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写像と部分集合,に対して
が成り立つことはよく知られていますね.像や逆像の定義からこれらの包含関係を示すことは容易いですが,必要になる度に証明を思い出すのも面倒なので,矢印記法による覚え方を紹介します.
以下,集合の冪集合をと書くことにします.
像・逆像(矢印記法)
集合と写像に対して,2つの写像,を
で定める.このをによるの像といい,をによるの逆像という.
像は,逆像はと書くのが一般的ですが,逆像の記号が(必ずしも存在するとは限らない)逆写像と紛らわしかったり,やであるかのような誤解を招いたりするので,この記事のようにという記号を使うことがあります.
この他に,像を,逆像をと書く流儀もあるようです(cf. Wiki).
早速ですが本題に移ります.
集合と写像およびとに対して,次のことが成り立つ.
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矢印の向きに注目してください.
- は矢印の向きがとなっているので,なんとなく広がっている感じがします.すると "広がっている大きいを含む" というように,を思い出すことができます.
- は矢印の向きがとなっているので,なんとなく縮んでいる感じがします.すると "縮んでいる小さいに含まれる" というように,を思い出すことができます.
これでもう,これらの包含関係を忘れることはありませんね! 念のため証明もしておきましょう.
- を任意に取る.このとき像の定義よりなので,逆像の定義からとなる.したがってが示された.
- を任意に取る.このとき像の定義よりを満たすが存在し,逆像の定義からとなる.したがってが示された.
以上です.
ここまで読んでいただき,ありがとうございました.
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蛇足
ついでに,矢印記法を使ってもう少しいろいろ書いてみようと思います.
像・逆像の性質
集合と写像およびとに対して,次の2条件は同値である.
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上の命題で包含関係を逆転させた
は成り立たないことがあります.たとえば,,
- のとき,は成り立ちますが,は成り立ちません.
- のとき,は成り立ちますが,は成り立ちません.
集合と写像およびとに対して,次のことが成り立つ.
- .
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(つまり,とが成り立つ.)
- 冒頭の命題よりとが成り立つ.
- 冒頭の命題よりとが成り立つ.
集合と写像,について,次のことが成り立つ.
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- 任意のに対して次式が成り立つ.
- 任意のに対して次式が成り立つ.
- 任意のに対して次式が成り立つ.
集合と写像について,次のことが成り立つ.
- ならば,である.
- ならば,である.
- を任意に取ると
よりとなるからを得る. - を任意に取ると
より,つまりとなるからを得る.
が単射であれば,の等号が成り立ちます.
集合と写像について,次の4条件は同値である.
- は単射である.
- は単射である.
- は全射である.
- 任意のに対して,が成り立つ.(つまりである.)
(1)(4)(3)(2)(1) の順で示す.
- (1)(4):を任意に取る.このときよりを満たすが取れるから,の単射性よりを得る.よってであるが,逆の包含は既に示した.
- (4)(3):の全射性からの全射性が従う.
- (3)(2):を満たすを任意に取り,を示す.の全射性よりを満たすが取れるが,このとき
よりを得る.も同様に示せる. - (2)(1):を満たすを任意に取り,を示す.
が成り立つから,の単射性より,つまりを得る.
が全射であれば,の等号が成り立ちます.
集合と写像について,次の4条件は同値である.
- は全射である.
- は全射である.
- は単射である.
- 任意のに対して,が成り立つ.(つまりである.)
(1)(4)(3)(2)(1) の順で示す.
- (1)(4):を任意に取る.このときの全射性よりを満たすが取れるから,となりを得る.よってであるが,逆の包含は既に示した.
- (4)(3):の単射性からの単射性が従う.
- (3)(2):を任意に取る.このときとの単射性よりを得るから,は全射である.
- (2)(1):を任意に取る.の全射性よりを満たすが取れて,よりは空でない.よってを取ればよりを得る.
集合と写像について,次の3条件は同値である.
- は全単射である.
- は全単射である.
- は全単射である.
これらの条件が成り立つとき,さらに次式が成り立つ.
