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大学数学基礎解説
文献あり

ErdösによるSylvester-Schurの定理の証明とBertrand-Chebyshevの定理

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はじめに

 はじめまして.Mathlog初投稿です.よろしくお願いします.
 こちらは AMC2023 (Advent Math Calendar2023) の23日目の記事です.
 さて,今回何について書くかはあれこれ思案しましたが(丸一日悩みました…),私の好きな定理のひとつ,Bertrand-Chebyshevの定理について書くことにしました.ただBertrand-Chebyshevの定理に関してはそれなりに日本語のサイトが充実しているので,今回はその一般化であるSylvester-Schurの定理について紹介します.
 この記事では,まずErdösが1934年に発表した論文に沿ってSylvester-Schurの定理を証明し,次にこの定理から従う幾つかの主張について紹介します.

Sylvester-Schurの定理とは

 Sylvester-Schurの定理の主張は以下の通りです.

Sylvester-Schurの定理

 n,kを正整数とする.n2kのとき,k個の正整数n,n1,,nk+1の中でkより大きな素因数pを持つものが存在する.

 美しいですね.この定理は以下と同値です.

Sylvester-Schurの定理と同値な主張

 n,kを正整数とする.n2kのとき,二項係数(nk)kより大きな素因数pをもつ.

 この記事では主に定理2の証明を目指します.

 以下,次の記号を断りなしに使用します.

  • 素数全体の集合をPと書く.
  • 正整数nが素数pで割り切れる最大の回数をvp(n)と書く.
  • 正整数nに対して,n以下の素数の個数をπ(n)と書く.
  • 半開区間{x|a<xb}のことを(a,b]と書く.

証明の方針

  • まず,証明に用いる命題をいくつか準備します.
  • 次に,1k78k3233kに分けて議論します.
  • 8k32ではknk>nに分けて議論します.
  • 33kではkn23k>n23に分けて議論します.さらに,k>n23のときはn<900n900に分けて議論します.

証明

準備

 a=vp((nk))とおく.このとき,panが成立する.

 (nk)=n!k!(nk)!だから,Legendreの定理より
a=i=1(npikpinkpi)
が従う.ここで,任意のiについてnpikpinkpi01のいずれかをとり,pi>ni>logpnのときは常にnpikpinkpi=0となるから,
ai=1logpn1=logpn
となり補題は成立する.

 nを正整数とする.このとき,(2nn)は以下の条件を満たす任意の素数pで割り切れる:
nl<p2nlを満たす正整数lが存在する.」

 素数pに対してnl<p2nl,つまりnl<p2nlを満たす正整数lが存在するとき,n<pl2nである.ここで,Legendreの定理より
vp((2nn))=(2np++2npl1+2npl)2(np++npl1)=(2np2np)++(2npl12npl1)+2npl
が成立する.
 このとき,任意の1ik1に対して2npi2npiであり,2npl=1だからvp((2nn))1.よって(2nn)pで割り切れる.

 正整数iに対してai=n2i とおき,m2mnを満たす最小の正整数とする.このとき,任意の正整数lに対して
i=1m(ail,2ail](1,nl]
が成立する.

 数列{ai}は広義単調減少だから,{ail},{2ail}も広義単調減少である.
 ここで,aml=1であり,2a1=2n2nより2a1lnlである.
 また,任意の1<i<mに対してn2i2n2i+1,すなわちai2ai+1が成立するからail2ai+1lが従う.
 よって
i=1m(ail,2ail](1,nl]
が示された.

 今後,この補題で定義した意味でaimを用います.

pnpPppnpPppn3pPp(2a1a1)(2a2a2)(2amam)
が成立する.

 補題4より,右辺はail<p2ail(i,lは正整数,1im)を満たす素数pで割り切れる.ここで,補題5より,右辺は1<pnl,つまり1<pnl(lは正整数)を満たす素数pで割り切れる.
 ここで,mi2miaiを満たす最小の自然数とすると,1l<miのとき2ail+1ailとなるから,(ail+1,2ail+1](ail,2ail]=となる.また,lmiのときail<p2ailを満たす素数pは存在しない.
 よって,右辺はpnpPpで割り切れ,右辺をpnpPpで割ったものはpnpPpで割り切れ,右辺をpnpPppnpPpで割ったものはpn3pPpで割り切れ,…となる.つまり右辺はpnpPppnpPppn3pPpで割り切れる.従って
pnpPppnpPppn3pPp(2a1a1)(2a2a2)(2amam)
が成立する.

 この定理の一連の証明の中で一番難しかったです.Erdösの論文では"From all this, it follows that…"で終わりでした(証明は書かれていません).

