まえがき
こんにちは!的場 沙雪です.この前友達に「円周率が一定であることの証明ってあるんかな?」と質問されて,その時は何も調べず思いついた解法で答えたのですが,その後この方法が有名な循環論法(を導くのに使われる円板の面積公式は三角関数の微積分公式から従い,それはを使う)を回避出来ることに気が付いたので記事にした次第です.
前提知識は数Ⅲの「曲線の長さ」まで,とあとは……
全射
と
単射
くらいは知っておいてほしいですかね(逆関数のところで習ったっけな……?).なるべく高校生でもわかるように書きました(書いたつもり).まあわからない部分は読み飛ばしても大体何とかなります(「極座標」は読み飛ばしてもいいかも).「とりあえずそうなるんだな」で一旦置いといて,後でまた帰ってきましょう.数学って大体そういうもんです.
私は開区間をで書きます.特にこの記事では順序対も開区間も多数出現し,同じ記号だと大変紛らわしいので書き分けます.なるべく「開区間」と書くので安心していただきたいです.
忙しい人向け
頭の中に時限爆弾がセットされててそれどころじゃない人向けの概略です.本編と多少異なる部分がありますが言ってることは大体同じなので見逃してください.
円の方程式より,原点中心,半径の円の円周は
なので,円周率の定義(円周率は円周と直径の比)よりです.
よって原点中心,半径の円板の面積は
と求まり,いつもの面積比較でのとき
なのでを得て,と合わせてを得ます.循環論法は回避出来ました!
円周率
まず,円周率とは何でしょうか?循環論法を避けるためにをテイラー展開で定義して,の正の零点のうち最小のもの……なんて定義もありますが,うーんわかりにくい!
そもそも「円周率」という言葉の意味は何でしょうか?答えは小学校算数にありますね.「円周と直径の比」でした.ということは「円周が直径の定数倍であることの証明」をすれば自ずと円周率が出てきますね.つまり円周を求めればよいことになります.
円
ではまず円の定義を考えなければなりません.中心,半径(は正実数です)の円とは,「点からの(通常はユークリッド)距離がである点全体の集合」として定義されます.今は二次元平面,平面を考えましょう.点をとします.点と点との距離は,定義からです.ということは,円の定義は次のようになります(つまり中心,半径の円の方程式はということです).
円
正実数,実数,に対して,
により定義されるの部分集合を「中心,半径の円」とよび,円の中心はであるといい,円の半径はであるといいます.
をについて解いてみましょう!すると,
となります.円の方程式を陽関数で表示することが出来ました!,としておきます.
,の定義域を考えてみましょう.これは根号を含むので,根号の中身が非負であるという条件から定義域がわかります.をについて解くと,
となります.定義域は閉区間ですね.
ある程度円の概形を把握しておきましょう.,は関数の形から連続で,
,
より
であり,
,
より
であり,を満たすに対して
,
より
ですから,円は単純閉曲線であることがわかります.一度通った点を通らずに一筆で書いて出発した点に戻ってこれるという意味です.
また
よりのときはに関して単調減少であり,
なので,上側の陽関数によって描かれる曲線は上に凸です.この結果は後で使います.
円周と円周率
準備がそろいました.では円周の長さを求めてみましょう.中心,半径の円の円周の長さはとしておきます.
となります.なんかよくわからない積分が出てきましたね.被積分関数が端点で発散しています.こういう積分は広義積分といいます.果たして本当に収束するのでしょうか?それとも,円周の長さは無限大!!?
なので,ちゃんと収束しますね(きちんと説明すると,積分区間を開区間として後での極限を取ることで,閉区間で連続な関数は可積という定理(
理工系の微分積分学
p.106定 理 3)と,可積な関数の不定積分は連続であるという定理(
理工系の微分積分学
p.109定 理 4)が保証してくれます).ということで,円周率は一定であることがわかりました!これで円周率を,つまりで定義出来ます!
