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置換積分について

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はじめに

この記事は, 大学受験の数学の問題を解く際の助けにと思って書いた, 高校数学のお話です. 従って, 少し簡単であったり, 非厳密であったり, 他のサイト等と被っていたりするかもしれませんが, ご容赦ください.
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目次

  • 置換積分の意味
  • 簡単な置換
  • $\displaystyle x=\sin\theta$ なる置換
  • $\displaystyle x=\tan\theta$ なる置換
  • $\displaystyle x=\frac{e^t-e^{-t}}{2}$ なる置換
  • おわりに
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置換積分の意味

少し感覚的なお話をしていきます. (個人的な捉え方ですので厳密さを欠いているかもしれません.)
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$dx$とは$x$の微小変化であり, $\displaystyle\int$ とは変数を動かしながら微小量を足し合わせると捉えられるのでした.

従って, 例えば $\displaystyle\int_a^bdx$ は, $x$$a\to b$と変化させながら, その微小変化$dx$を足した値ですので, $\displaystyle\int_a^bdx=b-a$ となります.

$x$の変化だということがわかりやすいように, $\displaystyle\int_{x=a}^{x=b}dx=b-a$ と書くこともあります.
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では次に, $\displaystyle\int_{x=a}^{x=b}x^2\,dx$ はどのように捉えられるでしょうか. これは, $x$$a\to b$と変化させながら, $x^2\,dx$ を足し合わせた値と考えられるのでした.

ここでいきなりですが, $x^3$ の微小変化と$x$の微小変化の関係を考えてみます. $d$で微小変化を表すことにすると, $d(x^3)=3x^2\,dx$ と書くことができます.

これは, 微小量の比$\displaystyle\frac{d(x^3)}{dx}$が微分であるということから理解できると思います.
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これを用いると,
$$ \displaystyle\int_{x=a}^{x=b}x^2\,dx=\frac13\int_{x=a}^{x=b}d(x^3)=\frac13\int_{x^3=a^3}^{x^3=b^3}d(x^3)=\frac{b^3-a^3}{3}$$
のように書くことができます.

即ち, $x^2\,dx$$x^3$ の微小変化の定数倍ですので, $x^3$を1つの文字とみることによって, はじめに紹介した$\displaystyle\int_a^bdx=b-a$ に帰着できたということです.
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いま1つの文字と言いましたが, これを本当に1つの別の文字で置き換えるというのが, まさに置換積分の考え方です.

先の問題で$x^3=y$と置換すると, $dy=3x^2\,dx$なので,
$$ \displaystyle\int_{x=a}^{x=b}x^2\,dx=\frac13\int_{x=a}^{x=b}dy=\frac13\int_{y=a^3}^{y=b^3}dy=\frac{b^3-a^3}{3}$$
となります. ここで, この式と前の式を見比べてもらえばわかるように, これらは, やっていることは全く同じなのです.
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より一般的に言えば, $\displaystyle\int_a^b f(x)\,dx$ の計算に, $F'(x)=f(x)$なる関数$F(x)$を考えるというのは, $\displaystyle d\big(F(x)\big)=F'(x)\,dx=f(x)\,dx$を利用して
$$ \displaystyle\int_a^b f(x)\,dx=\int_{x=a}^{x=b}d\big(F(x)\big)=\int_{F(x)=F(a)}^{F(x)=F(b)}d\big(F(x)\big)=F(b)-F(a)$$
と帰着している, と捉えられるのです. (この場合は$F(x)$を1文字と思っています.)

もう一つ例を出すと, $\displaystyle\int_a^b f\big(g(x)\big)g'(x)\,dx$ も, $g(x)$を1文字と思えば
$$ \displaystyle\int_{x=a}^{x=b} f\big(g(x)\big)g'(x)\,dx=\int_{g(x)=g(a)}^{g(x)=g(b)} f\big(g(x)\big)\,d\big(g(x)\big)=F\big(g(b)\big)-F\big(g(a)\big)$$
と書くことができます.
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まとめると, 置換積分は, 何か仰々しいことを行っているようですが, 実はただ単に, 上のような方法で1文字と思ったまとまりに違うお名前をつけてあげた, というだけなのです.

従って, もちろん置換をして複雑な関数をまとめることで見通しが立ちやすくなる側面もありますが, 逆に無駄に文字が増えてしまったり, 置換のステップが面倒になったりしてしまいます. 上で見たように置換は本当にただの置き換えですので, 試験での「置換積分」のステップはうまく省略することができます.

