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大学数学基礎解説
文献あり

フーリエ級数展開からフーリエ変換まで

1808
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はじめに

 この記事ではフーリエ級数展開およびにフーリエ変換の周辺知識とその正当性を示していきます。
 まずフーリエ級数展開とフーリエ変換とは以下の公式のことを言うのでした。

フーリエ級数展開

 R上区分的に滑らかな周期Tの関数fに対して
f(x+0)+f(x0)2=a02+n=1(ancos(2πnxT)+bnsin(2πnxT))=n=cnexp(2πinxT)
が成り立つ。この右辺のことをfのフーリエ級数という。
 ただし
f(x±0)=limh0±f(x+h)
および
an=2TT2T2f(t)cos(2πntT)dtbn=2TT2T2f(t)sin(2πntT)dtcn=1TT2T2f(t)exp(2πintT)dt
とした。

フーリエ変換

|f(x)|dx<
なる関数fに対して
f(x)=f^(y)e2πixydy(f^(y)=f(x)e2πixydx)
が成り立つ。このf^のことをfのフーリエ変換という。

直感的説明

 初等的な知識(高校数学程度)でフーリエ級数展開やフーリエ変換を学ぼうとすると大体は次のような説明を見ることになると思います。

フーリエ級数展開について

 三角関数の直交性
1πππcos(mx)cos(nx)dx={2m=n=01m=n00mn1πππsin(mx)sin(nx)dx={1m=n0mn1πππcos(mx)sin(nx)dx=0
に注意して周期2πの関数fにおけるフーリエ級数展開の公式をanの定義式に式に適用してみると
1πππf(t)cos(nt)dt=1πππ(a02+m=1(amcos(mt)+bmsin(mt)))cos(nt)dt=a02πππcos(nt)dt+m=1(anπππcos(mt)cos(nt)dt+bnπππsin(mt)cos(nt)dt)=an
と確かにanが出てくることがわかります。bnについても同様に
1πππf(t)sin(nt)dt=bn
となることがわかります。

 この説明では三角関数と直交するある関数が存在して
f(x)=g(x)+a02+n=1(ancos(nx)+bnsin(nx))
という形で書けそうだということまではわかりますが、g(x)の部分が0であるかどうかまではわかりません。

複素フーリエ級数展開について

cosx=eix+eix2,sinx=eixeix2i
に注意して周期2πの関数fにおけるフーリエ級数展開の公式をeinxについてまとめると
f(x)=a02+n=1(ancos(nx)+bnsin(nx))=a02e0+n=1(anibn2einx+an+ibn2einx)=n=cneinx
ただし
c±n=anibn2=12πππf(t)(cos(nt)isin(nt))dt=12πππf(t)eintdt
となることがわかります。

フーリエ変換について

 関数fに対してfT
fT(x)=f(x)(T2xT2)fT(x+T)=fT(x)
によって定め、これについてフーリエ級数展開するとfTおよびcnの定義から
fT(x)=n=cne2πinxT=n=(1TT2T2f(t)e2πintTdt)e2πinxT=1Tn=(T2T2f(t)e2πintTdt)e2πinxT
となり、このT極限を考えてみると区分求積法より
limT1Tn=(T2T2f(t)e2πintTdt)e2πinxT=(f(t)e2πitydt)e2πixydy
なので
f(x)=f^(y)e2πixydy
ただし
f^(y)=f(t)e2πitydt
と表せることがわかります。

 この説明は直感的には納得はできそうですが
limT1Tn=(T2T2f(t)e2πintTdt)e2πinxT=limT1Tn=(f(t)e2πintTdt)e2πinxT
と勝手に内側の積分範囲をTに飛ばしてしまっているところに問題があります。
 以下ではこれらの操作の正当性について説明していきます。

フーリエ級数展開について

各点収束性

リーマン・ルベーグの補題

 閉区間[a,b]上区分的に連続な関数fについて
limαabf(x)cos(αx)dx=limαabf(x)sin(αx)dx=0
が成り立つ。

 任意にε>0を取り、区間の分割
a=x1<x2<<xn+1=b
をそれぞれの区間(xk,xk+1)においてf(x)が連続であって、任意のx(xk,xk+1)に対し|f(x)f(xk)|<ε2(ba)
が成り立つように取る。
 また[a,b]上の|f(x)|の最大値をMとおくと、任意のα>4Mn/εに対して
|abf(x)cos(αx)dx|=|k=1n(xkxk+1(f(x)f(xk))cos(αx)dx+xkxk+1f(xk)cos(αx)dx)|k=1n(xkxk+1|f(x)f(xk)||cos(αx)|dx+|f(xk)[sin(αx)α]xkxk+1|)<ε2(ba)k=1nxkxk+1dx+Mαk=1n(|sin(αxk+1)|+|sin(αxk)|)ε2(ba)(ba)+ε4n2n=ε2+ε2=ε
と評価できるので主張を得る。sin(αx)についても同様である。

フーリエの収束定理

 R上区分的に滑らかな周期Tの関数fに対し
f(x+0)+f(x0)2=a02+n=1(ancos(2πnxT)+bnsin(2πnxT))=n=cne2πinxT
が成り立つ(ただし各点収束)。なおf(x±0),an,bn,cnは冒頭で紹介した通りである。