(1)(2a1a1)(2a2a2)(2amam)4n
が成立する.

 n<10のときは調べると分かる.
 n10のときを考える.n未満の任意の正整数で式(1)が成立すると仮定する.
 ここで,式(1)においてn=2a21とすると
(2a1a1)(2a2a2)(2amam)42a21
となる.ただし,ai=2a212im2m2a21を満たす最小の正整数とおいた.このとき,
ai=2a212i=12i1n2212i=n2i+1=ai+1
であり,m=m1であるから,この式は
(2a2a2)(2a3a3)(2amam)42a21(2a1a1)(2a2a2)(2amam)(2a1a1)42a21
と書ける.
 また,n10よりan5であり,正整数l5に対して(2ll)<4l1が成立するから(これは数学的帰納法により示せる),この式は
(2a1a1)(2a2a2)(2amam)4a1+2a22
と書ける.ここで,2a1n+12a2a1+1よりa1+2a222a11nとなるから
(2a1a1)(2a2a2)(2amam)4n
が従う.よって,任意のnに対して式(1)が成立することが示された.

 正整数nに対して
pnpPppnpPppn3pPp4n
が成立する.

 補題6,補題7より従う.

 (nk)Nより大きな素因数をもたないとする.このとき,
(nk)pNpPppnpPppn3pPp
が成立する.

 N以下の素数pを考える.pln<pl+1を満たす正整数lをとると,nl+1<pnlが従うから
vp(pNpPppnpPppn3pPp)=l
となる.一方,a=vp((nk)) とおくと,命題3よりpanとなるのでal
 つまり,任意のN以下の素数pに対して
vp((nk))vp(pNpPppnpPppn3pPp)
が成立するから補題は従う.

 以下の証明では命題3,命題8,命題9を使います.

k33のとき

kn23のとき

 33kn23のとき定理2は成立する.

背理法で示す.

 (nk)の素因数が全てk以下であると仮定する.
 k 33のときπ(k)13kだから,命題3より
(nk)=pkpPpvp((nk))pkpPn=nπ(k)n13k
となる.
一方,
(nk)=nkn1k1nk+11>(nk)k
が成立する.これより
(nk)k<n13kn23k<kk
が従うが,これはkn23に矛盾する.よって示された.

k>n23のとき

n900のとき

pkpPppnpPppn3pPp4k+n
が成立する.

 命題8より
(2)pNpPppNpPppN3pPp4N
が成立する.
 式(2)にN=nを代入して
pnpPppn4pPppn6pPp4n
となる.ここで,pが素数のときpn2lpn2lであり,4n4nだから
(3)pnpPppn4pPppk6pPp4n
となる.
 また,k>n23のとき,任意のl2に対してkln2l1となるから,式(2)より
(4)pkpPppn3pPppn5pPp4k
となる.
 よって,式(3)と式(4)より
pkpPppnpPppn3pPp4k+n
が成立することが示された.

 式(2)にk=nを代入する場面,Erdösの論文では「k=nとして~」となっていました….

 n4kのとき定理2は成立する.

背理法で示す.

 任意の正整数kに対して(2kk)4k2kが成立することが数学的帰納法により分かる.
 ここで,
(nk)(4kk)=(2kk)4k2k4k12k13k+1k+14k2k2k=8k2k
と評価できる.
 さて,(nk)の素因数が全てk以下であると仮定すると,命題9より
(nk)pkpPppnpPppn3pPp
が成立する.これと補題11より(nk)4k+nが従うから,
8k2k4k+n2k2k4n
となる.ここで,k33213k>2kが従うから,223k22n,つまりk3nが成立する.一方,k>n23であるからn23<3nとなる.
 しかし,これはn900では成立せず矛盾.よって示された.

 52k<n<4kのとき定理2は成立する.

背理法で示す.

(nk)(52kk)=(2kk)52k2k52k12k152kk+1k+14k2k(54)k
と評価できる.
一方,(nk)の素因数が全てk以下であると仮定すると,命題12の証明と同様にして(nk)4k+nが従う.これより
4k2k(54)k4k+n(54)k2k4n
となる.ここで,n<4kより(54)k<2k44kとなり,これはk<205で成立する.しかし,これはn900に矛盾する.よって示された.

 2kn52kのとき定理2は成立する.

背理法で示す.

(nk)(2kk)4k2k
と評価できる.
 ここで,素数pk(nk)=n!k!(nk)!を割り切るとすると,vp(k!(nk)!)2よりvp(n!)3である必要がある.だからp13nとなる(p=2のときもn33より従う).
 これより,(nk)の素因数が全てk以下であると仮定すると,(nk)の素因数は13nより大きな素因数をもたないから,命題9においてN=13nとし,補題11も用いて
(nk)p13npPppnpPppn3pPp=p13npPppnpPppn3pPp<413n+n456k+n
が成立する.これより
4k2k<456k+n416k<2k4n
となる.ここで,2kn<4nk25nだから
4115n<42nn<30n
となるが,これはn900では成立せず矛盾.よって示された.

