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大学数学基礎解説
文献あり

【備忘録/用語集】一致の定理と零点

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一致の定理と零点

以下,DC内の領域とし,f:DCD上の正則関数とする。

任意のz0Dに対し,z0を含むようなDのある開集合Uが存在して,次の(1)または(2)が成り立つ。
そして,(2)の場合にはさらに(3)が成り立つ。

  1. Uf(z)=0が成り立つ。
  2. z0を含むようなDのある開集合VUV上の正則関数g:VC, および負でない整数kが存在し,V
    f(z)=(zz0)kg(z)g(z0)0
    が成り立つ。
  3. z0を含むようなDのある開集合WVが存在し,W{z0}f(z)0が成り立つ。

fz0で正則なので,z0を含むようなDのある開集合Uが存在して,U
f(z)=n=0an(zz0)n
と冪級数展開される。

もし,an=0 (n=0,1,2,)だとすると,fU上で恒等的に0となる。
(つまり,(1)が成り立つ。)

さもなければ,ある番号nが存在してan0となる。

このようなnの最小値をkと置く。

勝手に選んだz1U{z0}について,級数
n=0an(z1z0)n=n=0an+k(z1z0)n+k
は収束するので,級数
n=0an+k(z1z0)n=(z1z0)kn=0an+k(z1z0)n+k
もまた収束する。

したがって,冪級数n=0an+k(zz0)nは開円盤|zz0|<r上で収束する。
(ただし,r>0r<|z1z0|を満たしていれば何でもよい。付録の命題を参照せよ。)

g(z)=n=0an+k(zz0)nと置くと,Uと開円盤|zz0|<rとの共通部分V上で
f(z)=(zz0)kg(z)g(z0)=ak0が成り立つ。
(つまり,(2)が成り立つ。)

g(z)z=z0ak0という値を取るので,その連続性から,z0を含むようなDのある開集合WVにおいては常に0でない値を取る。

したがって,W{z0}
f(z)=(zz0)kg(z)0
である。
(つまり,(3)が成り立つ。)

(一致の定理)

z0Dのある近傍でfが恒等的に0であるならば,fDでも恒等的に0である。

E={zDzのある近傍でfは恒等的に0}と置く。

z0EよりEである。

zEとすると,zを含むようなDのある開集合Uが存在して,fU上恒等的に0となる。

wUとする。

このとき,Uwの近傍であり,fU上恒等的に0なので,wEである。

つまり,UEである。

これはEDの開集合であるということに他ならない。

次に,zEとする。

このとき,zを含むようなDのある開集合Uが存在してUf(ζ)=0となるか,さもなければzを含むようなDのある開集合Wが存在してW{z}f(ζ)0となる。

前者であれば,zEである。

後者であれば,zEよりWEである。

ζWEとすると,ζEよりf(ζ)=0であるが,一方,ζWよりζ=zである。

したがって,zEである。

これはEDの閉集合であるということに他ならない。

領域Dは連結なので,Dの開かつ閉であるような部分集合は空集合でなければDに等しい。

したがって,E=Dであり,fD上恒等的に0であることが示された。

f0とする。

このとき,z0Dについての以下の条件は同値である。

  • f(z0)=0
  • z0を含むようなDのある開集合UU上の正則関数g:UC, および正の整数kが存在し,U
    f(z)=(zz0)kg(z)g(z0)0
    が成り立つ。

f(z0)=0とする。

このとき,z0を含むようなDのある開集合Vが存在し,Vf(z)=0となるか,さもなければz0を含むようなDのある開集合UU上の正則関数g:UC, および負でない整数kが存在し,U
f(z)=(zz0)kg(z)g(z0)0
が成り立つ。

前者の場合,一致の定理によりf=0となってしまう。

したがって,成り立つのは後者であるが,このとき,f(z0)=0よりk1である。

これが示すべきことであった。(逆は明らかである。)

(零点とその位数)

前命題の同値な条件が満たされるとき,z0fの零点であるという。
(条件の中に現れる正の整数kを零点の位数という。)

零点の位数はfの表示の仕方に依らない。

以下,そのことを確かめる。

z0のある近傍Uにおいて,
(zz0)kg(z)=(zz0)lh(z)
が成り立つとする。

ここでg, hU上の正則関数であり,g(z0)0かつh(z0)0, またk, lは正の整数である。

必要であればUを小さく取り替えることにより,すべてのzUに対してg(z)0かつh(z)0が成り立つとしてよい。(g, hの連続性)

このとき,U{z0}
(zz0)klg(z)h(z)=1
が成り立つ。

もし,k>lであるならば,この等式の左辺はzz0のとき0に収束することになってしまう。

同様にしてk<lもあり得ないので,結局,k=lである。

f0の零点全体の集合ED内に集積点を持たない。

仮に,ED内に集積点z0を持ったとする。

このとき,z0を含むようなDのある開集合Uが存在し,Uf(z)=0となるか,さもなければz0を含むようなDのある開集合VUが存在して,V{z0}f(z)0となる。

前者の場合,一致の定理によりf=0となってしまい矛盾する。

後者の場合,z0Eの集積点であることから(V{z0})Eとなる。

しかし,z(V{z0})Eとするとf(z)0かつf(z)=0となり矛盾する。

次の形の命題を一致の定理と呼ぶことも多い。

(一致の定理)

D内に集積点を持つような部分集合EDを考える。
もし,fEで恒等的に0ならば,fDでも恒等的に0である。

f0ならば,fの零点全体の集合ED内に集積点を持たない。

しかし,EED内の集積点は,そのままED内の集積点になってしまうので,f=0でなければならない。

付録

冪級数n=0an(zz0)nがあるz1z0で収束したとすると,それは任意の0r<|z1z0|に対し,閉円盤|zz0|r上絶対かつ一様に収束する。

参考文献

[1]
高橋礼司, 複素解析, 基礎数学, 東京大学出版会, 1990
投稿日:202428
更新日:202428
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