、Aには温度K>0のお茶が、容器Bii=1,2,,n)には温度0の水が満杯に入っている.2つの容器を選んで触れ合わせる操作を繰り返すことで、お茶の温度はどこまで低くできるだろうか?

ただし以下のように仮定します.

  • 2つの容器を触れ合わせる操作とは、内容物の温度がa,ba<b)で内容物の体積がV,Wである容器に対して実数t[0,baV+W]を選び、各容器の温度をa+Wt,bVtに変化させる操作を指す.

実はこれも同様の方法で解くことができます.以下では再びK=1とします.問題1と同様に考えるとお茶の温度はi=1n11+Viまで下げられることが分かります.これが最小値であることを示しましょう.
容器Aの内容物の温度をxで表し、容器Biの内容物の温度をyiで表します.関数f(x,y1,,yn)
yi1yikxyik+1yinf(x,y1,,yn)=j=1kVijyijm=1j(1+Vim)+xm=1k(1+Vim)
で定めます.すると問題1と同様に、x,y1,ynの中に等しい値がある場合もfの値は一つに定まり、また操作によってfの値は減少しないことが分かります.
操作によってx<i=1n11+Viという状態が実現できたと仮定して矛盾を導きましょう.必要ならば容器B1,,Bnを互いに触れ合わせることで、y1==ynと仮定することができます.

上の状況で任意のiに対してxyiである.

(1+i=1nVi)x<1+i=1nVii=1n(1+Vi)1なので1x>(i=1nVi)xである.x+V1y1++Vnynの値は常に1なのでyi=1xi=1nVi>xとなる.

よって上の状況でfの値は
f(x,y1,,yn)=x
となります.一方、初期状態でのfの値は
f(1,0,,0)=i=1n11+Vi
と計算できます.x<i=1n11+Viなので、これはfの値が減少しないことに矛盾しています.以上で、実現しうるお茶の温度の最小値はi=1n11+Viであることが示されました.

水を分配する場合

こんな問題も考えてみましょう.

容積の等しい容器A,B1,B2,があり、Aには温度K>0のお茶が、容器B1には温度0の水が満杯に入っている.
(1) 2つ容器を触れ合わせる操作
(2) 容器Biに入っている水の一部を容器Bjに移す操作

を組み合わせることで、お茶の温度はどこまで低くできるだろうか?

操作(2)は

  • 容器Biに入っている水の一部を空の容器Bkに移す操作
  • 容器BjBkを触れ合わせて温度を等しくする操作
  • 容器Bkに入っている水を全て容器Bjに移す操作

に分解することができます.よって問題3は以下の問題と等価です.

容積の等しい容器A,B1,B2,があり、Aには温度K>0のお茶が、容器B1には温度0の水が満杯に入っている.
(1) 2つ容器を触れ合わせる操作
(2) 容器Biに入っている水の一部を空の容器Bjに移す操作
(3) 温度の等しい容器Bk, Blに対し、Bkに入っている水を全てBlに移す操作

を組み合わせることで、お茶の温度はどこまで低くできるだろうか?

以下ではこの問題4を考えていきます.再びK=1と仮定します.問題4の操作(1)〜(3)について、次のように操作の順序を入れ替えられることが観察できます.

  • (1)の後に(2)を行う操作は、(2)の後に(1)を(複数回)行う操作で代用できる.
  • (3)の後に(1)を行う操作は、(1)を(複数回)行った後に(3)を行う操作で代用できる.
  • (3)の後に(2)を行う操作は、(2)の後に(2)または(3)を行う操作で代用できる.

これらを繰り返すことで、一連の操作は「(2)を繰り返す→(1)を繰り返す→(3)を繰り返す」という形であると仮定することができます.最後の(3)を繰り返す部分はお茶の温度を変えないので、結局「B1に入っていた水をB1,B2,に分配した後に(1)を繰り返すことでお茶の温度をどこまで低くできるか」を考えればよいことになります.

そこで容器の容積を1とし、B1,B2,に分配された水の体積をV1,V2,とします.Vn+1以降が全て0である場合、問題2の解答よりお茶の温度の最小値はi=1n11+Viとなります.相加相乗平均の不等式より
i=1n11+Vi(ni=1n(1+Vi))n=(nn+1)n
であり、V1==Vnの場合に等号が成立します.よってVn+1以降が0という条件のもとでV1,,Vnを動かしたときのお茶の温度の最小値は(nn+1)nであることが分かりました.さらにnを動かすと
limn(nn+1)n=1e
なので、結局お茶の温度は1/e以下にはならないが、1/eにいくらでも近い温度が実現できることが示されました.

予想

問題4でお茶の方も移し替えを許した場合については、まだ私はわかっていません.おそらく問題4と同じ結果になる(お茶は移し替えない方が温度を下げられる)と予想しています.

投稿日:202132
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J_Koizumi
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