 これでn900のときが示せました.なお,Erdösの論文はここまでの議論と後で登場する命題16で終わっています(「残りは有限の領域なので調べられる」と述べて論文を締めていました).

n<900のとき

 n<900のとき定理1は成立する.

 今k33を仮定しているので,66n<900について考えればよいが,この範囲に連続33数が合成数となる区間は存在しないので(これは素数表を見れば分かる),連続するk数を選べば常に素数が含まれる.よって示された.

 ここまででk33のときは示し尽くしました.

8k32のとき

 8knのとき定理2は成立する.

背理法で示す.

 (nk)の素因数が全てk以下であると仮定する.
 k8のときπ(k)12kだから,命題3より
(nk)=pkpPpvp((nk))pkpPn=nπ(k)n12k
となる.一方,
(nk)=nkn1k1nk+11>(nk)k
が成立する.これより
(nk)k<n12kn12k<kk
が従うが,これはknに矛盾する.よって示された.

 k>nのとき定理1は成立する.

 k>nのとき,n<k2322=1024である.これとn2kより16n<1024について考えればよい.
 ここで,この範囲における素数または37以上の素因数をもつ整数の列を考えると,隣り合う2数の差が8以上になるものが存在しないことが分かる.よって示された.

16n<1024における,素数または37以上の素因数をもつ整数の列

17,19,23,29,31,37,41,43,47,53,59,61,67,71,73,74,79,82,83,86,89,94,97,101,103,106,107,109,111,113,118,122,123,127,129,131,134,137,139,141,142,146,148,149,151,157,158,159,163,164,166,167,172,173,177,178,179,181,183,185,188,191,193,194,197,199,201,202,205,206,211,212,213,214,215,218,219,222,223,226,227,229,233,235,236,237,239,241,244,246,249,251,254,257,258,259,262,263,265,267,268,269,271,274,277,278,281,282,283,284,287,291,292,293,295,296,298,301,302,303,305,307,309,311,313,314,316,317,318,321,326,327,328,329,331,332,333,334,335,337,339,344,346,347,349,353,354,355,356,358,359,362,365,366,367,369,370,371,373,376,379,381,382,383,386,387,388,389,393,394,395,397,398,401,402,404,407,409,410,411,412,413,415,417,419,421,422,423,424,426,427,428,430,431,433,436,438,439,443,444,445,446,447,449,451,452,453,454,457,458,461,463,466,467,469,470,471,472,473,474,477,478,479,481,482,485,487,488,489,491,492,497,498,499,501,502,503,505,508,509,511,514,515,516,517,518,519,521,523,524,526,530,531,533,534,535,536,537,538,541,542,543,545,547,548,549,553,554,555,556,557,559,562,563,564,565,566,568,569,571,573,574,577,579,581,582,583,584,586,587,590,591,592,593,596,597,599,601,602,603,604,606,607,610,611,613,614,615,617,618,619,622,623,626,628,629,631,632,633,634,635,636,639,641,642,643,645,647,649,652,653,654,655,656,657,658,659,661,662,664,666,668,669,670,671,673,674,677,678,679,681,683,685,687,688,689,691,692,694,695,697,698,699,701,703,705,706,707,708,709,710,711,712,716,717,718,719,721,723,724,727,730,731,732,733,734,737,738,739,740,742,743,745,746,747,749,751,752,753,755,757,758,761,762,763,764,766,767,769,771,772,773,774,776,777,778,779,781,785,786,787,788,789,790,791,793,794,795,796,797,799,801,802,803,804,807,808,809,811,813,814,815,817,818,820,821,822,823,824,826,827,829,830,831,834,835,838,839,842,843,844,846,848,849,851,852,853,854,856,857,859,860,861,862,863,865,866,869,871,872,873,876,877,878,879,881,883,885,886,887,888,889,890,892,893,894,895,898,901,902,903,904,905,906,907,908,909,911,913,914,915,916,917,919,921,922,923,925,926,927,929,932,933,934,937,938,939,940,941,942,943,944,946,947,948,949,951,953,954,955,956,958,959,962,963,964,965,967,970,971,973,974,976,977,978,979,981,982,983,984,985,987,989,991,993,994,995,996,997,998,999,1002,1003,1004,1005,1006,1007,1009,1010,1011,1013,1016,1017,1018,1019,1021,1022

 これで8k32のときが終わりました.

