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大学数学基礎解説
文献あり

Aとf^{-1}(f(A)), Bとf(f^{-1}(B))の包含関係

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写像f:XYと部分集合AXBYに対して
Af1(f(A)),Bf(f1(B))が成り立つことはよく知られていますね.像や逆像の定義からこれらの包含関係を示すことは容易いですが,必要になる度に証明を思い出すのも面倒なので,矢印記法による覚え方を紹介します.
以下,集合Xの冪集合を2Xと書くことにします.

像・逆像(矢印記法)

集合X,Yと写像f:XYに対して,2つの写像f:2X2Yf:2Y2X
f(A):={f(a)aA}:={yYaA, f(a)=y}(A2X),f(B):={xXf(x)B}(B2Y),で定める.このf(A)fによるAといい,f(B)fによるB逆像という.

{f(a)aA}f(A),逆像{xXf(x)B}f1(B)と書くのが一般的ですが,逆像の記号が(必ずしも存在するとは限らない)逆写像f1:YXと紛らわしかったり,AXBYであるかのような誤解を招いたりするので,この記事のようにf(A),f(B)という記号を使うことがあります.
この他に,像をf(A),逆像をf(B)と書く流儀もあるようです(cf. Wiki).

早速ですが本題に移ります.

集合X,Yと写像f:XYおよびA2XB2Yに対して,次のことが成り立つ.

  1. Af(f(A)).
  2. Bf(f(B)).

矢印の向きに注目してください.

  • f(f(A))は矢印の向きがとなっているので,なんとなく広がっている感じがします.すると "広がっている大きいAを含む" というように,Af(f(A))を思い出すことができます.
  • f(f(B))は矢印の向きがとなっているので,なんとなく縮んでいる感じがします.すると "縮んでいる小さいBに含まれる" というように,Bf(f(B))を思い出すことができます.

これでもう,これらの包含関係を忘れることはありませんね! 念のため証明もしておきましょう.

  1. aAを任意に取る.このとき像の定義よりf(a)f(A)なので,逆像の定義からaf(f(A))となる.したがってAf(f(A))が示された.
  2. yf(f(B))を任意に取る.このとき像の定義よりf(x)=yを満たすxf(B)が存在し,逆像の定義からy=f(x)Bとなる.したがってBf(f(B))が示された.

以上です.
ここまで読んでいただき,ありがとうございました.

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蛇足

ついでに,矢印記法を使ってもう少しいろいろ書いてみようと思います.

像・逆像の性質

集合X,Yと写像f:XYおよびA2XB2Yに対して,次の2条件は同値である.

  1. Af(B).
  2. f(A)B.
  • (1)(2):Bf(f(B))f(A).
  • (2)(1):Af(f(A))f(B).

上の命題で包含関係を逆転させた
Af(B)f(A)B成り立たないことがあります.たとえばX=Y=Rf(x)=x2

  • A=B=Rのとき,Af(B)は成り立ちますが,f(A)Bは成り立ちません.
  • A=B=[0,)のとき,f(A)Bは成り立ちますが,Af(B)は成り立ちません.

集合X,Yと写像f:XYおよびA2XB2Yに対して,次のことが成り立つ.

  1. f(A)=f(f(f(A))).
  2. f(B)=f(f(f(B))).

(つまり,f=ffff=fffが成り立つ.)

  1. 冒頭の命題よりf(A)f(f(f(A)))f(A)f(f(f(A)))が成り立つ.
  2. 冒頭の命題よりf(B)f(f(f(B)))f(B)f(f(f(B)))が成り立つ.

集合X,Y,Zと写像f:XYg:YZについて,次のことが成り立つ.

  1. idX=id2X=idX.
  2. (gf)=gf.
  3. (gf)=fg.
  1. 任意のA2Xに対して次式が成り立つ.
    idX(A)={idX(a)aA}={aaA}=A=id2X(A)={xXxA}={xXidX(x)A}=idX(A).
  2. 任意のA2Xに対して次式が成り立つ.
    (gf)(A)={(gf)(a)aA}={g(f(a))aA}={g(y)yf(A)}=g(f(A))=(gf)(A).
  3. 任意のC2Zに対して次式が成り立つ.
    (gf)(C)={xX(gf)(x)C}={xXg(f(x))C}={xXf(x)g(C)}=f(g(C))=(fg)(C).

集合X,Yと写像f,g:XYについて,次のことが成り立つ.

