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大学数学基礎解説
文献あり

リーマン面の分岐指数と数論における分岐指数の関係性

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はじめに

代数的整数論には分岐指数という概念が登場します。これは純粋に代数的な議論によって定義されますが、一方でリーマン面の文脈にも分岐指数という概念が登場し、これは幾何的、解析的な議論から定義されます。もちろん定義は全く異なりますが、実はこれらの二つの分岐には少し似ているところがあるのです。本記事では二つの分岐の繋がりについて解説します。

各々の分岐指数の定義

リーマン面の分岐指数

$f:M\longrightarrow N$ をリーマン面の間の解析的な写像とする。$M$ の点 $p$ に対して $(U,\phi)$$p\in U,\,\phi(p)=0$ を満たす $M$ のチャートとし、$(V,\psi)$$f(p)\in V,\,\psi(f(p))=0$ を満たす $N$ のチャートとする。このとき、ある正整数 $n$ と正則写像 $h:\phi(U)\longrightarrow \psi(V)$
$$(\psi\circ f\circ \phi^{-1})(z)=z^nh(z),\;h(0)\neq 0$$
を満たすものが存在する。この $n$$f$$p$ における分岐指数といい、$\nu_f(p)$ と書く。

$\nu_f(p)>1$ のとき $f$$p$ で分岐するといい、$\nu_f(p)=1$ のときは不分岐であるという。$f$$p$ で分岐するとき $p$$f$ の分岐点という。

$\nu_f(p)$ がチャートの取り方に依らないことを一応示さないといけませんが、これは座標変換が等角写像になっており、したがって
$$a_1z+a_2z^2+\cdots \;\;(a_1\neq 0)$$
という形になっていることからわかります。

正則性は根をとっても保たれるので $z^nh(z)$ を改めて $(zh(z))^n$ と表すことにします。すると、点 $p$ の十分小さな近傍では $f$$p$ を除いて $n$$1$ 写像になっていることがわかります。こう考えると分岐というネーミングにも納得がいきますよね。

数論における分岐指数

$L/K$ を有限次代数拡大、$A$$K$ を商体として持つデデキンド整域、$B$$A$$L$ における整閉包とする。このとき $B$ はデデキンド整域であり、$A$$0$ でない素イデアル $\mathfrak{p}$ から生成される $B$ のイデアル $\mathfrak{p}B$ は次のような一意的な素イデアル分解を持つ:
$$\mathfrak{p}B=\prod_{\mathfrak{P}\cap A=\mathfrak{p}}\mathfrak{P}^{e_{\mathfrak{P}}}.$$
このとき $e_{\mathfrak{P}}$$\mathfrak{P}$$\mathfrak{p}$ における分岐指数という。

$e_{\mathfrak{P}}>1$ のとき $\mathfrak{P}$$\mathfrak{p}$ 上分岐するといい、$e_{\mathfrak{P}}=1$ のときは不分岐であるという。

2種類の分岐について紹介しましたが、定義だけ見ると何となく雰囲気は似ているもののそこまで関係ないような気がしますね。これらを結びつける鍵は、リーマン面の有理型関数体です。リーマン面 $M$ の有理型関数とは $M$ からリーマン球面 ${\mathbb C}_{\infty}$ へのリーマン面としての解析的な写像のことでした。

二つの分岐指数の関係

リーマン球面 ${\mathbb C}_{\infty}$ の有理型関数のなす体 $\mathcal{M}({\mathbb C}_{\infty})$
$${\mathbb C}(z)=\left\{\frac{P}{Q}\mid P,Q\in{\mathbb C}[z],\;Q\neq 0\right\}$$
に等しい。

${\mathbb C}(z)$$\mathcal{M}({\mathbb C}_{\infty})$に含まれることは明らかである。$f\in\mathcal{M}({\mathbb C}_{\infty})$ を任意に取る。必要なら $f$ の代わりに $1/f$ を取れば $f(\infty)\neq \infty$ と仮定してよい。コンパクトリーマン面のファイバーは離散的でありしたがって有限であるから
$$f^{-1}(\infty)=\{p_1,\cdots,p_r\}$$
とおける。つまり各$p_i$$f$ の極である。各$p_i$における$f$のローラン展開の主要部を
$$g_i(z)=\sum_{n=-k_i}^{-1}a_{n,i}(z-p_i)^n$$
とおくと $g=f-(g_1+\cdots+g_r)$ は極を持たない有理型関数であるから、これは正則関数である。コンパクトリーマン面上の正則関数は定数に限られるから $g$ は定数であり、したがって
$$f=g+g_1+\cdots+g_r\in{\mathbb C}(z)$$
となる。

この補題によって二つの分岐を結びつけることが可能になります。$f$ をリーマン球面上の有理型関数とすると、${\mathbb C}(x)$ に対して $x=f$ を代入することで体拡大 ${\mathbb C}(z)/{\mathbb C}(f)$ が得られます。このとき ${\mathbb C}(z),{\mathbb C}(f)$ はそれぞれデデキンド整域 ${\mathbb C}[z]$,${\mathbb C}[f]$ の商体となっているということがわかります。
 そこで次の定理が成り立ちます。

$f\in\mathcal{M}({\mathbb C}_{\infty})$、つまり $f$ をリーマン球面からリーマン球面への解析的な写像とし、$f(0)=0$ を満たすものとする。このとき ${\mathbb C}[z]$の素イデアル $(z)$$(f)$ を含み、$f$$0$ における分岐指数 $\nu_f(0)$${\mathbb C}[f]$ の素イデアル $(f)$ における $(z)$ の分岐指数 $e_{(z)}$に等しい。

$\nu_f(0)=n$ とおく。リーマン球面のチャートは $0$ の十分小さな近傍では恒等写像であったから、定義と補題1から
$$f(z)=z^nh(z),\;h(0)\neq 0$$
を満たす $h\in{\mathbb C}[z]$ が存在する。したがって $(z)\supset(f)$ である。
 ${\mathbb C}$ は代数閉体であるから ${\mathbb C}[z]$ において $h$$h(z)=a_0(z-a_1)\cdots(z-a_m)$ と分解され、各 $1\leq i\leq m$ に対して $(z-a_i)$${\mathbb C}[z]$$(z)$ とは異なる素イデアルとなる。よって
$$(f)\cdot{\mathbb C}[z]=(z)^n\cdot\prod_{i=1}^m(z-a_i)$$
という素イデアル分解が得られ、 $\nu_f(0)=e_{(z)}$ が成り立つことがわかる。

つまり、リーマン球面の有理型関数体の部分体として ${\mathbb C}(f)$ を取れば体拡大 $\mathcal{M}({\mathbb C}_{\infty})/{\mathbb C}(f) $ の分岐指数の中にリーマン面としての分岐指数と等しいものが現れる、ということです。ここでの議論はリーマン球面の有理型関数体に限ったものなので、(筆者が知らないだけかもしれませんが)そこまで理論的に深い繋がりがある訳ではないようですね。類似と言ってもよいでしょう。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

参考文献

[1]
今野一宏, リーマン面と代数曲線
[2]
雪江明彦, 代数学のひろがり
投稿日:2021320

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Yosei
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