この記事では自然対数の底$e$が超越数であることの証明を紹介します.
多項式$f(x)$に対して
$$
f[x]=f(x)+f'(x)+f''(x)+\cdots
$$
と定めます.多項式は何回か微分すると$0$になるので、右辺は有限和になります.
$n$を正整数とし、$n$より大きい素数全体の集合を$P_n$とする.このとき実数係数多項式の族$\{f_p(x)\}_{p\in P_n}$が存在して以下を満たす:
(1) $f_p[0]$は$p$の倍数でない整数.
(2) $f_p[1],\dots,f_p[n]$は全て$p$の倍数.
(3) $[0,n]$上で一様に$\lim_{p\to \infty}f_p(x)=0$.
一旦この補題を認めて$e$の超越性を示しましょう.
$e$は超越数である.
$c_0+c_1e+\dots+c_ne^n=0$となる整数$c_0,\dots,c_n$が存在したと仮定して$c_0=\dots=c_n=0$を示せばよい.上の補題のように$\{f_p\}_{p\in P_n}$を取り、十分大きな素数$p$を取って$f(x)=f_p(x)$とおく($p$をどのくらい大きく取ればよいかは後述する).次の定積分を考える:
$$
I_k=\int_0^kf(x)e^{-x}~dx.
$$
部分積分を繰り返すと
\begin{align*}
I_k&=\bigl[-f(x)e^{-x}\bigr]^k_0+\bigl[-f'(x)e^{-x}\bigr]^k_0+\cdots\\
&=(f(0)+f'(0)+\cdots)-(f(k)e^{-k}+f'(k)e^{-k}+\cdots)\\
&=f[0]-f[k]e^{-k}
\end{align*}
となるので$c_ke^kI_k=c_ke^kf[0]-c_kf[k]$である.$k$にわたって足しあげると
$$
c_1e^1I_1+\dots+c_ne^nI_n=-(c_0f[0]+\cdots+c_nf[n])
$$
となる.(3)より、$p$を十分大きく選んでおけば左辺の絶対値は$1$未満となるが、右辺は整数なので両辺は$0$となる.特に右辺は$p$で割り切れるので、(1)と(2)より$p\mid c_0$がわかるが、やはり$p$を十分大きく選んでおけば$c_0=0$が得られる.
あとは最初の式を$e$で割って同じことを繰り返せば$c_0=\dots=c_n=0$が分かる.
$$
f_p(x)=\dfrac{x^{p-1}(x-1)^p\dots(x-n)^p}{(p-1)!}
$$
が条件を満たすことを示す.
$$
f_p[x]=\sum_{i_0,\dots,i_n=0}^\infty\dfrac{(x^{p-1})^{(i_0)}((x-1)^{p})^{(i_1)}\cdots((x-n)^p)^{(i_n)}}{(p-1)!}
$$
と表せることに着目する.
(1) 上の式に$x=0$を代入すると$i_0\neq p-1$の項は$0$となる.$i_0=p-1$の項は整数だが、その中でも$i_1=\dots=i_n=0$の項だけは$p$の倍数でなく、それ以外は$p$の倍数である.よって$f_p[0]$は$p$の倍数でない整数である.
(2) 上の式に$x=k$($1\leq k\leq n$)を代入すると$i_k\neq p$の項は$0$となり、$i_k=p$の項は全て$p$の倍数となる.よって$f_p[k]$は$p$の倍数である.
(3) $[0,n]$上で$|f_p(x)|\leq \dfrac{n^{p-1}(n^p)^n}{(p-1)!}$が成り立つ. 右辺は$p\to \infty$で$0$に収束するのでよい.