  1. f=gならば,f=gである.
  2. f=gならば,f=gである.
  1. xXを任意に取ると
    {f(x)}=f({x})=g({x})={g(x)}よりf(x)=g(x)となるからf=gを得る.
  2. xXを任意に取ると
    xf({f(x)})=g({f(x)})よりg(x){f(x)},つまりf(x)=g(x)となるからf=gを得る.

fが単射であれば,Af(f(A))の等号が成り立ちます.

集合X,Yと写像f:XYについて,次の4条件は同値である.

  1. fは単射である.
  2. fは単射である.
  3. fは全射である.
  4. 任意のA2Xに対して,A=f(f(A))が成り立つ.(つまりff=id2Xである.)
(1)(4)(3)(2)(1) の順で示す.
  • (1)(4):xf(f(A))を任意に取る.このときf(x)f(A)よりf(x)=f(a)を満たすaAが取れるから,fの単射性よりx=aAを得る.よってf(f(A))Aであるが,逆の包含は既に示した.
  • (4)(3):ff=id2Xの全射性からfの全射性が従う.
  • (3)(2):f(A)=f(A)を満たすA,A2Xを任意に取り,A=Aを示す.fの全射性よりf(B)=Aを満たすB2Yが取れるが,このとき
    A=f(B)=f(f(f(B)))=f(f(A))=f(f(A))AよりAAを得る.AAも同様に示せる.
  • (2)(1):f(x)=f(x)を満たすx,xXを任意に取り,x=xを示す.
    f({x})={f(x)}={f(x)}=f({x})が成り立つから,fの単射性より{x}={x},つまりx=xを得る.

fが全射であれば,Bf(f(B))の等号が成り立ちます.

集合X,Yと写像f:XYについて,次の4条件は同値である.

  1. fは全射である.
  2. fは全射である.
  3. fは単射である.
  4. 任意のB2Yに対して,B=f(f(B))が成り立つ.(つまりff=id2Yである.)
(1)(4)(3)(2)(1) の順で示す.
  • (1)(4):bBを任意に取る.このときfの全射性よりf(x)=bを満たすxXが取れるから,xf(B)となりb=f(x)f(f(B))を得る.よってBf(f(B))であるが,逆の包含は既に示した.
  • (4)(3):ff=id2Xの単射性からfの単射性が従う.
  • (3)(2):B2Yを任意に取る.このときf(f(f(B)))=f(B)fの単射性よりf(f(B))=Bを得るから,fは全射である.
  • (2)(1):yYを任意に取る.fの全射性よりf(A)={y}を満たすA2Xが取れて,f()={y}よりAは空でない.よってaAを取ればf(a)f(A)={y}よりf(a)=yを得る.

集合X,Yと写像f:XYについて,次の3条件は同値である.

  1. fは全単射である.
  2. fは全単射である.
  3. fは全単射である.

これらの条件が成り立つとき,さらに次式が成り立つ.
(f)1=f=(f1),(f)1=f=(f1).

(1), (2), (3) の同値性は既に示した.fが全単射のとき,単射性よりff=id2Xが,全射性よりff=id2Yが成り立つから,ffは互いに逆写像である.また
id2X=idX=(f1f)=(f1)f,id2Y=idY=(ff1)=f(f1)が成り立つので,(f1)fの逆写像である.同様に
id2X=idX=(f1f)=(f1)f,id2Y=idY=(ff1)=f(f1)が成り立つので,(f1)fの逆写像である.

余順像

像と逆像については
Af(B)f(A)Bが成り立ちますが,Af(B)f(A)Bは同値ではありませんでした.そこで
Af(B)f!(A)Bを満たす写像f!:2X2Yがあるかどうかを考えてみます.

f!の一意性

f!と同じ性質
Af(B)g(A)Bを満たす写像g:2X2Yを満たす写像があれば,f!=gであることが次のように示せます:任意のA2Xに対して

  • 自明な包含関係f!(A)f!(A)からg(A)f!(A)が,
  • 自明な包含関係g(A)g(A)からf!(A)g(A)が得られます.

天下り的ですが,最初にf!を定義してから,それが上の性質を満たすことを確かめてみましょう.
ここではf!(A)のことを,ToyExample に倣って余順像とよぶことにします.

余順像

集合X,Yと写像f:XYに対して,写像f!:2X2Y
f!(A):=Yf(XA)(A2X)で定め,このf!(A)fによるA余順像という.

集合X,Yと写像f:XYおよびAAを満たすA,A2Xに対して,f!(A)f!(A)が成り立つ.