なお,弧長積分の公式を既知として扱いましたが,その証明に三角関数の極限や微積分の公式は使いません.証明は
こちらのサイト
や,
理工系の微分積分学
p.123(Ⅱ)を参照してください.
円板の面積
こんどは円板の面積を求めてみましょう.円板の定義もしておきます.
円板
正実数,実数,に対して,
により定義されるの部分集合を「中心,半径の円板」とよび,円板の中心はであるといい,円板の半径はであるといいます.
中心,半径の円板の面積はとしておきます.先程と同じように変形すると,
となることに注意してやれば,
となり,円板の面積公式が導出されます.ここで驚いてほしいのです!三角関数の微積分どころか定義さえ無いまま円板の面積公式が導出出来ました!!!これは,循環論法に陥らずにが導出できることを示唆しています!
三角関数
三角関数を図形的に定義したいので,角度を定義しておかなければなりません.といっても図形の角度まで定義する必要は無く,偏角だけで十分です(もし図形の角度も定義したいのであれば,偏角同士の差の絶対値と,それをから引いた値のうち小さい方かなんかで定義すればいいでしょう).
偏角
角度の定義と聞いて,まずラジアンのあの定義が思い浮かびます.「半径の扇形の円弧の長さがであるとき,その中心角を[rad]と定める」です.この定義,実は不十分です.なぜなら[rad]しか定義されていないし,ラジアンがデシベルやマグニチュードやペーハーや等級のように対数を表した単位である可能性が残っているためです.それに,そもそも角度とは何かを今定義したいのに,これでは「中心角」がなんなのかわかりません.どうしましょう……
そういえば,こんな性質がありました.扇形の弧長を,半径を,中心角をとするとが成り立ちます.それなら逆にで角度を定義してやるのはどうでしょうか?弧長は先程のように積分を使えば表現出来そうですね.物理でも[rad]はSI組立単位で[m/m]と書くようですし,これでよさそうです.
ということで,偏角を定義していきます.まず平面上の点を考え,これは点でないとします(なのでです).中心が点で点を通る円はただ一つ存在します(半径をで定めるしかないので).この円上の点から点まで反時計回りに沿った弧長を半径で割って,点に対する点の偏角とします.
偏角
を満たすような,実数,,,に対して,
及び
により定義される実数を「点に対する点の偏角」とよびます.
極座標
三角関数を図形で定義するためには偏角を変数として扱えなければなりません.つまるところ,点を除く直交座標を点を極とする極座標に移す関数が逆関数を持たなければなりません.それが証明できれば,この関数の逆関数を用いて三角関数を定義することが出来ます!
まず偏角がどのような値をとり得るのか調べておきましょう.点に対する点の偏角を計算すると,次のようになります(計算は先程と同じ手順です).
これをよく見ると,どちらもという部分があり,そこ以外にやは無いです.ということはこれを調べればよさそうですね.としておきます.
のとき
簡単な方から考えます.とよりであることに注意して,となります(は
符号関数
とよばれます).ということははかのどちらかのみをとりますね.
のとき
関数のとり得る値を調べたいので,増減がわかればよいですね.ということでで微分してみます.
より,はに関して狭義単調増加です.
これと,,はに関して連続であることより,のとり得る値の範囲は開区間です.
のとき
と同様にのとり得る値の範囲は開区間です.
,とし(は閉区間の元です)て,,のとり得る値も調べておきます.どちらも被積分関数が端点を除いて正なので,は狭義単調減少,つまり単射で,は狭義単調増加,つまり単射です.また不定積分は連続であるという定理(大学の学部一年で習います)があるので,これより,は連続となります.
,であり,について,は狭義単調減少かつ連続なので,のとき,のとり得る値の範囲は開区間,つまり開区間です.についても同じように,のとき,のとり得る値の範囲は開区間,つまり開区間です.
