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高校数学解説
文献あり

合成して元に戻る関数のお話

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{asn}[0]{\hspace{16pt}(\mathrm{as}\ n\to\infty)} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{beq}[0]{\begin{eqnarray*}} \newcommand{c}[2]{{}_{#1}\mathrm{C}_{#2}} \newcommand{cb}[0]{\binom{2n}{n}} \newcommand{d}[0]{\mathrm{d}} \newcommand{del}[0]{\partial} \newcommand{dhp}[0]{\dfrac{\pi}2} \newcommand{ds}[0]{\displaystyle} \newcommand{eeq}[0]{\end{eqnarray*}} \newcommand{ep}[0]{\varepsilon} \newcommand{G}[1]{\Gamma({#1})} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{hp}[0]{\frac{\pi}2} \newcommand{I}[0]{\mathrm{I}} \newcommand{l}[0]{\ell} \newcommand{limn}[0]{\lim_{n\to\infty}} \newcommand{limx}[0]{\lim_{x\to\infty}} \newcommand{nck}[0]{\binom{n}{k}} \newcommand{p}[0]{\varphi} \newcommand{Res}[1]{\underset{#1}{\mathrm{Res}}} \newcommand{space}[0]{\hspace{12pt}} \newcommand{sumk}[1]{\sum_{k={#1}}^n} \newcommand{sumn}[1]{\sum_{n={#1}}^\infty} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{tc}[0]{\TextCenter} $$

こんにちは.

いきなりですが, $f(x)=1-x$という関数は, $2$回合成すると恒等写像に戻ります.
$$ f(f(x))=1-(1-x)=x$$

次に$f(x)=\dfrac1{1-x}$という関数を考えると, これは$3$回合成すると恒等写像に戻ります.

$$ \begin{align} f(f(x)) &= \frac1{1-\frac1{1-x}} =1-\frac{1}{x}\\[5pt] f(f(f(x))) &= 1-(1-x) =x \end{align} $$

では一般に, $n$回合成して初めて恒等写像になる関数はどのようなものがあるでしょうか.

完全に一般の関数だとそれはあるでしょうが考えるのが難しいので, 以下では一次分数変換に限定し, また実数係数のものを考えます. (そうしないと, $e^{\frac{2\pi i}n}x $という自明な例が存在してしまうので.)

恒等写像でない$f(x)=\dfrac{ax+b}{cx+d}$$f^n=\mathrm{id}$ を満たす

$\iff \exists k,\quad \dfrac{(a+d)^2}{ad-bc}=2\left(1+\cos\dfrac{2\pi k}{n}\right)$ $(0< k< n)$

${}$

証明(クリックして開く)

まず前提として,

実数係数の一次分数変換全体の成す群(積は合成による)$M$は,
$$ M\cong PGL_2(\mathbb{R})=GL_2(\mathbb{R})/\{\lambda E\} $$

一次分数変換の合成は行列の積で計算できるというやつです. 証明は省略します. ( Wikipedia 参照)


ということで, 行列$A=\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}$$A^n=\alpha E$を満たす$\alpha \neq 0$が存在する必要十分条件が上のように書けることを示します.
${}$

($\Rightarrow$の証明)

$A^n-\alpha E=O$ですから, 最小多項式は$x^n-\alpha$の約数であり平方因子を持たないので, $A$は(複素数の範囲で)対角化可能です. そこで固有値を$\lambda_1, \lambda_2$とすると
$$ \lambda_1^n=\lambda_2^n=\alpha $$
が成り立ちます.

ここで$\lambda_1$$\lambda_2$は実数係数2次方程式の解より共に実数かまたは共役な複素数です.
・共に実数の場合
 $f$が恒等写像でないことから$\lambda_1\neq\lambda_2$なので, $n$が奇数の場合はこれはあり得ず, $n$が偶数の場合は$\lambda_1$$\lambda_2$$-1$倍の関係にあります.
・共役な複素数の場合
 $\alpha$が正と負の場合があることに注意して, $\lambda_1$$\lambda_2$$e^{\frac{i\pi k}{n}} $の実数倍とその共役になります.

いずれのパターンでも$\dfrac{\lambda_1}{\lambda_2}=e^{\frac{2\pi ik}{n}} $ $(0< k< n)$と書くことができます.

ここで

$$ \begin{align} & \lambda_1+\lambda_2=\mathrm{tr}(A)=a+d\\ & \lambda_1\lambda_2=\mathrm{det}(A)=ad-bc \end{align} $$

より($ad-bc\neq0$なので)

$$ \frac{(a+d)^2}{ad-bc}=\dfrac{\lambda_1}{\lambda_2}+\dfrac{\lambda_2}{\lambda_1}+2=2\left(1+\cos\dfrac{2\pi k}{n}\right)$$

となり, 示されました.

($\Leftarrow $の証明)

逆に, $ \dfrac{\lambda_1}{\lambda_2}+\dfrac{\lambda_2}{\lambda_1}=2\cos\dfrac{2\pi k}{n}$ が成り立つとき$\dfrac{\lambda_1}{\lambda_2}=e^{\frac{2\pi ik}{n}} $ となるので, 特に$\lambda_1\neq\lambda_2$$A$は対角化可能であり, $A^n=\lambda_2^nE$なので$f^n=\mathrm{id}$です.

${}$

ということで, 実数係数の範囲では任意$n$に対して$n$回合成して初めて元に戻る一次分数変換があることがわかりました. これを整数係数に限定すると次のようになります.

整数係数の一次分数変換$f$に対し, $f^n=\mathrm{id}$となる最小の$n$$n=1,2,3,4,6$に限る.

これは, 私の過去の記事 により$\cos\frac{2\pi}{n}\in\mathbb{Q}$なる$n$が上記に限られることからわかります.

${}$

ということで, $6$回合成して初めて元に戻る関数はというと, $\dfrac{(a+d)^2}{ad-bc}=3$となる$a,b,c,d$を持って来れば良いので, 例えば $f(x)=\dfrac{x-1}{x+2}$などになります.(信じられません!)

$$ \begin{align} f(f(x)) &= \frac{\frac{x-1}{x+2}-1}{\frac{x-1}{x+2}+2} =\frac{-1}{x+1}\\[5pt] f(f(f(x))) &= \frac{-1}{\frac{x-1}{x+2}+1} =-\frac{x+2}{2x+1}\\[5pt] f(f(f(f(x)))) &= -\frac{\frac{x-1}{x+2}+2}{2\frac{x-1}{x+2}+1}=-\frac{x+1}{x}\\[5pt] f(f(f(f(f(x))))) &= -\frac{\frac{x-1}{x+2}+1}{\frac{x-1}{x+2}} =-\frac{2x+1}{x-1}\\[5pt] f(f(f(f(f(f(x)))))) &=- \frac{2\frac{x-1}{x+2}+1}{\frac{x-1}{x+2}-1} =x \end{align} $$

${}$

ここまで読んでくれた方, ありがとうございました.

参考文献

投稿日:20231027
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投稿者

東大理数B4です

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