AAXAXAf(XA)f(XA)Yf(XA)Yf(XA)f!(A)f!(A).

集合X,Yと写像f:XYおよびA2XB2Yに対して,次のことが成り立つ.

  1. Af(f!(A)).
  2. Bf!(f(B)).
  1. f(f!(A))=f(Yf(XA))=f(Y)f(f(XA))X(XA)=A.
  2. f!(f(B))=Yf(Xf(B))=Yf(f(Y)f(B))=Yf(f(YB))Y(YB)=B.

集合X,Yと写像f:XYおよびA2XB2Yに対して,次の2条件は同値である.

  1. Af(B).
  2. f!(A)B.
  • (1)(2):Bf!(f(B))f!(A).
  • (2)(1):Af(f!(A))f(B).

集合X,Yと写像f:XYおよびA2XB2Yに対して,次のことが成り立つ.

  1. f!(A)=f!(f(f!(A))).
  2. f(B)=f(f!(f(B))).

(つまり,f!=f!ff!f=ff!fが成り立つ.)

  1. f!(A)f!(f(f!(A)))f!(A)f!(f(f!(A)))が成り立つ.
  2. f(B)f(f!(f(B)))f(B)f(f!(f(B)))が成り立つ.

集合X,Yと写像f:XYおよびA2Xに対して,次のことが成り立つ.

f(f(f!(A))){f(A)f!(A)}f!(f(f(A))).

  • f(f(f!(A)))f(A)f!(f(f(A))).
  • f(f(f!(A)))f!(A)f!(f(f(A))).

集合X,Yと写像f:XYおよびA,A2Xに対して,次のことが成り立つ.

  1. f!(AA)=f!(A)f!(A).
  2. f!(AA)f!(A)f!(A).
  3. f!(AA)=f!(A)f!(XA).
  1. f!(AA)=Yf(X(AA))=Yf((XA)(XA))=Y(f(XA)f(XA))=(Yf(XA))(Yf(XA))=f!(A)f!(A).
  2. f!(AA)=Yf(X(AA))=Yf((XA)(XA))Y(f(XA)f(XA))=(Yf(XA))(Yf(XA))=f!(A)f!(A).
  3. f!(AA)=f!(A(XA))=f!(A)f!(XA).

集合X,Y,Zと写像f:XYg:YZに対して,次のことが成り立つ.

  1. (idX)!=id2X.
  2. (gf)!=g!f!.
  1. 任意のA2Xに対して,次式が成り立つ.
    (idX)!(A)=XidX(XA)=Xid2X(XA)=X(XA)=A=id2X(A).
  2. 任意のA2Xに対して,次式が成り立つ.
    (gf)!(A)=Z(gf)(XA)=Z(gf)(XA)=Zg(f(XA))=Zg(Yf!(A))=g!(f!(A))=(g!f!)(A).

集合X,Yと写像f,g:XYf!=g!を満たすならば,f=gである.

任意のA2Xに対して,次式が成り立つ.
f(A)=Y(Yf(A))=Y(Yf(X(XA)))=Yf!(XA)=Yg!(XA)=Y(Yg(X(XA)))=Y(Yg(A))=g(A).つまりf=gだから,f=gを得る.

集合X,Yと写像f:XYに対して,次の3条件は同値である.

  1. fは単射である.
  2. f!は単射である.
  3. 任意のA2Xに対して,f(f!(A))=Aが成り立つ.(つまりff!=id2Xである.)

これらの条件が成り立つとき,さらに任意のA2Xに対してf!(A)=f(A)(Yf(X))が成り立ち,特にf!(A)f(A)である.

(1)(3)(2)(1) の順で示す.

まずfが単射のとき,f(XA)=f(X)f(A)が成り立つことに注意すれば
f!(A)=Yf(XA)=Y(f(X)f(A))=f(A)(Yf(X))よりf!(A)=f(A)(Yf(X))を得る.

  • (1)(3):任意のA2Xに対して,次式が成り立つ.
    f(f!(A))=f(f(A)(Yf(X)))=f(f(A))f(Yf(X))=A(f(Y)f(f(X)))=A(XX)=A=A=id2X(A).
  • (3)(2):ff!=id2Xの単射性からf!の単射性が従う.
  • (2)(1):x,xXf(x)=f(x)を満たすとする.このとき
    f!(X{x})=Yf(X(X{x}))=Yf({x})=Y{f(x)}=Y{f(x)}=Yf({x})=Yf(X(X{x}))=f!(X{x})だから,f!の単射性よりX{x}=X{x},つまりx=xを得る.