また, 置換が置き換えに過ぎないということを知っていれば, 変に置換をしてもうまくいく可能性は低いということもわかるでしょう.
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簡単な置換

ではまず, 簡単な置換積分について, 省略する方法(というより, 本質的には何をしているのか)を見ていきましょう. 以下, 積分定数は省略します.
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  1. $\displaystyle\int x\sqrt{x^2+1}\,dx$

$\displaystyle\int x\sqrt{x^2+1}\,dx=\frac12\int\sqrt{x^2+1}\,d(x^2)=\frac12\cdot\frac23(x^2+1)^{\frac32}$
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  1. $\displaystyle\int \sin^3x\cos x\,dx$

$\displaystyle\int \sin^3x\cos x\,dx=\int \sin^3x\,d(\sin x)=\frac14\sin^4x$
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  1. $\displaystyle\int \frac{1}{\cos^4x}\,dx$

$\displaystyle\int \frac{1}{\cos^4x}\,dx=\int\big(1+\tan^2x\big)\,d(\tan x)=\tan x+\frac13\tan^3x$
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$\displaystyle x=\sin\theta$ なる置換

次に, 有名置換と呼ばれていて, 知らないとできないと言われている置換について説明していきます. (まあ積分なんて全部, 知らないとできないと思いますが.)

これらは今までやってきた, $x$の関数をまとまりとしてみるのではなく, $x$自体を, 他の文字の式にしているところが, 少し違っています.
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しかし, 実はこれらは同じことです. それは, 逆関数を考えればわかります.

関数$\sin x$$\displaystyle-\fracπ2\leqq x\leqq \fracπ2$で全単射($x$$\sin x$の値が一対一対応するということです)なので, 逆関数が存在し, これを$\arcsin x$と書くことにします.

つまり, $\displaystyle\arcsin1=\fracπ2,\ \arcsin\frac12=\fracπ6$ のようになります.
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すると, $\displaystyle x=\sin\theta$$\displaystyle \arcsin x=\theta$ と書けます.

また, これらの微小変化の関係は, $\displaystyle dx=\cos\theta\,d\theta=\sqrt{1-x^2}\,d(\arcsin x)$ となりますので, $\displaystyle \frac{dx}{\sqrt{1-x^2}}=d(\arcsin x)$ ということになります.

$\arcsin x$の微小変化がこのように書けることが, 「$\displaystyle \sqrt{1-x^2}$を見たら$x=\sin\theta$とおけ」と言われる理由なのでした.
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$\displaystyle x=\tan\theta$ なる置換

これも同様です.

関数$\tan x$$\displaystyle-\fracπ2\leqq x\leqq \fracπ2$で全単射なので, この逆関数が存在し, それを$\arctan x$と書くことにします.

例えば, $\displaystyle\arctan1=\fracπ4,\ \arctan\sqrt3=\fracπ3$ のようになります.
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すると $\displaystyle x=\tan\theta$ のとき $\displaystyle\arctan x=\theta$ ですから, $\displaystyle dx=\frac1{\cos^2\theta}\,d\theta=(x^2+1)\,d(\arctan x)$ 即ち $\displaystyle\frac{dx}{x^2+1}=d(\arctan x)$ と書けることがわかりました.
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$\displaystyle x=\frac{e^t-e^{-t}}{2}$ なる置換

この関数は, $\sinh$と呼ばれるものです.

$\displaystyle \cosh x=\frac{e^x+e^{-x}}2,\ \sinh x=\frac{e^x-e^{-x}}2$ と定めます. すると,
$\displaystyle \frac{d}{dx}\cosh x=\sinh x,\ \frac{d}{dx}\sinh x=\cosh x,\ \cosh^2x-\sinh^2x=1$ などの性質があります.

関数$\sinh x$の逆関数を$\mathrm{arsinh}\,x$とします. これは $\displaystyle x=\frac{e^t-e^{-t}}{2}$$t$について解くと $\displaystyle t=\log\big(x+\sqrt{x^2+1}\big)$ となることから, $\displaystyle\mathrm{arsinh}\,x=\log\big(x+\sqrt{x^2+1}\big)$ と書くこともできます.
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以上より, $x=\sinh t$ (または $\displaystyle\log\big(x+\sqrt{x^2+1}\big)=t$) とおいたとき, $\displaystyle dx=\cosh t\,dt=\sqrt{x^2+1}\,d(\mathrm{arsinh}\,x)$ 即ち $\displaystyle\frac{dx}{\sqrt{x^2+1}}=d(\mathrm{arsinh}\,x)$ となることがわかります.
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全く同様にして, $\displaystyle\frac{dx}{\sqrt{x^2-1}}=d(\mathrm{arcosh}\,x)$ もわかります.
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おわりに

ここまで読んでくださった方, どうもありがとうございます.

置換積分の感覚的な捉え方と, 本質的な意味について, うまく説明できていたらうれしいです.

また, 後半は所謂"有名置換"の解説(?)をしました. なぜその置換でうまくいくのか, という理由を伝えられていたら幸いです.

最後に, 置換積分はだめだ, と言っているみたいになってしまいましたが, 全くそんなことはありません. 複雑な時には文字を置き換えて単純にする, というのはとても大事なことだと思います.

これからも楽しく積分していきましょう!

では, どうもありがとうございました.

投稿日:2020117

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投稿者

東大理数B4です

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