 簡単のためf(2πx/T)を改めてf(x)とおくことで周期2πであるものとしてよい。
 まずフーリエ級数の部分和Sn(x)とディリクレ核Dn(x)
Sn(x)=a02+k=1n(akcos(kx)+bksin(kx))=k=nnckeikxDn(x)=12+k=1ncos(kx)=sin((n+12)x)sin(12x)
とおくとak,bkの定義から
Sn(x)=1πππf(y)(12+k=1n(cos(ky)cos(kx)+sin(ky)sin(kx)))dy=1πππf(y)(12+k=1ncos(k(yx)))dy=1πππf(y)Dn(yx)dy=1ππxπxf(x+t)Dn(t)dt=1πππf(x+t)Dn(t)dt
と変形できる。
 ここで
g(t)={f(x+t)f(x+0)2sin(12t)(0t<π)f(x+t)f(x0)2sin(12t)(π<t<0)
とおくとfは区分的に滑らかとしていたので
limt0±g(t)=limt0±f(x+t)f(x±0)tt2sin(12t)=f(x±0)
gt=0で片側極限が存在し、したがってgπ<t<πにおいて区分的に連続となる。
 以上より
0πDn(t)dt=π0Dn(t)dt=π2
に注意するとリーマン・ルベーグの補題から
Sn(x)f(x+0)+f(x0)2=1πππf(t+x)Dn(t)dt1π0πf(x+0)Dn(t)dt1ππ0f(x0)Dn(t)dt=1πππg(t)sin((n+12)t)dt0(n)
を得る。

一様収束性

 フーリエの収束定理ではフーリエ級数が各点収束することを保証していますが実用的には一様収束が保証された方が嬉しいのでこの節では一様収束の十分条件を与えたいと思います。具体的には区分的に滑らかであることに加えてR上連続であれば十分であることがわかります。
 以下fは周期2πの関数であるものとします。

ベッセルの不等式

 fが区分的に連続であればフーリエ係数
cn=12πππf(t)eintdt
について
n=|cn|21πππ|f(x)|2dx
が成り立つ。特にfのフーリエ級数が一様収束するとき等号が成立し、その等式
n=|cn|2=1πππ|f(x)|2dx
のことをパーセバルの等式という。

 指数関数の直交性
12πππeimteintdt={1m=n0mn
に注意すると
012πππ|f(x)k=nnckeikx|2dx=12πππ(f(x)k=nnckeikx)(f(x)k=nnckeikx)dx=1πππf(x)f(x)dxk=nnck2πππf(x)eikxdxk=nnck2πππf(x)eikxdx+12πππ(k=nnckeikx)(k=nnckeikx)dx=1πππ|f(x)|2dxk=nnckckk=nnckck+k=nnckck=1πππ|f(x)|2dxk=nn|ck|2
が成り立つのでこれをnとすることで主張を得る。
 またnにおいて不等式の等号が成立する、つまり一行目の積分が0となるにはフーリエ級数が一様収束していれば十分である。

 fR上連続かつ区分的に滑らかであればフーリエ級数は一様収束する。

 いま導関数fのフーリエ係数
cn=12πππf(t)eintdt
を考えるとfの連続性から
cn=12π[f(t)eint]ππ12πππf(t)(ineint)dt=0+incn
が成り立ち、またfは区分的に連続であったのでベッセルの不等式から
n=n2|cn|2=|cn|212πππ|f(x)|dx<
つまりn=n2|cn|2は収束することがわかる。
 いま相加平均相乗平均の不等式から
|cn|=n2|cn|21n2n2|cn|22+12n2
が成り立つことに注意すると
|n=cneinx|n=|cn||c0|+12n=n2|cn|2+2n=112n2=n=n2|cn|2+π26<
とフーリエ級数が絶対一様収束することがわかる(cf. ワイエルシュトラスのMテスト)。

フーリエ変換について

 さて今問題になっているのは
limT1Tn=(T2T2f(t)e2πintTdt)e2πinxT=limT1Tn=(f(t)e2πintTdt)e2πinxT
という操作の正当性なのでした。この操作は中の積分の|t|>T2における部分の寄与が十分に小さいことを示唆しています。
 とりあえず一般のfに対してこの正当化を直接考えるのは大変なので十分大きい任意のtに対してfk(t)=0となる(つまりコンパクト台を持つ)ようなfに収束する適当な関数列fkを持ってくることにしましょう。このとき十分大きい任意のTに対し
T2T2fk(t)e2πintTdt=fk(t)e2πintTdt
が成り立つので上の操作が正当化でき
fk(x)=fk^(y)e2πixydy(fk^(y)=fk(t)e2πitydt)
が成り立つことになります。
 あとは適当な条件下で(優収束定理などから)
|f^(y)fk^(y)||f(t)fk(t)|dt0(k)
および
|f^(y)e2πixydyfk(x)||f^(t)fk^(t)|dt0(k)
が正当化できるので
limkfk(x)=f(x)=f^(y)e2πixydy
が成り立つ。といった具合でしょうか。

余談

 最後の最後で「いい感じの関数列を持ってくる」という曖昧な表現になってしまいましたが、実際問題一般の関数fに対してフーリエ級数からフーリエ変換を導出する際に上に挙げた問題に言及しているサイトやテキストが見当たらなかったためこのような始末となっていしまいました(もしかすると私が気付いていないだけで実は簡単な事実なのでしょうか)。ただfの無限遠点における漸近的挙動に条件を付けた場合(例えばf(x)=O(|x|k)といった具合)においては厳密な議論をすることができるらしいです。

おまけ:ポアソン和公式

ポアソン和公式

 関数f(x)のフーリエ変換
f^(s)=f(x)e2πixsdx
について
n=f(x+n)=n=f^(n)e2πix
が成り立つ。

F(x)=n=f(x+n)
とおくとこれは周期1の関数を定めるのでフーリエ級数展開
F(x)=n=cne2πinx
を考えることができ、このとき
cn=01F(x)e2πinxdx=k=01f(x+k)e2πinxdx=f(x)e2πinxdx=f^(n)
と表せることから主張を得る。

参考文献

投稿日:202133
更新日:2024511
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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