22

強制法によるCantorの定理の証明

1612
2

Cantorの定理 (Cantor's theorem) は「NからNNへの全射が存在しない」という定理である。この定理の証明は一般的に対角線論法 (diagonal argument) によって示されるが以下では現代集合論の基本的な道具である強制法 (forcing argument) を用いた証明を紹介する。

半順序、強制概念

集合PP上の二項関係の組P,半順序 (partial order) であるとは以下の条件を満たすことである。

  • 反射性 (xP)[xx]
  • 対称性 (xP)(yP)[xyyxx=y]
  • 推移性 (xP)(yP)(zP)[xyyzxz]

また半順序P,が与えられたとき<x<yxyxyで与えられるP上の二項関係とする。以下では半順序のことを強制概念 (forcing notion) といいxyが成り立つときxyより強いという。

稠密性

P,を強制概念とする。集合DPP,に於いて稠密 (dense) であるとは(pP)(qD)[qp] が成り立つことである。

フィルター

P,を強制概念とする。集合GPP,に於いてフィルター (filter) であるとは以下の条件を満たすことである。

  • (pG)(qG)(rG)[rprq]
  • (pG)(qP)[pqqG]
ジェネリックフィルター

P,を強制概念とし、DP,上の稠密集合による族とする。このときP,上のフィルターGD-ジェネリック (D-generic) であるとは(DD)[GD]が成り立つことである。

ジェネリックフィルターの存在

P,を強制概念とし、Dを稠密集合からなるたかだか可算な族とする。このとき任意のpPに対して、pGとなるD-ジェネリックフィルターGが存在する。

Dを可算とし、D={Di}iNとする。Pの元の可算列{pi}iNを以下のように再帰的に定義する。p0:=pとしpi+1qpiかつqDiとなるqとしよう。このような元はDiが稠密であることから存在する事が分かる。そしてG:={rP(iN)[pir]}とする。

このGD-ジェネリックフィルターになっていることを確かめる。まず
(pG)(qG)(rG)[rprq]となっていることは、Gの定義から任意のpGに対し、あるiNが存在しpipとなる。よって今p,qGに対しpipp,piqqとなるip,iqNを取る。ipiqiqipのいずれかが成り立つことから{pi}iNの定義から、pippiqpiqpipのいずれかが成り立つ。よってpip,piqの小さい方をrとしよう。定義から明らかにrGかつrpipかつrpiqである。よってpip,piqの定義と推移性からrpかつrqである。次に(pG)(qP)[pqqG]であることを確かめる。pG,qPとしpqとする。pGに対しあるiNが存在しpipとなることと推移性からpiqであり、よってqGである。次に(DD)[GD]であることを確かめる。まず任意のiNに対しpipiであるから、任意のiNに対しpiGである。また{pi}iNの定義から任意のiNに対しpi+1Diである。よってpi+1DiGであり空ではない。

Cohen強制

N<ωを自然数の有限列全体からなる集合とし、N<ω上の二項関係pqqpの部分列であることとする。このときN<ω,は半順序を成し、これをCohen強制 (Cohen forcing) といい、Cと表す。

Cantorの定理

NからNNの全射は存在しない。

XNNを自然数の無限列からなる可算集合とする。Xを整列させて{xi}iNとする。各iNに対しDi,Di を以下のように定める。

  • Di:={pCpxidom(p)}
  • Di:={pCi<dom(p)}

すなわちDixiの部分列とならないようなpCからなる集合でDiiより長い自然数の有限列の集合となる。まずDiCに於いて稠密であることを確かめる。すなわち、(pC)(qDi)[qp]であることを見る。Cの定義からqpが成り立つのはpqの部分列であることであったので、任意のpCに対して、あるpの拡大列でxiの部分列にならないものが存在すれば良い。今pの長さがnであるとしたらxin+1番目の元と異なる自然数をmとしてpと列m の連結pmxiの部分列とならないため良い。次にDiCに於いて稠密であることを確かめる。すなわち、(pC)(qDi)[qp]であることを見る。これはpの拡大列で長さがiより大きいものが存在するので明らかである。

Di,DiCに於いて稠密であることが分かったのでD:={DiiN}{DiiN}とすれば、命題1からD-ジェネリックフィルターGが存在する。任意のiNに対しDiGであるから、任意のiNに対し、iより長い有限列pGが存在し、Gはフィルターであることから貼り合わせGNNの元である。また同様に任意のiNに対しDiGであるから、任意のiNに対し、xiの部分列にならないようなpGが存在し、Gはフィルターであることから貼り合わせGxiではない。よってGNNXつまりNNXであり、XNNの任意の可算部分集合であったことからNNは可算集合ではない、すなわちNからNNへの全射が存在しないことが分かる。

参考文献

  • R. Schindler. Set Theory, Exploring Independence and Truth. Springer, 2014.
投稿日:2020117
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

Alwe
Alwe
81
7309
@ptykes

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中