(1), (2), (3) の同値性は既に示した.が全単射のとき,単射性よりが,全射性よりが成り立つから,とは互いに逆写像である.また
が成り立つので,はの逆写像である.同様に
が成り立つので,はの逆写像である.
余順像
像と逆像については
が成り立ちますが,とは同値ではありませんでした.そこで
を満たす写像があるかどうかを考えてみます.
の一意性
と同じ性質
を満たす写像を満たす写像があれば,であることが次のように示せます:任意のに対して
- 自明な包含関係からが,
- 自明な包含関係からが得られます.
天下り的ですが,最初にを定義してから,それが上の性質を満たすことを確かめてみましょう.
ここではのことを,ToyExample に倣って余順像とよぶことにします.
余順像
集合と写像に対して,写像を
で定め,このをによるの余順像という.
集合と写像およびとに対して,次のことが成り立つ.
- .
- .
集合と写像およびとに対して,次の2条件は同値である.
- .
- .
集合と写像およびとに対して,次のことが成り立つ.
- .
- .
(つまり,とが成り立つ.)
集合と写像およびに対して,次のことが成り立つ.
- .
- .
- .
- 任意のに対して,次式が成り立つ.
- 任意のに対して,次式が成り立つ.
任意のに対して,次式が成り立つ.
つまりだから,を得る.
集合と写像に対して,次の3条件は同値である.
- は単射である.
- は単射である.
- 任意のに対して,が成り立つ.(つまりである.)
これらの条件が成り立つとき,さらに任意のに対してが成り立ち,特にである.
(1)(3)(2)(1) の順で示す.
まずが単射のとき,が成り立つことに注意すれば
よりを得る.
- (1)(3):任意のに対して,次式が成り立つ.
- (3)(2):の単射性からの単射性が従う.
- (2)(1):がを満たすとする.このとき
だから,の単射性より,つまりを得る.
集合と写像に対して,次の4条件は同値である.
- は全射である.
- は全射である.
- 任意のに対して,が成り立つ.(つまりが成り立つ.)
- である.
これらの条件が成り立つとき,さらに任意のに対してが成り立つ.
(1)(3)(2)(4)(1) の順で示す.
まずが全射のとき,が成り立つことに注意すれば
を得る.
- (1)(3):任意のに対して,次式が成り立つ.
- (3)(2):の全射性からの全射性が従う.
- (2)(4):の全射性よりを満たすが取れる.このときより
- (4)(1):一般にだから
集合と写像に対して,次の2条件は同値である.
- は全単射である.
- は全単射である.
これらの条件が成り立つとき,さらにが成り立つ.
前2つの命題より,が全単射のとき任意のに対してが成り立つからを得る.
一般に
は成り立たないということを踏まえて,
を満たす写像として余順像を紹介しました.では,
を満たす写像はあるのでしょうか.実は,このような写像は存在しない場合があります.
集合と写像に対して,次の性質を満たす写像が存在すると仮定する.
このとき,任意のに対してが成り立つ.
は常に成り立つから,逆の包含のみ示す.
を任意に取ると,からが,からが得られる.よってとなるから,,つまりを得る.
しかし実際には周知の通りとなり得るので,上のような写像が常に存在するとは限りません.(注:存在することもあります.たとえばが全単射ならと取れば良いです.)
次の性質を満たす写像が存在しないような集合と写像が存在する.
次の性質を満たす写像が存在しないような集合と写像の例を挙げよ.
解答例
そのような写像がもしあれば,次の 1, 2, 3, 4 が成り立つ.
- 任意のに対して,である.( 自明な包含関係との性質)
- 任意のに対して,である.( 自明な包含関係との性質)
- を満たす任意のに対して,である.( との性質)
- 任意のに対して,である.( 1, 3 より
が成り立つからとなり,の性質よりを得る.)
しかし実際には 4 は成り立たない場合がある.たとえば,,のとき
だからである.したがって,このに対して問題文の性質を満たす写像は存在し得ない.誤りや改善点などあればご指摘いただけると幸いです.
改めまして,ここまで読んでいただきありがとうございました.