Shulmanの『 Set theory for category theory 』を読んでいるのですが、本論に影響しない範囲ではありますがアヤシイ記述を見つけてしまったのでメモを残しておきます。
本人もこのテキストに関して「改訂の必要がある」と 言っている ので、(以下の内容を言っているかはわかりませんしそれに限らないかもしれませんが) 注意して読むべきテキストであるということに留意しなければなりません。内容としては圏論でなおざりにされがちな「大きい」という概念について切り込んで、集合論的な基礎づけを与えようといういい試みなので、ぜひともいつか書き直していただきたいところではあります。
問題の内容は以下の通りです:
Now, a priori a model of $\scriptsize{\mathrm{ZFC}}$ consists only of a set $M$ and a relation $E\subset M\times M$, to be interpreted as ‛membership’, such that the axioms of $\scriptsize{\mathrm{ZFC}}$ hold. However, we want the elements of a set in $M$ to be the same as its elements in $V$, so it is natural to require that E coincides with the actual membership relation $\in$ in $V$, and that M is transitive, meaning that $x\in y\in M$ implies $x\in M$. In fact, any model is isomorphic to a transitive one, called its (Mostowski) transitive collapse, via an isomorphism defined inductively by $T(x)=\{T(y)\mid yEx\}$. Thus, nothing essential is lost by considering only transitive models.
おそらく
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で指摘されているような「よくある誤解」に嵌ってしまったものと推測されます。モデル$\langle M,\E\rangle$上での正則性公理は
$$
\forall S\in M.(\exists s\in M.s\E S\to\exists x\E S.(\forall y\E S.\neg(y\E x)))
$$
と記述され、一方で$M$上の関係$E$の整礎性は
$$
\forall S\subset M.(\exists s\in M.s\in S\to\exists x\in S.(\forall z\in S.\neg(z\E x)))
$$
で記述されます。ここから、モストフスキの崩壊定理はこのままでは適用できないことがわかります。
詳細は各参考文献の写経となってしまうので割愛しますが、モデルと整礎性について、以下のようにまとめられます:
ということでモデルを推移的モデルに限定することは若干の一般性を失うことがわかります。一方で、引用文中でも書かれている通り、関係$\E$がメタ理論の$\in$と符合してほしいという要求は自然なものですから、ここで推移的モデルに話を限定することも特におかしなことではありません。
また、推移的モデルに話を限定したとしてもレーヴェンハイム-スコーレムの定理によって可算推移モデルの存在が示されるため、圏論の基礎付けといった用途には結局不十分な条件であったということがわかります。その意味でこの (おそらく) エラーは枝葉なのですが、"よくある"誤解と指摘される程度には混乱をもたらすと思われる箇所ですから、ここにメモとして残しておきます。