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πとlog(n)の無理性

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この記事では「円周率$\pi$」および「$2$以上の整数$n$に対する自然対数$\log n$」が無理数であることを証明します.ここで紹介する円周率の無理性の証明はBourbakiの教科書に載っているものですが、実は$\log n$の無理性もほとんど同じように証明できます.見通しがよく覚えやすい方法なので、「円周率の無理性の証明を何か一つ覚えておきたい」という方にもおすすめです.

方針

$\pi$の無理性の証明の概略は次の通りです.ただし多項式$f(x)$$x=a$における高階微分係数とは$f(a),f'(a),f''(a),\dots$の値のことを指します.

Step 1. $r$を正の有理数とすると、$x=0,r$での高階微分係数が全て整数であるような多項式$f(x)$であって、$(0,r)$上で非常に小さい正の値を取るものが構成できる.

Step 2. 一方で多項式$f(x)$に対し、$\displaystyle\int_0^\pi f(x)\sin x~dx$の値は$x=0,\pi$での$f$の高階微分係数を足し引きすることで表せる(ここに$\pi$という数の特殊性が効いている).

Step 3. $\pi$が有理数だと仮定し、(1)で$r=\pi$として多項式$f(x)$を取ると、(2)より$\displaystyle\int_0^\pi f(x)\sin x~dx$は整数となる.一方で$f(x)$$(0,r)$上で非常に小さい正の値を取るので$0<\displaystyle\int_0^\pi f(x)\sin x~dx<1$となって矛盾する.

$\log n$の無理性の証明もほとんど同じで、用いる積分を$\displaystyle\int_0^{\log n}f(x)e^x~dx$に置き換えるだけです.

多項式の構成

まずStep 1を説明します.

有理数$r>0$および実数$\varepsilon>0$に対し、以下の条件を満たす実数係数多項式$f(x)$が存在する:
(1) $x=0,r$における$f(x)$の高階微分係数は全て整数である.
(2) $0< x< r$の範囲で$0< f(x)<\varepsilon$である.

$r=\dfrac{q}{p}$と既約分数表示する.十分大きい正整数$n$に対して$f(x)=\dfrac{x^n(q-px)^n}{n!}$が条件を満たすことを示す.
(1) $f(x)$の高階微分係数は
$$ f^{(k)}(x)=\sum_{i+j=k}\dfrac{(x^n)^{(i)}((q-px)^n)^{(j)}}{n!} $$
と表せる.右辺に$x=0$を代入すると$i\neq n$の項は$0$となり、$i=n$の項は整数となる.同様に$x=r$を代入しても整数になることが確かめられる.
(2) 定義より$0< x< r$において$0< f(x)<\dfrac{r^nq^n}{n!}$が成り立つ.右辺は$n\to \infty$$0$に収束するので、$n$を十分大きく取ればこの範囲で$0< f(x)<\varepsilon$となる.

積分値の整数性

Step 2はとても簡単です.

$f(x)$を実数係数多項式とする.$f$$x=0,\pi$における高階微分係数が全て整数ならば、積分値
$\displaystyle \int_0^\pi f(x)\sin x~dx$も整数である.

部分積分を繰り返すと
$$ \int_0^\pi f(x)\sin x~dx=\bigl[-f(x)\cos x\bigr]_0^\pi-\bigl[-f'(x)\sin x\bigr]_0^\pi+\cdots $$
となり、この値は$f$$x=0,\pi$における高階微分係数の整数係数線型結合で表せるのでよい.

$\pi$の無理性

$\pi$は無理数である.

$\pi$が有理数であると仮定して矛盾を導く.命題2より以下の条件を満たす実数係数多項式$f(x)$が存在する:

  • $x=0,\pi$における$f(x)$の高階微分係数は全て整数である.
  • $0< x<\pi$の範囲で$0< f(x)<\dfrac{1}{2}$である.

命題3より$\displaystyle \int_0^\pi f(x)\sin x~dx$も整数となるが、2つめの条件より$0<\displaystyle \int_0^\pi f(x)\sin x~dx<1$なので矛盾する.

$\log n$の無理性

$\log n$の無理性を示すには命題3の代わりに次の命題を用います.

$f(x)$を実数係数多項式とし、$n$$2$以上の整数とする.$f$$x=0,\log n$における高階微分係数が全て整数ならば、積分値$\displaystyle \int_0^{\log n} f(x)e^x~dx$も整数である.

部分積分を繰り返すと
$$ \int_0^{\log n} f(x)e^x~dx=\bigl[f(x)e^x\bigr]_0^{\log n}-\bigl[f'(x)e^x\bigr]_0^{\log n}+\cdots $$
となり、この値は$f$$x=0,\log n$における高階微分係数の整数係数線型結合で表せるのでよい.

$2$以上の整数$n$に対して$\log n$は無理数である.

$\log n$が有理数であると仮定して矛盾を導く.命題2より以下の条件を満たす実数係数多項式$f(x)$が存在する:

  • $x=0,\log n$における$f(x)$の高階微分係数は全て整数である.
  • $0< x<\log n$の範囲で$0< f(x)<\dfrac{1}{n-1}$である.

命題3より$\displaystyle \int_0^{\log n} f(x)e^x~dx$も整数となるが、2つめの条件より$0<\displaystyle \int_0^{\log n} f(x)e^x~dx<1$なので矛盾する.

投稿日:2021321
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J_Koizumi
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