1k7のとき

 1k5のとき定理1は成立する.

それぞれのkに対して調べる.
  • k=1のときは自明に成立する.
  • k=2のとき
     4以上の正整数n,n1のうちいずれか1つは3以上の奇数だから示された.
  • k=3のとき
     6以上の正整数nに対してn,n1,n22,3以外の素因数をもたないと仮定する.
     nが奇数のとき,n3iの形で表せる必要があるが,このとき,n23で割り切れない奇数となるので矛盾.
     nが偶数のとき,n1は奇数だからn13iの形で表せる必要がある.このとき,n,n23を素因数にもたないのでともに2iの形で表せる必要があるが,これを満たすn6は存在しないので矛盾.よって示された.
  • k=4のとき
     8以上の正整数nに対してn,n1,n2,n32,3以外の素因数をもたないと仮定する.
     このとき,いずれか2つは奇数であり,それらは3iの形で表せる必要があるが,ともに3の倍数になることはないので矛盾.よって示された.
  • k=5のとき
     10以上の正整数nに対してn,n1,n2,n3,n42,3,5以外の素因数をもたないと仮定する.
     n,n2,n4が奇数のとき,この中で3の倍数と5の倍数はそれぞれ高々1つだから,いずれか1つは3の倍数でも5の倍数でもない奇数となる.これは矛盾.
     n1,n3が奇数のとき,一方は3iの形で,もう一方は5iの形で表される必要がある.このとき,n,n2,n43,5を素因数にもたないので全て2iの形で表せる必要があるが,このようなnは存在せず矛盾.よって示された.

 k=6,7かつkn37のとき定理2は成立する.

背理法で示す.

 (nk)の素因数が全てk以下であると仮定する.
 k=6,7のときπ(k)47kだから,命題3より
(nk)=pkpPpvp((nk))pkpPn=nπ(k)n47k
となる.一方,
(nk)=nkn1k1nk+11>(nk)k
が成立する.これより
(nk)k<n47kn37k<kk
が従うが,これはknに矛盾する.よって示された.

 k=6,7かつk>n37のとき定理1は成立する.

 k>n37のとき,n<k73773<94である.これとn2kより12n<94について考えればよい.このとき,この範囲に連続6数が合成数となる区間は存在しないので(これも素数表を見れば分かる),連続するk数を選べば常に素数が含まれる.よって示された.

 これで証明終了です!

Sylvester-Schurの定理から従う主張

 Sylvester-Schurの定理を出発して様々な主張が得られます.この中からいくつかを紹介します.

Bertrand-Chebyshevの定理

 任意の自然数nに対してn<p2nを満たす素数pが存在する.

 定理1においてn=2kとし,knに替えると,2n,2n1,,n+1の中でnより大きな素因数pをもつものが存在することが分かる.これをNとする.
 ここで,Npとすると,Npの倍数だからN2p2(n+1)となるが,これはN2n,2n1,,n+1のうちのいずれかであることに矛盾する.つまりN=p.これはn<p2nを満たす素数pが存在することに他ならない.

 Sylvester-Schurの定理はBertrand-Chebyshevの定理の一般化であることが分かりました!

 連続するn(2)自然数の積は平方数にならない.

 証明は こちらのサイト に詳しく書かれています.この定理は以下の東大入試の問題の部分的な一般化になっています:

東京大学理系数学2012-4

 n2以上の整数とする.自然数(1以上の整数)のn乗になる数をn乗数と呼ぶことにする.以下の問いに答えよ.

  1. 連続する2個の自然数の積はn乗数でないことを示せ.
  2. 連続するn個の自然数の積はn乗数でないことを示せ.

 正整数k,l,m,nに対し,方程式(nk)=mll24kn4のとき解をもたない.

 証明は省略します(M.アイグナー・G.M.ツィーグラー著『天書の証明』などにこの定理の証明が掲載されています).この3つの定理は全てErdösによって初等的な証明が与えられました.

おわりに

 ここまでSylvester-Schurの定理について色々と見てきました.シンプルな主張ながら様々な場面で用いることができ,私のお気に入りの定理のひとつです.今後も面白いと思った話題について記事を書いていきたいと思います(が,最近それなりに多忙なので気長にお待ちください>_<).

参考文献

投稿日:20231222
更新日:202472
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  1. はじめに
  2. Sylvester-Schurの定理とは
  3. 証明の方針
  4. 証明
  5. 準備
  6. $k \geq 33$のとき
  7. $8 \leq k \leq 32$のとき
  8. $1 \leq k \leq 7$のとき
  9. Sylvester-Schurの定理から従う主張
  10. おわりに
  11. 参考文献