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大学数学基礎解説
文献あり

πが無理数であることの簡単な証明

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Niven [1] (1ページの論文!)による,$\pi$が無理数であることのシンプルな証明を紹介します.

背理法による証明

$\pi$が有理数であると仮定し,$\pi=a/b$とする.ここで$a,b$は正の整数である.次の多項式を考える.
\begin{align} f(x) &= \frac{x^n(a-bx)^n}{n!},\\ F(x) &= f(x) - f^{(2)}(x) + f^{(4)}(x) - \cdots + (-1)^n f^{(2n)}(x). \end{align}
ただし,ここで$n$は後で定められる正の整数である.$n!f(x)$は整数係数の多項式であり,さらに$x$についての次数が$n$以上であることから,$f(x)$およびそのすべての導関数$f^{(j)}(x)$$x=0$における値は整数である(補足:$f(x),\ldots,f^{(n-1)}(x)$$x=0$での値が$0$であり,$f^{(j)}(0)$の値が$0$でなくなるのは$f^{(n)}$以降だが,$f(x)$$n$回微分すると分母の$n!$はキャンセルされる).また,$f(x)=f(a/b-x)$より,$x=\pi$においても同様に,$f(x)$およびそのすべての導関数$f^{(j)}(x)$の値は整数となる(補足:$f^{(j)}(x) = (-1)^j f^{(j)}(a/b-x)$$x=\pi$を代入してみればよい).次に,初等的な微積分の計算から,
\begin{align} \frac{d}{dx} \left\{ F'(x) \sin x - F(x) \cos x \right\} = F''(x) \sin x + F(x) \sin x = f(x) \sin x \end{align}
が成立することがわかる.ここで二つ目の等号では$F(x)$の定義および$f(x)$$2n$次の多項式であることから
\begin{align} F''(x) = f^{(2)}(x) - f^{(4)}(x) + f^{(6)}(x) - \cdots + (-1)^{n-1} f^{(2n)}(x) \end{align}
となることを用いた.これよりさらに,
\begin{align} (\text{1}) \quad \quad \quad \int_0^{\pi} f(x) \sin x \,dx = \left[ F'(x)\sin x - F(x) \cos x \right]_0^{\pi} = F(\pi) + F(0) \end{align}
を得る.いま,すべての$f^{(j)}(0)$および$f^{(j)}(\pi)$が整数であることから,$F(\pi) + F(0)$も整数である.しかし,一方で,$0< x<\pi$の範囲の$x$に対して,
\begin{align} 0 < f(x) \sin x = \frac{x^n(a-bx)^n}{n!} \sin x < \frac{\pi^n a^n}{n!} \end{align}
が成立する(補足:$\sin x$$1$で上から抑え,$x^n(a-bx)^n$$\pi^n a^n$で上から抑えた).これより,式(1)の左辺の積分に対して
\begin{align} 0 < \int_0^{\pi} f(x) \sin x \,dx < \int_0^{\pi} \frac{\pi^n a^n}{n!} \,dx = \frac{\pi^{n+1} a^n}{n!} \end{align}
が成立するが,上式右辺は$n$を大きくしていくといくらでも小さくなる(補足:一般に任意の正数$\alpha$に対し$\displaystyle \lim_{n\to\infty} \frac{\alpha^n}{n!}=0$が成り立つ).特に十分大きな$n$に対して$\dfrac{\pi^{n+1} a^n}{n!} < 1$とできる.このような$n$に対しては,式(1)の左辺の積分は整数になり得ないが,式(1)の右辺の$F(\pi) + F(0)$は整数であるから矛盾.したがって$\pi$は無理数である.

参考文献

[1]
I. Niven, A simple proof that $\pi$ is irrational, Bull. Amer. Math. Soc., 1947, pp.509--509
投稿日:2021319

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