準備がそろいました.それでは点を除く直交座標を点を極とする極座標に移す関数は全単射であることを証明しましょう.関数を,
として定義します.ただしで定義されていて,終域は第変数が正実数,第変数が半開区間とします.
単射性は簡単なのでまずはこちらから.とします.もしなら,第変数を見比べてとなりますが,のとり得る値の範囲は閉区間なのにのとり得る値の範囲は開区間です.矛盾ですね.も同様に矛盾です(同様というか文字を入れ替えただけなのでそりゃそう).ということはもも以上か,もも未満です.
かつのとき
第変数を見比べてとなります.は単射なので,,つまりとなります.ここで第変数を見比べてとなります.従って,,つまりを得ます.あとは,これとからとなりますが,かつですから,,つまりを得ます.よってを得ます.
かつのとき
と同様にしてを得ます.
以上,よりなので,は単射です.
次に全射性です.正実数と以上未満の実数をとります.
のとき
を考えると
となり,及びとなる実数,は存在することがわかります.
のとき
,のとき,のとり得る値の範囲は開区間です.のとき,のとり得る値の範囲は開区間なので,のとり得る値の範囲は開区間です.よってとなる実数,は存在し,,を満たします.そのような実数,に対してを考えると(に注意してください),
となり,及びとなる実数,は存在することがわかります.
のとき
を考えると
となり,及びとなる実数,は存在することがわかります.
のとき
と同様にして及びとなる実数,は存在することがわかります.
以上,,,より及びとなる実数,は存在するので,は全射です.
ということで,は全単射です.従って逆関数が存在します.
三角関数とその極限
さあ三角関数を定義しましょう!三角関数はよく単位円で定義するので,そうしておきましょう.中心,半径の円上の点のうち,点に対する偏角がである点の座標,座標をそれぞれ,とします(は
床関数
です.要はガウス記号と同じです).
三角関数
により関数,を定義します.
により関数を定義します.
の全射性の証明で,内でなる,としてになるものを選んでいました.ということはのときであることがわかります.同様にのときです.のときもいえます.
三角関数の極限でよく使う公式,のときかつを証明しておきます(一般の実数に対しても言えますが,今回は必要ありません.定義からほぼ自明な三角関数の周期性を使えば証明できます).まず定義よりであり,第成分を見比べてつまりを得ます.のとき,の第成分を見比べて,の第成分を見比べてより
であり,は単射なのでを得ます.よってよりを得ます.
を示すのにを使っていましたね.これも証明しておきます.のとき,の第成分を見比べてを得ます.よってであり,は連続なのでとなり,さらには単射なのでを得ます.と合わせてを得ます.なお今回はめんどくさいので証明しませんが,導関数を求める際に必要になる三角関数の連続性も同様の方法で証明できます.
さあお待たせしました,を証明しましょう!とし,点を,点を,点を,点をとします(,つまりよりなので,であることに注意してください).中心,半径の円を考えると,点,はこの円上にあります.この円上の点から点まで反時計回りに沿った弧をとします.
円の上側の陽関数によって描かれる曲線は上に凸でしたので,を満たす実数について,線分上の座標がである点の座標より弧上の座標がである点の座標の方が大きいことがわかります.またのときはに関して単調減少でした.よりなので,直線の傾きは正です.ということは弧上の座標がである点の座標より線分上の座標がである点の座標の方が大きいことがわかります.これで三角形の面積,扇形の面積,三角形の面積の順に大きくなることがわかり,
を得ます.これを変形すると
なので,とはさみうちの原理よりです!と合わせてが得られました!!!!!!
あとがき
いや~長かったですね(ほとんど極座標のせいですが).これにて循環論法問題解決です!これで例の大阪大学の問題が解けますね()
一度諦めても,ふとしたことで解決策が出ることもあるものです.過去に悩んでいたことを思い返してみると今なら解決できるかもしれないですね!ここまで読んでくださりありがとうございました.