以下,$D$を$\mathbb{C}$内の領域とし,$f \colon D \to \mathbb{C}$を$D$上の正則関数とする。
任意の$z_0 \in D$に対し,$z_0$を含むような$D$のある開集合$U$が存在して,次の(1)または(2)が成り立つ。
そして,(2)の場合にはさらに(3)が成り立つ。
$f$は$z_0$で正則なので,$z_0$を含むような$D$のある開集合$U$が存在して,$U$上
$$ f(z) = \sum_{n=0}^\infty a_n (z - z_0)^n$$
と冪級数展開される。
もし,$a_n = 0$ $(n = 0, 1, 2, \ldots)$だとすると,$f$は$U$上で恒等的に$0$となる。
(つまり,(1)が成り立つ。)
さもなければ,ある番号$n$が存在して$a_n \neq 0$となる。
このような$n$の最小値を$k$と置く。
勝手に選んだ$z_1 \in U \setminus \{z_0\}$について,級数
$$
\sum_{n=0}^\infty a_n (z_1 - z_0)^n = \sum_{n=0}^\infty a_{n+k} (z_1 - z_0)^{n+k}
$$
は収束するので,級数
$$
\sum_{n=0}^\infty a_{n+k} (z_1 - z_0)^n =
(z_1 - z_0)^{-k} \sum_{n=0}^\infty a_{n+k} (z_1 - z_0)^{n+k}
$$
もまた収束する。
したがって,冪級数$\sum_{n=0}^\infty a_{n+k} (z - z_0)^n$は開円盤$|z - z_0| < r$上で収束する。
(ただし,$r > 0$は$r < |z_1 - z_0|$を満たしていれば何でもよい。付録の命題を参照せよ。)
$g(z) = \sum_{n=0}^\infty a_{n+k} (z - z_0)^n$と置くと,$U$と開円盤$|z - z_0| < r$との共通部分$V$上で
$$ f(z) = (z - z_0)^k g(z) \text{, } g(z_0) = a_k \neq 0$$が成り立つ。
(つまり,(2)が成り立つ。)
$g(z)$は$z = z_0$で$a_k \neq 0$という値を取るので,その連続性から,$z_0$を含むような$D$のある開集合$W \subset V$においては常に$0$でない値を取る。
したがって,$W \setminus \{z_0\}$上
$$ f(z) = (z - z_0)^k g(z) \neq 0$$
である。
(つまり,(3)が成り立つ。)
$z_0 \in D$のある近傍で$f$が恒等的に$0$であるならば,$f$は$D$でも恒等的に$0$である。
$E = \{ z \in D \mid \text{$z$のある近傍で$f$は恒等的に$0$} \}$と置く。
$z_0 \in E$より$E \neq \emptyset$である。
$z \in E$とすると,$z$を含むような$D$のある開集合$U$が存在して,$f$は$U$上恒等的に$0$となる。
$w \in U$とする。
このとき,$U$は$w$の近傍であり,$f$は$U$上恒等的に$0$なので,$w \in E$である。
つまり,$U \subset E$である。
これは$E$が$D$の開集合であるということに他ならない。
次に,$z \in \overline{E}$とする。
このとき,$z$を含むような$D$のある開集合$U$が存在して$U$上$f(\zeta) = 0$となるか,さもなければ$z$を含むような$D$のある開集合$W$が存在して$W \setminus \{z\}$上$f(\zeta) \neq 0$となる。
前者であれば,$z \in E$である。
後者であれば,$z \in \overline{E}$より$W \cap E \neq \emptyset$である。
$\zeta \in W \cap E$とすると,$\zeta \in E$より$f(\zeta) = 0$であるが,一方,$\zeta \in W$より$\zeta = z$である。
したがって,$z \in E$である。
これは$E$が$D$の閉集合であるということに他ならない。
領域$D$は連結なので,$D$の開かつ閉であるような部分集合は空集合でなければ$D$に等しい。
したがって,$E = D$であり,$f$が$D$上恒等的に$0$であることが示された。
$f \neq 0$とする。
このとき,$z_0 \in D$についての以下の条件は同値である。
$f(z_0) = 0$とする。
このとき,$z_0$を含むような$D$のある開集合$V$が存在し,$V$上$f(z)=0$となるか,さもなければ$z_0$を含むような$D$のある開集合$U$と$U$上の正則関数$g \colon U \to \mathbb{C}$, および負でない整数$k$が存在し,$U$上
$$ f(z) = (z - z_0)^k g(z) \text{, } g(z_0) \neq 0$$
が成り立つ。
前者の場合,一致の定理により$f = 0$となってしまう。
したがって,成り立つのは後者であるが,このとき,$f(z_0) = 0$より$k \geq 1$である。
これが示すべきことであった。(逆は明らかである。)
前命題の同値な条件が満たされるとき,$z_0$は$f$の零点であるという。
(条件の中に現れる正の整数$k$を零点の位数という。)
零点の位数は$f$の表示の仕方に依らない。
以下,そのことを確かめる。
$z_0$のある近傍$U$において,
$$ (z - z_0)^k g(z) = (z - z_0)^l h (z)$$
が成り立つとする。
ここで$g$, $h$は$U$上の正則関数であり,$g(z_0) \neq 0$かつ$h(z_0) \neq 0$, また$k$, $l$は正の整数である。
必要であれば$U$を小さく取り替えることにより,すべての$z \in U$に対して$g (z) \neq 0$かつ$h (z) \neq 0$が成り立つとしてよい。($g$, $h$の連続性)
このとき,$U \setminus \{z_0\}$上
$$ (z - z_0)^{k-l} \frac{g(z)}{h(z)} = 1$$
が成り立つ。
もし,$k > l$であるならば,この等式の左辺は$z \to z_0$のとき$0$に収束することになってしまう。
同様にして$k < l$もあり得ないので,結局,$k = l$である。
$f \neq 0$の零点全体の集合$E$は$D$内に集積点を持たない。
仮に,$E$が$D$内に集積点$z_0$を持ったとする。
このとき,$z_0$を含むような$D$のある開集合$U$が存在し,$U$上$f(z) = 0$となるか,さもなければ$z_0$を含むような$D$のある開集合$V \subset U$が存在して,$V \setminus \{z_0\}$上$f(z) \neq 0$となる。
前者の場合,一致の定理により$f = 0$となってしまい矛盾する。
後者の場合,$z_0$が$E$の集積点であることから$(V \setminus \{z_0\}) \cap E \neq \emptyset$となる。
しかし,$z \in (V \setminus \{z_0\}) \cap E$とすると$f(z) \neq 0$かつ$f(z)=0$となり矛盾する。
次の形の命題を一致の定理と呼ぶことも多い。
$D$内に集積点を持つような部分集合$E \subset D$を考える。
もし,$f$が$E$で恒等的に$0$ならば,$f$は$D$でも恒等的に$0$である。
$f \neq 0$ならば,$f$の零点全体の集合$E'$は$D$内に集積点を持たない。
しかし,$E \subset E'$の$D$内の集積点は,そのまま$E'$の$D$内の集積点になってしまうので,$f = 0$でなければならない。
冪級数$\sum_{n=0}^\infty a_n (z - z_0)^n$がある$z_1 \neq z_0$で収束したとすると,それは任意の$0 \leq r < |z_1 - z_0|$に対し,閉円盤$|z - z_0| \leq r$上絶対かつ一様に収束する。