『群論入門』(赤雪江)に,$D_6 \cong \mathfrak{S}_3 \times \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ の証明は載っていたが具体的にどう対応するかでちょっと詰まったのでメモ程度に書き残す.$D_6 \cong \mathfrak{S}_3 \times \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ の具体的な同型写像を作るのが目的.
まず二面体群 $D_n$ の表現行列から.定義は
Wikipedia の二面体群のページ
を参考にした.
$$
\begin{aligned}
R&:= \begin{pmatrix}
\cos \frac{2\pi}{n} & -\sin \frac{2\pi}{n} \\[5pt]
\sin \frac{2\pi}{n} & \cos \frac{2\pi}{n}
\end{pmatrix}\\[10pt]
S&:= \begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & -1
\end{pmatrix}\\[5pt]
R_k&:= R^k\\[5pt]
S_k&:= R^kS
\end{aligned}
$$
とすると
$$
\begin{aligned}
R_k=\begin{pmatrix}
\cos \frac{2\pi k}{n} & -\sin \frac{2\pi k}{n}\\[5pt]
\sin \frac{2\pi k}{n} & \cos \frac{2\pi k}{n}
\end{pmatrix}\\[10pt]
S_k=\begin{pmatrix}
\cos \frac{2\pi k}{n} & \sin \frac{2\pi k}{n}\\[5pt]
\sin \frac{2\pi k}{n} & -\cos \frac{2\pi k}{n}
\end{pmatrix}\\
\end{aligned}\\
R_iR_j=R_{i+j},\quad R_iS_j=S_{i+j},\quad S_iR_j=S_{i-j},\quad S_iS_j=R_{i-j}
$$
が成り立つ.
$n=6$ の場合には $R_1$ は $60^\circ$ 回転させる操作,$S_1$ は $x$ 軸から $30^\circ$ 傾いた軸についての鏡映の操作など.$S_k$ が鏡映であることは,$S_k$ が $\theta\mapsto -\theta+\frac{2\pi k}{n}$ に角度を移し,$\frac{\theta+(-\theta+\frac{2\pi k}{n})}{2}=\frac{\pi k}{n}$ となることから分かる.
$n=6$ の場合に各 $R_k,S_k\in D_6$ を $\mathfrak{S}_3\times \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ の元に対応させる方法の一例は以下の通り.
$$ \begin{aligned} R=R_1&\mapsto((123),1)&\quad\quad S= S_0&\mapsto((12),1)\\ R_2&\mapsto((132),0)& S_1&\mapsto((13),0)\\ R_3&\mapsto(1,1)& S_2&\mapsto((23),1)\\ R_4&\mapsto((123),0)& S_3&\mapsto((12),0)\\ R^{-1}=R_5&\mapsto((132),1)& S_4&\mapsto((13),1)\\ \mathrm{id}=R_0&\mapsto(1,0)& S_5&\mapsto((23),0)\\ \end{aligned} $$
これが $D_6$ の乗法を保つことは計算すればすぐわかる.
具体的に構成する前は $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ が鏡映操作を担っている気がしていたが,それでは可換である回転操作を非可換である $\mathfrak{S}_3$ が担うことになりおかしい.実際には上のようになっていたわけだが,これを見ると $\mathfrak{S}_3$ の元は正六角形の頂点を移すという操作とは関係なく,その代数的構造だけが用いられている感が強い.