概要
物理学にはラグランジュの運動方程式があり、重要な方程式である一方で、微分と積分が入り混じって複雑な形をしている。ここでは表記に着目し、最速降下曲線の定式からオイラー・ラグランジュの運動方程式を導き、幾つかの一般化を含めた式の表記について考察する。
最速降下曲線問題
むかしむかし、ヨーロッパの数学者の間では問題を投げ合うのが流行っていた。そんな中、
最速降下曲線 [wikipedia]
と呼ばれる問題があった。
質点が点を静止状態から一定の重力のみで加速して、沿って一番早く点に辿り着ける曲線を求めよ。
最速降下曲線問題
点から点までの移動時間は、質点が2点それぞれに居る時刻からまでの時刻の積分として、とりあえず形式的にと書ける。時刻が未知であり、求めたいのは曲線の形であるため、をに変えてとの関係式に変形したい。
ここで、速度を導入すれば、その成分でを置換できる。また、力学的エネルギ保存則を使えばを消せる。で、重力加速度は定数として残して良い。は曲線の形状情報のため残して良い。
であるゆえ、先にをで表してから纏めて消す。質点が曲線に沿って移動するため、速度は曲線の勾配方向に向き、が成り立つので、これを使えば良い。新たに出てきたは曲線を記述するとの関係式であるため残して良い。
以上を纏めると、 であるため、となる。よって、となる。後は最小のを与える関数を数学的に解けば良い。
変分法
を一般化すると、未知関数とその微分を独立変数とする記述関数があり、その定積分で定義される汎関数の関数値を最小にする関数を求める問題に帰着する。
変分の原理では、関数に微小な変化を与え、その差異によって引き起こす汎関数値の変化を調べる。は基本的に任意だが、2点を必ず通るため、境界条件としての制約を課す必要がある。
変分法
問題を簡単にするため、を微小な定数値と任意の関数の積に分けて定義する:。また、境界条件をの形で引き継ぐ。すると、如何なるを加えてもが最小値を取るとき、少なくともが成り立っている必要がある。これは代入してからで微分する意味である。
更に記号法として、を定義して置く。すなわち、、。これで解くべき問題はになる。
ここからは一気に計算する。微分と積分が交換可能であり、連鎖則に従い、部分積分もできる。部分積分で、が出てくるが、境界条件が効いているため、に消える。
これが任意のに対し常にであるためには、積分対象をにするしかない。これがオイラー・ラグランジュ方程式になる。
微分と代入の読み方
導出の過程から、オイラー・ラグランジュ方程式に含まれる偏微分は「先に変微分してから代入する」のに対し、常微分は「先に代入してから微分する」。良く用いられる微分の表記では、この代入と微分の順番は曖昧になっているため、注意が必要である。
一般に、合成関数の微分では、微分する対象で代入と微分の順番が決まる。例えば合成関数の微分はと表記される。は代入する関数の独立変数で微分するように表記し、にを代入してからの微分を意味する。対し、は代入する関数で微分するように表記し、を先に微分してからの代入を意味する。
すると、オイラー・ラグランジュ方程式に含まれるの意味は、偏微分が代入する関数で微分するため代入してからの微分で、常微分は代入する関数やの独立変数で微分するため微分してからの代入と読める。
代入前後の定義域の問題
合成関数では、がの微分で互いに独立してないため、定義域に関して混乱し易い。具体に、と定義すれば2次元空間が定義域とも成り得るが、と代入すれば定義域が1次元に限定される。物理的に見れば、問題が1次元の軸上でしか定義されないため、を偏微分するための2次元空間の殆どが「定義域外」と錯覚し易い。
これに対し、の定義域が物理的に意味のある領域を含む関係にあり、代入前は、代入でに制限されると考えると良い。すなわち、関数の解析は広い2次元空間で行い、解析した結果を物理的に意味のある1次元空間に限定して使えば辻褄が合う算段である。
多次元への一般化
未知関数がベクトル関数の場合、縮約記法ではと表記する。記述関数は全ての要素の関数になる。
ベクトル表記でと書くように、縮約記法では縮約せずにと書く。とも書けるが、縮約記法では添字の数で総和を取る対象を判断するため、関数の代入値に添字が含まれると紛らわしくなる。例えば、2次元でと書いてもというベクトル値あって、というスカラー値には成らない。関数の括弧の中は外と無関係と分かれば、でも良い。無関係と主張してと書いても良いが、対応が崩れるのと、添字に使える文字を消費してしまう弱点がある。
結果的に、オイラー・ラグランジュ方程式は単純な書き換えで済む。
位置もベクトル値の場合、縮約記法では反変成分でと書き、記述関数は全てのとその勾配の関数となる。勾配はベクトル勾配としてで表記され、との全組合わせだけの成分を持つ。の引数を全て並べて書くと:
これをやと表記される。
オイラー・ラグランジュ方程式は未知変数の偏微分項がやたらと増えて、常微分の部分も偏微分に変わって内積を取る。ベクトル記法では
縮約記法では