集合X,Yと写像f:XYに対して,次の4条件は同値である.

  1. fは全射である.
  2. f!は全射である.
  3. 任意のB2Yに対して,f!(f(B))=Bが成り立つ.(つまりf!f=id2Yが成り立つ.)
  4. f!()=である.

これらの条件が成り立つとき,さらに任意のA2Xに対してf!(A)f(A)が成り立つ.

(1)(3)(2)(4)(1) の順で示す.

まずfが全射のとき,f(X)=Yが成り立つことに注意すれば
f!(A)=Yf(XA)Y(f(X)f(A))=Y(Yf(A))=f(A)を得る.

  • (1)(3):任意のB2Yに対して,次式が成り立つ.
    f!(f(B))=Yf(Xf(B))Y(f(X)f(f(B)))=Y(YB)=B=id2Y(B).
  • (3)(2):f!f=id2Yの全射性からf!の全射性が従う.
  • (2)(4):f!の全射性よりf!(A)=を満たすA2Xが取れる.このときAより
    f!()f!(A)=.
  • (4)(1):一般にf!()=Yf(X)だから
    f!()=Yf(X)=Y=f(X).

集合X,Yと写像f:XYに対して,次の2条件は同値である.

  1. fは全単射である.
  2. f!は全単射である.

これらの条件が成り立つとき,さらにf!=fが成り立つ.

前2つの命題より,fが全単射のとき任意のA2Xに対してf!(A)=f(A)が成り立つからf!=fを得る.


一般に
Af(B)f(A)B成り立たないということを踏まえて,
Af(B)f!(A)Bを満たす写像f!:2X2Yとして余順像を紹介しました.では,
Ag(B)f(A)Bを満たす写像g:2Y2Xはあるのでしょうか.実は,このような写像gは存在しない場合があります.

集合X,Yと写像f:XYに対して,次の性質を満たす写像g:2Y2Xが存在すると仮定する.

  • A2XB2Yについて,Ag(B)f(A)Bは同値である.

このとき,任意のA,A2Xに対してf(AA)=f(A)f(A)が成り立つ.

f(AA)f(A)f(A)は常に成り立つから,逆の包含のみ示す.
yf(A)f(A)を任意に取ると,f(A){y}からAg({y})が,f(A){y}からAg({y})が得られる.よってAAg({y})となるから,f(AA){y},つまりyf(AA)を得る.

しかし実際には周知の通りf(AA)f(A)f(A)となり得るので,上のような写像gが常に存在するとは限りません.(注:存在することもあります.たとえばfが全単射ならg:=fと取れば良いです.)

次の性質を満たす写像g:2Y2Xが存在しないような集合X,Yと写像f:XYが存在する.

  • A2XB2Yについて,Ag(B)f(A)Bは同値である.

次の性質を満たす写像h:2Y2Xが存在しないような集合X,Yと写像f:XYの例を挙げよ.

  • A2XB2Yについて,Ah(B)f!(A)Bは同値である.
解答例

そのような写像hがもしあれば,次の 1, 2, 3, 4 が成り立つ.

  1. 任意のA2Xに対して,Ah(f!(A))である. 自明な包含関係f!(A)f!(A)hの性質)
  2. 任意のB2Yに対して,f!(h(B))Bである. 自明な包含関係h(B)h(B)hの性質)
  3. BBを満たす任意のB,B2Yに対して,h(B)h(B)である. f!(h(B))BBhの性質)
  4. 任意のA,A2Xに対して,f!(AA)f!(A)f!(A)である. 1, 3 より
    Ah(f!(A))Ah(f!(A))}h(f!(A)f!(A))が成り立つからAAh(f!(A)f!(A))となり,hの性質よりf!(AA)f!(A)f!(A)を得る.)

しかし実際には 4 は成り立たない場合がある.たとえばX={0,1}Y={2}f:Xx2Yのとき
f!({0}{1})=f!(X)=Yf(XX)=Yf()=Y=Y,f!({0})f!({1})=(Yf(X{0}))(Yf(X{1}))=(Yf({1}))(Yf({0}))=(Y{2})(Y{2})==だからf!({0}{1})f!({0})f!({1})である.したがって,このX,Y,fに対して問題文の性質を満たす写像hは存在し得ない.

誤りや改善点などあればご指摘いただけると幸いです.
改めまして,ここまで読んでいただきありがとうございました.

参考文献

投稿日:20231129
更新日:202456
OptHub AI Competition

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